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木村拓哉vs福山雅治の裏でヒロインから脇役に回った50代女優たちの現在地

斉藤貴志芸能ライター/編集者
常盤貴子(写真:2022 TIFF/アフロ)

春クールのドラマでは木村拓哉が『風間公親-教場0-』、福山雅治が『ラストマン-全盲の捜査官-』に主演し、“キムフク戦争”と話題になっている。共に90年代から多くのドラマで主役を張り、それぞれ50歳と54歳になった現在もトップのポジションに君臨し続けている。一方、同世代でかつてはヒロインとしてドラマを彩ったアラフィフ女優たちの脇役での出演も目につく。常盤貴子、松嶋菜々子、和久井映見……。彼女たちの現在地を探る。

木村拓哉と名作でW主演した常盤貴子が4年ぶりに連ドラ

 『それってパクリじゃないですか?』(日本テレビ系)では、常盤貴子が4年ぶりに地上波の連続ドラマに出演している。芳根京子が演じる主人公・藤崎亜季らが勤める飲料メーカーの開発部長・高梨伊織役。過去にいくつものヒット商品を生み出し、仕事に厳しく隙を見せない“女帝”と呼ばれる存在だ。

 一方で、情報流出の疑いがかけられた亜季の濡れ衣を晴らすために動いたりと、部下たちを見守り支えてもいる。誰に対しても堂々とした振る舞いは、常盤自身の女優としてのキャリアも相まって醸し出されているようだ。

 常盤は現在51歳。昨年『silent』がヒットした際、聴覚障害者を巡る物語として引き合いに出された1995年の『愛していると言ってくれ』で、豊川悦司と共に主演。翌年の『みにくいアヒルの子』から『理想の結婚』までは4期連続で主役やヒロインを務めて、大人気を博した。

 1998年の『めぐり逢い』では、福山雅治と当時のトップスター同士でW主演。ダンサーを夢見てニューヨークに行く役で、別れと再会を経た7年間のラブストーリーが描かれた。

 そして、2000年に木村拓哉とW主演したのが『ビューティフルライフ』。難病で車イス生活を送る図書館司書の役で、木村が演じる美容師と恋に落ちる。最後は亡くなってしまうが、海辺に美容室を開くという2人の夢は叶えられた。視聴率は平均32.3%、最高41.3%と当時にしても驚異的な数字を叩き出している。

 2002年に楳図かずおのマンガが原作の『ロング・ラブレター~漂流教室~』に主演して以後は、30歳になり連ドラから離れていく。単発のスペシャルドラマや映画にシフトしたが、2015年には朝ドラ『まれ』で土屋太鳳が演じたヒロインの母親役を務めた。

 今回の『それパク』出演は、枝見洋子プロデューサーからの熱い手紙に心を動かされて決めたと話している。芳根は2015年公開の映画『向日葵の丘・1983年夏』で、常盤が演じた主人公の高校時代を演じていて、世代の移り変わりも感じさせる。

(C)日本テレビ
(C)日本テレビ

松嶋菜々子は着物姿で美しさと貫禄を漂わせて

 『王様に捧ぐ薬指』(TBS系)では、山田涼介が演じる大企業の御曹司・新田東郷の母親の静役が松嶋菜々子。会長夫人として常に着物姿で品を漂わせている。東郷が契約結婚した羽田綾華(橋本環奈)と挨拶に訪れた際は、やさしく迎え入れ、SNSでは「美人すぎて衝撃」といった声が並んだ。

 だが、東郷の祖母の米寿の祝いを控え、綾華を上流階級に恥ずかしくないようにと茶道や乗馬に付き合わせ、クタクタにさせる。外国人とのお茶会では、「イエス」しか言えない綾華を英語で「この子は何も理解してないの」と揶揄するなど、含むものもありそうに見える。いずれにせよ、松嶋の今や貫禄たっぷりな存在感は、重石のきいた役にハマっている。

 松嶋は現在49歳で10月に50代を迎える。モデルや水着、ビールのキャンペーンガールから、1996年に朝ドラ『ひまわり』で弁護士を目指すヒロインに抜擢。1998年には、後に結婚する反町隆史主演の『GTO』でヒロインの英語教師役。1999年には、シリーズ化される『救命病棟24時』に『魔女の条件』、『氷の世界』と3本に主演し、名実ともにトップ女優に。

 2000年には、玉の輿を夢見る客室乗務員と貧乏な魚屋の恋愛コメディ『やまとなでしこ』に主演し、平均26.4%、最高34.2%の視聴率を記録。代表作となった。2002年には大河ドラマ『利家とまつ』で主演。翌年の『美女か野獣』ではニュース番組のプロデューサー役で、ディレクター役の福山雅治とW主演を務めた。

 その後は『救命病棟24時』シリーズ以外の連ドラ主演からは遠ざかっていたが、2011年の『家政婦のミタ』では、無表情で頼まれたことをすべて完璧にこなす家政婦という異色の役で主演。大きな話題を呼び、最終回の視聴率は21世紀初となる40.0%に達した。

 近年では、『SUPER RICH』での江口のりこが演じた主人公の恩人の元上司、放送中の大河ドラマ『どうする家康』の徳川家康(松本潤)の母親の於大の方などを演じている。『王様に捧ぐ左指』も含め、高みに立つポジションが似つかわしい。

(C)TBS
(C)TBS

和久井映見は温和な母親役が打ってつけ

 日曜22時の新ドラマ枠で放送中の『日曜の夜ぐらいは…』(ABC・テレビ朝日系)には、52歳の和久井映見が出演中。主人公の岸田サチ(清野菜名)が介護する、車イス生活の母親・邦子役。二人暮らしで、サチがファミレスのバイトで家計を支えている。邦子は屈託なく見えるが、どこか苦し気なサチに「ごめん」を繰り返す。

 1人で聴いているラジオ番組のバスツアーに応募し、自分の代わりにサチを参加させたことから、彼女に2人の友だちができて物語が始まった。

 和久井の女優デビューは高3だった1988年。アイドル歌手としての活動と並行させていたが、1991年から共に織田裕二主演の『就職戦線異状なし』『エンジェル 僕の歌は君の歌』や、山田洋次監督の日本アカデミー賞受賞作『息子』など、映画で頭角を現す。

 1994年には『夏子の酒』で連ドラ初主演。続けて『妹よ』でも能登から上京したOL役で主演し、唐沢寿明が演じた会社社長との恋を岸谷五朗が演じた兄に支えられて実らせていった。

 特に印象を残したのが1996年の『ピュア』。知的障害がありながら芸術の才能を持つという難役で、汚れのなさを体現。堤真一が演じた冷めた記者の心を暖めていくような触れ合いが涙を誘った。

 当時から主役を演じつつも派手なタイプではなく、親近感と朗らかさが持ち味だった。36歳だった2007年の朝ドラ『ちりとてちん』では、貫地谷しほりが演じたヒロインの天然な母親役。40代以降、『デート~恋とはどんなものかしら~』、『姉ちゃんの恋人』、そして今回の『日曜の夜くらいは…』などでも、温和な母親役に資質が活かされている。『ラジエーションハウス』での病院長役も、窪田正孝が演じた放射線技師らを温かく見守る母親的なポジションだった。

(C)ABCテレビ
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松雪泰子はひとクセある役でスパイスに

 『ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と』(TBS系)では、荒廃した30年後にワープしてしまった電車の車両に乗り合わせた1人に、50歳の松雪泰子がいる。人材紹介会社を経営するキャリアウーマンで、一人娘を育てている母親という役どころ。

 極限状態の中、駅員に「どうにかしなさいよ!」と詰め寄ったり、「家に帰してください!」と半狂乱で叫んだり、家族を思って虚ろにむせび泣いたりと、ひと際危うい精神状態になったのがリアルで、さすがの演技だった。

 松雪は1993年、人気コミックが原作の『白鳥麗子でございます!』に高飛車なお嬢様役で主演して注目された。『毎度ゴメンなさぁい』、『ベストフレンド』、『名探偵保健室のオバさん』などにも主演したが、演技力を高く評価されたのは30代半ばから。2006年の主演映画『フラガール』や、2008年の福山雅治の『ガリレオ』シリーズの劇場版『容疑者Xの献身』では、日本アカデミー賞などで賞を獲っている。

 そして、12年ぶりの主演ドラマとなった2010年の『Mother』では、産休教師の代理として小学1年生を受け持ち、虐待を受けていた教え子(芦田愛菜)と逃亡生活をする鮮烈な役で話題を呼んだ。坂元裕二の脚本でテーマとされた母性が胸を打ち、トルコ、韓国、フランス、ウクライナなど世界各国でリメイクされる名作に。

 近年でも朝ドラ『半分、青い。』や前クールの『夕暮れに、手をつなぐ』で、それぞれ永野芽郁、広瀬すずの母親を演じた。同じ母親役でも和久井と比べ、ひとクセあるキャラクターが多い。『サイン-法医学者 柚木貴志の事件-』では警視庁の勝ち気な管理官、『祈りのカルテ』では占い好きの精神科医と、個性的で尖ったところのある脇役でスパイスとなっている。

斉藤由貴は50代半ばでも出演作が途切れず

 アラフィフ世代よりは少し上で56歳の斉藤由貴は『Dr.チョコレート』(日本テレビ系)に出演している。10歳の天才外科医・Dr.チョコレート(白山乃愛)のチームの一員で、オペ看護師のうなぎ役。ホスト遊びが趣味で無類のうなぎ好きだが、看護師としては優秀でまとめ役。Dr.チョコレートこと寺島唯の小学生としての生活も気に掛けている。

 斉藤といえば80年代を代表するアイドル歌手の1人でもあったが、女優としても『スケバン刑事』で初主演し、朝ドラ『はね駒』では女性新聞記者の草分けとなるヒロインに。90年代半ばまで『はいすくーる落書き』の高校工業科の教師、『まったナシ!』の相撲部屋の女将、『同窓会』の実は同性愛者の夫を持つワケあり女性など主演ドラマが相次いだ。

 40代、50代と脇役に回ってからも出演作が途切れない。昨年も連ドラ3本に出て、『恋なんて、本気でやってどうするの?』のギャンブル依存症の毒母役はひとつの持ち芸のようになっていた。今年はWOWOWも含めるとすでに4本目。話題を呼んだ『大奥』では、男女逆転した大奥の総取締の春日局役で存在感を発揮した。

 スキャンダルもあったが女優業には結果的に影響はほぼなく、役では毒気も含め年齢相応の深みを増している。デビューから来年で40年となるが、いまだ「よく見る」存在なのはあまり例がない。

(C)日本テレビ
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ハマるキャラクターを得て55歳で主演の天海祐希

 そんな中、55歳にして『合理的にあり得ない~探偵・上水流涼子の解明~』(カンテレ・フジテレビ系)で主演を務めているのが天海祐希だ。弁護士から傷害事件で資格を剥奪されて探偵となった役で、頭脳明晰で変装が得意。IQ140を超える相棒の貴山伸彦(松下洸平)とコミカルな掛け合いも見せつつ、事件を解決していく。

 天海は宝塚歌劇団の月組男役トップスターとして1995年まで活躍し、ドラマデビューは28歳と遅い。恋愛ものにハマるタイプではなかったが、改めて脇役中心に映像でキャリアを重ね、2004年には『離婚弁護士』に『ラストプレゼント 娘と生きる最後の夏』と連続主演。

 翌年には『女王の教室』で悪魔のように冷徹な小学教師を演じ、賛否を生みながらも最終回の視聴率は25.3%と大ヒット。黒ずくめの衣装に長身で威圧感のある役は、171cmの天海自身の佇まいがあってのものだった。

 以後も、『BOSS』での警視庁のはぐれ者を集めたチームのリーダー、シリーズ化されて劇場版も公開される『緊急取調室』での厄介な被疑者と対峙する叩き上げの刑事など、次々にハマリ役を得ていく。強くて筋を通し、かつ面白みのあるようなキャラクターの第一人者となり、年齢に左右される部分も少ないようだ。

 ドラマ界でも世代交代は必然ではある。だが、今は出番が多くはない脇役で健在ぶりを見せている常盤貴子や松嶋菜々子らも、何らかの適役があれば、またメインを張るのも観てみたい気がする。木村拓哉や福山雅治と同様に、年齢を重ねた今だからこそ、表現できるものはあるはずだ。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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