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首都圏新築マンション平均価格が4ヶ月ぶりのダウン。いよいよ暴落が始まった?

櫻井幸雄住宅評論家
今まで首都圏マンションの平均価格を引き上げてきた都心マンションだが……。筆者撮影

 5月23日、不動産経済研究所が4月の首都圏新築マンション1戸当たりの平均価格を発表。「平均6291万円で、4ヶ月ぶりのダウン」となった。

 この発表だけをみると、首都圏のマンション価格が久しぶりに下がったように思える。ところが、平均価格の下落は今に始まったことではなかった。

 今年に入ってからの価格を月ごとに並べてみよう。

○1月の平均価格6158万円

○2月の平均価格7418万円

○3月の平均価格6518万円

○4月の平均価格6291万円

 1月よりも2月は平均価格が上がったが、3月は下がり、4月はさらに下がったわけだ。

 それでも、1月から3月までの3ヶ月間は「連続アップ」といわれていた。それは、「前年同月比で昨年を上回る価格水準が続いている」という意味だったのである。

 「連続アップ」の言葉で、マンション価格が上がり続けている印象を持った人も多いだろう。が、実際は値上がりを続けていたわけではなかった。

 今年3月は2月と比べて平均価格で900万円下がり、4月は3月よりもさらに227万円下がった……それが、正確なところだ。

 そして、4月の首都圏新築マンション平均価格は前年同月比でも4ヶ月ぶりのダウンとなった。

 そこから、ついにマンション暴落が始まったという見方も出てきそうだ。

 しかし、調査データの内容をみると、単純に「下がった」と喜ぶことはできない。その理由をわかりやすく解説したい。

2月まで、高額の純都心マンションが多かったが……

 今年3月17日に発表された「首都圏の新築マンション平均価格は7418万円」は、少々現実離れしていた。

 首都圏の平均価格7418万円は、都心の高額マンションに大きく影響を受けた数字だったからだ。

 今年2月に首都圏で販売されたマンションの戸数は2287戸。そのうち、1048戸が東京23区内に立地する物件で、その平均価格は9685万円だった。首都圏で1ヶ月に新規発売されたマンションの半数近くが23区内に立地し、平均1億円近かったため、首都圏全体の新築マンション平均価格が引き上げられて7418万円になってしまったわけだ。

 これに対して、5月23日に発表された「4月の平均価格6291万円」の内訳はどうなっているのか。

 今年4月に首都圏で販売されたマンションの戸数は2426戸。そのうち、1305戸が東京23区内に立地する物件で、その平均価格は7344万円(数字はすべて、不動産経済研究所の発表)だった。

 23区内で発売されたマンションの平均価格が2月と比べて2000万円以上下がっている。それは、立地条件に変化が生じていることを意味している。

 3月以降、山手線内側の純都心エリアでは新規物件の数が減った。一方で、山手線外側の23区内では新規物件が増加。つまり、山手線内側立地の超高額物件が減り、山手線外側立地の比較的抑えた価格の物件が増えたことで、23区内全域の平均価格が2000万円以上も下がった。

 さらに、東京都下、神奈川県、埼玉県、千葉県の新規物件数も増えた。それらの要因で、首都圏全域の新築マンション平均価格が下がった、と考えるべきだ。

都心から郊外へ、投資から実需へ

 今回のマンション平均価格下落は、「新築マンションの値引きが始まった」結果ではない。

 そうではなく、「山手線内側の超高額マンションが勢いよく売れた時期から、山手線外側立地や郊外立地のマンションが主役になる時代に転換した影響」と考えられるし、「投資目的の購入が一段落し、実需層の動きが活発化するのではないか」という見方もできる。

 実需層とは、自ら住む目的でマンションを購入する人たちのこと。本来のマンション購入者層だ。

 実需層は、以前から計画を立て、時間をかけて頭金を貯めてマンションを購入しようとする。長期計画でマンションを買うので、よほどのことがない限り、計画を変更しない。

 コロナ禍が起きても、ロシアのウクライナ侵攻が起きても、マンション購入を計画どおりに進める。それは、東日本大震災の後も同様だった。

 当時、「大震災が起きたので、マンションの売れ行きは落ちる」と予想する人が多かったが、実際の売れ行きは落ちなかった。

 実需層の動きは投資目的の購入層とは異なるのだ。

 実需層は、首都圏郊外で4000万円台、5000万円台の3LDK・2LDKマンションを購入するケースが多い。

 それらの比率が上がり、高額の都心マンションが減れば、今後も平均価格は下がり続けるだろう。その後、郊外マンションの売れ行きが上がり、郊外部においても値上がりが顕著となれば、首都圏の新築マンション平均価格は再び上がる可能性もある。

 首都圏の平均マンション価格はひとつの指標に過ぎず、そこから値上がりしたか、値下がりしたかを見極めるには「どんな物件が多く売られているか」の分析が必要となってくる。

 今回の「平均価格のダウン」は、マンション価格の値下がりを示すものとは言えず、売れ筋物件が変化した結果と考えられるわけだ。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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