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川崎市のうまい立ち食いそば屋を行く 天ぷら充実、温も冷やしも相性よし

坂崎仁紀大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト
「浜家」の「かき揚げそば」(筆者撮影)

 川崎市には立ち食いそば屋が多い。その理由として下記のような背景が考えられている。

●京浜工業地帯があり働く人が多かったこと

●横浜・東京などの大消費地に隣接していて人の移動が多かったこと

●川崎市は東西に細長く、主要鉄道が交差する駅(川崎駅、武蔵小杉駅、武蔵溝の口駅、登戸駅など)が多かったこと

●輸送路としての川崎街道(府中街道)が縦断していたこと

●多摩川水系の水が豊かで製麺業などが発展したこと

などである。

 今回はその中でもうまいと評判の川崎駅近くの「濱や」と新丸子の老舗立ち食い店「山七」の2店を紹介しようと思う。

川崎市の主な立ち食いそば店マップ(筆者作成)
川崎市の主な立ち食いそば店マップ(筆者作成)

川崎駅前から続く新川通り沿いにある「濱や」

 JR川崎駅東口を川崎ルフロン側に降りて、まっすぐ始まる新川通りを東京湾の方へ進んでいくと、5分程度で「濱や」に到着する。オレンジ色の外観が目立つ。    

 「濱や」は1996年5月に創業した古参店である。初めは「信州そば讃岐うどん」というストレートな店名だった。「濱や」のそばは一言でいえば「いつもフレッシュな味を提供している店」といえるだろう。 

新川通り沿いにあるオレンジの看板の「濱や」(筆者撮影)
新川通り沿いにあるオレンジの看板の「濱や」(筆者撮影)

 「濱や」では店前に券売機があり、食べたいメニューを選んで入店する。冷たいメニュー、温かいメニューなどが色分けされており分かりやすい。店内は左が座れるコーナー、右が立ち食いのコーナーになっている。

冷やしと温のそばが色分けされていて分かりやすい(筆者撮影)
冷やしと温のそばが色分けされていて分かりやすい(筆者撮影)

ワイルドなかき揚げと自家製そばと上品なつゆのバランスがよい

 そばは注文後茹で始める。もちろん自家製麺である。天ぷらも自家製で、注文によってはオーダー後に揚げるものもある。まいたけ天、いか天、いんげん天、えび天、ちくわ天、かき揚げなど種類が多い。

天ぷらの種類も多いし、野菜コロッケなどもある(筆者撮影)
天ぷらの種類も多いし、野菜コロッケなどもある(筆者撮影)

 「温かき揚げそば」(420円)は特筆する出来栄えだった。かき揚げはすごく大きめに切った玉ねぎ、長ネギを中心に薄めに切った人参が入って揚げられているのだが、これがからっと揚がっており、油切れもすばらしい。わかめとねぎがそえられて登場した。かけつゆはまろやかな返しを使った綺麗なむらさき色で、出汁がしっかり利いている。関西人にも人気が出そうな、うどんでも合うタイプである。

 さて、自家製のそばは細身で加水の少ないタイプ。温かいそばなのにすばらしい歯ごたえで、上品なつゆとのバランスがよい。

「温かき揚げそば」は大きくカットした野菜のかき揚げが絶品(筆者撮影)
「温かき揚げそば」は大きくカットした野菜のかき揚げが絶品(筆者撮影)

冷し天ぷらそばは4種の天ぷらがのる

「冷やし天ぷらそば」(500円)はまいたけ天、いか天、いんげん天、えび天が入って登場した。冷たいつゆもまた上品で濃すぎないタイプ。そばは冷水で十分冷されており、歯ごたえコシは言うことなし。アツアツ揚げたての天ぷらとのコントラストが面白い。

「冷やし天ぷらそば」は4種類の天ぷらがのる(筆者撮影)
「冷やし天ぷらそば」は4種類の天ぷらがのる(筆者撮影)

「濱や」は地元に定着した良店である

 メニューには、玉子・コロッケ・ごはんがついた「丸得セットかけ・もり」やぶたバラ肉・かき揚げ・玉子・わかめがのった「川崎スペシャル」なんていうメニューもある。全部制覇するのは至難の業であろう。唐辛子の薬味だけでも6種類も揃っている。地元の常連にとっては使い勝手のよい店なのだろう。

唐辛子の薬味だけでも6種類と充実(筆者撮影)
唐辛子の薬味だけでも6種類と充実(筆者撮影)

濱や

住所 神奈川県川崎市川崎区小川町15-2

営業時間 月~土 11:00-20:00

定休日  日

新丸子駅前に昭和の時代から続く「山七」

 さて、2店目は東急東横線新丸子駅前すぐにある「山七」である。「山七」は昭和53(1978)年の創業の立ち食いそば店である。駅改札から20秒で到着するという至近さがたまらない。

 ご存じの方も多いと思うが、もとは山七製麺所という製麺会社のアンテナショップ的な位置付けで誕生した。数年前に製麺はやめており、現在は茹で麺を仕入れて提供している。「山七」の味はすでに地元民には十分定着しており、古参の立ち食いそば店の貫禄が感じられる。

新丸子駅前すぐにある「山七」(筆者撮影)
新丸子駅前すぐにある「山七」(筆者撮影)

 客席のスぺースは三角形でユニークな構造である。メニューをみると天ぷらが充実している。「かき揚天」「春菊天」「ソーセージ天」「ちくわ天」などが揃っていてどれも安い。また、「カレーライス」も人気で、テイクアウトも始めているようだ。

客席は三角形で先に行くほど狭くなる(筆者撮影)
客席は三角形で先に行くほど狭くなる(筆者撮影)

ぷらのメニューやカレーライスのセットが人気(筆者撮影)
ぷらのメニューやカレーライスのセットが人気(筆者撮影)

近はカレーライスのテイクアウトもスタート(筆者撮影)
近はカレーライスのテイクアウトもスタート(筆者撮影)

つゆは濃いめで茹で麺とのバランスがよい

 「春菊そば」は冬の時期は人気のメニューである。やや黒い茹で麺に返しの利いた出汁の感じる濃い目のつゆに春菊天がのる。春菊天はかき揚げ状に揚げられていて、すぐにつゆでほぐれていく。

 また、冷しのメニューも一年中食べることができる。冷しのつゆはきりっと濃くさっぱりといただける。

冬から春は春菊天そばが人気である(筆者撮影)
冬から春は春菊天そばが人気である(筆者撮影)

冷やしは一年中食べることができる(筆者撮影)
冷やしは一年中食べることができる(筆者撮影)

「山七」ではミニカレーセットやカレーセットが人気だ

 利用者の多くはカレーライスのセットを注文している。特に学生さんや若い常連に人気のようだ。ミニカレーのセットなら500円とお得である。豚肉やニンジンなどが入って福神漬けが添えられて登場する。それほど辛くないので一味を振って、さらに一緒にたのんだそばのつゆをスプーンでかけたりしながら食べることが多い。

人気のミニカレーライスは230円(筆者撮影)
人気のミニカレーライスは230円(筆者撮影)

「山七」はすでに新丸子の情報交換の場になっている

 店は女将さんとその妹さんだろうか二人で切り盛りしているようだ。年配の常連はほぼ顔見知りだというし、近所の情報が行き交う情報交換の場にもなっている。女将さんが最近心配なことはテレワークで売り上げが減少し厳しい状況が続いていることだ。さらに食材の高騰が追い打ちをかけている。はやくコロナが終息し物価が安定することを祈っているという。

山七

住所 神奈川県川崎市中原区新丸子町738

営業時間 月6:00-20:00 火木金6:00-19:00 水土6:00-17:00

定休日  日(祝は不定休)

 川崎市にはまだまだ個性的な店も多い。多摩区菅馬場1丁目にある製麺所経営の爆安店「星川製麺 彩」、幸区下平間にある「大年」、麻生区百合丘に2020年末に開業した「元長」なども人気である。

大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト

1959年生。東京理科大学薬学部卒。中学の頃から立ち食いそばに目覚める。広告代理店時代や独立後も各地の大衆そばを実食。その誕生の歴史に興味を持ち調べるようになる。すると蕎麦製法の伝来や産業としての麺文化の発達、明治以降の対国家戦略の中で翻弄される蕎麦粉や小麦粉の動向など、大衆に寄り添う麺文化を知ることになる。現在は立ち食いそばを含む広義の大衆そばの記憶や文化を追う。また派生した麺文化についても鋭意研究中。著作「ちょっとそばでも」(廣済堂出版、2013)、「うまい!大衆そばの本」(スタンダーズ出版、2018)。「文春オンライン」連載中。心に残る大衆そばの味を記していきたい。

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