ネット広告は、効果が高まるほど、イラだちも高まる~動画広告の現状と行く末~

実際のサイトを筆者が転写して作成した図

ネット広告を牽引する動画広告

マスメディアの広告市場は縮小している。一方インターネット広告はぐんぐん伸び、電通が毎年発表するメディア別広告費で2016年は1兆3千億円に達した。テレビ広告費(衛星を除く地上波)は1兆8千億円で、このまま進むと2020年前後にネット広告費がテレビ広告費を追い抜く可能性が出てきた。

電通発表・日本の広告費よりグラフ作成
電通発表・日本の広告費よりグラフ作成

成長市場のネット広告の中でも昨年から今年にかけて急成長し牽引役となっているのが動画広告だ。とくに最近は、記事のページにバナーの代わりに動画広告が置かれる表示が増えている。だがその表示方法には時に読者にとって不快な例も見受けられる。

例えばあなたもこんな経験がないだろうか。

Facebookで紹介された面白そうな記事を読もうとあるページを開いた。記事を読みはじめようとした途端、ページトップの写真に動画広告枠が覆いかぶさってきた。記事とはまったく関係ないクルマのCMだったのでイラッとしながらも閉じようと枠の中をいじった。ところが操作を誤ってクルマのカタログページにジャンプした。慌てて元の記事に戻ろうとしたがなぜか戻れない。不愉快になって記事を読むのを諦めた。

少なくとも私は、毎日のようにこんな目に遭っている。しかも動画広告が表示されたクルマは、少し前にクルマを購入した際、候補として何度かWEBサイトを訪れた車種だったりする。結局別のクルマを選んだのだが、WEBサイトにアクセスしたデータから“リターゲティング“によって候補だった車種の広告が出てくるのだ。これほど不愉快なことはない。WEBサイトを見たのは興味があったからだが、もう別のクルマを買ってしまったいま、しつこく強引に広告が表示されると逆にその車種が嫌いになりそうだ。広告として逆効果だ。

リターゲティングにしても、動画広告にしても、効果があるのだと思う。クリックする率が高まるから使われているのだ。それはそうだろう。一度アクセスした人は、そのクルマに興味があるのだからリターゲティングで広告を表示すれば、やっぱりもう一度見てみよう、とクリックする可能性は通常より高い。それが動画であれば、興味がある車種が視界の中で動いているのだから、ますます効果は高いに決まっている。それは間違いないと思う。

だがあくまで、「まだ興味がある」人に限っての話だ。そういう人がクリックする確率が0.X%高い、という話だろう。

そのデータには「逆に不愉快になった人」が何%いたかは出てこない。そして「興味がある人」にとって効果が高いほど、「興味がない人」にとっては不愉快になる確率が高まる。目立てば目立つほど、興味がない人には不愉快でしかないのだ。記事を読もうとする気持ちを逆なでしてしまうのだから。

スマートフォンに馴染まないネット広告の発想

サイバーエージェント社のオンラインビデオ総研がデジタルインファクト社とともに発表した市場動向調査では、動画広告市場の成長をこのグラフのように予想している。

Copyright CyberAgent, Inc. All Rights Reserved
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昨年11月の予測値だが、毎年300億ずつ増える計算だ。2020年には今年の倍になるという。ある市場が成長するのはよいことだが、いまのやり方のまま倍になられても困る。不愉快になる頻度が倍になられてはたまったものではない。動画広告の考え方をいまのうちに見直すべきだ。

広告について、メディアと受け手の間には、暗黙のうちにできたルールのようなものがある。テレビ番組が盛り上がってる中CMタイムになったら、気持ちをそがれたにしてもテレビ局に猛抗議する人はいないだろう。そういうものだと受けとめているのだ。

ネットでも、PCで見ている記事のページの中にバナーがいくつか表示されても、そういうものだと受けとめていた。暗黙の了解が成立していたのだ。コンテンツの脇に広告が表示されることをルールとして理解していた。

ところがスマートフォンは画面が狭い。それなのに、PCと同じ約束事で広告を表示している。そこが大きな摩擦を受け手である私達との間にもたらしているのだ。狭い画面の中で強引に広告を表示することにみんな納得などしていない。記事を読むのを妨げる動画広告などもってのほかだ。

だがPC時代の広告取引では、とにかく広告が表示されれば対価が払われた。そのため、ネットメディアやネット広告事業者は、強引でもなんでも表示さえすればいいし、動画広告ならさらに単価が高まるので導入するのだ。

その強引さが不快感をもたらすことにスポンサー企業がまだ気づいてないから市場の牽引役となれているが、揺り戻しは時間の問題だろう。

各メディアや広告事業者は、いい加減気づくべきだ。PC時代の広告の発想は、スマートフォンでは通用しないことに。

解決策としてのネイティブ広告もなかなか進まない

PC時代の考え方の広告表示がスマートフォンでも支配的な中、新時代に見合った広告の考え方としてネイティブ広告がある。これは記事の最初や途中にバナーや動画広告を強引に表示するのではなく、記事を読み終わったあとや記事と記事の間など、読者の体験を妨げずに無理なく広告を表示する形式だ。また多くの場合、表示されるのは入り口としての広告枠だけで、言いたいことはリンク先で見せる構造をとる。リンク先では読みものなどのコンテンツを通して企業のメッセージを伝えるやり方だ。

JAAA作成「ネイティブ広告ハンドブック2017」P9より
JAAA作成「ネイティブ広告ハンドブック2017」P9より

ネイティブ広告の重要なポイントとして、なんとなくリンクを押していくといつの間にか広告を“読まされている“ことになりかねないので、「これは広告もしくはPRである」ことを何らか明示するべきだとされている。これについては業界団体であるJIAA(日本インタラクティブ広告協会)がガイドラインやハンドブックを発表し、指針として参加企業を啓蒙している。ただ、まだまだ多様な事例がある中で何がどこまでルールなのかは、これからさらに整備が必要となりそうだ。

ネイティブ広告の考え方が理解されれば、動画広告も記事の邪魔をせずに自然な入り口を経て見せる手法が出てくるだろう。伸びる市場だからこそ、読者を不快にしない見せ方は研究されるべきだと思う。

だがこのネイティブ広告は議論はされていても、実際の導入はさほど進んでいないようだ。メディアの側も広告を出す企業の側も、これまでのPCでの手法「とにかく見せればいい」からなかなか離れられないのだ。メディアは表示回数で広告料金をもらえるし、企業の担当者も表示回数を示せば社内で成果を認めてもらえる。数字を示すわかりやすさから抜け出せずにいるようだ。

有効な動画広告としての“テレビモデル“

一方で、動画広告としてテレビ型の有効性も認識されはじめた。TVerなど、テレビ局が自らドラマやバラエティを放送後に「見逃し配信」するサービスが普及しはじめている。そこで配信される個々の番組には、テレビ放送されるのと同じ感覚でCMがついているのだ。

YouTubeで動画を見ようとしてCMがついているとイラッとして飛ばしたくなるのに対し、不思議とこの見逃し配信サービスのCMはそのまま見てもらえるそうだ。TVerを見た人の90%以上がCMも見てくれるとのデータが出ている。これはつまり、ネット上で”テレビ"が再現できているので、テレビ視聴時の感覚で見てもらえるということだろう。先述のテレビでの広告枠の約束事のモードにネット上でもなってもらえるのだ。

TVerでのCM視聴データ(JAAA動画広告フォーラムより)
TVerでのCM視聴データ(JAAA動画広告フォーラムより)

動画広告の見せ方として、この“テレビモデル”はひとつの方向性となるかもしれない。番組を見てもらう中でCMを見せる、というやり方だ。見ている人を「テレビを見ている感覚」に導ければ有効なのではないだろうか。

受け手の意志を伝えればよりよい動画広告へ導ける

このように動画広告は、成長著しい一方でまだまだその形式は模索が続きそうだ。いま増えている、記事を読む気持ちを妨げる手法はぜひ見直してもらいたいと思う。そのためには、不愉快な形式についてひとりの受け手として物申すことも必要かもしれない。

実際つい先日も、ある新製品の動画広告がTwitterの炎上で公開をやめた。企業は人びとの意見には真摯に向き合うのだ。だからと言っていちいち炎上させる必要はないが、きちんとした意見を企業に伝えるのはいいことではないか。そうした人びとの声が、広告手法を修正するかもしれない。

私は今後、不愉快な動画広告には企業の問合せ窓口に意見を書いて送ろうと思う。本当にもう、ただ記事を読みたいという素朴な気持ちを逆なでされるのはゴメンだ。