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防げる「子どもの転落事故」 自宅でのリスクに簡単な対策が効果大

坂本昌彦佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医
(写真:アフロ)

 暑くなってきましたが、関東甲信~東北も梅雨入りはこれから。うちの中で過ごすことも多くなるかと思います。家の中で起こるケガは全てのケガの3割を占めているとされ、5歳未満の子どものケガの多くは自宅で起きているとの報告もあります[1]。

 そのため、自宅でどんな事故が起こりやすいのかを知ることは大切です。そして目を離しているときに何か起きてもすぐに大きな事故に繋がらないようにするためにも、自宅の環境整備は大切です。

 事故は色々な要因が絡み合って発生するので、環境を整えれば必ず事故が減りますとまだ断言はできませんが[1]、それでもできる備えはやっておくに越したことはありません。

家庭内の事故は年齢によって大きく変わる

 家庭内での子どもの事故は年齢によって大きく変わります。寝返りできない頃は顔にものがかぶさっての窒息、動けるようになると転倒転落が増えます。炊飯器の蒸気の部分を触ったり、熱い飲み物をこぼしてやけどすることもあります。生後5-6か月以降になると、周りへの好奇心が増え、口にものを入れるようになるため誤飲も増えます。医薬品や殺虫剤などの誤飲もありますが、これらの中毒の多くは自宅で起きています。溺水に関しては、3歳までは自宅のお風呂でもっとも多く起きています。

 今回の記事では紙幅も限られているため、自宅で起こる事故の全てを紹介することはできませんが、今の時期に多く、予防対策が非常に効果的とされている事故をひとつご紹介したいと思います。それは高所転落です。

 ニュースでは毎年のようにこの時期、転落事故についての報道があり、中には亡くなるお子さんもいらっしゃいます。今年の4月にも、北海道で3歳のお子さんが3階の窓から転落して死亡する事故が発生しています

 住居での高所転落で指摘されるのは窓やベランダですが、消費者庁のまとめでは、その70%は窓からとされています[2]。そこで今回は自宅の窓からの転落をテーマにお話ししたいと思います。

窓からの転落事故は暖かい季節に4歳以下の男の子で起きやすい

 これまでの研究から、就学前の子どもは窓からの転落のリスクが高いこと、男の子は女の子よりも起きやすいこと、そして暖かい季節に多いことが分かっています。

 転落事故の詳細をまとめた報告として、1990年から2008年にアメリカで窓から転落した小児約98,000人についてまとめた報告をご紹介します[3]。

 これによると、4歳までの子どもが全体の65%を占めており、1歳と2歳で転落件数が最多でした。また男の子の割合は58.1%を占めており、起きる季節は春から夏。

 転落は2階の窓からが約6割でもっとも多く、次いで1階の窓が3割でした。

 また4歳以下の子どもの特徴として、5歳以上の子どもと比べて頭部にケガを負う可能性が3.2倍高く、入院や重症化のリスクも1.6倍と高い結果でした。

 小さな子どもは頭が重いため転落するときに頭が下になりやすかったり、手で頭を守るなどの適切な防御行動が難しいため、頭のケガが増え、それが重症化のリスクも引き上げていると考えられます。

 いっぽう、5歳以上の子どもの転落の4割近くが窓の外をよじ登ったり、窓からジャンプするなど危険行動と関係していることも分かりました。

転落による小児の死亡者数は近年減っている

 日本で発生している転落事故について、近年の傾向はどうなっているのでしょうか。米国のように全国的に調査したデータは見当たりませんでしたので、死亡事故について、2011年から2019年までの厚生労働省の人口動態調査のデータを集計してみました。

 すると、14歳以下の子どもの転落死亡事故は7年間に113件起きていましたが、年齢別では1~4歳が47件と最多で、10~14歳が41件、5~9歳で23件の順となっていました。  

 就学前までの乳幼児と小学校高学年以上の児童で転落死亡事故が多いことが分かります。

 いっぽうで、これらの結果をグラフにしてみると、全体の傾向としては年々減少しています(下の図参照)。日本では急速に少子化が進んでいる影響も考慮しなくてはいけませんが、死亡事故が順調に減っていることは喜ばしいことです。減っている理由として、住宅建築の安全性の進歩など、家庭での環境整備が進んでいる可能性はあるかと思います。

 一方で、死亡事故にまで至らずともケガを負うケースはまだまだあると考えられますので、予防を考えることは引き続き大切です。

図:厚生労働省.人口動態統計.不慮の事故の種類別に見た年齢別死亡数(2011~2019年)より筆者作成
図:厚生労働省.人口動態統計.不慮の事故の種類別に見た年齢別死亡数(2011~2019年)より筆者作成

予防は窓ガードの設置が有用

 では具体的な転落防止対策としては、どのようなものがあるのでしょうか。

 アメリカ小児科学会は次の方法を勧めています[4]。

1.2階以上の窓にはガード(転落防止策)を設置する。

2.窓にロックをつけて窓が10cm以上開かないようにする。

 ※小さな子どもでも10cmの開口部を通過できないことが分かっているため。 

3.網戸は強度が弱く、乳幼児の転落防止にならないことを認識する。

4.バルコニーや非常階段で子どもが遊ばないように注意する。

5.子どもが上る可能性のある家具を窓の近くやバルコニーに置かない。

 消費者庁も同様に「窓の近くに足がかりのある家具を置かないこと」「窓に補助錠やストッパーをつけること」を呼びかけています[2]。

米国では転落防止キャンペーンで事故が8割減

 実際に、窓からの転落防止対策で、過去に米国で成功したキャンペーンがあります。ボストンでは「Kids Can’t Fly」というキャンペーンが行われ、保護者への教育を進め、家主に窓ガード設置を義務化することなどを定めた条例が設けられました。

 7歳以下の子どもがいる家庭では、2階以上の全ての窓と、1階であっても3.6メートル以上の高さにある窓には、窓ガードの装着が義務化されました。不動産管理会社もこのキャンペーンに積極的に関与したことにより、非常に大きな効果があり、開始から2年間で、ボストンの窓からの転落は最大82%も減少しました[5]。

 日本の転落事故も、その多くが窓からであることを考えると、窓ガードの設置は有用だと考えます。ただ、注意が必要なのは、火災時に脱出を妨げることがないよう、いざというときに大人の力で取り外しができる必要があります。

ベランダからの転落防止について

 ここまで窓からの転落事故とその予防についてお話ししましたが、ベランダからの転落も気になる方がいらっしゃるかと思いますので、その予防についても付け加えたいと思います。

 東京都商品等安全対策協議会は、ベランダからの転落事故防止として以下を挙げています[6]。

1.子どもだけを置いて外出しない。

2.子どもを一人でベランダに出さない。

3.ベランダを子どもの遊び場にしない。

4.ベランダの出入り口を施錠する。子どもの手の届かない位置に補助錠を設置。

5.ベランダに足がかりになるものを置かない。

6.エアコンの室外機は手すりから60cm以上離して設置するか、上からつるす。

 暖かい季節、好奇心が旺盛な子どもを守るために、事故予防対策は必須です。

「4歳以下」「男の子」「暖かい季節」をキーワードに、記事が子どもの転落事故防止を考えるきっかけになればと思います。

【参考文献】

1.Lyons, R.A., et al., Modification of the home environment for the reduction of injuries. Cochrane Database of Systematic Reviews, 2003(4).

2.消費者庁. 窓やベランダからの子どもの転落事故に御注意ください! 2018; (https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/release/pdf/consumer_safety_release_180314_0001.pdf 2021-6-10)

3.Harris, V.A., L.M. Rochette, and G.A. Smith, Pediatric Injuries Attributable to Falls From Windows in the United States in 1990–2008. Pediatrics, 2011. 128(3): p. 455-462.

4.AAP Position statement.Falls From Heights: Windows, Roofs, and Balconies. Pediatrics, 2001. 107(5): p. 1188-1191.

5.Spiegel, C.N. and F.C. Lindaman. Children can't fly: a program to prevent childhood morbidity and mortality from window falls. Am J Public Health, 1977. 67(12): p. 1143-7.

6.東京都商品等安全対策協議会. 子供のベランダからの転落事故に注意! 2018;(https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/attention/kigai_beranda_20180215.html 2021-6-10)

佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医

小児科専門医。2004年名古屋大学医学部卒業。現在佐久医療センター小児科医長。専門は小児救急と渡航医学。日本小児救急医学会代議員および広報委員。日本国際保健医療学会理事。現在日常診療の傍ら保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクト責任者を務める。同プロジェクトの無料アプリは約40万件ダウンロードされ、18年度キッズデザイン賞、グッドデザイン賞を受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2022大賞受賞。

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