独立ファイナンシャルプランナーが、健康×ライフプランを見つけるまで

はじまりは、学生時代に取得したファイナンシャルプランナー(FP)資格でした(写真:アフロ)

初出:「会社を辞めたぼくたちは幸せになったのだろうか」の一部を大幅に加筆して掲載

このところ、第二次、第三次の起業ブームが起きています。個人がサラリーパーソンから独立し、士業やコンサルタント、また個人事業主として食っていくとき、どのような困難が待ち受けているのか。私は一人の独立した人間として、他の先人たちに興味を持ちました。彼らはどのように独立して、食えるにいたったのか。それはきっと起業予備軍にも役立つに違いありません。さきほど、「第三次の起業ブーム」と入力しようとしたら、「大惨事」と変換されました。まさに大惨事にならない起業の秘訣とは。ファイナンシャルプランナー加藤梨里さんにお話を聞きました。

――就活からはじまった「起業」への一歩について、ぜひお聞かせください。

はじまりは、学生時代に取得したファイナンシャルプランナー(FP)資格でした。就職活動のために履歴書に何らかの資格を書きたいという短絡的な動機で始めたんですが、勉強してみると意外におもしろかったのです。「広くさまざまな金融商品の知識をもって、その中からお客様に合ったものを客観的視点でご提案したい。そして、いつしかこれで食べていけるようになりたい。」ぼんやりとそんな理想を描いたのが、起業に踏み出す第一歩でした。

しかし、その頃は現実として起業することは全く考えていませんでした。平凡な就職活動をして、保険会社に就職しました。企業の職域を回って生命保険の営業をする、いわゆる「保険のお姉ちゃん」。これが私の社会人のスタートでした。

FPの仕事は、おもにお金にまつわる相談、講演、執筆、そして保険や株、投資信託など金融商品の販売です。銀行・証券会社・保険会社などに勤めている場合は、商品の販売がメインになることが多いです。資格の発行団体である日本FP協会の調査によると、こうした「企業系FP」と呼ばれる人は資格保有者の8割以上を占めています。

逆に、金融機関に属さない、人によってはさらに商品を売らないスタンスで相談や講演などをメイン業務にしているFPは「独立系FP」と呼ばれますが、これは1割に満たないです。雑誌や新聞などのメディアに頻繁に登場するFPは独立系の人が多いのですが、ごく限られた人なのです。そして、彼らの多くは金融機関でのキャリアが長い「元金融マン」でした。そんな事情もあり、当初の私は「企業系FP」としてキャリアを積んでいくつもりでした。

――会社員では実現できない理想を求めて独立を決意したそうですが。

はい、会社員としての仕事の現実は、理想へは程遠かったのです。求められるのは営業成績であり、保険以外の金融商品の知識や、お客様にとって最適な提案をすることは必ずしも求められません。企業に属していれば当然のことですが、自分の中で理想と現実のギャップを説明できないことに、もどかしさを感じるようになっていきました。こうして、やがて独立を目指すようになりました。

しかし、まだ20代半ばの自分には、メディアで活躍する独立系FPの諸先輩のような知識も経験もほとんどありません。そこで、メディア露出や講演などをメインとするのではなく、従来のFPでは専門性を持った人が少ない分野を組み合わせようと考えました。そして、大学院に入学して健康マネジメントという分野を専攻しました。ここで、医学や栄養学、統計学などに基づいて、健康と年収、人の幸福度にはどんな関係があるのか? 健康増進を進めるにはどんな方法が有効なのか? などを研究しました。

同時に、FP会社で業務委託として働き始め、家計相談やセミナー、執筆などの仕事をするようになりました。目指すFP像に近い姿で仕事をはじめたのがこのタイミングでした。これが、のちに個人事業として独立するときの仕事のベースになっていきました。

――「開業」は、意外とあっけなかったそうですが。

そうなんです。FP会社からの仕事を請け負うようになって約5年。完全に独立することになったのが、2014年の夏でした。その頃は出産をして仕事量をセーブしていたのですが、産後1年がたち、もう少し仕事を増やそうと思っていました。しかし当時、家計相談の顧客の大半は働く女性で、仕事は平日の夜や土日に集中していました。幼い子供を預けてその時間帯に仕事をするのは現実として厳しく、相談業務をほとんどできなくなってしまいました。そこで、FP会社から独立し、個人事業主として開業することにしました。

開業とはいっても、そのためにしたことは、税務署に個人事業主の開業届を提出しただけです。変わったのは屋号だけでした。仕事を取ることに関しても、前社での仕事を引き継いだため、また当時は子育てとの両立のため仕事量は少なくてもかまわなかったため、あまり困らずに済みました。

独立した実感を得たのは、自分のホームページを立ち上げ、そこからお客様が初めてきたときでした。ちょうど自分と同年代の夫婦が、家計相談に申し込んでくれたのです。特にSEO対策をしていたわけでもなかったのに、自分のところにたどり着いてくれたことに、ただただ感動してしまいました。

――本当の意味での「初仕事」は、なんだったのでしょうか。

スタートがスムーズだった反動はすぐに訪れました。最初のお客様のあとは、ぱったりと依頼が来なくなったのです。営業をほとんどしていなかったため当然といえば当然だったが、そのときになって初めて、自分が何を目指し、どんな戦略で事業を展開していくのかを明確にしていなかったことに気付きました。

もちろん、「健康」というほかにない専門性をアピールしようとは思っていました。卒業した大学で研究員として働くようにもなっていたですが、それぞれは全く別の仕事で、具体的に「健康」と「お金」という材料をどう生かし、ビジネスに形作っていくかを考えていなかったのです。

このままではいけない。慌ててビジネスプランを考え始めたころ、思いがけない依頼が舞い込みました。ある健康保険組合向けのサービスを展開する会社から、健康とライフプラン・お金に関するテーマでの連載記事の執筆を依頼されたのです。

病気にかかるとどれくらいの医療費がかかるか? 食費を削って生活するのと、病気の予防のために健康的な食事にお金をかけるのと、どちらが経済的か? 運動をすると、介護のリスクをどれくらい下げることができて、生涯でかかる介護費用を節約できるか? など、医療のことと、ライフプランやお金のことの両面から、一般の人が生活するうえでのポイントを提案する内容でした。

この連載を、月に2本書かせてもらえることになりました。1本当たりの原稿料は高額ではなかったんですが、継続して仕事を受注できるのは、収入が不安定な自営業者にとってはありがたいです。また、ここで実績ができたことで、他社から依頼される執筆案件も、それまでの家計、保険商品といったお金のことにとどまらず、その後、健康管理や予防医療に広がっていきました。そして、その案件が縁となり、従業員の福利厚生対策を行う企業のセミナーや、医療法人でのコンサルティング受注にもつながっていきました。

そう考えると、私にとって本当の意味での独立後の初仕事は、この執筆案件だったのかもしれません。

――チャンスの種を播きつづけるとは、どういうことでしょうか。ぜひ具体的に教えてください。

このように、私にとっての初仕事は、ビギナーズラックのようなものでした。とはいえ、運良く仕事が舞い込んだのには、過去の種まきが効いていたともいえます。「健康」をテーマにしようと思い立ったときから、私は「健康とお金を守るFP」を名乗るようにしてきました。ブログで趣味の料理を載せるついでにレシピや健康の豆知識を書いたり、知人の会社で、ボランティアで健康ネタの記事を書いたりしていました。「健康とお金」の連載を発注した会社の担当者は、5年以上前の記事をみて連絡してきたのです。

起業をしてまだ2年足らずの今、事業は起こすことよりも継続することの方がずっと難しいことを実感しています。ただひとつ明らかにいえるのは、起こすときも続けるときも、先につながる種を早いうちから播いておくことが大事だということです。それは、一見するとビジネス上の種には見えないこともありうるのです。知識をつけたり、人に会ったり、発信をしたりを続けている中で、ある瞬間にビジネスの化学反応が起きることがあります。

いわゆるアントレプレナーのような起業家精神は、私にはまだまだ足りません。それが、今後ビジネスにどう影響していくのか、自分でもわかりません。しかし、地道な積み上げを活かして、少しずつ育てていく起業も、ひとつの形なのではないかと思っています。

<プロフィール>

加藤梨里(かとう・りり)

ファイナンシャルプランナー(CFP)、マネーステップオフィス株式会社代表取締役

慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科 特任助教

保険会社、信託銀行、ファイナンシャルプランナー会社を経て2014年に独立。翌年、マネーステップオフィス株式会社を設立。専門は保険、ライフプラン、節約、資産運用など。大学院では健康増進について研究活動を行っており、認知症予防、介護予防の観点からのライフプランの考え方、健康管理を兼ねた家計管理、健康経営に関わるコンサルティングも行う。

URL:http://moneystep.co/

初出:「会社を辞めたぼくたちは幸せになったのだろうか」の一部を大幅に加筆して掲載