生々しい役を続けて「打たれ強くなりました」。小野花梨が天才アニメーター役で卑屈さもリアルに
最近では朝ドラ『カムカムエヴリバディ』の豆腐屋のきぬなど、出演作ごとに脇役でも強い印象を残す小野花梨。アニメ業界を舞台に新人監督らの奮闘を描く映画『ハケンアニメ!』では天才アニメーターを演じている。子役時代から厳しい環境の中で磨いてきたことや、人生レベルで見据えているものまで語ってもらった。
小6で『鈴木先生』で振り切ることを学びました
――小野さんは最近だと『カムカムエヴリバディ』のきぬや放送中の『恋なんて、本気でやってどうするの?』の竹内ひな子など、演じる役が必ず印象を残しています。
小野 いえいえ。いい役をいただいているおかげです。
――子役時代から、自分で特にお気に入りの役はありますか?
小野 転機というか、すごくいい経験になったのは、小学6年生のときの『鈴木先生』ですね。
――恋多き河辺彩香は強烈な役でした。
小野 内容も役も印象的でしたけど、初めての学園もので同年代の役者さんがいっぱいいた中で、大人の方たちにシゴかれました(笑)。何回もリハをやって朝から晩まで撮影して、今の自分のベースになっているのを実感します。私にとって欠かせない作品です。
――かなり赤裸々な台詞もありました。
小野 まず「本当にこの役をまだ小学生のこの子にやらせていいのか?」という大人の会議があったらしくて、「あなた自身はどう思う?」と聞かれたんです。私はオーディションで役をいただけて嬉しかったし、「やります!」と言ったところから始まりました。台詞の意味はよくわからないまま、何となく“イヤなことをされた”とか大雑把なニュアンスで捉えていて。監督と話しながら役を膨らませて、「ちょっと頭がおかしい感じでやっていいよ」とか、そんな感じで作っていきました。
――自分の殻を破ったような?
小野 そうですね。思い切りやることを、あそこで学んだと思います。
――子役をやりつつ、他の道を考えたことはなかったですか?
小野 得意なこともなかったですし、常に芸能界が身近にあったので、他の道に行く選択肢は微塵もなかったです。
池松壮亮さんの演技が衝撃的で全作観ました
――『ハケンアニメ!』の主人公の斎藤瞳(吉岡里帆)にとってのアニメ『光のヨスガ』のように、小野さんが女優を目指すうえで影響を受けた作品はありますか?
小野 作品というより、池松壮亮さんが大好きでした。中学1年生の頃、近所のレンタル店で池松さんが出演されている作品を全部借りて観たくらいです。「お芝居って人をこんな気持ちにさせるんだ」と感銘を受けました。
――映画『宮本から君へ』で共演されましたね。
小野 ご一緒したのは1シーンで、ただ感激して終わった記憶しかありません(笑)。
――池松さんの演技は誰もが称賛しますが、小野さん的にはどう刺さったんですか?
小野 当時、役者の間で“池松芝居”という言葉があったくらい、異色だったんです。エグいほどのリアリティというか、作りものなのにあんなに生っぽく演じられるのが衝撃的でした。
――小野さんの演技もだいぶ生っぽいです。
小野 本当ですか? それはたぶん池松芝居の影響です(笑)。好きだから無意識に近づけているところはあると思います。
コギャル役で大根仁監督にシゴかれて良かったなと
――これまで演技で壁に当たったことはありませんか?
小野 大根(仁)監督の『SUNNY』で演じた薬物中毒の女子高生は、難しかったですね。薬物をやったこともないですし(笑)。
――そりゃそうでしょうけど(笑)。
小野 それに、コギャルの時代で金髪、ガン黒でしたけど、私が生まれる前のお話だから、どれもこれも想像でやるしかなかったんです。大根監督にすごくシゴいてもらいました。「違う違う! もう1回!」と言われ続けて、当時は「エーッ? 何だよ!」と思ってましたけど(笑)、出来上がりを観ると、あそこまでズタズタにしてもらって良かったなと。
――厳しい撮影の中で、何かが掴めた感覚もあったんですか?
小野 どうだったかな? 正解はわからなくて、やってやって探り探りという感じだったと思います。大根監督に「そんなのただの酔っぱらいにしか見えない」とか言われながら、イメージに近づけるように必死にやったのを覚えています。諦めずに演出し続けてくださって、本当に感謝しています。
迷いなくスラスラ描く見せ方は絶対条件でした
――『ハケンアニメ!』での天才アニメーターの並澤和奈役では、クランクイン前に準備したことはありましたか?
小野 アニメーターの専門的な腕の動かし方や鉛筆の持ち方は、プロの方に教わりました。どうやったら天才っぽく見えるかが勝負で、いろいろ聞くと、優れている方は動きが速いそうです。迷いがないから、頭に浮かんだものをそのまま描く。そういう見せ方を練習しました。
――家でもだいぶ練習したんですか?
小野 はい。紙を押さえる棒みたいなものとか鉛筆とか画用紙とか、プロの方が実際に使っているものを全部貸していただいて。ペンで迷うことなくスラスラ描けるようにしてから、現場に入れるようにしたいと思っていました。
――プロで、さらに天才に見えるとなると、ハードルは高いですよね。
小野 それがマストの絶対条件でしたから。
――アニメにはもともと馴染みはあったんですか?
小野 マニアというほどではないですけど、話題になった作品は観ていました。最近だと『鬼滅の刃』、『約束のネバーランド』、『呪術廻戦』とか。娯楽として好きで、流行りものには理由があるというか、面白いですね。
「リア充め!」という気持ちはわかります(笑)
――並澤和奈の人物像としては、軸にしたのはどんなことですか?
小野 天才とはいえ、素顔はただただ普通で、リアルを充実させたいと思っていて。どこか卑屈になったり、すごくリアリティのある役でした。天才というところだけに寄らず、1人の女の子として生きていることは忘れないようにしました。
――リア充を妬むような場面もありました。
小野 つまり、自分はそうでないということですよね(笑)。
――一方で、デート中にプロデューサーに呼び出されて、アニメ雑誌の表紙の画を描くように言われた場面では、散々文句を言いつつ、いざ描き始めると天才モードにスッと変わったように見えました。
小野 斎藤監督と初めて会って、スイッチが入ったシーンですね。和奈は自分がやってきた仕事や描く画には少なからず自信があるはずだから、その様をちゃんと見せられたらいいなと思っていました。
――小野さんは演技について「自分にある要素を何%出すか微調整する」という発言をされていました。和奈に関しては、小野さん自身から出たものの割合は高めでした?
小野 リアルの部分でいうと、卑屈になったり「リア充め!」という気持ちになるのは、私もすごくわかります。天才アニメーターの部分は難しいですけど、熱中していることがあるのは私も同じで、自分が出てない作品を観て「この役をやりたかった」と思うこともよくあります。
――これだけいろいろな作品に出ていても?
小野 他の人と自分を比べて「いいなー」と羨んでしまって。そういうところは並澤和奈とちょっと似ているので、やりやすい役でした。
――並澤和奈の妬みはリア充に向けられていますが、そこもわかると?
小野 わかります。私も根暗というか(笑)、あまり人とワーッとできるタイプではないので。友だちに「みんなでバーベキューに行った」とか聞くと、「何それ? いいな……」ってなります(笑)。
作品を生むためのケンカは日常茶飯事です(笑)
――『ハケンアニメ!』では新人監督の斎藤瞳やスター監督の王子千晴(中村倫也)を始め、登場人物たちが魂を削ってアニメ作りに取り組んでいます。小野さんが女優の仕事をしている中でも、そういうことはありますか?
小野 ありますね。映画でもドラマでも、ひとつの作品を生み出すために、たくさんの人が自分の役割を一生懸命やっていて。力を合わせながら誰かが怒り出したり、ケンカになることも日常茶飯事くらいで(笑)、『ハケンアニメ!』とすごく似ていると感じました。
――小野さんも夜も寝ないで役のことを考えたりも?
小野 役によりますけど、「何でこんなことを言うのかわからない」というときもあります。自分だけでは解決できなくなると、人に聞いたり、衣装さんに相談したりします。
――演技の相談を衣装さんに?
小野 服から助けてもらうことがあるんです。並澤和奈も衣装や髪型が特徴的で、独自の世界観があって。どこか変わっているところを上手に取り入れてくださって、形から助けていただきました。だから、他の人の力も借りながら取り組むのも、わかるなと思いました。
強くてイヤな女の役は得意な気がします
――小野さんがこれだけ出演作が途切れないのは、自分の何が強みになっているからだと思いますか?
小野 どうなんでしょう? 胸を張れるような強みはないですけど、打たれ強いとは思います(笑)。「いい子いい子」で育ってなくて、尻を叩かれるように「やれ!」と言われたこともありました。厳しいことを言われたり、自分は全然求められていないと思ったりもしながら、長くやらせていただいて。肝はめちゃくちゃ据わって、ちょっとやそっとじゃシュンとはなりません。厳しいことに慣れちゃいました(笑)。そこは「かわいい」と言われ続けた女優さんとは違うかもしれないですね。根性やタフさはあるんじゃないかと。
――役幅も広いですが、自分の中で得意な役柄や苦手な役柄はありますか?
小野 傾向として、強い女は得意な気がします。舞台でご一緒する岩松了さんにも「お前は強くてイヤな女が似合うな」と言われました(笑)。確かにそういう役が多めで、主演させていただいた『プリテンダーズ』でも傲慢な役でした。か弱くてヒョロヒョロした女の子よりは、強めなほうが合うのかもと、最近思います。
――強めな役のほうが自分と重なるからですか?
小野 そうだと思います。私もこう見えて想いが強いタイプだから、自分に近くてやりやすい気がします。
――『プリテンダーズ』ではひねくれた役でもありました。
小野 そうですね。ちょっとひん曲がってしまった感じで(笑)。
――そういう面も自分にあると(笑)?
小野 ありますね。いろいろな人と関わる中で矯正されましたけど、根っこはひねくれがち。一歩間違えたらヤバい人なのを隠しながら、生きているところはあります(笑)。自覚があるから、あまり人と関わらないように家に引きこもって、必要なときだけ出る。SNSをやらない理由もその辺にあります。
普段も感情にフタをしないようにしていて
――最初に池松壮亮さんの話が出ましたが、女優さんでリスペクトする人はいますか?
小野 たくさんいますけど、ずっと樹木希林さんが本当に好きで、作品を観るたびに感動しました。最後まで1本残らず素晴らしくて、ご一緒することもお会いすることもできなかったんですけど、きっと私の中では永遠に最高の女優さんだと思います。
――特に感銘を受けた作品もありますか?
小野 『万引き家族』で子どもたちが家に上ってきて、樹木さんがスリッパを出すんですけど、子どもたちは目をくれず中に入っていって。樹木さんはそのスリッパをどうしようかと、とりあえず手で持って追い掛けていったシーンで「すごーい!」と思いました。たぶんそこまで台本に書いてなくて、プロだなと感じた場面でした。
――小野さんが演技力を高めるために、日ごろからしていることはありますか?
小野 ワークショップとかはあまりやってこなかったんですけど、感情にフタをしないようにしています。すごくイヤなことがあったら、隠さないと日常生活を送れませんけど、家で1人になったら「マジで無理! 本当にイヤ!」みたいな。口にはしなくても、そういう感情は抑えません。感動したらめちゃくちゃ泣くし、ひどいことをされたら「大嫌い!」とか素直に思います。そういう感情はお芝居で使うことがあるから、大切にしようとしています。
違和感をそのままにはしません
――子役時代からだとキャリアは15年以上になりますが、演技のやり方や考え方が変わってきたりはしていますか?
小野 根本は昔から変わっていません。『鈴木先生』の時代に教えてもらったことが、今もずっと活きています。ただ、大人になるほど、人のありがたみに気づきます。自分1人では何もできない。たくさんの人に助けてもらって自分がいることを実感して、感謝するようになりました。
――演技的には、『鈴木先生』の頃から変わらず大事にしていることがあるわけですね。
小野 言葉にするのは難しいんですけど、役の捉え方で自分の感性、感覚は大事にしています。「何となくここは違う」「よくわからないけど、こうじゃない」と感じることは、テストとかであるんです。そこを見逃さないようにするというか。
――違和感を放置しない?
小野 そうです。違和感には絶対理由があるはずで、そのままにしないことは昔から変わってないかなと。まず感覚として捉えて、それを監督に伝えられるように、どう言葉にするか考える。そういうことを1シーンごとにやっています。
ヨボヨボのおばあちゃん役まで続けたいです
――今の小野さんは“若手演技派”的に言われることが多いですが、業界の中で目指すポジションはありますか?
小野 とにかくこの仕事を長く続けたいです。キラキラした時期が過ぎて、どんどん老いても、最終的にヨボヨボのおばあちゃんの役ができたらいいなと。数年先のことより、おばあちゃんまでやらせていただける女優になるために、今をどう生きればいいのか。そういう気持ちのほうが強いです。
――23歳でそんな先のことを見据えているんですか?
小野 近い未来にこうありたい、というのは正直ないですね。爆発的に売れなくても、ヨボヨボになるまで続けられたら、それも人生かなと思います。
――朝ドラでヒロインの友だち役からブレイク、という流れもありますが。
小野 私も『カムカムエヴリバディ』でちょっとそうなるかと思いましたけど、現実的にそんなことはなかったです(笑)。何かが大きく変わることはなく、やっぱり積み重ねなんでしょうね。
――でも、朝ドラ効果はこれからじゃないですか? あと、事務所の先輩の伊藤沙莉さんのように、名バイプレイヤーと言われていたのが、気づけばヒロインも演じているパターンもありますね。
小野 伊藤さんも大好きです。ずっと力はあって、いつこうなってもおかしくないくらいでしたから。私は主演にこだわるわけではないですけど、かと言って、主演をやりたくないわけではもちろんなくて。タイミングごとに面白い役や監督さん、スタッフさんと出会って、一生を終えられたらいいなという感じです。
――一生を終える話は早すぎますけど(笑)、仕事以外に人生で成し遂げたいこともありますか?
小野 お金持ちになりたいです(笑)。というのは、捨てられた動物を救うために何かしたくて。野良猫を1匹1匹拾ってもキリがないので、お金も行動力も人手も必要かなと。動物は無垢で邪気がないので、何とか守りたいんですよね。
――レオナルド・ディカプリオとかブリジット・バルドーとか、そういう活動をしている俳優もいます。
小野 そのためにも女優を頑張ろう、というのもあります。
Profile
小野花梨(おの・かりん)
1998年7月6日生まれ、東京都出身。
2006年にドラマ『嫌われ松子の一生』でデビュー。主な出演作はドラマ『鈴木先生』、『親バカ青春白書』、『カムカムエヴリバディ』、映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』、『のぼる小寺さん』、『プリテンダーズ』など。ドラマ『恋なんて、本気でやってどうするの?』(カンテレ・フジテレビ系)に出演中。映画『ハケンアニメ!』が5月20日より公開。舞台『青空は後悔の証し』に出演。5月14~29日/シアタートラム、6月4・5日/シアタードラマシティ。『おしゃべりな古典教室』(NHKラジオ第2)に出演中。
『ハケンアニメ!』
5月20日より全国ロードショー
出演/吉岡里帆、中村倫也、小野花梨、柄本佑、尾野真千子ほか
原作/辻村深月 監督/吉野耕平 脚本/政池洋佑 配給/東映