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紅白は安室奈美恵が成功させた?〜視聴ログから見た2017紅白分析〜

境治コピーライター/メディアコンサルタント
グラフ提供:株式会社インテージ

徐々に盛り上がり安室奈美恵でピークに達した「紅白」の接触率

1月17日の記事で、インテージ社がテレビメーカーから集めている「視聴ログ」について書いた。

→「テレビの分析は「視聴ログ」で進化する?~2017年大晦日の紅白とガキ使を解析する~」

この記事では「ガキ使」と「紅白」を比較したが、今度は「紅白歌合戦」に絞ったデータをインテージ社からもらったので、これについて解説したい。

まず上の画像は、インテージ社で集計した「2017紅白歌合戦」の接触率(ビデオリサーチの視聴率と区別してこう呼ぶ)の推移だ。開始から最後にむけて徐々に高まり、安室奈美恵の出演場面でピークに達したことがよくわかる。グラフから、うまく”クライマックス”が演出できたことが感じられる。昨年の紅白については視聴率が30%を切ったとネガティブな評もあったようだが、少なくともNHKがギリギリまで頑張ったという安室奈美恵出演交渉は、大きな意義があったと言えるだろう。彼女が出たことで、全体の構成に盛り上がりを与えることになった。

安室奈美恵は明らかに同世代の女性を盛り上げた

インテージ社の視聴ログでは、彼らがもともと持つシングルソースパネル「i-SSP」に取り込んで、性年齢別など細かな分析も可能だ。「紅白」の接触率をデモグラフィック別に分けたのがこのグラフだ。

グラフ提供:株式会社インテージ
グラフ提供:株式会社インテージ

上からF3(女性50才以上)、M3(男性50才以上)、F2(25〜49才女性)、M2(25〜49才男性)、F1(20〜34才女性)、M1(20〜34才男性)となっている。高年齢ほど高いのは視聴率と同じだ。

そして面白いのは、どの年代でもクライマックスで男性より女性のほうがずっと高まっていることだ。男性のほうは”クライマックス”になっていないとさえ言える。安室奈美恵がいかに女性視聴者を引きつけたかがよくわかる。

ただ人によっては、女性のほうがふだんからテレビをよく見ているからでは?と突っ込むかもしれない。確かにとくにF2、F3では専業主婦の割合が多く、基本的にテレビをよく見ている。だが紅白ではどうなのか?

そこで、F2/M2のデータを前の年と比べて見たのが下のグラフだ。

データ提供:インテージ社
データ提供:インテージ社

この対比にはみなさん驚くだろう。2016年のグラフでは、男性と女性の接触率には大きな差がなく、クライマックス感も大してない。やはり昨年末の「紅白」は、格別に女性が盛り上がったのだ。その牽引役こそが安室奈美恵だったと言えそうだ。あるいは、後半の盛り上げ策の一環が安室奈美恵出演だとしたら、その作戦が見事に結実したのだ。

そうすると、逆に2016年の「紅白」は「シン・ゴジラ」など余興は多かったしだから視聴率は高かったのだろうが、番組全体としては実は盛り上がりに欠けていたといえそうだ。

本来の「歌合戦」のコンセプトに則って徐々に終盤にむけて盛りあげていくことに成功し、何より安室奈美恵の場面で最高潮に達することができたとしたら、それもひとつの成功と言えるだろう。

来年へむけて課題があるとしたら、男性も女性に劣らず高揚することかもしれない。

前の記事でも書いたが、視聴率を上げ下げするのは刹那的に番組を見る層ではないだろうか。腰を据えて落ち着いて番組を視聴してもらう意味では、一昨年より昨年のほうを成功ととらえるべきだと私は思う。

多様なデータが出てきて、番組の価値判断も広がりが見えてくればいい、と私は考えている。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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