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#赤木さんを忘れない 」森友改ざん訴訟をサポートするハッシュタグは世論を作れるか

境治コピーライター/メディアコンサルタント

森友事件の新スクープを世に出した相澤冬樹とのライブ配信

3月18日、週刊文春に大スクープが掲載された。森友事件の時の文書改ざんに関わらされ自殺した赤木俊夫氏が手記を残しており、それを全文公開したのだ。そこには当時の佐川局長の指示だったことをはじめ、今まで名前が出なかった人びとも含めて改ざんを指示した財務官僚たちが具体的にどう関わったかが赤裸々に書かれていた。

このスクープは元NHK記者で現在は大阪日日新聞所属のジャーナリスト・相澤冬樹によるものだ。彼は私と中学高校の同級生で、高校時代は学校新聞を共に作っていた関係だ。

2018年に相澤がNHKを辞めたのを機に、この年の暮れから二人でネット上のライブ配信番組をやってきた。「メディア酔談」と題し、月に一度のペースでメディアについて語るものだ。「酔談」の通り、酒を飲みながらおっさん二人が好き勝手なことを放言する。酒の力で話があっちへ飛んだりするいい加減なものだが、メディアの課題を大真面目に議論してきた。最近はゲストをお招きし様々なテーマで議論していた。

川井拓也氏が運営する「ヒマナイヌスタジオ」は凝った照明と4カメによる質の高い映像で配信ができる。テレビ番組に劣らないクオリティで配信ができるのもポイントだ。

→YouTubeチャンネル「メディア酔談」

今月は30日に配信する予定だった。コロナウイルスの問題もあるし、今回はゲストは呼ばずに二人で言いたいことを言う回にするつもりで準備していたところに、17日に文春デジタルでスクープの先出し記事を目にした。

「相澤が、えらいことをやってのけた!」

すぐに連絡し、次回はスクープを受けた内容にしよう、日程も今週に繰上げようと提案した。

ヒマナイヌスタジオもうまく空きがあったので、急きょ20日夜に変更して配信した。それがこの映像だ。

「酔談」の形は崩さず、でもいつもより真剣な内容に自ずからなっていたと思う。相澤も多少アルコールを控えて真摯に語ってくれた。

何を話したかは見てもらうのが一番だが、ここでいくつかポイントを私なりに書いておきたい。

スクープと提訴のタイミング

今回驚いたのは、文春のスクープと同じ日に赤木氏の奥様が国と佐川氏を提訴したことだ。そこにはしたたかな戦略があったのではないか。相澤の話から、それがどう実現したかがわかる。そして奥様の聡明さと強い覚悟が感じられた。

政権批判は封印すべき

相澤が配信の中で言ったことで非常に重要だと受け止めたのが、赤木手記を題材に政権批判に走らない方がいい、ということ。森友事件は過去二回、2017年2月3月と2018年3月4月に大きく盛り上がったが短期的に収束し、何も究明されなかった。反政権と親政権のいがみあいだけが盛り上がり、真相究明に話が向かわなかった。赤木氏の奥様が提訴を通じてやりたいのは政権批判ではなく、真実を明らかにすることだ。赤木手記を政権批判の道具にしない方がいい、と言っているのだ。

ハッシュタグ「#赤木さんを忘れない」で世論形成を

この配信は相澤のスクープ解説を聞くのがメインだったが私も一つだけ準備していたことがある。ハッシュタグ「 #赤木さんを忘れない 」だ。赤木手記と奥様の提訴は多くの人が共感し、支援したいと思っているだろう。とは言え具体的なサポートは個人ではできない。だが私たちがやるべき重要な支援がある。赤木手記の重みを忘れず、世論形成を続けることだ。ぜひみなさんで「 #赤木さんを忘れない 」のハッシュタグで赤木手記から感じ取った思いをツイッターでつぶやいてほしい。世論が赤木さんの死を悼み、奥様の訴訟を応援していることが伝われば、メディアも、政権も、裁判官も、気にしないわけにはいかなくなる。SNSを手にした私たちは、大きな力に対抗できるのだ。相澤の記事を読んだら、配信を見たら、今後も赤木訴訟の進捗情報が出たら、みんなでこのハッシュタグでつぶやいてもらうといいと思う。

そう配信の中で提案したら、すぐ後にツイッターでトレンド入りしていた。

ツイッターの画面より
ツイッターの画面より

配信を見ていた皆さんがさっそく「世論形成」してくれていたのだ。ありがたい!

「メディア酔談」はこれまではメディア関係者向けにひっそり配信していたのだが、今回一晩にして多くの方に見てもらい、チャンネル登録者もドカンと増えた。

これはもちろん、文春のメディアパワーと今回のスクープの爆発力のおかげだ。加えてもう一つ、東京新聞が小さな記事で紹介してくれたことも大きかったようだ。私と相澤の両方を取材した原田記者のおかげだ。あらためてお礼を言いたい。

相沢記者が生出演 森友スクープ解説 今夜のユーチューブ(東京新聞 3月20日)

他のマスメディアも #赤木さんを忘れない で

ところで今回のスクープと奥様の提訴は多くのメディアが扱ったものの、新聞社やテレビ局によって温度差があったように思う。AbemaTVは18日にスクープが出た夜に「AbemaPrime」に相澤を招いて徹底的に議論していた。翌19日朝には日本テレビ「スッキリ」がコロナウイルスの話題より赤木手記の件を優先して40分に渡って扱い、相澤がスタジオで解説していた。私は聴き損ねたが、TBSラジオ「荻上チキ・session22」にも出たそうだ。

だが、それでメディアのこの話題に関する動きは止まってしまったように見える。森友問題は多くのメディアで多くの記者が追っていたはずだ。相澤のスクープを生かして”本当に起こったこと”を究明するジャーナリズム全体の動きがあっていいのではないか。相澤は一人でここまでやったのだ。みなさんの力を合わせることで、相澤のやったことが何倍にも価値が膨らむはずだ。みなさんの奮起に期待したい。今度こそ真相究明できないと、藪の中で終わるだろう。

「メディア酔談」は過去にも、元NHK会長の籾井勝人氏をゲストにした回や、映画「さよならテレビ」の監督・土方宏史氏を招いた回もあるので、他の動画もよかったら見てもらえればと思う。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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