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「おっさんずラブ」のツイート数爆発は「愛」としか言いようがない

境治コピーライター/メディアコンサルタント
グラフはデータセクション社 TVinsight おっさんずラブ最終回データ

昨日(6月4日)こんな記事を書いた。

「おっさんずラブ」ツイート数「逃げ恥」を抜いて大記録!番組への愛がネットを駆け巡る

テレビ朝日土曜23:15枠のドラマ「おっさんずラブ」が6月2日に最終回を迎え、放送中のツイート数で16万の大記録を打ち立てたことを書いた記事だ。

(なお、ここで言うツイート数とはデータセクション社の分析ツール「TV insight」で計測した数値のこと。テレビ番組のツイッター分析にはいろいろな手法があるが、TV insightでは放送中のツイートに特化している)

記事の最後に、どうしてこれほどのツイート数になったのか教えてほしいと書いたら、ものすごい数の回答をいただいた。そのひとつひとつに番組への思いがほとばしっている。熱い回答を書いてくださったみなさんにはここで感謝を述べたい。ありがとうございました!

質問への回答は主にこの私のツイートへのコメント欄で読むことができる。

非常に参考になるので、そのいくつかを紹介したい。とにかく数が多いのでほんの一部を、いくつか分類して見てもらおう。

BLファンが集まったわけではない

まず、記事の中で私は、盛り上がったのはまずBL(ボーイズラブ)ファンが考えられると書いた。だがBLファンは一部だったようだ。

またBLファンの方も、単純にBLだから見るというわけではないとコメントしてくれた。

ちなみにこの「OL」という言葉を「おっさんずラブ」の略称として、たくさんの方が使っていたのが面白いと思った。

人を好きになることを純粋に描いた

ではなぜ多くの人が惹きつけられたのか?

その答えとして、例えばこんなコメントがあった。

ああ、そうか!と思った。このドラマでは「おっさんが青年を好きになること」をまったく特別なこととして扱っていない。前回の記事で私はうかつにも「禁断の世界」という言葉を使った。それを何人かの方に「こいつわかってねえ」と叱られたのだが、「おっさんずラブ」はまったく禁断の世界として描いていないのだ。

性別も、そして年齢も超えて「人を好きになること」を描いている。そこが新鮮で、強烈に人びとを惹きつけたのだろう。

主人公だけでなく、ひとりひとりの登場人物がピュアに「人を好きになる」素晴らしさを自覚していた。

ツイートはほとばしる感情表明、共感、感謝

さてどうしてあれほどのツイート数になったのか、あなたはなぜツイートしたのかへの回答を読んでみよう。

見ている人同士で気持ちを分かち合いたい、という声とともに、「感謝」という言葉が多く出てきた。いいドラマだと、感激したことを作り手に伝えたいのだろう。

そしてこういうコメントもあった。

土曜深夜で視聴率は高くない。またある会見でテレビ朝日上層部が視聴率が高くないことを発言したことを気にしたようだ。会見の記事を読むと「視聴率は高くないがSNSで盛り上がっていてうれしい」という意図だったようなのだが、ファンは気にしてしまうのだ。打ち切りにしないで!と。今後、こうした発言には気を遣ったほうがいいかもしれない。

またこういうコメントもあった。

このドラマでは、SNSを積極的に活用していた。公式アカウントが視聴者のツイートを積極的に誘っていたし、Instagramでは「武蔵の部屋」のアカウント名で、主人公に恋する部長・黒澤武蔵の劇中設定の写真が投稿されていた。世界観に誘う仕組みとして面白かった。

ツイッターをはじめた人も多い

コメントでこのドラマ特有ではないかと思ったのが、こういったものだ。

ふだん自分ではつぶやかない人が、このドラマについては投稿したくなる。つまりそれだけ心を強く動かされる、ということだろう。さらに・・・

こちらの方はやってなかったのにツイッターとInstagramをはじめたという。それくらい「人を動かす」パワーを持つドラマなのだ。

グッズ購入も応援の一種

最後にこのコメントも紹介しておきたい。

昨日の記事で、テレアサショップのことにもふれたが、このドラマはグッズを求める人が多いようだ。それはもちろん「欲しい」からでもあるが、番組を応援する気持ちの表明としてでもあるのだ。ツイートが多いのも、その気持ちの表れでもある。

記録達成は「愛」としか言えない

こうして見ていくと、なぜこれほどのツイート数になったかの答えは、「愛」としか言えないことがわかった。

それはまず、このドラマが愛に満ちていること。人を好きになることの素晴らしさを純粋に描き抜き、その作り手の気持ちがはっきり伝わって共感してもらえた。だからこそ、ドラマへの愛が多くの人びとの心に生まれて、感謝と声援を届けるために懸命にツイートした。その結果が16万という前代未聞のツイート数をもたらした。

そこにはいろんな要素も働いたようだ。深夜枠という、マイナーな放送枠だったからこそ、応援したい気持ちになった。テレ朝上層部の発言が結果的に応援を活性化させたのもある。SNS公式アカウントが、一方通行ではないコミュニケーションをしたことも大きいようだ。

もうひとつ大きいと思うのが、プロデューサー貴島彩理氏が積極的にインタビューに答えてメディアに出て行ったことだ。作り手はなかなか、顔を出したりしゃべったりしたがらない。ましてや放送中は撮影もまだあったりする中でメディアに対応する時間がそもそも捻出しにくい。貴島氏はそこを無理してでも取材に対応したのだと思う。

これは、重要なことだ。これまではむしろ作り手は顔を出すべきではない、番組を自ら語るのは恥ずかしい。そんな意識が強かったと思う。

ドラマをみんなに見て欲しいなら、ドラマのよさをわかって欲しいなら、むしろ積極的に前へ出るべきだと私は最近感じていた。その方が見てもらえるから、というより、ドラマを視聴者と共有したいなら、そうすべきではないかと思うのだ。そう思うからこそ貴島氏は出ていったのではないか、と勝手に想像している。

ドラマの世界への「愛」を共有するとは、そういうことではないだろうか。だからこそ「おっさんずラブ」はこれほど多くの人を強く惹きつけたのだと確信している。

このドラマのファンの皆さんから、作り手が学ぶことは大きいだろう。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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