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「演技がヘタだった」岡田結実を救った遠藤憲一の言葉。ゴールデン初主演ドラマでは死を選ぶのか?

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)糸井のぞ/新潮社・「最果てから、徒歩5分」製作委員会2022

バラエティでの活躍から、女優としても相次ぎ大役を演じている岡田結実。10月スタートのドラマ『最果てから、徒歩5分』でゴールデンタイム初主演。生きることも死ぬこともできないまま、自殺の名所から徒歩5分のオーベルジュで住み込みで働くという、自身の明るいイメージとかけ離れた役だ。もともと目指していたという女優業への想いを聞いた。

向いてないと思っても役者の夢は諦めきれなくて

――バラエティにガンガン出始めた頃から、女優への意欲もあったんですか?

岡田 「役者をやりたい」というのはずっと思っていました。小学校の卒業式で「将来の夢は女優です」と言っていた記憶があります。でも、小さい頃に『天才てれびくん』でやった演技が、どヘタすぎて(笑)。司会をされていた出川哲朗さんには、いまだに「結実は芝居がヘタくそだったのに、朝ドラに出るようになって」とイジられます。それほどひどかったんですけど、諦めきれない夢でした。

――やりたいと思ったきっかけは、ドラマか何かですか?

岡田 『ゴールデンスランバー』という映画で、濱田岳さんがめちゃめちゃカッコ良くて、「こういうふうになりたい」と思ったんです。自分は役者に向いてない、やる機会もないと思っていた時期も、濱田さんの作品を観ると夢を捨てきれませんでした。

――朝ドラ『カムカムエヴリバディ』では、濱田さんを追い出そうとする役でした(笑)。

岡田 共演することも夢だったので、芝居に集中できませんでした(笑)。一番好きな役者は濱田さんで、兄(岡田隆之介)がお芝居をしている姿にも影響を受けました。

――演技経験を積む中で、どこかの時点で自信を付けたんですか?

岡田 自信を付けたわけではないですけど、2年前の『女子高生の無駄づかい』で奇抜な主人公をやらせていただいて。正直、芝居は今観返しても、うまくはないです。でも、「この役は私にしか無理やろ」と思えたんです(笑)。

――通称“バカ”という通りの役でした。

岡田 自分のことを「神がかっている」と思いながら、演じていました(笑)。ヘタでも届く芝居があるんだとわかって、続けていく希望になりました。

「台本がわからないよ!」とベッドで嘆いていました

――逆に、特にハードルが高かった役はありますか?

岡田 朝ドラの雪衣さんは本当に難しくて。今になって「こういう感情だったのか。理解してあげられなくてごめん」と思いますけど、当時は本番の前日に泊まっていたホテルで台本を読んで、「わかんないよー!!」ってベッドで嘆いていましたから(笑)。

――雪衣は初代ヒロインの安子の戦死した夫の実家の女中。次男への恋心から安子に嫉妬心を持っていました。

岡田 なんで小さな娘さんに「お母さんは育てることを諦めたんだと思います」なんて言うんだろう? 友だちに聞いたら、「自分が母親代わりになりたかったんじゃない? そう話すことがやさしさだったんじゃない?」と言われましたけど、「私が知ってるやさしさは、こんなものじゃない!」みたいな。雪衣さんが大人すぎて、逆に私は子どもすぎて、理解し切れなかったから本当にキツかったです。

――でも、そういう壁を1コ1コ乗り越えてきたんですよね?

岡田 今も自分が役者に向いているのか、悩むことは多いです。人から誉められても「こんな芝居でいいのか?」と、ずっと思っていて。いつまで経っても満足までいきません。

バラエティの印象があるほど役で差を出せば得かなと

――もともとバラエティで活躍しながら、女優をやるチャンスもうかがっていたわけですね。

岡田 その頃はバラエティをガムシャラにやっていました。右も左もわからないからこそ、しがみ付いて爪痕を残すぞと。

――女優をやるにはバラエティの色が付くのはどうか……とは考えませんでした?

岡田 それは周りにすごく言われました。「支障が出るんじゃない?」って。でも、私自身は「色が付いたら何か問題あります?」みたいな。バラエティの色がぬぐえなければ、それまでのこと。むしろ明るい印象があればあるほど、陰のある役を演じるときにギャフンと言わせられると思うので(笑)、得かなという感覚です。

――バラエティでの経験が演技に役立つこともありますか?

岡田 大いにあります。バラエティで「こう来たら、こう返す」とか決めてなくても、返そうとする瞬発力は学んだので、芝居でも使おうと思っています。毎回、役作りは10のうち3くらいしかしないで、現場に入っているんです。5は作っていけ、という話ですけど(笑)、現場で7をもらいます。

――役を固めすぎない、ということですね。

岡田 そうです。作りすぎて、インした瞬間バリーンと壊れるのが怖くて。もちろん役について一生懸命考えますけど、台詞を言うときにどんな感情になるかは、現場に立った瞬間にしか、私はわからないので。バラエティでも「エピソードトークを考えすぎるな」と言う方がいますし、芝居でも相手の方のリアクションを受け入れられないことが一番良くないと思うので、そこは通じますね。

――岡田さんはバラエティで、面白い話がどんどん出てくるトーク力がすごいと思いますが、それも前もって考えていくわけではないんですね?

岡田 基本的に、固めていくのは得意でなくて。打ち合わせと全然違うことを本番で言ったりもするし(笑)、そういう性格なのかなと思います。

根が生真面目な自分を芝居では捨てます

――今まで現場で監督に言われたりして、演技の指針になったようなことはありますか?

岡田 連ドラ初主演だった『私のおじさん』で、遠藤憲一さんと共演させてもらったんですね。わからないことばかりで「この芝居は違う。これも違う」ってワーッとなってしまって、あるシーンでカットが掛かったあと、私が「正解って何だろう?」とポツリと言ったんです。それを遠藤さんが聞いてくださって、「結実ちゃん、役者って正解がないから楽しいんだよ」と言っていただきました。「ひとつの正解がすべてでもないし、やりたいことをたくさんやってみな」と教えてくださって、だから遠藤さんのお芝居は一緒にやっていても楽しくなるんだ、とも思えて。その遠藤さんの姿と言葉には、めちゃくちゃ救われました。

――岡田さんは根っこは真面目で、正解を求めたがるタイプだけに……ということですか?

岡田 当たっています。私は本当に根が生真面目だから、正解がないと不安になってしまうんです。正解を叩き出してナンボ、みたいな人生でした。でも、芝居の世界では正解も不正解もないから悩むけど、だからこそ楽しめるところもあって。役者をやっているときだけは、真面目な自分を捨てて、ハッチャケてしまおうと思っています。

背中にそっと手を当ててくれるような作品です

――『最果てから、徒歩5分』で演じるすももは、生きていくのが辛くて自殺の名所まで来た役。まさに普段の岡田さんのイメージと違いますね。

岡田 ハッピーな役が多かったので、人の生と死を扱う作品をやるのは難しそうで、プレッシャーは感じました。繊細な世界観を損なわないためにはどうしたらいいか、考えています。すごく奥深いテーマがありますから。

――どんなところが奥深いと?

岡田 「死んでもいい」とは言っていませんけど、死のうとすることが弱いとか逃げではないと、言葉でなくメッセージとして伝わるのが素敵だなと思います。誰でも「辛い」「逃げたい」という気持ちになることはありますよね。そこで無理に「頑張れ」と言うのでなく、背中にそっと手を当ててくれるような温かい作品です。「人生って何だろう?」と迷っている方が、ほんの少しでも明日を過ごしやすくなれるように頑張りたいです。

――すももの人物像はどう捉えました?

岡田 すごく素直で、やさしい子だなと思います。だからこそ、母親に「ああしなさい、こうしなさい」と言われても、否定するより従うことで誰も傷つけないようにしてきたのではないかと。それで敷かれたレールを、文句を言わずに歩いてきて。狭い世界しか見てなかった分、いろいろな選択肢を知ったら、花開きそうな印象も持ちました。

何度もNGを食らった初恋の人には会っておかないと(笑)

――すももの心情がわかる部分もありました?

岡田 私は死のうとして最果ての地を訪れたことはないので(笑)、第一印象では共感は難しいと思いました。でも、「こんな毎日が続くなら、死んだほうが楽じゃないか」と考えていた時期はあって。今思えば、本気で死にたかったわけではなく、追い詰められて、そんな感覚になっていたんですけど、そういうところが糸口にはなりました。

――最近でも「辛い」「逃げたい」と思うことはありました?

岡田 恋愛するのが面倒くさっ! とは思います(笑)。実際に誰かと恋愛したわけではないんです。周りで「浮気された」とか「喧嘩した」という話を聞いて、仕事と友だちと遊ぶだけで生きていけるのに……と。恋愛は楽しそうな反面、「信じる」「信じられない」ということになったりするのが大変そうで、面倒くさいという結論に至りました(笑)。

――ピンク髪にしたのは、劇中ですももの「死ぬまでにやりたい10のこと」の中にあったからですよね?

岡田 そうです。ここまでピンクに染めたのは人生で初めて。衣装もめっちゃ奇抜なんです。他の「10のこと」もクランクインまでに自分でやっておこうと思いました。ネイルやメイクは撮影中にできますけど、「油こってりラーメンの全部のせを食べる」とか「ふわふわ食感のパンケーキをお腹いっぱい食べる」とか。パンケーキ屋さんに行く時間がなかったので、食べたかったデザートを取り寄せたり。

―――そういう役作りで、すももに近づいていって。

岡田 でも、切なくなりました。すももがこれを全部やり終えたら死んじゃうのかと考えたら、ラーメンやパンケーキもおいしかったのか? 楽しいはずのことでも、ちょっと泣いたりしていたのかなと、想像しました。

――岡田さんだったら、「やりたいこと」に何を入れますか?

岡田 初恋の人に会っておきたいです(笑)。小学4年、5年、6年とずっと好きだった人で、いろいろな番組で言っているんですけど、何度もNGを食らっていて(笑)。このままだと、ちょっと心残りですね。

主役として無駄話で盛り上げるのを頑張ります(笑)

――今回は主演ということで、より力が入りますか?

岡田 主演は1年半ぶりくらいなんです。この前、お風呂で鏡を見たとき、急に「そっか、主演か!」と思って、久しぶりに頭を抱えました(笑)。でも、主演をさせていただくときは毎回、あまり意識せず、座組みの1人でいることを大事にしていて。皆さんが疲れ始めたとき、ひたすら無駄話をして、現場を盛り上げるのを頑張ります(笑)。

――バラエティから本格的に女優展開を始めて、最初から主演級が続きましたが、当時からそういう感じだったんですか?

岡田 『私のおじさん』のときはプレッシャーはもちろんありましたけど、それを感じられないくらい、自分の芝居に集中していました。次の『女子高生の無駄づかい』では、引っ張るというより、みんなを盛り上げていく形の座長になろうと。

――プレッシャーでごはんがのどを通らない、とかはなく?

岡田 まったくありません(笑)。ありがたい性格なのか能天気なのか、初主演でも、しっかりごはんを食べて、たっぷり寝て、現場でずっとハッチャけさせてもらっていました。

――今回はなおさら、良い状態で撮影に入ったわけですね?

岡田 すももちゃんは今までの役とまた違っていて。私自身が死に惹かれる部分が一切なく、「今日も生きていて良かった」と思う毎日なので、感情に合わせる作業は難しいです。ただ、今までは不安も抱えながらクランクインしていたのが、今回は始まる前から「良い作品になりそう」とわかったんです。何年ぶりかの感覚で、すごく楽しみです。

久々のカラオケで歌がうまくなっていて

――主演ドラマは1年半ぶりでも、その間に朝ドラや主演映画の公開もあって、演技に磨きがかかったところも発揮できるのでは?

岡田 芝居がうまい方は歌もうまいと、小さい頃から聞いていたんです。台詞を「この音でいこう」というのが歌にも出るらしくて、実際にテレビで役者の方が上手に歌われていますよね。私はめちゃくちゃ音痴なんですけど、この前カラオケでちあきなおみさんの『喝采』を歌ったら、人生初の88点が出たんです! いつも70点台が目標だったのが、この点数が出て「芝居もうまくなっているのかも?」と思いました(笑)。

――歌の練習をしていたわけではなくて?

岡田 していません。コロナ禍でカラオケに全然行ってなくて。ストレスを発散しないとキツいと、母と兄と久しぶりに行ったら、うまくなっていたんです(笑)。

――演技力の向上のために、日ごろからしていることもあるんですか?

岡田 映画やドラマは観るようにしています。あと、マンガや最近離れていた小説も読んだり。そういうインプットは、昔よりだいぶするようになりました。

――最近、面白かった作品というと?

岡田 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は、こんな面白い作品が世の中にあるのかと思います。皆さんの芝居が素敵だし、この前も録画していた宮澤エマさんメインの回で大号泣。イチ視聴者としては観られて良かったと思いつつ、自分が一切携われずにテレビの前にいる悔しさも芽生えました。

――女優としては携わりたかったと。

岡田 そうですね。こんな素敵な現場で、同世代の堀田真由さんや金子大地さんたちが芝居できているのが、すごく羨ましいと思いました。

――ちなみに、テレビ東京で好きだったドラマはありますか?

岡田 パッと思い浮かぶのだと、『勇者ヨシヒコ』シリーズはめちゃくちゃ観てました。

噴水に突っ込める自分は変えたくないです(笑)

――『最果てから、徒歩5分』では、高級シャンパンが出てくる場面もあるようですが、そういうのは嗜んでいます?

岡田 20歳になったとき、お仕事の現場でドンペリをいただいたりしました。グラスの3分の1くらい飲んだだけで、ベロペロに酔っぱらってしまって。お酒は好きなので、あれをガブ飲みできる女になりたいです(笑)。

――「死に惹かれる部分はない」とのことでしたが、すももには「私、変わりたい」という台詞もあります。そう思ったことは、岡田さんはありますか?

岡田 バラエティで「何であんなことを言っちゃったんだろう?」とか、もっと芝居をうまくなりたいとか、そういうことは常に思っています。でも、私はひねくれていて、「今の自分を変えたいけど、根本的な自分は変えたくない」というのも、ずっとあります。

――どんな自分を変えたくないと?

岡田 子どもみたいなところです(笑)。人を驚かせたり、無邪気に噴水に突っ込める自分は、大人になっても変わりたくなくて。

――今は噴水に突っ込んでいるんですか(笑)?

岡田 突っ込みます(笑)。コロナ禍になる前は、友だちと海に行って、服のまま飛び込んだりもしていました。そういうところは躊躇しません。うちのおばあちゃんもそういう人で、食べすぎて入院したのに、退院したら食べ放題に行ってるんですよ(笑)。私も血筋を引いていて、山盛りの二郎系ラーメンを食べて、「もういい」と思ったのに、また行ってたり(笑)。そこは忘れたくないですね。

――女優とバラエティのバランスは変わりますか?

岡田 現状はバラエティ6割、女優4割から半々くらいでやらせてもらっていますけど、どっちも好きだから、それくらいの割合でいきたいですね。バラエティではもっとうまい返しができるようになりたいのと、役者としては海外の作品にも出たくて。いろいろな場に足を運んでいきたいです。

Viivo提供
Viivo提供

Profile

岡田結実(おかだ・ゆい)

2000年4月15日生まれ、大阪府出身。

1歳で子役モデルとしてデビュー。2019年に『私のおじさん~WATAOJI~』で連続ドラマ初主演。主な出演作はドラマ『女子高生の無駄づかい』、『江戸モアゼル~令和で恋、いたしんす。~』、『准教授・高槻彰良の推察』、『カムカムエヴリバディ』、映画『ショコラの魔法』、『私はいったい、何と闘っているのか』、『ウラギリ』など。『newsおかえり』(ABC)、『逮捕の瞬間!警察24時』(フジテレビ系)にMCとして出演中。

土曜ドラマ9『最果てから、徒歩5分』

10月1日スタート BSテレ東/土曜21:00~

出演/岡田結実、栁俊太郎、竹財輝之助、内山理名ほか

公式HP

(C)糸井のぞ/新潮社・「最果てから、徒歩5分」製作委員会2022
(C)糸井のぞ/新潮社・「最果てから、徒歩5分」製作委員会2022

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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