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新橋の立ち食いそば屋「そば作」の人気の冷しそば3品を紹介-まるで老舗の味わい-

坂崎仁紀大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト
愛宕警察署近くの新橋6丁目にある「そば作」(筆者撮影)

 「新橋虎ノ門界隈で、自家製麺でうまい立ち食いそば屋はどこですか?」と尋ねられると、真っ先に頭に浮かんでくる店がある。愛宕警察署近くの新橋6丁目にある「そば作」である。

前田店主は脱サラ組で大のそば好き

 「そば作」は店主の前田浩男さん(71歳)が昭和63年頃脱サラして始めた立ち食いそば屋である。大のそば好きだった前田さんは30歳の頃、生麺茹でたての「小諸そば」を食べて感心し、自分も茹でたての立ち食いそば屋をやろうと一念発起。丸の内のそば屋で修業したのち開業した。それから30余年、人生の半分以上の歳月をそば作りに捧げてきた。

 自家製麺が売りで、加水低めの硬めの細麺が特徴である。もりそばでもコシが強く、かけそばでもつゆとよくなじむ麺である。朝一番に行けば、厨房の傍らで小さな製麺機が稼働中である。

「自分もサラリーマンやってたからわかるけど、若い時はたくさん食べたかったから、ウチのお客さんにも打ちたてのそばをしっかり食べてもらいたい」という前田さんのありがたい心意気から、そばの1人前の量が他店より多いのも嬉しいサービスである。「ウチのそばの作り方を教えてくれってずいぶん来たんだよね」と前田さんは製麺しながら教えてくれた。 

製麺機を操作する店主の前田浩男さん(筆者撮影)
製麺機を操作する店主の前田浩男さん(筆者撮影)

毎朝その日の分のそばを打つ(筆者撮影)
毎朝その日の分のそばを打つ(筆者撮影)

もりつゆはあっさりだが上品な出汁が香る

 もりつゆはあっさりしたタイプである。出汁は本鰹、宗田節、鯖節でとった上品な味で、かけつゆもバランスがよい。返しはみりん、上白糖、醤油を使った本返しで、2週間寝かせてから使用している。

もりつゆはあっさりしたタイプ(筆者撮影)
もりつゆはあっさりしたタイプ(筆者撮影)

「そば作」の夏の冷たいそば3品を紹介

 今夏、新型コロナ感染の第7波で新橋虎ノ門界隈はテレワークが多く、売り上げが激減しているという。そこで、「そば作」に応援に駆け付けて、人気の夏の冷たいそば3品を紹介しようと思う。

豊富なメニュー(筆者撮影)
豊富なメニュー(筆者撮影)

夏に人気の冷しメニュー登場(筆者撮影)
夏に人気の冷しメニュー登場(筆者撮影)

●人気の定番「もりそば+天ぷら」

 「そば作」で冷たいそばの人気の定番といえば「もりそば+天ぷら」である。もりつゆは温かいつゆ(つゆ熱せいろ)にすることもできるが、夏はやはり冷たいもりつゆでいただくことが多い。注文後、生そばを大釜に放り込んで茹で始める。茹で時間は2分半程度。水で洗ってさらに冷水でしめて完成である。

 てんぷらは午前中に揚げて提供している。「春菊天」、「ちくわ天」、「まいたけ天」、「玉ねぎ天」、「なす天」、「ごぼう天」は60円。「かきあげ天」、「いか天」は110円。「えび天」も1尾110円、2尾で170円。夏の時期は「とうもろこしと夏野菜のかき揚げ」なども並ぶ。

もりそばに春菊天(筆者撮影)
もりそばに春菊天(筆者撮影)

 まず細麺のそばを箸で持ち上げ、もりつゆにどっぷりとつけて食べる。そばの食感、硬めの歯ごたえ、コシが申し分ない。つゆとそばのバランスもよい。天ぷらをつゆにつけて食べる。小振りだがちょうどいい。

 そばにゆず七味をかけて食べるとまた味変になってなかなかよい。「そば作」のもりそばは老舗そば屋の味といってもいいと思う。

もりそばにたまねぎ天(筆者撮影)
もりそばにたまねぎ天(筆者撮影)

もりそばにたまねぎ天(筆者撮影)
もりそばにたまねぎ天(筆者撮影)

●濃厚なつけだれ「ごまつゆせいろ」

 夏になると人気となるのが「ごまつゆせいろ」である。こちらはたっぷりのごまつゆがもりそばにつく。ねぎやわさびもたっぷり。こちらもそばをたっぷりとごまつゆにつけて食べる。こちらもつゆとそばのマッチングが素晴らしい。このごまつゆシリーズには「冷しごまたぬき」「冷しごまきつね」「冷しごま山菜」が揃っている。ごまつゆは9月いっぱいは提供する予定だという。

絶品ごまつゆせいろ(筆者撮影)
絶品ごまつゆせいろ(筆者撮影)

自家製ごまつゆがたっぷり(筆者撮影)
自家製ごまつゆがたっぷり(筆者撮影)

●絶品の自家製たぬきがたくさん「冷したぬきそば」

 夏に限らず、常連さんは年中食べているというのが「冷したぬきそば」である。前田さんによると「ウチのたぬきは自家製でちょっと一手間入れているんだ」とのこと。

 どんぶりにたぬきがたくさん、そして、かいわれ大根、わかめ、大根おろしがのってちょっと豪華な一品である。ねぎを入れて混ぜながら食べてみると、確かにたぬきが香ばしくサクサク感がたまらない。大根おろしもよく冷えていて夏にピッタリである。

たぬきは自家製で一手間入れている(筆者撮影)
たぬきは自家製で一手間入れている(筆者撮影)

たっぷりのたぬき、かいわれ大根、わかめ、大根おろしがのる(筆者撮影)
たっぷりのたぬき、かいわれ大根、わかめ、大根おろしがのる(筆者撮影)

大きな赤い急須のそば湯で〆る

 最後にカウンターに置いてある大きな赤い急須に入ったそば湯を飲めば大満足である。常連さんたちはお得な日替わりのセットメニューを頼むことも多い。とにかく、立ち食いという形態なだけで、味は老舗のそば屋といっていいと思う。値段もお手頃であるし、ありがたい存在である。

〆にそば湯で大満足(筆者撮影)
〆にそば湯で大満足(筆者撮影)

コロナ禍、粛々と忍耐強く

 コロナ第7波で「そば作」は今も厳しい営業状況が続いているという。

「界隈に人がいないんだよねえ。こんなことは今までなかったし、いつコロナが終息するかわからないから、めいっちゃうよね」とあきらめ顔である。

「だからって秘策があるわけはないし。粛々と忍耐強くやっていくしかないね」と前田さんは重い言葉を続けてくれた。

 コロナに気を付けて頑張ってほしいものである。秋になれば人気の自家製ルーから作る「カレーなんばんそば」や「けんちんそば」も食べに行かないとならない。いや、その前にもう一度、夏の冷しそばを食べに行こうと思う。

人気の「カレーなんばんそば」(筆者撮影)
人気の「カレーなんばんそば」(筆者撮影)

そば作

住所:東京都港区新橋6-14-4

営業時間:月~金9:45~19:30     

定休日:土日祝

大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト

1959年生。東京理科大学薬学部卒。中学の頃から立ち食いそばに目覚める。広告代理店時代や独立後も各地の大衆そばを実食。その誕生の歴史に興味を持ち調べるようになる。すると蕎麦製法の伝来や産業としての麺文化の発達、明治以降の対国家戦略の中で翻弄される蕎麦粉や小麦粉の動向など、大衆に寄り添う麺文化を知ることになる。現在は立ち食いそばを含む広義の大衆そばの記憶や文化を追う。また派生した麺文化についても鋭意研究中。著作「ちょっとそばでも」(廣済堂出版、2013)、「うまい!大衆そばの本」(スタンダーズ出版、2018)。「文春オンライン」連載中。心に残る大衆そばの味を記していきたい。

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