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なぜ無料?大学近隣に「就活カフェ」急増の理由とは。新規参入でレッドオーシャン化の兆候も

酒井一樹就活SWOT代表
(写真:アフロ)

就活中、意外とバカにできないのがカフェ代。出費が多くなると悩む学生も多い。

そうした悩みに応えるかのように、「大学生なら無料で使える」という企業協賛付きの就活カフェが最近急増している。

それらのカフェではドリンク・Wi-Fi&電源などが無料になっており、スポンサー企業との交流会などが開催される。利用にあたり学生証の提示などが必要になるが、ドリンク代もかからないため学生には好評だ。

中にはポップコーン無料・ソフトクリーム無料などドリンク以外のサービスも無料としているカフェもある。

類似した取り組みは過去にも事例があったが、近年有名になったのが「知るカフェ」(https://shirucafe.com/)だ。

「企業協賛を募る」「大学近隣にカフェ」「学生は無料」というコンセプトで日本国内に留まらず、海外の有名大学の近隣にもカフェを出店してきた。

「知るカフェ」は現在は国内19大学、海外12大学で展開されており、学生同士で交流する場として、あるいは自習や作業をする場として活用されている。

そうした成功例に続けと、最近になって他の就活サイト運営会社も参入している。

【就活カフェに参入した企業】

OB訪問マッチングサービスを運営する「HELLO, VISITS」(https://vis-its.com/)は9大学10キャンパスに出店しており、この手のカフェとしては「知るカフェ」に次ぐ店舗数となっている。

この他、新卒紹介サービスを展開するレバレジーズによる「キャリアチケットカフェ」(https://cafe.careerticket.jp/)も東大、早稲田の付近に出店しており、上場企業であるハウテレビジョンも東大、京大、阪大などに「外資就活カフェ」をオープンすると発表された。

また、新宿や東京駅付近などで就活カフェを運営する企業もある。

こうしたカフェをなぜ学生が無料で使えるのかというと、企業からの協賛料や新卒紹介の斡旋フィーで運営コストを賄っているためだ。

カフェとして収益を上げることは考えず、学生の集客拠点として見ている企業が多い。

特に多くの就活サービスがこぞって出店しているのが「東大」の本郷キャンパス近隣。次いで「早稲田」「慶應」の2大学近隣への出店も多い。

学生の売り手市場とされる中、これらの上位大学の学生を採用したいという企業のニーズは強く、ある企業では1名紹介(内定承諾)するごとに200万円以上の成功報酬が動く事もある。

中途採用市場で言えば、成功報酬200万円といえば年収700万〜800万円程度の人材の成功報酬に相当する。それと同等の希少価値を新卒学生に感じている企業もあるという事だ。

就活カフェが急増しているのも、そうしたニーズに応えるためだと言える。

ある就活カフェの運営企業の社員は「家賃などはかかるが、広告費だと思えば安い」と語る。極端な話、カフェを利用してもらえなくとも本業の新卒向けビジネスを認知してもらえれば成功という考え方だ。

【競争激化に生き残れるか】

一方、これらの就活カフェは箱物であるが故に家賃、そしてカフェ店員の人件費も必要となるので維持コストはバカにならない。多くの就活カフェは学生アルバイトに運営させていることが多いが、学生だからといって時給が低いわけではない。

それでいて通常のカフェのように飲食費用は収入として見込んでいないため、企業からの協賛費用や新卒紹介での斡旋フィーが取れるかどうかが継続できるかどうかの鍵となる。

今までは参入する企業も少なかったため棲み分けができていたが、今後競争が激化すれば企業の協賛も学生の集客も分散する可能性がある。

学生にとっては複数の選択肢が生まれる事で利便性は高まるが、利用学生の分散によりレッドオーシャン化する可能性も高い。

すでに見切りをつけ、撤退した企業も出てきている。

新卒スカウトサービスを運営するiroots(エンジャパン)でも「iroots LOUNGE」のブランドで「東大前・本郷店」「慶應店」など6店舗を出店していたが、こちらは2019年5月末で閉店となっている。

実は外資就活カフェの東大店はiroots LOUNGEの入居していた物件で運営されるようだ。

【就活カフェ経由で内定する学生も】

最近は、「就活カフェ経由で内定が出た」「インターン先が決まった」という学生の話もある。

学生にとってはカフェ代も無料で内定も出るということで良いことずくめであるように思えるが、一方で「興味のあまりない企業のイベントを案内されるのは面倒」と感じる学生もいる。結果としてそのカフェからは足が遠のいてしまったという事もあるようだ。

勧誘に対する方針は運営主体によって様々だが、最近になって参入している企業は人材紹介が主体である事が多く、顧客の採用などに結び付けなければ運営コストを維持することができない。

協賛費用で賄うとしても、効果が出てこなければ協賛企業の維持はできない。

就活カフェの中には、キャリアカウンセラーが常駐しているというカフェ、就活支援セミナーを開催しているというカフェもある。これも純粋にキャリアカウンセリングをするカウンセラーばかりでなく、半ば「勧誘担当」のようになっている事もある。

こうした問題は、以前紹介した「企業運営の就活コミュニティ」でも同様の問題が起きている。

参考:優秀層学生の囲い込み合戦も激化。外資系特化・学生参加無料で選考対策…「選抜型就活コミュニティ」急増中

むしろ企業紹介を受けたいと思っているならそれで問題ないが、紹介される企業もそのカフェの取引先次第で変わってくる。「学生無料」は有り難い取り組みだが、振り回されないように気をつけていただきたい。 

就活SWOT代表

慶應義塾大学在学中、世界初の就活SNSの代表に就任。国内最大の就活SNSへと成長させた後に大学を卒業し、エグゼクティブサーチを行う人材ベンチャーに入社。役員・事業責任者などの幹部人材の採用支援に携わる。2009年にエイリストを設立し「自分の頭で考え、行動する人材を増やす事」を命題として就職情報サイト「就活SWOT」を開設。

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