「リクナビ問題」から1年が経とうとするが、就活生の怒りを買う人事向けサービスが物議を醸している。

それは、「就活生の裏アカウントを特定する」というサービスだ。

SNSアカウントを人事に見られる事など想定していない学生にとって、これは寝耳に水のニュースだろう。

同サービスでは88%の割合で裏アカウントを特定できると豪語しており、ネット上では「12%も外すのか?」とも話題になっている。

(ただしこれは、12%の割合で間違う事があるというわけではなく、「裏アカウントが見つからなかった採用候補者が12%」であり、その12%の中にはそもそもアカウントが存在しないケースもあるという意味のようだ。むしろ、発見された88%がすべて正しいアカウントであるとは言及されていない。)

提供企業のTwitterアカウント
提供企業のTwitterアカウント

このようなサービスの登場を、就活生はどう受け止めるべきか。そして就活生としてのSNSとの付き合い方について今回は書きたいと思う。

なお裏アカウントとは何か、と語り始めると長くなってしまうので、ここでは単純に「企業に見られる事を想定していないSNSアカウント全般」とする。1つしかSNSアカウントを持っていない場合でも、企業に見られることを想定していないのであれば裏アカウントだという認識だ。

【どんな企業がやっているのか】

今回、裏アカウント特定サービスをリリースしたのは元々「婚前調査」などの素行調査を行っていた企業だ。

https://aqa-konzenchosa.com/company/

同サービスは、同社における法人向け調査サービスの新規事業という位置づけになるようだ。なお「企業調査センター」と「婚前調査アクア」は同じオフィスに同居しており経営陣も同一となっている。

法人こそ分けられているが、同じ拠点、同じ役員構成で事業展開されている
法人こそ分けられているが、同じ拠点、同じ役員構成で事業展開されている

採用支援を行う企業がこのようなサービスをリリースするとは考えにくかったため、企業のバックグラウンドを知って個人的には非常に腹落ちした。

【普通の就活生が気にする必要はない】

実際のところ、このようなサービスを利用することは企業にとって非常にリスクが高い。

就活生側が自ら公開していないSNSアカウントを敢えて特定するためにわざわざ外部サービスを利用するというのは非常に心証が悪く、それが新卒採用関連になると「リクナビ問題」のほとぼりが冷めない今の段階であれば尚のことだ。

「採用前に就活生のSNSアカウントをチェックする人事がいる」というのは間違いではない。しかしその作業を身辺調査会社に外注し、サービスとして利用するとなると非常にハードルが高い。

一昔前には、採用時に信用調査を行う企業も多かったが、現在では厚生労働省が「採用選考時の身元調査は避けるように」と指針を打ち出しており、指針に違反した場合の罰則も定められている。

もちろんそのような身辺調査が一切なくなったわけではない。しかし現在の感覚として、真っ当な倫理観を持つ人事なら「やってはいけないこと」という認識を持っているだろう。

(なお、候補者の承諾を得た上で行われる「リファレンスチェック」などはこの限りではない。)

信用調査を行わない、あるいは取りやめたような企業が裏アカウント特定サービスを単品利用するような事も少ないはずだ。

自分の内定先が、このような特定サービスを利用しているという可能性は限りなく低いと思って良いだろう。

【普通の就活生が過敏になる必要はない】

このようなサービスがリリースされたことで、企業に対して疑心暗鬼になっている学生も多いようだ。

もちろん、世の中には新卒採用を行う企業が数多く存在し、ナビサイトに掲載されている企業だけでも数万社ある。そのすべてが使わないとまでは言い切れない。しかし普通に生活している学生が普通に就活をしている限りにおいて、裏アカウント特定サービスについて過敏になる必要はないと言って良い。

このサービスのニュースを見てTwitterを辞めようと考えた学生もいたようだが、このサービスが原因となって自分に実害(内定取り消しになったり、選考で不利になるなど)が及ぶかもしれないという考えは杞憂だ。交通事故に遭う確率の方がよっぽど高いだろう。

そもそも、人事が問題視する「問題行動・問題発言をしているSNSアカウント」と、学生が危惧している「見られたくないSNSアカウント」の間にはかなりのイメージギャップがあると言っていい。

反社会的な活動をしている場合は別として、趣味に関する匿名のアカウントを持っているなどそのようなケースであれば、仮に特定されたとして問題にはならないだろう。(問題にならなくとも、単純に恥ずかしいと思う方はいるかもしれないが)

【特定サービスなど使わず、人事自身で見つける方が一般的】

アカウント特定サービスが一般に普及することはないとして、企業の人事や経営者がSNSで学生を探す、あるいは意図せずして発見してしまう事はよくあることだ。

私自身、採用活動をしている時に採用候補の学生のSNSアカウントを見ることはあった。

ただしそれは、いわゆる裏アカウントではなく普通に公開されているアカウントの話だ。(とはいえ、人によっては見られる事を想定していない「本名非公開アカウント」であるケースもあり、裏アカウントとの線引が難しい事もあるだろう。)

どういったケースで学生のSNSアカウントを見るかというと、まず本名でオープンにSNS利用している学生であれば検索してアカウントが見つかる事もある。特にIT関連業界ではSNSアカウントは「名刺代わり」となる事も多く、「面接の前後に候補者の名前で検索し、SNSアカウントを発見する」というのはごくごく普通の行動だ。

では本名を公開していなければ見つからないのかというと、そうとは言い切れない。

「よくあるパターン」の1つとして挙げると、担当者と候補学生の「共通の知人」が存在し、その知人とのやり取りから発見されることがある。本名を公開していなくても話の流れで誰かわかる事があるということだ。

Twitterなら共通のフォロワーが「いいね」を押した時にその投稿が表示されることもあり、人事側も意図せずして「このアカウントはあの学生ではないか?」と発見する事がある。

(なお、それにより学生に悪い印象を持つことはあまりなく、むしろプラスの印象を持つことの方が多かったと付け加えておきたい。SNSアカウントを見て悪い印象を持たれる学生は、そもそも面接時点でも印象が悪いので安心していただきたい。)

最近であればインターンが当たり前になり、インターンで知り合った人事と学生がSNS上でつながっている事も多い。自分自身は企業人事とつながっていなくとも、人事とつながっている他の就活生経由でつながってしまう可能性には留意しておく方が良いだろう。

実際のところ実害はないケースがほとんどだが、「人事に見られたくない発言」はリアルの友人と一切つながっていないアカウントで書き込む方が無難だろう。もちろん鍵付きのアカウントにしておくという選択肢もある。

(鍵付きアカウントであっても「フォロワーに企業関係者がいるリスクもある」と主張する「自称専門家」もいるが、素性を隠してそこまでやるような人事はまずいない。)

【採用可否に影響なくとも節度ある発言を】

SNS上の発言が選考の不合格につながるような事はめったに無いが、だからといってSNSに書き込む発言には様々な配慮をするべきだ。

誰ともつながっていない完全匿名のアカウントであれば別だが、友人とつながっているアカウントでの発言は、選考に影響がなかったとしても友人との関係性に影響を与える。

コミュニケーションツールの1つである以上、端末の向こう側にいるのはBotではなく人間だという意識を持つべきだろう。

見た人に不快な思いをさせるような配慮の足りない発言は控えるようにしたい。

就活以前に人として気をつけるべき事がたくさんあり、逆に言うなら人として気をつけるべき事を守ることができていれば、アカウントを人事に見られても何の支障もないのだ。本質に立ち返れば、難しい話ではない。

逆にSNSをうまく活用することで、就活を有利に進めている学生も多い。「SNSに足を引っ張られるリスク」を気にするよりも、うまく利用する方法を考え、活用していく方が建設的だろう。