中国・新疆ウイグル自治区とサプライチェーン問題
・中国・新疆ウイグル自治区問題
中国の新疆ウイグル自治区が問題となっています。ウイグル人への抑圧や強制労働が明らかだからです。中国は基本的に宗教を禁じていますが、ウイグル人、ならびに少数派といわれるムスリム教徒たちを望まない形で改宗したり、制圧したりしていると疑いを持たれています。
中国政府や関係者は、誤解だと世界に訴えていますが、そもそも、もっとも抑圧の激しい地域に訪問することはできません。コロナ禍も重なり合い、現在の新疆ウイグル自治区がどうなっているのかわからない状況です。
ただし、それ以前からも動きはありました。2018年には欧米メディアが新疆ウイグル自治区の強制労働問題を取り上げました。米国は、同地域からの政府調達を取りやめるように決定したほどです。
とはいえ、欧州にしても日本の国内左派にしても、異国の人権問題にはさほど関心を抱けないのが本音かもしれません。
調達側として問題となるのは、中国の同地域で新疆綿(しんきょうめん)が重要な物資となることです。ウイグル人が強制労働させられていると疑われているのは、この新疆綿関連ですが、中国の新疆綿を使わなければ全世界のサプライチェーンがまわらないのです。
代替も困難とされています。親事業者が中国でのウイグル人強制労働の疑われている新疆綿の使用を禁止しようとしても、なかなか実現していません。先日には、国際的な調査機関が新疆ウイグル自治区の調査断念を発表しました。これは、実際に調査が困難であるのにくわえて、中国からの新疆綿を調達不可能にしてしまうと、相当な影響があったからだと推測されています。
中国国内では報道が規制されていることもあり、あまり世論が人権抑圧について盛り上げることもありません。むしろ、世界中で中国の顔色をうかがいつつ、ウイグル人の強制労働調査にすら消極的な状況になっているほどです。
・かつての動き
オバマ大統領は、紛争鉱物を俎上に上げ、コンゴ民主共和国からの特定鉱物の調達を止めるよう指示を出しました。正確には、米国市場に上場する企業にたいして、サプライチェーンの隅々において、調達の形を通じてコンゴ民主共和国へ資金を渡していないか報告させる仕組みにしました。
これをドット・フランク法と呼び、煩雑な手続きが上場企業に課されました。コンゴ民主共和国への資金がテロにつながるのではないかという懸念のためです。
人権観点でいえば、古くはナイキでした。1997年に下請工場が、強制労働、低賃金、強制労働などを労働者に課していたために、ナイキの不買運動につながった歴史があります。
そこから彼らは、きわめて先進的なサプライチェーン改革に取り組んできました。調達行為は、取引先を選定し監査するという意味でコンプライアンスにほかならない、という卓見を導いていきました。
さらに人権抑圧として悪名が高かったのはアパレル産業でした。アパレル産業では、近年、バングラディシュの縫製ビルが崩落し1000人を超える死者を出しました。そこから人権意識の向上につながり、サプライチェーン全体の不当労働をなくすように努めてきました。
アップルも、iPhoneアッセンブリーを委託しているフォクスコンの工場で多数の自殺者が出たのが問題になりました。アップルはサプライチェーンの労務管理を徹底し、「サプライヤ・レスポンシビリティ」レポートを毎年発行するにいたっています。
なお、「レスポンシビリティ」と似たような言葉に「アカウンタビリティ」があります。前者は、当然ながら責任を果たすべきこと、というニュアンスがあり、サプライチェーンにおけるサプライヤ管理の前提が変容したことを意味しています。
・衛星を使った管理
サプライチェーンの透明化は、衛星テクノロジーの活用などからも表出してきました。たとえば、現在、世界では16,000隻の産業漁船で強制労働が行われているとされています。そこで、衛星を使って、それらをあぶり出そうという試みです。
衛星情報があれば、移動情報から航海状況を収集し労働時間などを明確にできるからです。
衛星情報から労働上の虐待や、人身売買、奴隷労働を明らかにし、サプライチェーン上での排除を狙うものです。強制労働は約2000万人に上るとされ、その多くは、農業・林業・漁業となっています。
ちなみに、衛星情報を使ったアフリカのGDPを計測するというユニークな研究も行われています。つまり、アフリカの経済活動を理解するために、各国の集計を元にするのではなく、街の灯りなどの伸びを計測したほうが、正確なGDPを推測できるためです。
同じように、夜間照明を計測することで、貧困を測定したり、あるいは、工業地帯での証明を計測すれば、不当な深夜労働を測定できたりするわけです。
たとえば、調達部門が取引先に、特定の企業を採用していないかアンケートを取ったとします。しかし、考えてみるに取引先が「私たちは、たしかに悪しき企業の材料を採用しています」と答えないかもしれません。しかし、衛星情報を使えば、それらが明らかになります。
ドキュメンタリー映画『チャイナ・ブーム』があります。
この映画では、中国企業の実態を暴こうとするもので、調達関係者であれば一度はご覧になることをオススメします。
さらにコロナ禍ではアジア全体で奴隷労働が拡大しているといわれています。経済格差が広がり、どうしても、最悪な条件で労働せざるをえない人びとが増えているというのです。
アジアの農村に在する人びとは人身売買のような犯罪に巻き込まれるリスクが高いといわれます。性犯罪に巻き込まれる数が増加しているからです。
・新疆ウイグル自治区の今後
話を中国・新疆ウイグル自治区に戻します。これまでの歴史が繰り返されるとすれば、新疆ウイグル自治区からの調達も近いうちに、より強い圧力がかかるようになるはずです。
外資のマネーが流入しないことは同自治区に致命的なインパクトを与えるはずです。問題は、中国がどれほど改善に取り組むかが不明な点です。中国も各国と協調せざるをえないはずですが、香港の例もあり、中国はどう動くでしょうか。
少数民族の抑圧は世界的に避難され、調達先としての認定を難しくします。さらに昨今のCSRとSDGsの潮流があります。CSRの実践は、SDGsの目標を達成することにつながります。SDGsは日本では環境問題や、あるいは、クリーンエネルギーにばかり注目されがちですが、人権問題や貧困の撲滅、最適な教育など、さまざまな領域にまたがります。
米国政府は実際に、中国にある新疆綿の最大のメーカーからの輸入を禁止するとしました。これはアパレルメーカーに大きな影響を与えます。
ナイキのように、調達がコンプライアンスにほかならない、とする企業もあります。また、諸外国のスウェットショップ(搾取工場)を認定して、そこからは調達しないように強い監査を重ねる企業も出てきました。
そうすると、理屈では中国もウイグル自治区の人権抑圧の撤廃に取り組まねばならない季節となるはずです。しかも中国は国際貿易の枠組み参加にも強い意欲を見せています。しかし、そのセオリー通りにウイグル自治区も動くのか。
さきほど、強い監査を重ねる、と書きましたが、調査にも限界がありウイグル自治区との間接的にであっても関連しているか「わからない」と正直に発表する企業もあります。
また中国がどう動くかは別としても、米国がさらに強固な輸入禁止措置を取る可能性もあるでしょう。なぜならば、米国はすでに中国から綿織物を1兆円ほど輸入しており、それだけ多額を人権抑圧企業に費やしているというのは、バイデンの民主党としては許せない状況のはずだからです。
調達担当者は注視する必要があります。