新型コロナウイルス:やっぱり空気感染するの?

(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

空気感染の可能性を指摘する書簡

細菌やウイルスなどの病原体が人から人に感染する経路(ルート)を感染経路と言います。感染経路は大きく、接触感染、飛沫感染、空気感染の3つに分けられます。

世界保健機関(WHO)米国疾病対策センター(USCDC)を初めとする専門機関は、日常生活における新型コロナウイルスの主要な感染経路は飛沫感染と接触感染(注1)だと判断しており、この感染経路に基づく感染対策が推奨されています。

ところが、報道されているとおり、2020年7月9日に、世界各国の研究者らが連名で新型コロナウイルスが空気感染するとの書簡を専門誌上に発表し、WHOに感染対策を見直すよう求めました。

新型コロナウイルスが空気感染する可能性は以前から指摘されており、これについて筆者もこのような記事を執筆しましたが、その後明らかになったことなどを含めて、改めて空気感染の可能性についてまとめてみました。

注1

新型コロナウイルスはモノや環境表面では、それほど長く活性(細胞に感染する力)を維持できないので、接触感染は主要な感染経路ではないのでは?という見解が最近発表されました。

そもそも飛沫感染と空気感染はどう違うのか?

話を進めるにあたり、いくつかの専門用語の意味についてご説明します。なお、出典はこちらです。

飛沫感染とは

  • 咳、くしゃみ、発声の際に、口や鼻から病原体を含む大きなエアロゾルが飛び出し、近くにいる人の顔に直接かかり、眼、鼻、口の粘膜から感染する経路
  • 飛沫感染する代表的な感染症は、季節性インフルエンザ、百日咳、風疹、おたふくかぜなど

空気感染とは

  • 病原体が小さなエアロゾル(あるいは飛沫核)や埃に付着した状態で空気中を浮遊し、これを吸入することで感染する経路
  • 空気感染する代表的な感染症は、はしか、水ぼうそう、肺結核など

エアロゾルと飛沫核の違いは?

ここでエアロゾルと飛沫核という言葉が出てきましたので、説明します。

エアロゾルとは、空気中を漂う液状あるいは固形の微粒子を指します。

エアロゾルの定義は定まっていません。ただ、感染対策の分野では慣わしとして、水分を多く含み、粒子径が比較的大きな微粒子を飛沫 dropletと呼び、水分量が少なく、粒子径が比較的小さな微粒子をエアロゾル aerosolと呼んで区別するのが一般的です。

飛沫は重たいので、遠くに飛ばないうちに重力によって地面に落ちますが、エアロゾルは飛沫よりも軽いので、滞空時間が長く、気流によって遠くまで運ばれることがあります。

飛沫とエアロゾルを分ける粒子径について統一された見解はありません。ただ、これも慣わしとして、5μmより大きな粒子を飛沫、5μmより小さな粒子をエアロゾルまたは飛沫核と呼ぶことが多いです。また、飛沫の水分の中には塩分やミネラルなどが溶けており、水が蒸発すると溶けていたものが残って、乾燥した固形の微粒子となります。これを飛沫核 droplet nucleiと呼びます。エアロゾルと飛沫核を同義に扱う文献もあれば、区別している文献もあります。

ここから先はこのような分類に基づいて、飛沫、エアロゾルという言葉を使い分けます。また両方を指す場合は微粒子という言葉を使います。

飛沫感染と空気感染をどう区別する?

人が呼吸、咳、くしゃみ、会話をしたり、笑い声を上げるたびに様々なサイズの微粒子が口や鼻から出てきます。そのため、飛沫とエアロゾルは同じ空間に同時に存在することができます。但し、先ほども書きましたが、エアロゾルの方が軽いので、空気中に長く浮かんでいることができますし、飛沫よりも遠くまで運ばれることがあります。

また、飛沫が飛ぶ距離については通常1~2m程度とされていますが、例えばマスクをせずに激しいくしゃみをした場合はそれよりも遠くまで飛沫が飛ぶことがあるので、全ての飛沫が発生源から2m以内の範囲に落ちるわけではありません。ただ、大部分はだいたいその程度の範囲に収まるだろうということで線引きがされています。

このように飛沫とエアロゾル、飛沫感染と空気感染は何らかのカットオフ値によって明確に区分されているわけではないので、連続するスケールの上にある現象としてとらえる必要があります。とはいえ、どちらの経路で感染がより起こりやすいかという確率に基づいて、主要な感染経路を飛沫ととらえるか、空気ととらえるか、という観点での区別は可能です。例えば、インフルエンザウイルスはエアロゾル(あるいは飛沫核)に付着して空気中を浮遊することが知られていますが、通常は長距離を移動せず、多くは飛沫が直接顔にかかる経路で感染すると考えられています。そのため、飛沫感染を防ぐ対策が中心となります。一方で、麻疹ウイルスは2時間ほど空気中を漂い、ワクチンを受けていないなどの理由で免疫のない人に感染を起こすことが分かっています。そのため、空気感染を防ぐ対策に重点が置かれます。

話がずれますが、麻疹は新型コロナウイルスに比べて感染性が格段に高く、子供から大人まで重篤な合併症や後遺症を引き起こすので、麻疹・風疹混合(MR)ワクチンは2回受けておくことを強くお勧めします

飛沫やエアロゾルでウイルス感染が起こる可能性は?

鼻や口から出る微粒子によって実際にウイルス感染が起きるかどうかは、以下を含む様々な条件に左右されます。

  • 鼻や口から出る微粒子の量
  • 微粒子の大きさ
  • 微粒子に含まれるウイルスの量
  • 微粒子を産生する人の身体の中でウイルスが増殖している部位やその量 
  • 微粒子を産生する活動(呼吸、咳、くしゃみ、発声など)の頻度
  • 微粒子を産生する人の体格
  • 相対湿度や温度
  • 換気回数、気流の速さや向き
  • ウイルスの感染性(組織に侵入する力)や病原性(感染を引き起こす力)といった特徴
  • マスクなどの鼻や口を覆う個人防護具の有無

例えば、1回のくしゃみで出てくる飛沫の量は1回の呼吸に比べて通常は多いのですが、くしゃみをする回数よりも呼吸の回数の方がずっと多いので、一定時間内に生じる飛沫の合計量には大差がないということもあり得ます。

画像

下記の文献をもとに筆者作成

Fiegel J, Clarke R, Edwards DA. Airborne infectious disease and the suppression of pulmonary bioaerosols. Drug Discov Today. 2006;11(1-2):51‐57

Morawska L. Droplet fate in indoor environments, or can we prevent the spread of infection?. Indoor Air. 2006;16(5):335‐347.

飛沫やエアロゾルに含まれる病原体の量は、発生源となっている人の身体のどの部分にウイルスが増殖しているか、またそこに増殖しているウイルスの量に左右されます。新型コロナウイルスでいえば、のどにいるウイルス量の多い時期の方が、その前後の時期に比べて飛沫やエアロゾルにウイルスが含まれる可能性は高く、その量も多いと考えるのが自然です。

水分量の多い飛沫は乾燥するのに数十秒を要します。次第に乾燥して塩分などの濃度が高まった小さな飛沫(エアロゾル)の中では、ウイルスが活性を保つのは次第に困難になります。また、発生源から離れるにつれ、換気によって空気中のエアロゾルの濃度も次第に薄まっていきます。従って、発生源から近く、かつ換気が悪い場所ほど感染するリスクは高く、発生源から遠く、換気が良い場所ほど感染するリスクは低いと考えられています。

専門家らが指摘する空気感染のリスクとは何か?

冒頭に紹介した書簡のなかで、専門家らは新型コロナウイルスが空気感染する可能性について次のように述べています。

  • ウイルスは呼気(吐く息)、会話、咳の際に微細な飛沫(書簡ではマイクロドロップレットと表現=エアロゾルと同義)に含まれて空気を漂うことにより、発生源から1~2メートル以上離れたところに到達可能である。
  • 屋内の典型的な気流速度に乗った5μmの微粒子は、数十メートル浮遊し、1.5メートルの高さから床に落ちることがある。
  • 中国のレストランでは感染者のテーブルと隣接するテーブルの2家族(滞在時間それぞれ60~90分間)に二次感染例が発生しており、換気の悪い空間で、気流に乗ったウイルスが拡散した可能性が指摘されている。
  • 新生児に呼吸器感染症を引きおこすRSウイルス、インフルエンザや中東呼吸器症候群を引き起こすMERSコロナウイルスは、エアロゾルに付着して空気中を浮遊することが知られており、SARS-CoV-2でも同様のことが起こり得ると考えられる。
  • 現在、国際機関や各国の専門機関が発行しているガイドラインでは、手指衛生、ソーシャル(フィジカル)・ディスタンシング(注2)、マスク着用などの飛沫感染対策に重点が置かれており、空気感染のリスクについては医療機関におけるエアロゾル産生手技(注3)にのみについて注意喚起がなされている。
  • 感染者の鼻や口から放出され、空気中を漂うウイルスを含むマイクロドロップレットを吸入することによる感染は、特に屋内の閉鎖空間、なかでも人が密集しており、換気が不十分な環境において問題となりやすい。

注2 人と人との間の距離を少なくとも1メートル空ける感染対策

注3 大量のエアロゾルを産生する気管挿管などの医療的処置

以上を踏まえて専門家らは、空気感染のリスクを低減するために以下を提案しています。

  • 特に公共の建物、職場、学校、病院、高齢者施設における効果的かつ十分な換気(外気の供給、最小限度の空気の再循環)
  • 通常の換気に局所排気装置、高性能エアフィルター、紫外線などを併用
  • 公共交通機関や公共の建造物内における密集の回避

WHOの見解は?

専門家らによる書簡を受けて、WHOは2020年7月10日に以下の内容の公式見解を発表しました。

  • これまでに得られた科学的根拠に基づくと、新型コロナウイルスの主要な感染経路は飛沫感染と接触感染だと考えられる。
  • 空気感染は医療機関でエアロゾル産生手技を実施した場合に起こると考えられる。また、屋内の人が密集した環境において空気感染の可能性が除外できない集団感染事例が報告されている。
  • 今後もこまめな手指衛生、可能な場合はソーシャル(フィジカル)・ディスタンシングを継続するとともに、人が密集した換気の悪い密閉空間を避け、そのような場所にいるときには布製のマスクを着用して他者に感染させることを防ぎ、換気や適切な清掃・消毒に努める必要がある。

WHOが現時点において、空気感染が起きている可能性がある、とせずに、除外できないという消極的な表現を使った主な理由は以下の通りです。

  • 新型コロナウイルスが空気感染を引き起こすために必要なエアロゾルの濃度やウイルス量について、まだよくわかっていない。
  • 新型コロナウイルス以外のウイルスが、通常の会話や咳の際に放出されて空気中を浮遊する場合があることは以前から報告されているが、新型コロナウイルスがこのような経路で感染することは確認されていない。
  • 密閉されたドラムの中にジェットネブライザーで新型コロナウイルスを注入した実験では、3~16時間後にもウイルスの遺伝子が空気中から検出されているが、人間が咳をした状況とは異なるので現実世界で同じことが起こるとは言えない。
  • 病院やその他の環境において、大量の空気中から少量のウイルス遺伝子を検出したとの報告はあるが、活性のあるウイルスを検出したという報告はない。
  • 医療従事者を対象とした最近の研究では、新型コロナウイルス感染症の患者に対してエアロゾル産生手技を実施しない場合には、飛沫感染と接触感染を防ぐ対策を適切に実施している限りにおいて、院内感染は起きていない。
  • 医療機関以外で、三密空間で空気感染が起きた可能性が否定できない集団感染事例が発生しているが、飛沫感染と接触感染によって起きたという説明も可能な状況である。

今、必要な感染対策は?

WHOは新型コロナウイルスの主要な感染経路が飛沫感染と接触感染であるというスタンスを変えていませんが、いわゆる三密(英語では3Cs)の環境にはこれら二つの感染経路に加え、空気感染が起こる可能性は除外できない(cannot be ruled out)ので、このような環境は避けて換気を行うよう推奨しました。これを受けて書簡の執筆協力者であり感染性エアロゾルの研究で有名なLindsey Marr氏は、空気感染のリスクはあり得る(likely)だとTwitterで反論しています。

空気感染論争に決着はついていませんが、これまでに明らかになったことを総括すると、空気感染の証拠はまだ出そろってはいないものの、三密空間において空気感染のリスクはゼロではなく、特に流行地域では1人の感染者から一度に複数に感染するスーパースプレディング・イベント(superspreading event)に遭遇する可能性がある、という理解でよいのではないかと思います。

日本では幸いパンデミックの早期からクラスター班による解析や保健所の積極的疫学調査により、詳細なメカニズムは解明されていないとはいえ、三密(注4)空間には多数の感染者が発生するリスクがあることが分かっていたので、これを避けるための啓発活動が積極的に行われてきました。今回の書簡もWHOの見解も、国内ではすでに広く知られているこの対策の重要性を裏付けるものととらえてよいでしょう。

注4 密閉空間(換気の悪い密閉空間である)、密集場所(多くの人が密集している)、密接場面(互いに手を伸ばしたら届く距離での会話や発声が行われる)

一方で、屋外や三密に当らない場所については、空気感染を恐れる必要性はほとんどないと考えてよいと思います。個人的な感覚ですが、筆者は公園やスーパー、エアロゾル産生手技を行っていない医療現場などでは空気感染の心配はしません。日常生活では、むしろ飲食などの際に他人に飛沫を無防備に飛ばすことの方がよほど心配です。

東京都では新規感染者数が連続して200名を超え、感染経路不明あるいは重症化が懸念される年齢層の感染者数も徐々に増えています。感染する場所も夜間に営業している接客業だけでなく、その他の職場や家庭へと拡大しています。これまで行ってきた感染対策、つまり、三密を避け、日ごろから人と人との距離を1メートル以上空ける、それよりも近い距離で話しをするときはマスクを着ける、こまめに手を洗うといった基本的なことを地道に続けることがこれまで以上に重要な局面に来ているのではないでしょうか。

職場における感染対策については、こちらの記事もぜひ参考にしていただければと思います。