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ニチアサ改編!“大きなお友だち”の悲鳴を呼んだ、テレビの情報メディア化

境治コピーライター/メディアコンサルタント
ツイートデータ提供:データセクション社

テレ朝・日曜朝の改編にファンの悲鳴が飛び交う

テレビ朝日は10月から日曜日朝に「サンデーLIVE(仮)」という大型ニュース番組をスタートすると発表した。東山紀之をメインキャスターに据え、午前5時50分から8時30分まで、2時間40分に渡る生番組だという。

テレ朝の日曜朝といえば特撮ものとアニメが並ぶ子ども向け番組が定番化していた枠だ。もっと言えば、子どもたちだけでなく「大きなお友だち」と呼ばれる大人のオタクたちが長年ファンとして支えている独特の枠でもある。

この再編については今週初めにリリースされたが、その途端、twitterではファンたちの阿鼻叫喚が飛び交い、そのことがまた話題になった。

そこでソーシャルメディアの分析で知られるデータセクション社に、この改編についてのツイートの収集をお願いした。この改編が伝えられた7月3日の朝から24時間で「ニチアサ 変更」などいくつかの関連キーワードが含まれるツイートを抜き出してもらった。

結果は24時間の全ツイート数8,766という数値。データセクション社のツイート収集は10%抽出なので、そのまま10倍すると丸一日で8万7千ものツイートが飛び交ったことになる。

さらに同社ではツイートの内容やプロフィールから性別年齢を推測している。そうしたデモグラフィックが判別できたのが5,808ツイートあった。さらにその中で30代以上は1,803、40代以上は808、50代以上も409あった。「大きなお友だち」に明確な定義はないが、30才以上とするとニチアサ改編についてのツイートのうち31%がそれに当たると言える。

具体的な時間の変更を見ると、現状は7時からアニメ、7時30分から戦隊シリーズ、8時から仮面ライダー、8時半からはプリキュアだ。これが10月からは8時30分のプリキュアは変わらず、9時から仮面ライダー、9時30分から戦隊シリーズになる。仮面ライダーは現状から1時間、戦隊シリーズは2時間遅い時間になるというわけだ。

これに対するツイートは、“悲鳴“と書いたがよくよく見ると様々で、中にはかえっていいという反応もある。

ただやはり中にはこういう意見もある。

フジテレビで9時から「ドラゴンボール」9時30分から「ワンピース」を放送しているので重複してしまうのだ。

また日曜日の午前中のスケジュールに影響を及ぼすことを心配する声もあった。

そしてこんな声も・・・

平成の新たな伝統と言っていい枠だっただけに感慨深い人も多いだろう。

テレビ朝日・編成部に聞いた改編の意図

それにしても長らく幅広い世代に親しまれてきた日曜朝を大きく改編するのはどういった意図なのだろう。長く続いた番組の時間を移動するのは社内だけでなく多数の関係者の理解が必要だ。スポンサーの納得もあるし、特撮ものだと製作関係者も多いので複雑な交渉が必要だったと推察できる。

改編の狙いについてテレビ朝日総合編成局編成部長、赤津一彦氏にメールで質問したところ返事をもらえた。届いた文章をそのまま掲載する。

国内外で起こる様々なニュースや災害情報に対応する、ライフラインとしての機能が今テレビ局には求められていると思います。そのため、プライム帯同様、全曜日で生のニュース情報番組を編成しようと考え、日曜日の朝に、東山紀之さんの「サンデーLIVE(仮)」を編成し、タイムテーブル改革に乗り出したいということで作業を進めてまいりました。

その前提の中で、「宇宙戦隊キュウレンジャー」「仮面ライダーシリーズ」「題名のない音楽会」など長い期間放送している番組がありましたが、幸いにも各番組関係者のご理解を頂くことができましたので、10月から系列を挙げて、新しい「サンデーLIVE(仮)」を編成することといたしました。

「プライム帯同様」とあるが、土日はそれぞれ夜9時からニュース番組をこの春からスタートしている。平日の「報道ステーション」と合わせて夜はすべてニュース番組が編成されたのだ。それに続いて朝の枠もニュースで平日から土日まで編成したい、という考え方のようだ。

さらに、ニチアサの熱いファンにはどう説明するかも聞いてみたらこんな答えだった。

番組が無くなるというわけではありませんので、移行する枠を告知するなど、視聴者の皆様にご理解を頂けるように対応して10月改編を迎えたいと思います。番組スタッフはこれからも変わらぬ熱い思いで番組制作を続けて参りますので、皆様にも、これからも変わらぬご支援を頂ければと思います。

なんとか理解してもらいたい、という願いが感じられる文章だ。きっとこれから丁寧に告知して理解を求めてもらうのだろう。決して既存の番組を軽視する意図もないのだと感じた。

テレビの情報番組化と娯楽番組とのバランスが今後の課題に

ここからは私の考察だが、このニチアサの改編にはテレビ局がいま直面する課題が如実に表れていると思う。

テレビは考えてみると不思議なメディアで、新聞や雑誌のようなニュース・情報を届ける側面と、劇場や映画館のような娯楽を提供する側面と2つの要素が混じっている。60年間の歴史とは、「情報」「娯楽」という2つの要素が発展してきた歴史でもある。

情報と娯楽。この2つのバランスは、ほんの十年ほど前までは中心が「娯楽」にあり、その間を「情報」が埋める形だったと思う。ところがここ数年は「情報」のほうが中心になってきている。ゴールデンタイムのバラエティ番組も、コントを見せるものより食や健康、生活にまつわる情報がメインになってきた。明確な娯楽番組はドラマくらいではないだろうか。この傾向は加速している気がする。

ネットの普及が影響していると筆者は見ている。ネットが普及し、スマホでそれがさらに使いやすくなり、洪水のように情報が押し寄せている中で、だからこそもっと情報が求められる。より精度が高い情報、表からは見えない裏の情報に貪欲になっている。その欲求についていこうとテレビ番組はどんどん情報番組化しているのだと思う。

いま何が起こっているか知りたい、最新の情報を脳みそに詰め込みたい、しかもちゃんとした情報でなければならない。そんな欲求が新たなニュース番組を生み出した。

一方で娯楽番組も重要だ。とくにアニメや特撮のような二次使用価値が高いものはますます重要性が増している。それがテレビで放送されるから認知もされ二次使用での価値も高まる。ライダーや戦隊のような伝統価値さえついているコンテンツは、決して日曜朝から他の時間帯に追いやれないのだ。

テレビ局として情報シフトが必要になってきた。しかしコンテンツ価値の高い娯楽番組はおろそかにできない。その苦渋が、テレ朝のニチアサ改編にはにじんでいると思う。

「情報」と「娯楽」。この二つの要素をそれぞれのテレビ局がどうバランスをとって扱っていくのか。そんな視点で各局の編成を見ていくと、面白いと思う。某局の沈下も、情報シフトに対処できない結果だと見ることもできるかもしれない。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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