ローカル局に必要なものは、愛なんだ~ドラマ「チャンネルはそのまま」

画像提供:北海道テレビ

マンガのモデルとなったテレビ局が自ら実写化

佐々木倫子作のマンガ「チャンネルはそのまま」は北海道のローカル局を舞台にした傑作で、HTB北海道テレビ(以下、HTB)をモデルにしている。そのHTBが開局50周年記念に「チャンネルはそのまま」を実写ドラマ化したという。自分をモデルに描かれたマンガを、自分で実写化するなんて不思議な展開だ。3月18日から北海道で5夜連続で放送される一方で、配信サービスNetflixで3月11日から一足お先に見ることができるという。その展開も驚きだ。原作が大好きで全巻持っている私は見たい見たいと言っていたら、HTBからBlu-rayに焼いたものが届いた。さっそくイッキ見し、原作に勝るとも劣らない面白さで笑い転げたのだが、ドラマの底に流れるぶっとい愛も胸に残った。ぜひみなさんにも見てほしいので、その魅力をお伝えしたい。

あふれ出る原作へのリスペクトと愛

私は原作があまりに好きなので、正直見るのが少し怖かった。原作の良さが全然出てない!と感じてしまったらどうしよう。だがそんなことは杞憂だった。

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この物語は北海道☆(ホシ)テレビ(HHTV)に『バカ枠』で採用された雪丸花子が主人公だ。マンガではその天然のバカっぷりが何と言っても面白かった。実写化最大のポイントは、この雪丸を誰が演じるのかだ。キャスティングされたのは芳根京子。朝ドラ「べっぴんさん」では女性の一代記を気丈に演じていた。その芳根京子がバカ採用のキャラで大丈夫か?と思ったがこれが見事にハマっていた!雪丸花子がマンガを抜け出してドラマの中で実体化したようで大感激だ。失敗を重ねて叱られてもまた失敗してしまう、昆虫のように何も考えてなさそうな雪丸花子が、実写の世界で大活躍してくれていた。

バカ採用・雪丸の世話をなぜか焼いてしまう同期の山根一は飯島寛騎が演じている。「仮面ライダーエグゼイド」で注目のイケメン俳優が、バカに振り回される「バカ係」の優等生・山根を眼鏡をかけて演じ、これもマンガそのままだ。雪丸・山根コンビの絶妙なキャスティングには、原作ファンも大納得だった。

主人公のキャスティングが象徴的だが、ドラマはマンガを巧妙に実写化している。佐々木倫子のマンガが持つ独特の空気感が再現されているのだ。例えばキャラクターたちの気持ちがスーパーで文字として表現され、それがコメディの一つになっている。マンガを読んで何年も経っているので忘れていたが、そうそう、「チャンネルはそのまま」の面白さの一つはこのスーパーだったなと思い出した。ところが後でマンガを読み返すと、むしろドラマの方がスーパーを多用していることに気づいた。マンガの面白さを引き出すために、スーパーを意図的に多く使ったのではないか。

また、マンガを実写化すると、ドラマがマンガっぽくなってしまうことが多い。時にそれは、実写らしさを壊して興ざめになってしまう。だが「チャンネルはそのまま」はそこをギリギリ保っている。第一話で、主人公の同期の女性アナウンサー花枝まきがガッツポーズをとる場面がある。天を仰ぎながら両腕を上に突き出すのだが、マンガだから成立する場面で実際にはそんなこと誰もやらない気がする。だがドラマでもそのポーズを、花枝まきがとり、不思議と違和感がない。実写らしさをギリギリ保っている。

原作に最大限のリスペクトを払いながら、マンガの世界観をできる限り実写化しようとしている。だから原作が大好きな人でもむしろ「ここまでよくやってくれた!」と嬉しくなるだろう。原作への愛があふれているドラマなのだ。

にじみ出る「水どう」愛、北海道愛

HTBと言えば、いまや伝説の番組「水曜どうでしょう」を世に送り出したテレビ局だ。番組に顔出しもしていた藤村Dこと藤村忠寿は同局の名物ディレクターとして知られる。原作マンガには、どう見ても藤村をモデルにした小倉情報部長が出てくる。この役はどうするのかなあと思っていたら、当の本人が演じていて爆笑した。

藤村忠寿をモデルにした小倉部長を、藤村忠寿が演じているのだ。こんなことってあるだろうか?

画像提供:北海道テレビ
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当たり前だが、藤村忠寿をモデルにした小倉部長を演じる藤村忠寿の演技はうまい。小倉部長にしか見えない。小倉部長は主人公や同期の若者たちが行き詰ったり悩んでいると、意味深なアドバイスをする。深い人物のようで、どうやらその場その場で思いつきで言っているだけだが。

「水曜どうでしょう」と言えばこの番組でスターになった大泉洋が重要な役所で出演している。さらに、TEAM NACSの面々がそれぞれ出演している。意外な場面で意外な役で出てくるので、集中していないと見逃すかもしれない。戸次重幸だけ出てこなかった?と思うとちゃんと出てくるのでとにかく最後まで見てほしい。

画像提供:北海道テレビ
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またヨーロッパ企画の面々が様々な部署に「配属」されており、特に技術部は彼らだらけで独特の味を出している。東京03の3人も彼らのコントを見ているかのような場面があるので、どこで登場するか楽しみに見るといい。

そんな風に「水どう」に限らずHTBにこれまで縁があった出演者たちがドラマに次々に登場している。また、北海道出身だったり、札幌をベースに活動する役者たちがドラマを埋め尽くしている。

総監督に招かれた本広克行は北海道出身ではないが、藤村たちと前々から親交が厚い。それに札幌はフィルムコミッションの評価が高く、前々から映画のロケに、札幌とはわからない形でも使われている。だから本広監督は札幌と強い繋がりがあるのだ。

北海道のテレビ局の50周年を、北海道に関わってきたみんなで、全身全霊を注いで盛り上げようとしている。北海道を愛するスタッフやキャストの気持ちが回が進むごとに伝わってきて、胸が熱くなる。毎回オープニングで、札幌の街を空から撮った映像が流れると、まるで街を愛でるように撮っていることが徐々に伝わってきた。見てくれ、おれたちの街を、私たちの北海道をと。

クライマックスで伝わる、ローカル局の悩みと、地域への愛

第4話から第5話にかけて、大泉洋が演じるキャラクターがフォーカスされる。バカ採用の雪丸たちが繰り広げる物語に笑ったりちょっと感動もしてきたのが、シリアスなトーンに変わっていく。このドラマが奥底で描こうとしていたものが露わになる。

それは、テレビとは何か、ローカル局は何のためにあるのか、という自分たちへの問いかけだ。

ローカル局が放送する番組の大半は、キー局が制作したものだ。ローカル局はその間を埋めるように、地域のニュースや情報を伝える。時には「水曜どうでしょう」のような娯楽番組も作るし、それが全国区で楽しまれることもある。だがそれはあくまで一部だ。ではローカル局は、キー局が作る番組を届けさえすればいいのか?キー局のオマケがローカル局なのか?そんなことは、ないはずだ。

実はいま、放送業界では「今後ローカル局はどう進むべきか」という議論が出てきている。なぜかあまり報道されていないが、自民党の議員団が昨年12月に出した提言の中で「ローカル局の再編」の議論を促している。前々からローカル局の今後の困難についてはうっすら言われていたが、いよいよ本格的に議論しないわけにはいかなくなっているのだ。

そんなことも頭にあるので、このドラマが問いかけるメッセージが真摯に届いた。そしてその答えがぼんやりながら見えたように思う。それは「地域の人びとが見たいものを届けねばならない」ことだ。シンプルで当たり前だが、地域で放送するテレビ局にとってそれこそが使命であり存在意義のはずだ。

藤村忠寿が演じる小倉部長がドラマの中で、報道部から情報部に異動になった山根一にこんなことを言う。

「報道部は5W1Hだが、情報部は5W1H+LOVEだ」

これは情報部だけでなく、報道部も含めたテレビ全体の話ではないだろうか。テレビにはLOVEが必要なのだ。公共の電波を使って、人びとのために放送するのだから、LOVEを忘れていてはダメなのだ。

だからローカル局は、その地域への愛を、そこに住む人びとへの愛を忘れてはならない。再編の議論がどこへ向かって進むのかわからないが、自分たちは「愛」をちゃんと胸に持っているかを確認し、そこから考えていけば答えは見出せるのだと思う。「チャンネルはそのまま」を見て大笑いしながらそんなことも考えていると、目頭が熱くなってしまった。

皆さんもぜひこのドラマを見て、ローカル局はなぜそこにあるのか、考えてもらえればと思う。地元の局は、あなたの地域への愛をちゃんと持っているか。愛が伝わってくるかどうかを。