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「あなたの番です」で繰り広げられる、作り手とファンの新しい遊び方

境治コピーライター/メディアコンサルタント
データセクション社の分析ツールInsight Intelligenceを利用

「反撃編」に入ってツイート数トップに躍り出た「あなたの番です」

6月28日に筆者はYahoo!ニュースにこんな記事を書いた。

「あなたの番です」で盛り上がる「考察」という新しいドラマの楽しみ方

日本テレビのドラマ「あなたの番です」がネットで盛り上がってることを伝えたもので、このドラマに関するツイート数がめきめき増えていることをデータをもとに書いた。「考察」というこれまであまりなかったツイートも盛り上がり始めていることにも触れたが、この時はまだ「ツイート数が増えてきた」段階だった。ツイート数で断然トップはNHK大河ドラマ「いだてん」で、「あなたの番です」は6月までだと2位に甘んじていた。

そこでその後「反撃編」がはじまりいっそう盛り上がってきた様子をデータで見てみたのが上のグラフだ。想像を大きく上回り、7月8月とすごい勢いでツイート数が増えている。衝撃の第1章最終話から、7月後半以降さらにヒートアップしているのがよくわかる。

データセクション社のSNS分析ツール「Insight Intelligence」で月ごとのツイート数(「あなたの番です」もしくは「あな番」を含むツイート)を算出して表にまとめてみた。

データはInsight Intellgenceより
データはInsight Intellgenceより

やはり6月7月に大きく水準が上がり、8月に入ってからは沸騰状態だとわかる。8月のデータは18日までなので、3分の2で早くも月別の最高値を更新している。1日の平均ツイート数も4.5万というのは異常領域に達したと言っていい。これまでドラマのツイート数を追ってきた筆者としても、見たことがないほどの量になってきている。

7月8月でツイート数の順位も完全に1位になった。今後はむしろ、順位よりもどこまで数が増えるかが気になってきた。

データはInsight Intellgenceより
データはInsight Intellgenceより

作り手が仕掛けた罠に視聴者がハマって一緒に楽しんでいる

このドラマでは「考察」という新しいドラマの楽しみ方が面白いと6月の記事で紹介した。もちろん考察ツイートもますます盛り上がっている。6月後半に爆発的に増えたのは衝撃だった6月16日の第1章最終話より、6月23日に「特別編」として放送された6月23日以降だったのが面白い。あのエピソードには考察を触発される要素があったのだろう。

データはInsight Intellgenceより
データはInsight Intellgenceより

この「考察」については、最近プロデューサーの鈴間広枝氏が積極的にインタビューに応じて作り手側の見解を述べている。視聴者の考察はある程度狙っていたのではないかと想像していたのだが、率直に驚き喜んでいるようだ。またツイッターの盛り上げも他のドラマと比べてあからさまな策を講じたわけではない。

ただ、毎回最後に驚愕する場面があるのもそうだが、基本姿勢が視聴者と意思を通じ合おうとしているようにも思える。何か話題にしたくなるネタをけっこう”ぶちこんで”くるのだ。それはまず第1章の最終話で重要な人物を殺してしまうことがそうだが、もっと”小ネタ”も満載だ。

「会いたいよタイム」もそのひとつで、主人公が妻を失った悲しみを歌い上げる挿入歌が毎回必ず一定の時間に使われるのだ。素直にジーンと来る人もいるだろうが、毎回あまりに判で押したように出てくるので何か言いたくなってしまう。

テレビの前で家族と、あるいはSNS上でファン同士でツッコミ合いたくなる。作り手側が「これ、どう?面白くないですか?」と呼びかけてきているかのようだ。そういう意味での「策略」が張り巡らされているのが、ツイッターでも盛り上がる要因になっている。一緒に遊びませんか?鈴間プロデューサーは、画面の奥からそう誘っているのだ。

ツッコミ合いの典型のひとつが、このツイートだ。

Insight Intellgenceでは、影響力の高かったツイートを探し出す機能もある。「反撃編」に入ってからの「考察ツイート」でもっとも影響力があったのが、日本テレビ青木源太アナウンサーの上のツイートだった。データによると1446万ものリーチを獲得している。

青木アナはドラマ好きで知られ、あらゆるドラマについて盛り上げるツイートをして注目を浴びるのだが、「あなたの番です」では「なんなん?」にこだわっている。ツッコミたくなるポイントをドラマから探し出してみんなで挙げるもので、「毎回同じ時間で会いたいよが流れるの、なんなん?」のようにツイートをするのだ。

昨日もさっそく同様のツイートを投稿して大勢のリプライがついていた。

どうやらその配達員が・・・?と発見を誘うツイートでこれはまた何か言いたくなる。青木アナは日本テレビの社員だが、ここではファン代表として視聴者に呼びかけ、それに反応することでファンの側も大いに楽しんでいるのだ。

作り手とファンが入り混じってネタを見つけて一緒に遊ぶ。SNSによってドラマの楽しみ方が、どんどん進化していると受け止めた。「あなたの番です」はそんなドラマとファンの新しい関係も、見ていて面白い。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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