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「おっさんずラブ」ツイート数「逃げ恥」を抜いて大記録!番組への愛がネットを駆け巡る

境治コピーライター/メディアコンサルタント
グラフ:データセクション社「TV insight」のデータから筆者作成

最終回の盛り上がりに期待が集まった「おっさんずラブ」

テレ朝土曜23:15からのドラマ「おっさんずラブ」。禁断の世界をピュアに描いた純愛ドラマとして当初から一部で話題が沸騰していた。その温度の高さはSNSに表れ、回を追うごとにツイート数も増えていた。SNSで盛り上がったドラマとしても記憶される「逃げるは恥だが役に立つ」通称「逃げ恥」と拮抗するレベルで、ラス前ではついに「逃げ恥」を少しだが上回った。

グラフは「TV insight」データを元に筆者作成
グラフは「TV insight」データを元に筆者作成

「逃げ恥」のツイート数が60,594だったのに対し、「おっさんずラブ」は63,530とわずかながら上回っており、こうなると最終回では「逃げ恥」を一気に突き放す可能性が出てきた。ひょっとすると10万超えもありうる。視聴率が最終回で20%に達した「逃げ恥」はSNSでも大人気だったが、そのツイート数を深夜枠で3〜4%のドラマが抜き去るとしたら大きな出来事ではないか。長らくTwitterとテレビの関係を追ってきた筆者としても期待した。

この手の計測で利用しているデータセクション社の「TV insight」で結果を見てみたら腰を抜かしそうになった。

画像はデータセクション社「TV insight」より
画像はデータセクション社「TV insight」より

10万を超えれば拍手喝采だと思っていたのが、なんと16万を超えてしまった。大記録だ!というより、異常事態が起こったと言っていい。普通、こんな伸び方はしない。

「逃げ恥」と比較した表を見てもらいたい。

データはデータセクション社「TV insight」より
データはデータセクション社「TV insight」より

「逃げ恥」の場合、話題がぐんぐん盛り上がったことと正比例して視聴率も着実に上がり、歩みを合わせてツイート数も伸びていった。最終回でついに大台の20%に達したのと呼応してツイート数も6万から7万に増えている。非常に“正しい“ヒット作の記録だと言える。

「おっさんずラブ」も深夜枠としてはあまりに高い数値だが、着実に伸びてきてラス前で6万を超えた。そこまではいいとして、なぜ最終回で倍に留まらない増え方をしたのか。何か、普通じゃないことが起こったとしか思えない。

なぜ異常に増えたのかを考える

この不思議なツイート数の多さを見て、思い起こすことがある。昨年5月に放送されたNHK「おげんさんといっしょ」の時のことだ。星野源を冠した特番であるこの時も、ツイート数が12万にもなって驚いた。ドラマではないが、単発番組でこんな数値が出るとはと不思議で仕方なかった。これについては当時、このYahoo!個人で書いている。

「前代未聞!星野源「おげんさんといっしょ」が爆発的ツイート数を記録」

この記事の中で、あまりに不思議だったので番組をツイートした人にその理由を問いかけてみた。思わぬ数の反応があり、それをもとに続きの記事を書いた。

「星野源ファンから教えてもらった「おげんさんといっしょ」ツイート爆発の理由」

つまり、星野源のラジオ番組「オールナイトニッポン」ではツイッターを通じて星野源とファン、そしてファン同士の交流が盛んで「星野源クラスター」が育っていた。自ら「星野源クラスターです」と名乗るほど、そのことに誇りさえ感じている様子だった。ラジオで告知したこともあり、また事前のtwitterでのプロモーションでも盛り上がって、星野源クラスターが放送時に集結し12万超えのツイート数となった。そんな構図が、星野源クラスターの方々から教わってわかったのだ。

ということは、「おっさんずラブ」でも特定のクラスターが集結し、とくに最終回では“祭り“の状態となるほどの大盛り上がりとなったのかもしれない。

「おっさんずラブ」で盛り上がりそうなクラスターというと、当然ながら「ボーイズラブ(BL)」を愛する人びとが考えられる。実際ハッシュタグ「#おっさんずラブ」で検索すると、プロフィールに「BLファン」を表明するアカウントが見受けられる。

では単純に「BLドラマにBLファンが殺到した」と見ればいいのか。どうやらもっと深い部分で強く惹きつけられた人びとが集まったことが感じられる。こんなツイートを紹介したい。

ドラマを見ていないとわからない分析だろうが、なんとなく見ていたこのシーンにこんな意味が見出せるとはと感心する。これはつまり、作り手の思いが重層的にこめられており、そこにまで共感する人びとがたくさんいたと言うことだと思う。

このドラマについてテレビ朝日のプロデューサー・貴島彩理氏がインタビューに答えてこう語っている。

“王道の恋愛ドラマ”であることをより強く意識しました。この作品は企画だけ聞くと、「攻めてる」とか「際どいことをやっている」と思われがち。でも私たちが作りたかったのは、単純に観終わったあとに恋がしたくなるような“純愛ドラマ”だったので。それをまっすぐ伝えるために、音楽も『世界の中心で、愛をさけぶ』(TBS系)などを手がけた憧れの河野伸さんにお願いしたり、スキマスイッチさんに主題歌をお願いしたりしました。

出典:リアルサウンド「『おっさんずラブ』28歳若手Pが語る、大反響の裏側 「テーマは“働く今どきの男女の恋愛観”」」

ここに答えがあると私は見る。そもそもBLを愛する人びとは、そのピュアな純愛の世界に惹きつけられると聞く。「おっさんずラブ」はBLである前に「王道の恋愛ドラマ」。男女ではなくBLだからこそ「王道」ドラマが成立する。そこを純粋に追究しようとする貴島氏の意志に、脚本家も演出家も役者もプロとして応えたのではないだろうか。貴島氏の意志にものすごい数の視聴者が反応して16万ツイートを超えたとしたら、美しい現象だと私は思う。

数ではなく濃度、という番組価値の可能性

最終回は視聴率5.7%に達したことが先ほど伝わってきた。これをSNS効果とするのは早計で、SNSで盛り上がったからこそ最終回に向けてネット上で多くの記事が配信され「世の中が盛り上がっている」ことが伝わったのだと私は解釈している。

それに深夜枠の視聴率が1%上がったことより、もっと重要な価値がこのドラマにはありそうだ。

これは最終回の翌日朝の「テレアサショップ」のツイートだ。どうやら、ドラマの関連グッズの申し込みが殺到し、一時期サーバーの障害が発生したことを謝罪しているようだ。

ぜひ上のツイートをクリックして、そこに並ぶコメントを読んでほしい。ひとりとして障害を断罪する人はいない。誰もが対応への労をねぎらい、感謝さえしている。もちろん障害への対処とアナウンスが誠実だったからだろうが、ここでは番組側と視聴者側が”ひとつ”になっていることも感じられる。ドラマとファンが上下関係ではなく並列の関係にいるからだと思う。コンテンツを作り手と受け手が共有できている。

視聴率のモノサシでは5.7%と高い数値ではないかもしれないが、もし「濃度」を測ることができたら他にない濃さが成立しており、視聴率に応じた広告収入以上に、例えばグッズ収入のような放送を離れた部分でのビジネスが高い価値になる可能性がある。それは、テレビ局側の戦略にまんまとのっけられたのではなく、番組への「愛」を共有できるからだ。「愛」のビジネス化は、作り手の「愛」が正しく伝われば成立するのだ。このドラマでは貴島氏や脚本家などのインタビューが多く出たが、そういった「愛」を伝える努力は大切だ。

それにしても、ここで私は「BL好き」の人びとが集結したと書いたが、実際のところどうなのだろう。上に示した表で驚くのが、一人あたりの平均ツイート数が5.7となっており、そこも尋常ではない数値だ。あなたがなぜこのドラマについて何回もツイートしたのか、twitterなどで教えてもらえるとありがたい。ぜひよろしくお願いします。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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