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舛添都知事についてテレビはどれだけ伝えたか(そしてメディアのイナゴ化について)

境治コピーライター/メディアコンサルタント
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

この一カ月で舛添都知事についてテレビが伝えたのは93時間

舛添都知事についての報道が連日続いている。4月27日発売の週刊文春が、別荘に毎週公用車を使って移動していたことをスクープして以来だが報道がやむことはない。ではこの一カ月間でテレビはどれだけこの問題を報じたのか。

テレビの情報をテキストデータ化するエム・データ社に依頼し、集計してもらったところ、4月27日から昨日5月29日までのおよそ一カ月で93時間37分30秒だった。局別に表にしたものがこちらだ。

4/27-5/30舛添都知事についてテレビ局が報じた時間(関東圏)
4/27-5/30舛添都知事についてテレビ局が報じた時間(関東圏)

さらにエムデータ社のTV Rankというツールで、舛添都知事について報じた番組を時系列順に円で示してみた。一目瞭然だが、文春のスクープ後すぐにゴールデンウィークにはいったため一気に盛り上がってはいない。

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連休明けすぐの5月9日夜、TBSの『NEWS23』に舛添都知事が出演し、海外出張や公用車の使用について答えたのだが、ほとんどを”事務方”のせいにするその言い分は多くの人の怒りをかった。そのためこのTBS出演以降、報道がかなり多くなっている。さらに都知事就任前に家族旅行に政党のお金を使った疑惑も浮上し、話題がエスカレート。それについて毎週金曜日の定例会見で突っ込まれ、そのたびに「精査中」など同じ言葉を繰り返す様子が報じられた。

完全にメディア対応の失敗で自らことを大きくしているのだ。皆さんご存知の通り、先週は弁護士二人に調査を依頼していると発表したが、名前は伏せるなどこれも世間の印象を悪化させた。これから都議会がはじまる中で、どのような弁明をし、弁護士によってどのような調査結果が出てくるのかまた注目を集めそうだ。

ここまで時間を割く必要があるのかは疑問

さて舛添都知事の疑惑は確かに、東京都知事という職務の重みから言っても注目されるのは当然だろう。また釈明が曖昧で先延ばしにしようとする姿勢が見え見え。突っ込みどころ満載なのも人びとの気持ちを刺激してしまう。各マスコミがとりあげるのは至極当然だ。

だが先ほどの集計結果をもう一度見てみたい。合計で93時間もテレビは伝えている。私は5月16日にこんな記事をこのYahoo!ニュースで書いた。

発生から一カ月間で、テレビは合計492時間32分44秒、熊本地震を伝えた

熊本地震について一カ月間で492時間伝えた、という内容だ。あの地震の被害の大きさ、影響の広がりから言って492時間は当然の時間数であり、メディアの公共的な役割にふさわしい報道量だと言えるだろう。

しかし、そうすると舛添都知事の問題はほぼ同じ一カ月間で熊本地震の5分の1の時間を使って伝えたのだとわかる。そうわかると、どうだろう。そこまで時間を使う問題だったろうか。

とくに舛添知事の問題は、どうやら法的には問題がないらしい。あくまで道義的社会通念上の問題だ。だから許されるとは言いたくないが、そもそも政治資金をしばる法律に大きな問題があるのだ。あるいは、他の政治家に同じような問題はないのだろうか。

毎日毎日舛添都知事について報じ、昨日はこんな言い訳しかしなかった、今度はこの資料のお金が疑問だ、と言い募るのはどうなのだろうか。調査や結果が出てからまとまった報道をしたほうが視聴者にもわかりやすいと私は思うのだが。

視聴者の反応を知る手がかりとして、twitterの件数を見てみよう。ソーシャルメディア分析で定評のあるデータセクション社にこれまたお願いし、「舛添」を含むツイート件数を出してもらった。珍しい名字なのでほぼ舛添都知事に関するものだと考えてよさそうだ。

4/27-5/30「舛添」を含む一日ごとのツイート数(データセクション社提供)
4/27-5/30「舛添」を含む一日ごとのツイート数(データセクション社提供)

ツイート数は5月13日をピークに上がってはいない。20日の会見でまた山ができているが、全体としては盛り下がっているのだ。27日にも会見があったがもう山ができていない。人びとはもうこの問題に”飽きて”いると言えるのではないか。

メディアの”イナゴ化”が起こっているのではないか

誰もが感じている通り、今年に入ってから週刊文春のスクープにはめざましいものがある。私自身も時々買って読むことが増えた。だが最近の傾向として、文春のスクープにマスメディアもネットメディアも揃って追随してしまっているように思える。ワイドショーで延々、「文春によると」とまるで文春の解説者になったような伝え方をしていたりする。天下のマスメディアが主体性を自ら放棄してしまったように見える。

そして、一カ月ほどの間にある話題を集中してとりあげ、その期間はもう毎日のように事細かな事実まであげつらい、ピークが過ぎるとさーっと引いてしまう。次の話題にまたさーっとたかって食いつぶす。そんなことを繰り返している。

例えば、先ほどのツールでこの一カ月間の別の話題を検索してみよう。4/27〜5/30の同じ期間、「保育園」で検索した結果がこれだ。

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あれだけ盛り上がって各局次々にとりあげた話題が、いまやこんなものだ。そして保育園問題が問題として解決したわけではない。いまだって保育園の数も保育士も不足しているのは変わりない。

ある期間にマスメディアがわーっと同じ話題を寄ってたかって取りあげ、ピークが終わるとあっという間に引いてしまう。そして次の話題にわーっと走っていく。べつにいまあらためて言うまでもなく、メディアとはそういうものだったり、それは何十年も前から嘆かれていたとは思う。だから新しい話でもない。

だがこうしたメディアのイナゴのような動きは、いま新しい局面を迎えているように思える。それは、やはりネットがもたらした潮流ではないか。決してネットが悪いと言いたいのではなく、いろんな意味でネットにマスメディアが強く影響を受けて変貌しつつある気がするのだ。イナゴ化が加速し、不必要にひとつの話題を食いつぶしているのではないか。

この論を補強するデータはいまはないが、最近のメディアの動きを明らかにできないか、また考えてみたい。そして同時に、”伝える”ことに関わる人びとは、この”イナゴ化”について自身も含めて考えてみてもらえればと思う。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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