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なかには“歴史遺産”級も。住宅で探してみた「昭和レトロ」な設備5選

櫻井幸雄住宅評論家
ドアノブの下に「鍵穴」。リアルに穴が空いている鍵穴は滅多に見なくなった。筆者撮影

 アサヒビールが28年ぶりに「マルエフ」を復活させたら、供給が追い付かず販売を一時休止。象印の花柄復刻シリーズも人気になっているなど「昭和レトロ」な商品が次々にヒットしている。

 その昭和レトロは住宅設備にもある。もちろん、住宅設備は、新しければ新しいほど使いやすいし、快適……なのだが、古い設備にも味わい深いモノがあり、その愛好者は以前からいた。

 そんな懐かしく、魅力的な住宅設備のなかでも、極めつけでは、と思えるものを5つ集め、独断と偏見で“昭和レトロ度”を付けてみた。

1…鍵穴

 昭和レトロを強く感じさせる住宅設備の代表が、冒頭の写真「鍵穴」だ。

 写真を見ておわかりのとおり、昔の鍵穴は本当に穴があいており、鍵穴の向こうを覗くことができた。

 そのため、古い映画では「鍵穴から、いけないものを見てしまった」という設定がよくあったし、鍵穴から覗いたら、向こう側にも目が見えた、という心臓にわるいシーンもあった。

 ストーリー上の「キー」にもなる設備だったわけだ。

 写真は古い一戸建ての門扉に残っていたものを撮影したのだが、この鍵穴が住宅の玄関や寝室のドアに残っていたら、“歴史遺産”級に珍しい。各地で大切に保存されている洋館などでないと、なかなかお目にかかれないレトロ設備である。

 ちなみに、この鍵穴、セキュリティ上の不安を感じる人もいるはずだ。覗かれてしまうし、鍵穴から火の点いたマッチを投げ入れる、という映画のシーンもあって、無防備すぎる、と。

 じつは、その対策がある。

 室内側から鍵穴にキーを差し込んでおくと、覗かれることがないし、外から別のキーを差し込み、なかに入っているキーを押し出そうとしても、できないものが多かった。今や知っている人が少なくなった裏技だが、それによって意外や防犯性も高い錠だったのである。

 昭和レトロな住宅設備に5段階のランクを付けるとしたら、レトロ度で最高レベルの5を付けたい希少設備だ。

2…丸形のオートロック付きドアノブ

 次も錠前関連。ドアに付けられたノブとオートロックだ。

 まず、レバーハンドルではなく、丸形であるところがレトロ。そして、丸形ノブにオートロックが付いている。ドアノブ中心のボタンを押し込むとロックがかかるものだ。内側からドアノブを回せば、自動的にロックが解除される(下の写真)。

以前は当たり前だった丸いドアノブとオートロック。今は珍しくなった。筆者撮影
以前は当たり前だった丸いドアノブとオートロック。今は珍しくなった。筆者撮影

 便利なのだが、出かけるときキーを忘れてドアを閉めると、ロックがかかって入れなくなる。ホテルの部屋で起こりがちな失敗だが、以前は同じ方式が住宅にも幅広く採用されていた。

 このオートロックが玄関ドアに用いられていたら、不正解錠されやすいので交換すべきだろう。しかし、トイレのドアなら、残しておいてもよい。ボタンを押すときの音、解除するときの音が歯切れよく響くからだ。

 トイレから出るときにうっかりボタンを押し、ロックをかけてしまっても、心配はいらない。外から解錠するときは、10円玉や100円玉を凹みに差し込んで回せば、ロックが解除される。現在、多くの家庭内トイレに採用されている方式が用いられているわけだ。

 それ以前、日本の便所は、内側から施錠すると、外から解錠することが困難だった。便所内で人が倒れたら、錠部分を壊すか、小窓から救出に入るのが普通だった。

 そう考えると、オートロック付きドアノブは「外から容易に解錠できる」トイレ錠の初期型と位置づけられる。昭和レトロ度は3としたい。

3…蛇口2つの洗面台(進化版として、初期の混合水栓モデル)

 キッチンや浴室、トイレの設備機器は、新しいものほど使いやすい。だから、リニューアルされやすいのだが、なぜか洗面台は古いまま残されていることがある。

 まず、最初にみていただきたいのは、現代の洗面台(下の写真)。

シングルレバーの混合水栓を用いた現在の洗面台。筆者撮影
シングルレバーの混合水栓を用いた現在の洗面台。筆者撮影

 1本のレバーを上下させることで、水(湯)の出量を調整でき、左右に動かすことで水温を調整できる設備で、シングルレバーの混合水栓と呼ばれる。

 これに対して、昭和40年代の「お湯が出る洗面台」が下の写真である。

混合水栓ではなく、お湯が出る蛇口と水が出る蛇口が別。温度調整がむずかしそうだが、当時は洗面台でお湯が出るだけで、喜ばれた。筆者撮影
混合水栓ではなく、お湯が出る蛇口と水が出る蛇口が別。温度調整がむずかしそうだが、当時は洗面台でお湯が出るだけで、喜ばれた。筆者撮影

 シングルレバーではないし、混合水栓でもない。お湯が出る蛇口と水が出る蛇口が別に付いており、わかりやすいといえば、わかりやすい。誰でも間違いなく、お湯を出したり、水を出したりできる。

 が、湯と水を混ぜて、蛇口から適温のお湯を出すことはしにくい。お湯はお湯だけ、水は水だけ、と割り切った使い方をする設備である。

 使い勝手はわるそうだ。が、当時は水しか出ない洗面台が多く、お湯が出るだけで喜ばれた。このタイプの洗面台が残っていればレトロ度は高く、レトロ度4と評価したい。

 同様に昭和中期で、もう一歩進化した洗面台の写真もある。

昭和40年代から50年代、初期の混合水栓。蛇口にTOTOの刻印がある。筆者撮影
昭和40年代から50年代、初期の混合水栓。蛇口にTOTOの刻印がある。筆者撮影

 こちらは、お湯と水を混ぜ合わせて吐出する混合水栓の初期モデル。当時としては、モダンな形だったと思われるが、今となってはかわいらしい。こんな洗面台が古い賃貸住宅や中古住宅に残っていたら、大事に使いたくなる。

 昭和レトロ度は、これも4としたい。

4…パチンと切り替える壁スイッチ

 住宅内の電気設備は、年々進化している。たとえば、エアコン、冷蔵庫は省エネになっているし、使いやすくなっているので、昭和時代のもののほうがよい、と思う人はいない。少しでも新しいものがよいわけだ。

 それでも、古いものの味わいが好まれている設備が一部にある。

 一例が、壁スイッチだ。天井照明のオンオフを切り替えるスイッチにもレトロなデザインがある。下の写真は、昭和時代に用いられていた古い形のスイッチ。中央のオンオフ切り替え部が小判を横にしたような形になっている(下の写真)。

 マイナスネジを採用しているところも、レトロだ。

スイッチ部が、小判を横にした形になっているもの。NATIONALの刻印があるので、現在のパナソニック製のようだ。筆者撮影
スイッチ部が、小判を横にした形になっているもの。NATIONALの刻印があるので、現在のパナソニック製のようだ。筆者撮影

 今では、代替え品がないスイッチで、味があるデザインだし、心なしかパチンという切り替え音も柔らかい。世の中にはパチン音と感触にこだわり、外国からスイッチを取り寄せる人もいる。そういう人にはぜひ味わってもらいたい使い心地である。

 電気設備の場合、老朽化による漏電等の心配があるので、念のため、検査を受け、問題なければ使い続けたい設備となる。

 このスイッチ、レア度は極めて高く、現在では新品はもちろん、中古でも入手は困難。レトロ度は4と5の間といったところか。

5…紐スイッチの直管蛍光灯

 電気設備で、もうひとつ紹介したいのは、紐スイッチの直管蛍光灯だ(下の写真)。初期の蛍光灯は、直管型で紐スイッチが多かったのだが、現在、住宅内で直管型・紐スイッチが残っているのは、キッチン部分くらいだろう

直管蛍光灯は数が少なく、交換用の蛍光管を探すのも苦労する。LEDに変わってゆく宿命にある。筆者撮影
直管蛍光灯は数が少なく、交換用の蛍光管を探すのも苦労する。LEDに変わってゆく宿命にある。筆者撮影

 紐式スイッチの直管蛍光灯は、古い賃貸アパートに残っている可能性が高い。レトロ度は2だ。

選外…玄関ドアの郵便受けとロングセラーの蛇口

 昔ながらの設備が残っていても、これはうれしくない、と思えるのが、玄関ドアに開けられた郵便受けだ(下の写真)。

玄関ドアに設けられた郵便受けの例。筆者撮影
玄関ドアに設けられた郵便受けの例。筆者撮影

 これがあると、室内を覗かれる気がするし、冬は冷気、夏は熱気が入ってくる。そのため、テープなどで塞ぐ人も多い。これは、珍しくなった設備ではあるが、レトロ度1といったところだ。

 このほか、昭和レトロだが、いまだに珍しくない、というのが下の写真の蛇口。いかにも、サザエさんの家に似合いそうな水道設備である。

この蛇口は、昭和時代からずっと使い続けられている。筆者撮影
この蛇口は、昭和時代からずっと使い続けられている。筆者撮影

 ところが、これ、消えゆく設備というわけではない。アパートの洗濯機置き場やマンションのバルコニー、専用庭に設置されるのは、最新住宅でもこの形の蛇口が多いのだ。

 つまり、ロングセラーなのである。

 現役設備なので、いかにも昭和レトロっぽいデザインながら、レトロ度は「なし」ということになる。

 今回紹介した昭和レトロな住宅設備5選は、私のオフィシャルサイトで作動音がわかる動画集を公開している。興味がある方は、ご視聴いただきたい。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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