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エレベーターの換気にバルコニーでのテレワーク コロナ後に求められるマンションとは

櫻井幸雄住宅評論家
かつて中野区で分譲された専用庭・離れ付き住戸。ステイホームも楽しそう。筆者撮影

 東日本大震災の後、分譲マンションの必須設備となったものがある。停電時に一部のエレベーターを動かす非常用電源や、非常食・水・薬品などを保管する防災備蓄倉庫……非常用電源も防災備蓄倉庫も以前からあったものだが、震災後は設置が広がり、内容が拡充された。

 生活に大きな影響を及ぼす出来事が生じたとき、生活の基盤となる住宅には「教訓を活かした改良」が加わる。多くの人の生活を支えるマンションの場合、その対応は即座に行われてきた。

 昨年、大型台風による機械室の浸水問題が起きた後も、新たにつくられるマンションでは機械室を2階以上に設置するケースが増えた。水害が起きても、停電が起きないようにしているわけだ。

 では、今回のコロナ禍では、どのような改良が生じることになりそうか。可能性の高いものを中心に考えてみた。

3密になりそうな場所は……

 新型コロナウィルスで避けるべき場所とされるのは「3密」が重なる場所。マンション内で3密が発生しそうな場所としてまず考えられるのがエレベーター内だ。3密のうち、間近の会話だけは少ないだろうが、密閉空間での密集は度々発生する。

 特に、超高層マンションの場合、エレベーターなしでは生活が成り立たず、乗っている時間も長い。

 だから、一人でエレベーターに乗っているときはいいのだが、人が乗り込んでくると、身構えてしまう。私の場合、つい呼吸をしないようにしてしまうのだが、それにも限界がある。また、数人が乗っているエレベーターに乗り込む立場になったときには気が引ける。乗るのを遠慮すると、いつまでたっても乗り込めない。乗れば、なんとなく気まずいムードがエレベーター内に漂ってしまう。

 なんとかならないか、と思うが、まだ効果的な策は打ち出されておらず、エレベーター内の換気ファンを作動させ、乗る前に手の消毒をすることと、管理スタッフによるこまめな消毒くらいしかない。

 これは、エレベーター全般に生じている問題なので、エレベーターのメーカーが打ち出す対策に期待したい。具体的にはエレベーター内の換気機能を上げ、なんらかの感染防止策を加えることか。エレベーターの「かご」一つひとつにエアコンを設置している例もあるので、換気装置を加えることは技術的にむずかしいことではないだろう。

 同様に密閉した空間になりやすいのが、マンションの内廊下。従来の外廊下方式よりもプライバシーやセキュリティを守りやすいと設置例が増えている内廊下だが、感染防止の面ではオープンエアの外廊下より不安と感じる人が多い。

 そこで、今後は内廊下に開け閉めできる窓やドアを設置するケースが増えそうだ。が、これは状況によって不可能なケースもあるだろう。その場合、内廊下に能力の高い換気装置を加えるといった工夫が求められる。

住戸内で求められるテレワーク用スペース

 現在、多くの住宅で求められているのは、テレワーク用のスペース。特に、小さな子どもがいる場合は、子どもから離れて仕事できるスペースが必要となる。といっても、2LDKで十分な家族が、万一のために3LDK住戸を購入したり、借りるのは簡単ではない。

 そこで、考えられるのは、次のような方策である。

 たとえば、いざというとき仕事用に使えて、普段は収納用に使えるマルチスペースを設けて、「テレワーク対応間取り」とすること。2畳程度の収納スペースを設け、テレワークが広まれば、収納物を処分したり、外部ストレージを活用するなどして、仕事に使えるスペースとするわけだ。

 次に、バルコニーを活用する手もある。今回は、幸いにも気候のよい時期で、まだ蚊の襲来もないので、日によってノマドワークというか、オープンエアでの作業が可能だ。

 このような時期であれば、バルコニー活用の途が広がる。仕事をしたり、家族と過ごしたり、食事をする、昼寝をする、といろいろな使い方ができるわけだ。

 冒頭に掲げた写真は、2014年に都内中野区で分譲されたマンションの例だ。

画像

 バルコニーではなく、1階の専用庭に大きなテラスを設けて、離れとして使える別室も付いた住戸である。オープンエアでの楽しみが多く、離れでのテレワークもしやすい。この住戸を購入した人は、よいマンションを買ったと喜んでいるのではないだろうか。

 が、このようなマンション住戸は限られる。多くはリビングに面したバルコニーがあるだけだろう。そのバルコニーは、奥行1.8メートル以上あると仕事のスペースや食事、遊びの場として使いやすい。

 といっても、バルコニーで仕事をする場合、太陽光が強すぎるとパソコンやスマホの画面が見にくい。そんな時は、サンシェード(日よけ)を設置するのが、よい。

サンシェードを付けたバルコニーの使い方例。こんなスペースがあれば、ステイホームの気晴らしにもなるだろう。筆者撮影。
サンシェードを付けたバルコニーの使い方例。こんなスペースがあれば、ステイホームの気晴らしにもなるだろう。筆者撮影。

 サンシェードは、強い日差しが室内に入ることを防止できるので、省エネ設備としても活躍する。利用範囲の広いエクステリア用品だが、バルコニーに数カ所フックがないと、設置できない。

バルコニーの天井部分に付けられたフックの例。サンシェードだけでなく、蔦をはわせるネットをかけることもできる。筆者撮影
バルコニーの天井部分に付けられたフックの例。サンシェードだけでなく、蔦をはわせるネットをかけることもできる。筆者撮影

 このフックは、居住者が勝手に付け加えることができない。バルコニーが、使用者が勝手に変更することができない共用部にあたるためだ。

 そこで、フックは新築分譲時に基本設備として設置されているのが望ましい。

 さらに、バルコニーに外部コンセントがあると便利。このフックと外部コンセントは、ステイホームの楽しみを広げる設備として、今後、設置例が増える可能性がある。

共用部では、多目的に使えるスペースが重宝

 テレワークのためのスペースは、マンションの共用部にも設置できる。スタディルームと名付けられる勉強・作業の場だけでなく、パーティルームなどもこういう時期はコワーキングスペースに転用できそうだ。

 間隔を離してデスクを設置し、窓を開けて換気のよい作業スペースとする。椅子は各自、自宅から持ち込む。

 結局、窓を開けることができる広いスペースがあれば、いろいろな転用ができるわけだ。コロナ禍や大きな災害のことを考えると、いかようにも使える大空間が有効である、と分かる。

 マンションの中庭にテーブルと椅子があれば、そこもオープンエアの作業スペースとして使える。もちろん、ちょっとした息抜きの場としても喜ばれる。

 その中庭は、今回のコロナ禍で、プライベートガーデン(居住者専用で、部外者は立ち入ることができない)であれば、子どもに残された貴重な遊び場になる、と喜ばれている。これは、今後、プライベートガーデンを積極的に設置してゆこうという動きにつながるはずだ。

 4月8日に7都府県に出された緊急事態宣言を受けて、多くの店舗とともにマンション販売センターも営業を自粛し、大半が閉鎖された。そのバックヤードでは、今まさにコロナ後に求められるマンションの姿が模索されている。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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