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想像以上に快適な「バス専用レーン通勤」、東京23区内で狙い目といえる住宅地はどこか

櫻井幸雄住宅評論家
通勤時間帯に設けられるバス専用レーン。その便利さは、想像以上のようだ。筆者撮影

 日本の道路には「バスレーン」が設けられることがある。路線バスやスクールバスのための通行帯という意味で、一般車の通行が制限される通行帯だ。

 このバスレーンにはバス専用レーンとバス優先レーンがあり、一般車の通行が厳しく制限されるのはバス専用レーンのほう。朝の通勤時間帯、中心地に向かう路線で時間を区切って設定されるのが一般的で、うっかり一般車が走行すると通行帯違反となる。

 バスが重要な足となる沖縄では、朝だけでなく夕方にもバス専用レーンが設定され、通行帯違反が厳しく取り締まられる。そのおかげで、バスの運行がスムーズになっているのは事実だ。

 実際、バス専用レーンを走るバスの使い勝手は想像される以上によく、時間の正確さに惚れ込む利用者が多い。さらに、「道路で乗って、道路で降りるので、ホームが地下深いところにある地下鉄より楽」「座って景色を眺めていると、気持ちが和む」といった声もある。

 名古屋中心部ではバス専用レーンを走る「基幹バス」があり、名古屋駅や栄、名古屋市役所に直結するルートは特に人気が高い。

 東京都内では、バス専用レーンを走る最新の交通手段として「東京BRT」の計画がある。湾岸エリアと新橋・虎ノ門エリアを結ぶ路線で、東京五輪に合わせて2020年5月からプレ運行が行われる計画だったが、新型コロナウィルスの影響で延期(開始時期は未定)。本格運行は2022年からの予定だ。

 「東京BRT」はバス専用レーンを走るだけでなく、進行に合わせて交差点の信号が青になる公共車両優先システム(PTPS)も採用されることになっている。2つの車両をつないだ連節バスもあり、新世代の交通手段として大きな力になることが期待されている。

 そして、「東京BRT」を待つまでもなく、専用レーンを走る路線バスは、すでに東京の23区内で運用例が複数ある。そのなかには、利用者の評価が高く、エリアの人気を上げる要素になるのでは、と思われる路線もある。

 まだ知る人が少ない、23区内の「バス利用が魅力を上げている街」を紹介したい。

使い勝手のよい「専用レーンのバス」、その条件は

 専用レーンを走る路線バスは、「バス専用レーン」だけで使い勝手がよくなるわけではない。問題は、本数の多さだ。バス停に次から次にバスがやってきて、待ち時間が少ない。本数が多いので、混んだバスは見送ることもできる。だから、平均してバスが空いている。ガラガラではないが、立っている人が少なめという状況が生まれる。

 このような状況が生まれるためには、バス利用者が多いことが必要になる。利用者が少ないと、便数が減る。すると、使い勝手がわるくなり、さらに利用者が減る、という負の連鎖が生じてしまう。

 加えて、道路の状況も重要。カーブが連続するのではなく、直線部分が多く、たまに生じるカーブは大きく曲がっているほうが、乗客の負担が少ない。ほとんどが直線で、停止と発進を繰り返すことが少なければ、座席に座ってスマホの操作がしやすい。立ってつり革につかまった状態でも、人によっては、スマホ操作が可能だろう。

 これにより、乗車時間を有効に、そして飽きることなく過ごすことができる。

利用者が多く、カーブが少ない道が目黒通り

 23区内でバス利用者が多く、直線部分が多い道路であり、バス専用レーンが設けられているところとして真っ先に思い浮かぶのが、目黒通りだ。目黒通りの上り路線バスは、JR山手線ほかを利用できる目黒駅行きとなる。

 この目黒駅までのバスルートが快適で、使い勝手がよいのだ。

 目黒通りは、東急東横線、東急目黒線と平行する部分が多く、東急東横線と交差する箇所もあるが、東急の2線から離れた箇所も多い。例えば、東急東横線の自由が丘駅や学芸大学駅、東急目黒線の武蔵小山駅からは少々距離があり、歩けば15分前後かかるという住宅エリアが多い。

 電車の駅までは遠いが、目黒通りのバス停までは近い(5分以内)という場所の住宅に住んでいれば、バスで目黒駅まで向かう通勤ルートが有効になる。

 というのも、朝の通勤時間帯に自由が丘駅や学芸大学駅、武蔵小山駅からの上り電車は混雑しており、乗り込むのは大変であるから。武蔵小山駅から目黒駅の所要時間は3分ほどなのだが、駅まで15分以上歩くと、合計の所要時間は15分+3分で18分となる。

 18分の所要時間で、混雑する電車に体を押し込むことを考えると、バス専用レーンを走る目黒行きのバスのほうが魅力的だ。

 武蔵小山駅エリアの目黒通りであれば、そこから目黒駅までのバス所要時間は10分ほど。目黒通りのバス停まで徒歩5分の場所に住んでいれば、目黒駅まで所要時間は徒歩5分+バス10分で15分程度となる。

 勤務先が大手町や新宿であれば、目黒駅でバスから電車に乗り換える必要があるので、バス利用のほうが早いとは言い切れないが、バスに乗ったほうが、体は楽だ。そして、目黒駅で電車の乗客が分散するので、電車の混雑が緩む。

 目黒通りに近い目黒区内、世田谷区内に住めば、「目黒駅までは、とりあえずバスで」という通勤スタイルが現実的に有効となるわけだ。

バス利用者が多いので、バスも頻繁に到着

 もう一つ、目黒通りのバス通勤が「わるくない」と思える理由が、道路の周囲にマンション、一戸建てが多いこと。その多くは、電車の駅に遠いので、バス利用者が多くなる。結果、バスの便数が豊富だ。場所にもよるが、朝の通勤時間帯、2分に1本程度バスが来るという場所が多い。そのため、利用者の多くは時刻表を見ずに家を出る、という生活スタイルができあがっている。バス停に行けば、次から次にバスが来るからだ。

 そのバスは、早いだけでなく、交差点での右折、左折がなく、目黒通りはカーブが少ないので揺れは最小限。バスを利用したくなる条件がそろっている。

 バス利用が快適な場所なのだが、「駅近偏重」の現在、23区内でも駅から徒歩10分以上の場所は地価が抑えられている。そのため割安価格でマンションや一戸建てを分譲することが可能。例えば、武蔵小山駅の場合、駅から徒歩3分以内の新築マンションは、60平米台の3LDKでも8000万円以上するのだが、同駅から徒歩10分以上離れると、70平米台の3LDKが6000万円台で購入可能。中古のマンション、一戸建てなら、さらに割安感が生じる。

 安い分、電車の駅まで遠い、ということになるのだが、目黒通りのバス停まで徒歩5分以内ならば、不便とはいえないだろう。

 つまり、目黒通り沿いの住宅地は、電車駅から離れても通勤便利で、価格も抑えられた狙い目住宅地といえるのである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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