経済活動再開に向けた感染対策とは「接触が避けられない仕事の現場」でやれること【#コロナとどう暮らす】

(写真:アフロ)

新型コロナウイルス感染症を経験したことによって、私たちの暮らしは今後どのように変化するのでしょうか。Yahoo!ニュースの記事に寄せられた「人と接触が避けられない仕事で新型コロナにどう対応すればいいのか」という声を参考に、筆者なりの見解を述べたいと思います。

リスクと対策の落としどころ

新型コロナウイルスは、今後ワクチンや治療薬が開発されたとしても消滅することなく、人類と共存する可能性が高いと考えられています

経済活動には人との接触がつきものです。従って、経済活動を再開するということは、感染のリスクがゼロにならないことを受け入れた上で、「許容できる感染のリスク」と「経済活動を縛りすぎない感染対策」の程よい境界線を模索しながら生活することを意味します。

この記事では、COVID-19について2020年6月18日時点で分かっている科学的知見を踏まえながら、経済活動(=仕事)において人と人との接触が生じる場面で、行うことが勧められる必要最小限の感染対策について解説します。今後明らかになる科学的知見によってはここで紹介する対策が過剰もしくは過少と判断される可能性もありますのでご了承ください。なお、ポイントを太字で示していますので、太字を拾い読みしていただくだけでもある程度分かるように記載しました。

どのような感染対策が必要なのか

一般的に効果と継続性のある感染対策は以下の条件を満たします。これらの条件を踏まえて解説します。

効果と継続性のある感染対策

  • 知られている感染経路を遮断する
  • 効果を示す信頼性の高い研究結果がある
  • 無理なく実践可能である
  • 健康被害がない

COVID-19の主な感染経路は飛沫感染と接触感染です。 飛沫感染は、会話、咳、くしゃみなどの際に鼻や口から出る飛沫(しぶき)に含まれるウイルスが、近く(目安として1~2メートル以内)にいる人の目や鼻、口から入り込んで感染する経路です。飛沫は水分を含んで重いため、放物線を描いて正面方向に飛び、地面に落ちます。通常、飛沫が長い距離を浮遊することはありません。

接触感染は、感染者や環境表面に触れた手指で眼や鼻、口に触れた際に粘膜の細胞から感染する経路です。新型コロナウイルスは凹凸のない環境表面で数日間活性を失わないという報告はあるものの、現在は環境を介した伝播よりも飛沫感染や感染者との直接接触の方がより重要な感染経路である考えられています。医療機関ではこれらに加えて一時的に空気感染のリスクが生じる場面がありますが、日常生活を送る上では飛沫と接触の二つの感染経路を遮断する対策を講じることで感染予防が期待できます。

飛沫感染を防ぐ対策

COVID-19には、症状が出現する直前の無症状の時期に、のどにいるウイルス量が最も多くなり、感染させやすくなるという特徴があります。

従って、無症状の人どうしが互いに向き合って会話をするときに、人と人との間に少なくとも1メートル(理想的には2メートル)のスペースを設けるソーシャル(フィジカル)・ディスタンシングが感染を防ぐためには重要だと考えられています。

ただ、飛沫感染のリスクは距離だけで決まるのはなく、時間や換気などの影響も受けます。例えば、換気の悪い屋内で複数名が数十分間、マスクをせずに発声や荒い呼吸を続ければ、互いの距離が離れていても感染のリスクが生じることがあります。一方、屋外でマスクをしていない者同士がすれ違っても、ウイルスは気流で比較的早く消散するので感染の恐れは極めて低いのです 。

人と人との間に1メートル以上の距離を設けることができない状況で声を出す場合は、鼻と口を布製のマスク(不織布も可)で覆うことが推奨されています。ただし、2歳未満の子供や自分でつけはずしの判断や操作ができない人へのマスクの使用は、窒息や熱中症などのリスクがあるため避けなければなりません

マスクを着けることができない、あるいは着けることが不適切な場面では、代わりにフェイスシールドを使用することを検討するとよいでしょう 。接客業では、鼻と口を覆う透明なプラスチック製のマウスシールドも活用されています 。マスクには飛沫を出ていかないようにする効果がある ことが分かっています(注1)が、シールドには顔との間に隙間があるので、マスクと同等の効果があるのかどうかは分かっていません。ただ、出ていく飛沫の大部分はブロックすると思われます

注1 不織布マスクの方が抑止効果は高いのですが、布マスクの使用も許容されています。

フェイスシールドを使用する場合は、額から顎の下、両耳あたりまでを覆うことができる製品を使用するのが理想的です。マウスシールドもマスクと同等の範囲を覆うのが望ましいでしょう。飲み会や接待の場で、人と人との距離が近く、しかも対面に座って会話をしながら飲食をする場合、そこに感染者がいればウイルスが伝播する恐れが生じます。フェイスシールドを着けながら、あるいは座席をパーテーションで区切って開催すれば感染のリスクを下げることができるでしょうが、互いに距離感ができてしまう感じは否めません。どのように安全に大勢で飲食を楽しむことができるのかは、今後の検討と工夫が待たれます。

以上を踏まえると、人と人との間の距離を少なくとも1メートル空けることが可能な場合は、マスク やフェイスシールドを着ける必要性は薄いと考えられます。もちろん、1メートル以上の距離を設けることができればより安全性は高まります。ただし、十分な距離を保った場合でも、比較的長い時間、発声や荒い呼吸が生じる状況では、換気が必要です。換気は部屋の中に一時的に漂う飛沫の量を減らすのに有益ですが、窓を長時間開け放つことで室内が高温多湿にならないよう配慮が必要です。熱中症予防に配慮した換気の仕方についてはこちらのサイトが参考になります。

屋外ではマスクを必要とする場面はまれで、着用はむしろ熱中症のリスクを高めることが懸念されます。どうしても屋外でマスクが必要となる場合は、定期的にマスクを外して水分補給を行うといった熱中症対策を行います。また、マスクとフェイスシールドの両方を着けなければならない場面も日常生活では殆どないでしょう。マスクやフェイスシールドを着けていないときに咳やくしゃみが出そうになったら、従来の咳エチケットとして、ティッシュや肘の内側で受けるとよいでしょう。

接触感染を防ぐ対策

接触感染を防ぐには、外出中にはできるだけ顔に触れることを避け、適切なタイミングと方法で手指衛生(しゅしえいせい)を行います。また唾液が付着したと思われる食器や食品を共有することを避けます。

手指衛生には二通りの方法があります。一つは石鹸と流水による20秒以上の手洗い、もう一つはアルコール(濃度60%以上)を用いた20秒以上の手指の消毒です。

画像

厚生労働省

手指衛生は、次のタイミングで行うとよいでしょう。

  • 出勤時、退勤時
  • お店に入るとき、出るとき
  • 帰宅時
  • 調理、自身の食事や食事介助の前後
  • トイレのあと、トイレ介助のあと、オムツ交換の前後
  • 唾液や痰などの体液に触れたあと(咳やくしゃみを手で受けたあとなど)
  • 動物との接触後や動物の排泄物を取り扱ったあと
  • ゴミを取り扱ったあと

一日に1回程度、高頻度接触環境表面(high touch surfaces, HTS)を消毒することも推奨されています。HTSとは人が手で頻繁に触れる環境やモノの表面を指します。代表的なHTSには、机、椅子、カウンター、ドアノブ、電気のスイッチ、キーボード、マウス、水道のハンドル、電話などがあります。消毒には、界面活性剤を含む家庭用洗剤、アルコール(濃度60%以上)、次亜塩素酸ナトリウム溶液(濃度0.02%~0.05%)などを使用します。次亜塩素酸ナトリウム溶液は金属に繰り返し使用すると錆が生じることがあります。新型コロナウイルスに対して効果が確認された界面活性剤を含む洗剤のリストは独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)のホームページに掲載されています。

HTSはその名の通り、人が手で頻繁に触れるわけですから、常に無菌の状態に保つのは不可能です。また、HTSに触れずに生活はできませんので、やはり接触感染予防には手指衛生が最も重要、かつ有効です。

クラスターの発生を避けるために

経済活動を再開する上で、感染のリスクは避けられないと冒頭で述べましたが、クラスター(注2)の発生は可能な限り避けたいところです。

注2 共通の感染源への曝露によって5名以上の感染者が発生するイベントと定義されます。

厚生労働省のクラスター班の調査からは、COVID-19感染者の約8割の感染者は二次感染を起こさず、残りの2割が一定の条件を満たす環境において複数人に感染させるということが分かっています 。これはCOVID-19以外の感染症でもみられる、いわゆる20/80ルールと呼ばれる現象です。クラスターの発生を防ぐことは、感染者を大幅に減らすことにつながります。

国内では、1月15日から4月4日までの間に、以下の場所でクラスターが発生しています。

画像

出典:米国CDC

画像制作:Yahoo! JAPAN(米国CDCのデータを元に作成)

クラスターが発生しやすい条件として、換気が悪い空間で、多くの人が、近い距離で、大きな声を出したり、歌ったり、運動をして激しい呼吸をすることが挙げられています。

かつてクラスターが発生した場所でも、上の条件がそろわないように、次のような取り組みを行えば、感染のリスクはかなり下げられると思います。

  • 人と人の距離を1メートル以上空けるか、飛沫を飛ばさない工夫をする(同居家族を除く)
  • 唾液で汚染されたものや食品を共有しない
  • 手指衛生を行う
  • 換気を図る

効果が不確実あるいは有害である可能性がある対策

次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸水を空気中に噴霧することには呼吸器毒性や呼吸器刺激性がありますので、避ける必要があります。また、空気中に消毒薬を噴霧することでウイルスを不活化できるという科学的根拠はありません。これらの理由で世界保健機関(WHO)は空間噴霧を避けるよう勧告しており 、病院でも人がいる場所での消毒薬の噴霧は行っていません。

加湿器や空気清浄器の使用がCOVID-19を予防するという根拠もありません。加湿器の使用はときにレジオネラや緑膿菌の繁殖をまねき、高齢者など免疫不全の方に肺炎を引き起こす場合があるので注意が必要です

体調が悪いときは休みやすい社会に

新型コロナウイルス感染者の約8割は軽症で、これまでなら「この程度で会社を休んでいられない」と思うような軽い症状しか見られない場合もあります。しかし軽症の人にも感染性はあります。体調が悪いときは気兼ねなく休養することができる文化を作ることも新型コロナウイルス感染症の流行を抑える上で大事な対策だと言えます。

それでも残るリスクと向き合い寛容な社会へ

冒頭でも申し上げたように、経済活動を再開するということは、感染のリスクがゼロにならないことを受け入れた上で、「許容できる感染のリスク」と「経済活動を縛りすぎない感染対策」の程よい境界線を模索しながら生活することを意味します。そのためには専門家による科学的な評価や、政界や経済界などのステークホルダーの見解を踏まえた合意形成を試みつつ、それでも残る感染リスクと向き合って暮らすことを前提とした寛容な社会へと変化する必要があるのではないでしょうか。

※記事をお読みになって、さらに知りたいことや専門家に聞いてみたいことなどがあれば、ぜひ下のFacebookコメント欄にお寄せください。次の記事作成のヒントにさせていただきます。また、Yahoo!ニュースでは「私たちはコロナとどう暮らす」をテーマに、皆さんの声をヒントに記事を作成した特集ページを公開しています。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】