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奥様たちのあいだではハンドメイド市場が注目され拡大していますが、アメリカでは問題が起こっています

坂口孝則コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家
現在、隆興しているハンドメイド市場ですが、落とし穴もあります(写真:アフロ)

隆興するハンドメイド市場

育児休業中などの奥様を中心にハンドメイド市場が勃興しています。手作り作品の通販によって利益を得る仕組みも整ってきました。いま日本では「minne(ミンネ)」、「iichi」、「tetote」などが有名です。市場規模も拡大しており、かなりの額に成長しています。

編物、織物、趣味工芸、洋裁・和裁、日曜大工、書道などのクラフト市場が8673億円と推計

出典:東洋経済オンライン

さて、米国では、「大量生産から個別生産へ(マスからマス・カスタマイゼーションへ)」という流れがあり、仲介サイト「Etsy」は巨大な市場を創出しています。

一人の手で作られた商品を誰かが買う。これは素晴らしいことです。しかし、手放しで喜べない事情もあります。

偽造品報告書の衝撃

そのEtsyについて、調査会社であるWedbushが2015年に調査を発表しました。それが衝撃的な内容だったのです。Etsyでは手作りの商品が多数売られています。その調査報告によると、個人の売り手が、ブランドデザインを侵害しており、相当数に登るとされました。

Our research indicates as many as 2 million items on Etsy (>5% of all merchandise) may potentially be either counterfeit or constitute trademark or copyright infringement.

出典:Business Insider

2015年当時に、200万点ほどのアイテムが、潜在的には偽造品、あるいは権利侵害品であると推測されています。おそるべき数です。大量生産はありえない(つまり、だからコピーされたと推測できる)商品などがあり、勝手に作られ、権利を侵害する者の利益になっているとされました。

この報告を受けて、Etsyの株価は大きく下落しました。

簡単に売れる時代に必要な倫理観、ならびに不正防止の仕組み

さすがに、偽造品の画像を載せられないのですが、その画像をキャプチャーしているURLがいくつかあるので、ご覧ください。まあ、これはたしかにディズニーですよね。

これが商業サイトでなく、完全な個人間のやりとりであれば、これまでも行われていたのでしょう。しかし、大手のオンライン店舗で、堂々と写真が掲載されると話が違ってきます。

偽造摘発の対象となったのは、ディズニー、ルイヴィトンやシャネル、NFLやスターウォーズなどです。逆にいえば、偽造したくなるレベルのものだったともいえますが、日本からはハローキティ、任天堂スーパーマリオブラザーズ、などが”挙げられて”います。

もちろん、冷静にフォローすれば、問題になったのはEtsyが大手だったからです。小さな販売サイトでも、同種の問題はあります。たとえば、アリババでも同種の偽造品問題が指摘されていました。日本でも同種の問題が社会問題化しないとは限りません。

偽造品を防止する監視サイト

米国は消費者保護の観点から、いくつかの監視サイトがあります。有名なのは、「the counterfeit report .com(偽造品レポートドットコム)」(http://www.thecounterfeitreport.com/index.php)というものです。これは文字通り、商品の偽造品を告発するサイトで、偽造品の特徴とそして見分け方などを教えてくれます。

今後、日本でも同種の取り組みが必要とされるかもしれません。

ところで、偽造品が登場するのは、それだけ注目されたり売れていたりする商品なんですね。日本メーカーの商品の登場が少なく、悲しくなります。アップル関連商品はすぐに偽造品が登場しているんですが。それに、「ホンモノをゲットするならこちら」と、正規の小売サイトにリンクが貼られているのには笑ってしまいました。

それにしても考えさせられるのは、EC(電子商取引)プラットフォーム運営会社にどこまで責任をとってもらうかです。契約上の話とも違います。たとえば、契約上は、販売者と消費者の契約であって、ECプラットフォーム運営会社は単に仲介役だったとしても、批判をかわせるでしょうか。

当然ながら、大手EC企業が悪い意図をもっているとは思いません。彼らにとっても、偽造品根絶は重要なテーマのはずです。偽造品などが売られていない”クリーン場所”のイメージが広がるほうがメリットは大きいはずです。

偽造品王子は金持ちになった

また、これも当然ながら、偽造品を作って売る人と、それを追いかける人がいるのは、いまに始まったことではありません。ただ、ネットが普及して、規模が拡大した感はあります。有名なのは、eBayで偽造品の衣料を販売し続けていた英国人の男性で、「億万長者のペテン師(millionaire conman)」と呼ばれました。

リンク先のニュース写真をご覧いただくと、(少なくとも私は驚愕したのですが)偽造品販売がこれほど儲かるのかと呆れてしまいます。

衣料品の偽造品を売りまくることで、得たのは次のようなものです。ランボルギーニ、メルセデスS55、ボルボ、メルセデスS320、BMW X5、BMW 540i、ランドローバー、フォード……。しかもたったの数年間で手に入れたようです。

彼は逮捕されましたが、結局のところ、再発防止として何をすべきなのでしょうか。

中国当局は、偽造品国家のイメージを払拭するために、6万人弱の偽造品販売業者を逮捕しました。また、2013年には、9000トンもの偽造品を押収しました。アリババも、グローバルに受け入れられる企業を目指して、40を超えるブランドと連携しながら偽造品の徹底的な排除に努めています。

しかし、問題はハンドメイドマーケットです。生産者が作って写真をアップしてしまえば、それはすぐさま販売開始となります。認証制度を設けたり、あるいは正規品とくらべて価格が異常値ではないかチェックしたりと、さまざまな取り組みを行っていますが、イタチごっこが続いています。

各社の対応に期待しつつ、無難なコメントではありますが、生産者一人ひとりに一定の倫理観をもってもらうしかない、と私は思います。せっかく勃興したハンドメイド市場の火を消すのは寂しいですから。

コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家

テレビ・ラジオコメンテーター(レギュラーは日テレ「スッキリ!!」等)。大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務、原価企画に従事。その後、コンサルタントとしてサプライチェーン革新や小売業改革などに携わる。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、サプライチェーン学講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)、『調達力・購買力の基礎を身につける本』(日刊工業新聞社)、『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)、『モチベーションで仕事はできない』(ベスト新書)など著書27作

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