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「6月に残業してはいけない」は本当? 実は将来の公的年金が増えるメリットも

坂本綾子ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級FP技能士
(写真:アフロ)

6月の働き方で、9月からの給与の手取り額が変わります。のみならず、将来もらう「あるもの」の金額も変わってきます。会社員なら知っておきたい社会保険料の計算の仕組みと、社会保険からの給付について紹介します。

会社員の手取り収入は7~8割

給与明細を見るたびに、なんでこんなに引かれるんだろう?と思う会社員は多いようです。給与からは社会保険料と税金を引かれるので、手取りは7割から8割程度。

特に社会保険料は、税金以上に負担感が大きいものですが、いくつかの給付も受けられます。代表的なのは老後に公的年金をもらえること。他にも、病気やケガで仕事を休んで給与がもらえないときの傷病手当金や、出産時の出産育児一時金、出産手当金、育児休業給付金などがあります。

税金も社会保険料も、計算するための率が決まっていて、収入が多い人ほど高くなる仕組みです。ただし、税金と社会保険料では、計算の元となる数字の出し方が逆方向です。

給与にかかる税金の計算方法

税金は、その人の立場に応じた配慮があります。稼いだ収入の総額にいきなり税率をかけるのではなく、それぞれの人の事情に応じて収入から控除を引くことができます。養っている家族が多い人、さらに家族の中に教育費が高い大学生の子どもがいる人は扶養控除の金額が高くなります。保険に入っているなら保険料控除、老後のためにiDeCoに加入する人は掛金を控除できます。会社員の特典として、仕事をするための見なし経費である給与所得控除も引くことができます。

収入の総額から、その人に当てはまる控除をどんどん引いていって残った金額を課税所得とし、この課税所得に税率をかけて税金を計算します。つまり、収入の総額が同じでも、控除の金額によって税額は違い、控除が多い人ほど税金は安くなります。

給与にかかる社会保険料の計算方法

一方、社会保険料は、基本給のみならず、残業代などの各種手当、通勤定期代なども加えた総額に社会保険料率をかけて計算します。同じ給与でも、勤務先まで遠くて定期代が高い人や、手当が多い人は、社会保険料も高くなるわけです。社会保険料は、勤務先からもらう収入の総額が多いほど高くなります。

給与から天引きされる社会保険料は、厚生年金保険料、健康保険料、雇用保険料で、その料率はそれぞれ、9.15%、5.9%、0.3%(いずれも事業主負担を除く本人負担分。健康保険は「協会けんぽ」の料率で介護保険料込み)。合計すると、収入の約15%を社会保険料に払っているので、けっこうな金額になるのです。

社会保険料は4月5月6月の給与総額をもとに計算

そして、毎月毎月この計算をするのは大変な作業なので、1年ごとにまとめて計算します。4月、5月、6月に実際に支払われた総額(ボーナスは除く)を3で割って月収の平均額を出し、これをもとに計算して、9月から1年間の社会保険料として、給与から毎月差し引きます。

たまたま4月から6月の3か月間に残業が多くて、その結果、社会保険料が高くなると、9月以降は毎月の手取りが減ってしまうことに。6月は、3か月平均の給与額を調整する最後のチャンスの月。社会保険料を上げたくなければ、4月、5月の勤務状況を振り返って、6月は残業しなくていいよう注意を。

社会保険料が高くなると将来の公的年金が増える

収入が増えないにもかかわらず、社会保険料が増えれば、手取りは少なくなります。ただし、社会保険料と連動して増える給付もあります。老後の公的年金です。公的年金は、現役時代に収入が多い(結果として社会保険料が高い)人ほど、たくさんもらえます(上限あり)。

また、健康保険からの給付である傷病手当金や出産手当金、雇用保険からの給付である育児休業給付金や介護休業給付金は、過去半年または1年の収入を元に計算し、その際には、各種手当や通勤定期代などを含む総額を使います。つまり、老後の公的年金のみならず、これらの給付も、残業などで収入が増えれば多くなります。

残業を減らして目の前の手取りを増やすか、気にせず残業して将来の年金や給付を増やすか、なかなか究極の選択ではあります。とはいえ、知らずに9月以降なんで?と思うよりも、知って調節したり給付の増加をもくろむ方が、自分なりに納得できますよね。

ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級FP技能士

雑誌記者として22年間、金融機関等を取材して消費者向けの記事を執筆。その経験を活かしてファイナンシャルプランナー資格を取得。2010年より、金融機関に所属しない独立した立場で、執筆に加えて家計相談やセミナー講師も行う。情報の取捨選択が重要な時代に、それぞれの人が納得して適切な判断ができるよう、要点や背景を押さえた実用的な解説とアドバイスを目指している。

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