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ネットでテレビを見ることが、普通のことになってきた

境治コピーライター/メディアコンサルタント
huluリニューアル後の画面イメージ

5月にUIを大きくリニューアルするhulu

4月20日、SVODサービス「hulu」を運営するHJホールディングス社の会議室に大勢のプレスが集まった。huluがUIを5月17日に大きくリニューアルする、その説明会が行われたのだ。

SVODつまり月々定額で映画やドラマなどのコンテンツを楽しめるサービスは、2015年にアメリカからNetflixが上陸してから一気にホットな市場になった。huluもアメリカのTV局の出資でできたサービスで外資として2011年に日本にやってきたのだが、2014年春に日本テレビが買収して業界を驚かせた。この分野は日本ではNTTドコモとエイベックスが運営するdTVが会員数ではトップで、huluやU-NEXTが続き、Amazonプライムビデオ、Netflixなど外資勢が参入して群雄割拠になった。ただ去年までの印象は「笛吹けど踊らず」で、話題になったのは業界内だけ。肝心のユーザーがついていっていなかったように思えた。

さてhuluは日本テレビが買収したものの、システムは引き続き元々のアメリカ開発のものを使っていた。それを今回、ほぼ完全に日本で開発したものにリニューアルするという。ユーザー調査も徹底的に行って日本で求められるサービスに生まれ変わるのだ。

一人のユーザーとしてリニューアルは楽しみだが、それよりこの分野を見つめてきた者として、このリニューアルは動画サービスが”次のステップ”へ加速する象徴だと受け止めた。

説明会ではサービスの歩みもグラフで紹介してくれた。まず会員数はちょうど中央に日本テレビ買収を置きつつ、きれいな右肩上がりを続けてきている。

4月20日huluリニューアル説明会・配布資料より
4月20日huluリニューアル説明会・配布資料より

2011年の日本上陸から2016年12月のほぼ5年間で150万人に達している。これはネットサービスとしては有料とは言え決していいペースとは言えないだろう。だが着実に伸びているのも間違いない。日本テレビ買収後、多少伸び率が上がってもいる。このリニューアルで退会数を減らして2020年までに倍以上にしたいところだと思う。

もう一つ、デバイス別のグラフがあって面白い。

4月20日huluリニューアル説明会・配布資料より
4月20日huluリニューアル説明会・配布資料より

当初はPCでの視聴が多かったのが、途中からモバイルでの視聴が高くなっている。直近ではモバイルでの視聴がトップでリビング(ゲーム機やSTB経由と、内臓されたテレビでの視聴)が続いている。PCはそれに続く存在だ。これはつまり、スマートフォンの普及が会員数の伸びを牽引していると受け取れる。スマホによって、VODサービスは一般化したのだ。

最近、若者のメディア接触傾向でよく言われるのが、就寝前のスマホ利用だ。寝る準備をして床についてもスマホで特に動画を見る傾向が強まっているそうだ。その前の時間よりかえって長尺の動画が見られるという。これまでは帰宅後にリビングでテレビを通して映像を見ていたのが、シフトしているのかもしれない。こうしたリラックスして動画を見るのに、スマホでのhuluは向いているのだろう。

ニールセンの調査から見えるネット動画のマジョリティ化

今度は、4月12日のニールセン社のリリースから図表を紹介しよう。これは、「有料動画サービス」の利用率がこの一年でどう変化したかの調査結果だ。

4月12日ニールセン社リリースより
4月12日ニールセン社リリースより

差がわずかずつで微妙ではあるが、動画と人々の関係の変化を如実に表していると私は受け止めた。

左のDVDがまず一番減っている。これはレンタルも購入も含めての数字だ。映画やドラマをパッケージメディアで見ることが、この一年で急速に減少したのだ。一年で6%は大きな変化と言っていいと思う。

一方、ケーブルテレビと有料衛星放送つまりWOWOWとスカパーがそれぞれ、1%と2%減っている。これに対し、有料インターネット動画、つまりhuluなどSVODが中心だろう、これが2%だが伸びている。1%だ2%だの変化に過ぎないが、まさにVODサービスが他の有料サービスを凌駕しはじめていることが数字に出ていると言える。これまでVODサービスが何かに影響を及ぼしていることは見えてこなかった。それが明らかに具体的な影響をもたらしはじめた調査結果だと思うのだ。

もう一つ、ニールセン社の同じリリースからグラフを紹介したい。

4月12日ニールセン社リリースより
4月12日ニールセン社リリースより

上の棒グラフは、要するに「新しもの好き」な層、真ん中は「興味はあるがすぐに試さない層」。それぞれがインターネットの有料動画サービスをどれくらい利用したかを示している。要するに「すぐには試さない層」が特にこの1年間で伸びたのだ。マーケティングで新しもの好きをパイオニア層とかアーリーアダプター層などと呼び、それに追随する人々をマジョリティ層と呼び後者は数も多い。少数のアーリーアダプターがトライしたことを、追随するマジョリティ層も使うようになると本格的な普及期に入ると言われる。VODサービスが普及期に入ったことを示す調査結果だ。

「スマホでドラマ」は当たり前。既存サービスに影響も

一方で最近、ドラマをTVerなど見逃し配信サービスで視聴する人は増えている。有料であれ無料であれ、スマホで映画やドラマを見ることが、もはや当たり前のことになってきたのだ。テレビ番組はリビングのテレビ受像器で放送時間に沿って見る、とは限らなくなった。まさしく”いつでもどこでも”見たいときに見る、見たいときに見たドラマの内容をツイッターで共有したり、リアルな場で知人と会話したりして楽しんでいる。

それが”進んだ人たち”から”普通の人びと”にはっきり普及している。おそらくhuluなどのサービスは会員数を加速的に伸ばすだろうが、既存サービスは明確にダメージを被りはじめるはずだ。

「分散型」という言葉がメディアの世界で言われるようになってきたが、映像視聴でも分散型を意識せざるを得ず、意図的に分散させトータルで視聴をカウントするようになる。難しいが否が応でもそれをどうカウントし、それぞれの視聴をどうマネタイズするかに向き合うことになるのだ。変化は急速だ。その変化を楽しんだ者が次の場を得られるのだと思う。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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