「ポツンと一軒家」は「イッテQ」に本当に勝ったのか?~テレビの視聴データは多面体へ~

(写真:アフロ)

世帯視聴率で「イッテQ」を抜いた「ポツンと一軒家」

日曜夜のテレビ番組は激戦区だ。ここ数年間は日本テレビの”テッパン”と呼ばれる「笑点」「バンキシャ」「鉄腕DASH」「イッテQ」「行列ができる法律相談所」のラインナップが盤石だった。改編のたびに他局が新番組で攻め入り、何度も討ち死にしてきた。そこについに、8時台のテレビ朝日「ポツンと一軒家」が風穴を開けたようだ。2月24日の放送で視聴率が「イッテQ」をわずかに上回ったのだ。続いて3月10日の放送で、そして先日3月17日の放送でと立て続けに「イッテQ」を凌駕した。ついに日テレのテッパン枠の牙城が崩れたと話題になっている。

ただ、本当に「ポツンと一軒家」は「イッテQ」に勝ったのだろうか。そうとも言い切れないことを示しておきたい。勝ったのはあくまで世帯視聴率だ。「ポツンと一軒家」をつけていた世帯が「イッテQ」をつけていた世帯よりわずかながら多かった、ということだ。

世帯視聴率はこれまでのテレビCMのバイイングに使われる標準的な指標だった。だが今、ビデオリサーチは個人視聴率も算出しており、今後はそちらが取引に使われるようになる。実は個人全体の視聴率では、「イッテQ」の方が高いのだ。

だから「ポツンと一軒家」は「イッテQ」に世帯では勝ったが、個人全体では負けている、という認識が正しい。一勝一敗の引き分けといったところだろう。

視聴データで2つの番組を比較する

ビデオリサーチの視聴率は、契約した企業が業務的に検討するためのデータで本来はむやみに外部に出せないものだ。だから上に書いた以上のことを、在野のライターに過ぎない私が取り扱うことはできない。

そこで、別の調査会社の視聴データをもとに2つの番組の見られ方を掘り下げてみたい。

インテージという調査会社があり、i-SSPという調査パネルを駆使して個人単位でのメディア接触から商品の購買まで分析している。そこでこのi-SSPで2番組の見られ方を調べてデータを出してもらった。ビデオリサーチの個人視聴率とは調査母体が違うのでまったく別の数値だが、大まかな傾向は近いので参考にできると思う。

データはいずれも3月10日放送分だ。

インテージ社 i-SSPデータよりグラフ作成
インテージ社 i-SSPデータよりグラフ作成

まず「イッテQ」の性年齢別の接触率だ。例えば男性10代のうち14.9%が、女性10代のうち12.6%が見ていた。もっとも高いのは男性40代で18.1%だった。このようにどの世代も満遍なく見ているのが「イッテQ」の特徴だ。特に10代20代と40代50代は親子で一緒に見ている傾向が強いようだ。若い世代はなかなかこういうレベルの接触率にならないので、この番組がいかに若年層に人気かがわかる。

インテージ社 i-SSPデータよりグラフ作成
インテージ社 i-SSPデータよりグラフ作成

今度は「ポツンと一軒家」の接触率をグラフ化している。見ればすぐわかる通り60代がかなり高く、男性が18.4%、女性が18.0%だ。かなり開きがあって50代、40代が続く。10代では男性4.7%。女性4.9%と明らかに低い。ここから「ポツンと一軒家」は高齢層が視聴者の中心であることがわかる。

さて接触率のグラフだと特に「イッテQ」はものすごくたくさんの人が見ている印象になってしまう。だが少子高齢化で若い世代は人数が少ない。見ている人の数を把握するには接触者数のグラフを見るべきだろう。

この接触者数は、接触率に国勢調査のデータをベースにインテージが推計した各性年齢別の人口を掛け算したものだ。i-SSPのパネルの人数と実際の人口に差がある世代では重み付けをして補正をかけている。つまり接触率から割り出した推計値であることを前提に見てほしい。またデータは関東・関西・中京地区のもので、日本全国ではないことも留意されたい。

インテージ社 i-SSPデータよりグラフ作成
インテージ社 i-SSPデータよりグラフ作成

「イッテQ」の接触者数のグラフがこれだ。さっきの接触率のグラフとは随分印象が違う。男性10代の14.9%は人数にすると24万9千人と推計できるので、グラフではこんなところになる。10代はそもそもの人口が少ないのでこうなるのだ。

インテージ社 i-SSPデータよりグラフ作成
インテージ社 i-SSPデータよりグラフ作成

続いて「ポツンと一軒家」の接触者数。10代は男性が7万9千人、女性が8万2千人という推計値なのでこんなに小さな棒になってしまう。接触者数だと余計に高齢層が視聴の中心であることが顕著に示される。

また、インテージ社の接触者数全体の推計値を見ると、「イッテQ」は合計599万1千人、「ポツンと一軒家」は合計372万7千人という結果になった。接触した人の数が1.5倍以上も違う。

「ポツンと一軒家」と「イッテQ」は番組の見られ方がまったく違うのがわかってもらえただろうか。高齢者の世帯を中心に見られている「ポツンと」に対し、家族みんなで見る傾向が強い「イッテQ」。世帯視聴率では拮抗している2つの番組だが、視聴の中身はまるで違うのだ。世帯視聴率では、家族四人で見ても、老夫婦二人が見ても「一世帯」とカウントするのでこうなる。

視聴データは多面体になっている

さてここで私が言いたいのは、どちらの番組が本当に勝っているのか、ではない。テレビ番組の評価は、前は世帯視聴率だけだったこと。そして今個人視聴率がメインになりつつある上に、この記事で紹介したインテージ社のように独自に視聴データを算出するところも出てきたことだ。つまりテレビ番組のモノサシは今、いくつもあるということだ。

なぜ様々な視聴データが出てきているのか。テレビ番組の見られ方が多様化し、また世帯構成や人口分布も変わっている。そんな中でスポンサー企業はこうしたデータを多角的に読み取りながら、その企業にとって効率のいいCM展開を考えるようになってきたのだ。もともと視聴率は広告の指標だ。昔は、家族みんなで同じ番組を見るのが当たり前だったので世帯視聴率が広告指標だったし、同時に番組の人気の指標と言えた。今は番組によって見られる世代や層が違う。もはや世帯視聴率をこれまで通りの人気の指標ととらえると、本質を見誤るのだ。

では視聴者は何をモノサシに番組を見ればいいのだろう。決まっている。あなたの目だ。あなたが面白いと感じた番組が、あなたにとっていい番組だ。視聴率が高くても低くてもまったく気にする必要はない。視聴率であの番組がこの番組を抜いたかどうか、これまでのものより視聴率が高いかどうかなんて知らなくたっていい!面白い番組を、面白がって見ればいいのだ。気に入ればツイッターで「面白い!」とつぶやけば作り手や出演者にも届くし、番組への応援になる。そんな風に、のびのびテレビを楽しめばいいと思う。