世帯視聴率で騒ぐのはスポーツ紙だけになるかもしれない~在京キー局第3四半期決算資料より~

在京キー局の2018年度第3四半期決算資料から放送収入の増減を筆者がグラフ化

視聴率が上がった下がったとネタにするスポーツ紙

NHK大河ドラマ「いだてん」の視聴率が10%を切ったそうだ。連休明けの火曜日、あるスポーツ紙がそのことを「大河史上最速」という意地の悪い表現で見出しにしていた。これまで10%を切った大河ドラマは何と何で、その中でいちばん早くそうなったのが「いだてん」だ、と張り切って書いている。そのスポーツ紙の記事は、Yahoo!に限らずいくつかのメディアに転載され、拡散された。

スマホの時代になり、あらゆる分野の「ニュース」が読まれるようになった。テレビ関係では視聴率を題材にした記事をやたら目にする。数字は人の興味を引きやすく、PVが稼げるのだろう。あのドラマがX%で好スタートだの、そのドラマがその枠最低のY%だったのと、毎日毎日記事にしている。主にスポーツ紙だ。テレビとともに栄えてきたであろうスポーツ紙が、視聴率をネタにPVをせっせと稼いでいる姿を見て、現金なものだなあと思う。視聴率を扱うにしても、もう少し愛のある書き方ができないのだろうか。気に入って見ているドラマについて、視聴率だけで騒ぐメディアは、その浅ましさに呆れてもう読みたくないと思う。刹那的にPVを稼いでいると、自らのブランドを落とすことに気づいて欲しいものだ。

スポーツ紙はテレビ局の視聴率争いについてもしっかり追いかけている。去年の10月には日本テレビの三冠王をテレビ朝日が全日視聴率で首位に立つことで阻んだと、嬉々として書かれた記事が飛び交った。その後も、何月は日本テレビがまた三冠だったとか、視聴率争いを囃し立てる。毎週視聴率をチェックして、さあ記事にしようと色めき立っているのだろう。お疲れ様ですと言いたい。

世帯視聴率はテレビ局の収益につながるのか?

話は変わるが、在京キー局は上場しているので、四半期ごとに業績を事細かに発表しており、誰でもWEBで見ることができる。テレビ局の業績の中には「放送収入」の項目があり、「タイム収入」と「スポット収入」に分けて明示している。タイムとは番組提供枠のこと、スポットとは番組にひもづかずに番組の間に流れるCM枠のことだ。視聴率を指標に稼ぐ、テレビ局の収益のど真ん中の数字が放送収入、のはずだ。

先週、キー局の第3四半期の決算発表が出揃ったので、各局の放送収入の増減額を調べてみた。それが冒頭のグラフだ。青い棒がタイム収入、オレンジ色がスポット収入。今期のテレビ局は業績面で苦戦を強いられている。スポットが凹んでいるのだ。グラフの通りで、全ての局のオレンジの棒が下を向いている。スポット収入が前年比で大きく減少している。

一方タイム収入は多くの局が前年より増加している。日本テレビの場合はスポットの減少をタイムの増加分でカバーしてお釣りも出る状態だ。

ところがテレビ朝日だけは、タイム収入も減少していることに驚く。視聴率では日本テレビを猛追しているはずなのに。あれほど多くの記事で「テレ朝が日テレに視聴率で肉薄!」と煽られていたが、放送収入では肉薄どころか逆に引き離されているのだ。第3四半期だからちょうど日本テレビの三冠を阻止した10月の業績も入っている。これはどういうことだろう。

その理由をここで断定的に書けるほどの材料を私はまだ持っていない。だからここでは事実だけを示すに留めたい。とにかく、視聴率がテレビ局の収益にそのままプラスに働いていないことがわかる。もちろん、視聴率が収益に影響するのにタイムラグがあり、これからまた話が変わる可能性はある。ただ、テレビ朝日の「肉薄」は昨年秋に突如起こったものではないのは誰しも知っているはずだ。ここ数年の傾向として、テレビ朝日は視聴率で日テレにじわじわ迫っていた。それなのに、今年度の業績は「一人ダウン」の状態だ。一つ言えるのは、テレビ朝日の視聴率は、スポンサーのニーズと合っていないのではないか。世帯視聴率を追求するべく、人数の多い高齢層に向けた番組作りをして、広告ニーズとずれてしまった可能性がある。

(12月に書いたこの記事が参考になるだろう→「視聴率だけの記事はもう終わりにしよう~「今日から俺は」「リーガルV」に見るドラマの価値~」

だとすれば、視聴率競争とは何なのだろう?そしてドラマの視聴率を毎回スポーツ紙が記事にすることに、何の意味があるのだろうか?

日本テレビは個人視聴率を社内で使い始めた

ところで日本テレビは1月から、世帯視聴率ではなく個人視聴率を社内での共有データとして使い始めた。そのことを宣言するリーフレットを取引先に配布しており、別に秘密ではないようだがあまり大っぴらに言ってないので一般には伝わっていない。

世帯視聴率は例えば5世帯の中で2世帯がある番組を見ていると40%、などとカウントする。個人視聴率は世帯は関係なく、例えば5つの世帯に20人がいて、そのうち5人が見ていると25%とカウントする。一般的な傾向として、世帯視聴率の6割程度の数字になるそうだ。もちろん番組によって違ってくるが。

テレビ局ではよく、視聴率を黄色い紙に書いて「〇〇○、15%スタート!」などと貼り出す。その数値がこれまでの6割くらいになるのは、張り合いが薄くなりそうだが、関係者によれば1週間で慣れた、らしい。

個人視聴率は、すでに関東圏でスポットの取引に使われている。同時に、録画視聴も「タイムシフト視聴率」と称して加算されるようになった。今後は関西圏、中京圏、そして全国に広がる予定だという。テレビ局にとっての基準は世帯視聴率から個人視聴率にシフトしていくことになりそうだ。日本テレビが社内で個人視聴率を共有することにしたのは、いち早くそうしただけで、二、三年のうちに他の局もそうする可能性がある。

個人視聴率へのシフトとは別に、今スポンサー企業の中では「どんな人がどの番組を見ているか」を調べる傾向が出てきた。世帯視聴率が高いかどうかとは別に、商品に合った人びとが番組を見ているかどうかでCM枠を選ぶ企業が増えている。いくら世帯視聴率が高くても、商品を届けたい相手が見ていなければ、CMを打っても意味がないのだ。逆に世帯視聴率が低くても、意図するターゲットが見ていればCMを打つ意味がある。そんな考え方にシフトしはじめている。

長い間、テレビにとって唯一無二の指標だった世帯視聴率の存在意義が急速に変わろうとしている。世帯視聴率を気にする人は、テレビ局にも、スポンサー企業にも、いなくなるかもしれない。少なくとも、個人視聴率を取引に使う流れが定まっている中、世帯視聴率は中心的指標とは言えなくなるだろう。

二、三年のうちに中心ではなくなる指標を、スポーツ紙は「史上最速」とか「自己最低更新」とか、いつまで記事にするのだろうかと思う。今はちょうど10%を超えたり切ったりするから数字としてネタにしやすいのだろうが、個人視聴率になったらドラマはほとんど一桁になる。それをネタにまた記事にするのだろうか?

そんなことより、テレビ番組を盛り上げようという気持ちがあるのなら、数字だけ乱暴に載せるのではなく、その番組のファンが楽しくなることを頑張って取材して記事にしてもらえないかと思う。そういう姿勢がないなら、世帯視聴率とともに存在意義を失うだけではないだろうか。