新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、手洗いや手指消毒の意識が高まった!という方は多いと思います。一方で、手を洗いすぎたり、消毒しすぎたりして、手が荒れて困るという方もいらっしゃるようです。

今回は、やりすぎでもない、やらなすぎでもない「ちょうどよい手洗い・手指消毒」をその理由とともにご紹介できればと思います。

まずは、正常な皮膚の構造を知ろう!

ちょうどよい手洗い・手指消毒について知るには、正常な皮膚の構造について知っておくことをお勧めします。大事なところは太字にしていますので、拾い読みしていただくだけでも十分です。

皮膚は表皮、真皮、皮下組織からできています。あまり上手な絵ではありませんが、おゆるし下さい。

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皮膚の基本的な構造(筆者作成)

表皮

表皮の厚さは0.1~0.2ミリです。表皮は、外側から、角層(かくそう)、透明層(手のひらと足の裏のみにある)、顆粒層(かりゅうそう)、有棘層(ゆうきょくそう)、基底層(きていそう)の5層から成ります。基底層で作られた細胞は、徐々に押し上げられて最終的に角層に至り、垢となって剥がれ落ちます。

もっとも表にある角層の厚さは0.02ミリ。ラップ2枚分くらいの薄さです。角層には、病原体や紫外線、化学物質や機械的な力などの外界からの刺激から身体を守る作用と、体内からの水分の蒸散を防ぐ保湿作用があります。 

角層は角層細胞(ケラチノサイト)とよばれる平たい細胞と角層細胞の間を埋める細胞間脂質からできています。私たちが化粧品などのCMでよく耳にするセラミドは、細胞間脂質に含まれる脂質の一種です。角層細胞の中には天然保湿因子が含まれています。また、角層の表面は、皮脂腺と汗腺から分泌される皮脂と汗が混ざった皮脂膜で覆われています。

真皮

表皮の内側にある厚さ1~2ミリの層です。真皮にある線維芽細胞が、やはり化粧品のCMでよく聞くコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸などを生成しています。毛細血管や汗腺なども真皮にあります。

皮下組織

厚さ1~2ミリの皮下組織の大部分は皮下脂肪です。皮下組織の中を動脈と静脈が走っています。皮下脂肪は外部からの衝撃を和らげるクッション材となったり、保温の役割を担ったり、燃料としての機能もあります。

ヒトの皮膚にいる微生物

健康な皮膚1平方センチメートルあたりに存在する細菌数は、人によっても部位によっても違いますが、おおまかには以下の通りです(注1)。

注1:新型コロナはウイルスが引き起こす感染症です。ウイルスと細菌は異なります。

  • 頭皮 100万CFU
  • わきの下 50万CFU
  • 腹部 4万CFU
  • 前腕 1万CFU
  • 手  4~460万CFU 

CFUとはコロニー形成単位のことで、1CFUを細菌1個と考えます。

これらの細菌は通過菌(つうかきん)と常在菌(じょうざいきん)に分けられます。

通過菌

汚染された環境などに触れた際に、角層に一時的にくっつく細菌です。代表的な通過菌には、大腸菌や黄色ブドウ球菌などがあります。通過菌は、感染症を引き起こすことがありますが、手洗いや手指の消毒で取り除くことができます。新型コロナウイルスは細菌ではないので通過菌と呼ぶのは不適切ですが、やはり一時的に皮膚の表面につくことがあると考えられています。

通過菌が皮膚についてから生存する時間は、皮膚のpHや体温、手洗いの方法や回数、付着した菌量、傷の有無などの様々な条件に左右されますが、だいたい30分~3時間程度と言われています。なお、ウイルスの場合ですが、インフルエンザウイルスは約15分間、乳幼児の胃腸炎を引き起こすロタウイルスは最大260分と言われています。随分と差がありますね。新型コロナウイルスについては、査読前の論文において、22°C で96 時間、37℃で8時間という報告がありますが、まだよくわかっていません。

健常な角層から細菌やウイルスが侵入して感染することはありません。手荒れや怪我で角層に傷がある場合、細菌やウイルスが侵入することはあり得ます。例えば、とびひ(伝染性膿痂疹)は、皮膚の細菌感染で起こります。しかし、新型コロナウイルスについては、皮膚の傷から侵入して感染するとは考えられていません。

常在菌

皮膚に常にいる細菌です。また、皮脂腺や皮膚のしわの奥の方にもいるので、手洗いや手指の消毒で取り除くことはできません。また、常在菌は通常悪さをしません(注2)。むしろいてもらった方が良い細菌です。

注2:病院では医療器具の使用に関連した院内感染を起こす場合があります。

常在菌には、表皮ブドウ球菌やアクネ菌などが含まれます。これらの細菌は、皮脂を使って脂肪酸を作り、皮膚を弱酸性に保ちます。それが黄色ブドウ球菌やカビ(真菌)など、アルカリ性を好む通過菌の増殖を防ぎます。常在菌の多くを占める表皮ブドウ球菌は角層にいます。必要以上に手を洗ったり、こすったりして、角層の細胞を落とすことで常在菌の数を減らすのは避けたほうがよいと言えます。

通過菌の増殖が起こりやすいその他の条件

皮膚が乾燥すると皮膚のpHがアルカリ性に傾き、通過菌が増殖しやすい環境になります。手が乾燥しやすい方は、定期的(例えば1~2時間おき)にハンドクリームで保湿するとよいでしょう。手袋やテープなどで皮膚を長時間覆う場合も皮膚がアルカリ性に傾き、一過性細菌が増殖しやすくなると考えられています。手袋をつけたままにすることのデメリットについては、後ほど解説します。

効果的な手洗いとは

皮膚から通過菌やウイルスを取り除く方法には、石鹸と流水による手洗い、または、アルコールを主成分とする手指消毒があります。手洗いと手指消毒を合わせて、手指衛生(しゅしえいせい)といいます。効果的な手指衛生は、方法とタイミングの2つの観点から考えることが重要です。

方法

石鹸と流水による手洗いでは、石鹸を手に取り、20~30秒をかけて下図にある部分をまんべんなくこすり洗いし、水で洗い流します。お湯を使った手洗いを繰り返すと手荒れが起こりやすいと言われていますので、なるべく常温に近い水の方がよいかもしれません。

近くに手を洗う場所がない場合は、アルコールを主成分とする手指消毒薬を使います。手洗いと同じ部位に20秒ほどかけて擦り込みます。全ての部位に擦り込まないうちに乾燥してしまった場合は量が足りませんので、手が大きい方などは約20秒間擦り込むのに十分な量を使ってください。

指先や親指、指の間は洗い忘れや消毒忘れが生じやすいところですので、注意が必要です。また、手洗いと手指消毒の両方を行う必要はありません。むしろ皮膚の乾燥を招いて手荒れを起こしやすくなるので、手洗いまたは手指消毒のいずれかを行います

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手洗いまたは手指消毒を行う部位(筆者作成)

手指消毒薬は、アルコール(エタノール)濃度が60~80%のものを選ぶとよいでしょう。アルコール濃度はvol%(体積パーセント)やv/v%(容量パーセント)で表示されることが多いのですが、これはいずれも製品100mL中に含まれるアルコールのmL数を示します。ですので、例えば65vol%あるいは65v/v%と表示されている製品のアルコール濃度は65%ということになります。

タイミング

例えば次のようなタイミングで行うとよいでしょう。

  • 帰宅時
  • 職場に到着時
  • 食事・調理の前
  • トイレ・おむつ交換のあと
  • 動物や動物のエサや排泄物に触れたあと
  • ゴミ出しのあと
  • 手が目に見えて汚れているとき
  • 病気の人の世話をする前後
  • 傷の手当をする前後
  • 外出先で顔に触れる前

新型コロナウイルスのことを考えると、本当にこのタイミングだけで十分なの?と不安に思われる方はもちろん、自分が必要と思ったタイミングで手指衛生を行うと良いと思います。ただ、この記事でも述べた通り、現在、新型コロナウイルスが環境やモノの表面上に感染性を維持したまま長時間存在することは考えにくいとされていることや、仮に存在したとしても手に付着してから顔の粘膜から侵入して感染を起こすには、複数のステップを経ないといけないことなどを考えると、飛沫感染に比べて、手を介した接触感染はそれほど効率的に起こるわけではありません。また、先に述べた通り、手の洗いすぎや消毒しすぎにはデメリットもあることを忘れずに、手指衛生が勧められる上記のような場面を中心に実施することをお勧めします。

外出時の手袋の使用について

外出時や業務中にラテックス、ニトリル、あるいはプラスチック製の使い捨て手袋を着用することで、手指に細菌やウイルスが付着するのをある程度防ぐことは可能だと思います。

ただ、これらの手袋にはピンホール(針穴)と呼ばれる目に見えない穴が開いています。国内の使い捨て手袋の品質保証規格に準拠した場合でも、手袋の2~3%にピンホールが空いていることは許容されます。ピンホールの数は装着時間が長いほど増えますし、上から消毒したり、洗ったりしても増えます。

長い時間装着するうちに、あちらこちらに触れた手袋の表面は細菌やウイルスで汚染されますし、その間に数が増えたピンホールを通って手袋の下の皮膚にも汚染が生じることになります。汚染された手袋で無意識に顔に触れると感染するリスクも生じます。医療機関では、手袋の長時間装着が原因と考えられる院内感染事例があることなどから、手袋をつけっぱなしにしないことが院内感染対策のガイドラインで推奨されています。

私たちは家の外で様々な環境に触れながら生活していますし、触れなければ生活を営むことはほとんど不可能です。人が触れる環境から、あらゆる微生物を常になくしてしまうことはできません。自分が触れるものからあらゆる微生物を無くすことを目指したり、期待することよりも、自分の手を適切なタイミングと方法できれいにする方が現実的です。多くの場合、病気を引き起こす病原体が手についても、眼、鼻、口に触れなければ感染にはつながりません。

要するに、他者の手ではなく、モノでもなく、環境でもなく、まずは自分の手を(神経質になりすぎずに)きれいにしよう、ということかと思います。この記事を読んで、これまで手指衛生が不足していたな、と思う方は頻度を少し増やしていただき、ちょっとやりすぎていたかな、と思う方は頻度を少し減らしてみるのはどうでしょう。「健康な皮膚を維持しながら手を清潔に」それが新型コロナに限らず、さまざまな感染症を防ぐ手指衛生を習慣化するコツだと思います。

参考文献

  1. WHO.Hand Hygiene: Why, How & When?
  2. CDC.Hand Hygiene Guidance.
  3. Kampf G, et al. Epidemiologic background of hand hygiene and evaluation of the most important agents for scrubs and rubs. DOI: 10.1128/CMR.17.4.863-893.2004
  4. Pittet D, et al. Evidence-based model for hand transmission during patient care and the role of improved practices. DOI:10.1016/S1473-3099(06)70600-4
  5. Grice EA, et al. The skin microbiome. Nat Rev Microbiol. DOI:10.1038/nrmicro2537
  6. Proksch E. pH in nature, humans and skin. https://doi.org/10.1111/1346-8138.14489