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「派手なタイプでなくて」という深川麻衣の出演作が続く理由。「理想と違っても許せるようになりました」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜 ヘア&メイク/白水真佑子 スタイリング/原未來

冬ドラマ2本にレギュラー出演し、4月からは『特捜9』の新メンバーとなる深川麻衣。メインキャストを務めた映画『今はちょっと、ついてないだけ』も公開される。乃木坂46を卒業して6年。女優として着実に歩み続ける背景にあるものは? 31歳を迎えた中での心境や演技での取り組みを聞いた。

何が正解か悩む時間も大切なので

――最近もドラマなど出演作が続いていますが、ここ1年くらいで特に思い入れの深い作品はありますか?

深川 最近まで放送されていた『封刀師』は、以前『日本ボロ宿紀行』でご一緒した藤井(道人)監督とまたお仕事できたこともありますし、アクションやCGが多くて。撮影中は見えていない穢刃(けがれやいば)など、想像しながらお芝居するのが新鮮でした。

――深川さんの役柄は穢刃の事件を追う週刊誌記者で、ミステリー要素もありました。

深川 記者の役も、物語のトーンや世界観も初めてだらけで、楽しかったです。

――『婚姻届に判を捺しただけですが』のしたたかな受付嬢役も、観ていて面白かったです。

深川 周りの方からも「今までにない役だね」と声を掛けていただくことがよくありました。私が演じた麻宮祥子が登場するシーンを面白がってもらえて、ありがたかったです。

――そうした役を演じるうえで、試行錯誤はあったんですか?

深川 ドラマだと撮り始めたときに台本が全部出来上がっていないので、想像して「こうかな? ああかな?」といろいろ試しながらやってきました。何が正解なのか悩みますけど、そういう時間も大切だと思うので、結果的には良かったです。いろいろな役柄に挑戦できて、刺激的な1年でした。

失敗したら後がない危機感は常にあります

――そうやって仕事が続く深川さんは、映画タイトルの『今はちょっと、ついてないだけ』と逆に、つきまくっているみたいですね(笑)。

深川 そんなことはないですよ(笑)。先が全然わからないお仕事ですし、失敗したら後がないかもしれない。結果を残さないと、次に繋げられないんじゃないか。そういう危機感、不安は常にあります。でも最近、前にお仕事した方とまたご一緒できる機会が何度かあって、ご縁が本当に嬉しいです。

――前の作品での演技が良かったから、また声が掛かったんでしょうね。

深川 期待してオファーしてくださったのなら、しっかり応えられなければダメだなと、2回目はまた違う緊張感がありますね。

――そうやって出演作を重ねても、危機感はまだあると?

深川 ずっとあります。でも、危機感がなくなりすぎても、逆に良くないとも思うので。不安とうまくつき合いながら、やっていけたらと思っています。

衣装協力/PHEENY(フィーニー)=シャツ、LENO(グッドスタンディング)=エプロンドレス
衣装協力/PHEENY(フィーニー)=シャツ、LENO(グッドスタンディング)=エプロンドレス

自分の考えを伝えられないもどかしさに共感

『四十九日のレシピ』、『ミッドナイト・バス』に続く伊吹有喜の小説の映画化となる『今はちょっと、ついてないだけ』。秘境を旅する番組で脚光を浴びたカメラマンの立花浩樹(玉山鉄二)は、表舞台から姿を消していた。シェアハウスで仕事も家庭も失った元テレビマンの宮川良和(音尾琢真)、美容サロンをリストラされた瀬戸寛子(深川)、落ち目で復活を望む芸人の会田健(団長安田/安田大サーカス)らと過ごすうちに、心が本当に求めるものを見つけ出そうとする。

――深川さんにも『今はちょっと、ついてないだけ』で演じた瀬戸寛子のような、挫折感を味わった経験はありますか?

深川 人生の挫折というほど大きいものはないかもしれませんけど、心が折れそうな出来事はたぶん誰でもあるように、私も何度かありました。寛子はメイクや美容の技術はあるけど、口ベタでお客さんとのコミュニケーションが取れなくて、美容サロンをリストラされてしまって。自分の思っていることをうまく言葉にできないところは私と似ていて、もどかしさはすごくわかります。

――そうなんですか? 深川さんはデビュー前に接客業のアルバイトをされていて、アイドル時代の握手会でも神対応で知られていたから、コミュニケーションは得意なのでは?

深川 接客とはまた全然感覚が違っていて。仕事上で自分が考えていることを人に伝えるとき、1コ1コの言葉を「これでいいのか?」とすごく考えてしまいます。この作品では、うまく行かなかったことに目を背けたくなる気持ちとか、共感がところどころであって、それを最後には肯定してくれて。演じながら、今までの自分に重ね合わせたりもしました。

大きく変われなくても少しの前進で世界が違って見えて

――寛子には「今思うと(自分への)言い訳だったのかもしれない」という台詞もありました。

深川 後悔している過去も、口にする言葉をちょっと変えたり、発想の転換で肯定できる。見て見ぬふりをしていたことも、自分の人生だと受け入れて前に進める。そういうお話で、その考え方は私も大切にしています。

――役の心情ともシンクロしたわけですか?

深川 人って変わりたいと思っても、なかなか大きく変われるわけではなくて。でも、ちょっとの前進で世界が違って見えたりする。同じ想いを抱えながら生活している人が観て、少しでも気持ちが軽くなったらいいなと思いながら演じていました。

――日常で壁にぶつかったら、深川さんはどう乗り越えるんですか?

深川 全然関係ないことをします。壁にぶつかるのは圧倒的に仕事のことが多くて、向き合うことも大事ですけど、どうにもならないことはいったん忘れて、友だちと会って他愛ない会話をしたり、趣味のことをしたり。それで私はリフレッシュできます。

――寛子を演じる準備でしたことはありました?

深川 前に『おもいで写眞』でもメイクアップアーティストだった役を演じたとき、練習のためにネットでフェイスマネキンを買ったんです。それを使って、また練習しました。自分の顔にメイクするのとは筆圧やタッチが違うし、技術が必要な役は伴ってないと観る方にバレてしまうので。自然にメイクができるように、現場でも角度とか向きとか丁寧に教えていただきました。

感想が届くと撮影中の不安が消し飛びます

――劇中では、どうしてメイクアップアーティストになりたいと思ったのか聞かれて、溢れる想いを語るシーンもありました。深川さん自身にとっては、女優の仕事の喜びとはどんなことですか?

深川 現場でやっているときは必死で、公開や放送されるまでは観る方にどう思われるのか、ドキドキする時間が続きます。でも、感想をいただけると、撮影中の不安が全部消し飛ぶくらい嬉しくなって。それが仕事で喜びを感じる瞬間ですね。

――今までで特に嬉しかった感想というと?

深川 朝ドラの『まんぷく』に出たときは、幅広い世代の方が観てくださって。地方に仕事で行ったとき、きっとそれまで私を知らなかった方から、「吉乃ちゃん」と役名で声を掛けていただきました。そういう経験は今までなくて、嬉しかったです。

――でも、現場ではやっぱり大変なんですね。

深川 楽しいこともたくさんありますが、お芝居には正解がないので。終わってからも「あそこはこうしたほうが良かったかな」とか「もっと他に何かできたんじゃないか」と考え込んで、モヤモヤしてしまいます(笑)。

――ちなみに、アイドル時代はどんなことが喜びでした?

深川 ライブがすごく楽しかったです。目の前にお客さんがいて、熱気を直に感じられるのが大好きでした。女優とは全然別ものですけど、お客さんの反響が嬉しいのは共通点ですね。

――寛子は立花が秘境を旅する番組を観ていたと話してましたが、深川さんは小さい頃、よく観ていたテレビ番組はありますか?

深川 アニメだと『(美少女戦士)セーラームーン』です。私はオレンジの衣装のセーラーヴィーナスが好きで、よく保育園でセーラームーンごっこをしていました(笑)。

親子の関係性にグッときました

――今回の撮影の中で、特に印象に残っていることはありますか?

深川 玉山さんも音尾さんも団長(安田)さんも全員パパなんですよね。同じ年くらいのお子さんがいらっしゃって、どこに通っているとかパパトークをされていたのを聞いて、和んでいました。あと、玉山さんが過去の仕事に絡んでコーヒーを淹れるシーンがあるんですけど、ご自身が料理をよくされているということで、おいしいすき焼きの作り方を教わりました。

――劇中で立花たちが夢を取り戻していくのは、下の世代からはどう映りました。

深川 シェアハウスで出会った立花さんたちが身近で少しずつ、楽しそうに変わっていく姿を見ていたからこそ、寛子も前向きになれたように思います。立花さんと宮川さんが最初はちょっとギクシャクしていたのが、お互いに影響し合って相棒のような関係性になったのは、すごく素敵でした。

――試写を観て、改めて感じたこともありました?

深川 一番グッときたのは、立花さんとお母さんの関係性です。私も小さい頃は父や母は親という存在でしかなかったのが、年齢を重ねて、だんだん1人の人間なんだと思うようになってきて。コロナ禍があって久しぶりに帰省したとき、父が少しほっそりした気がして、ちょっと切なくなったりもしたので、映画で描かれている親子に感動するところがありました。

日常的な役に親近感を持ってもらえたらと

――4月からはドラマ『特捜9』の新シリーズに刑事役で出演されます。相次いで声が掛かるのは、自分の何が強みになっているからだと自己分析しますか?

深川 特別な強みは思い浮かびません。派手なタイプでないので、日常に近い役柄だと観ている方が「実際にどこかで生きてそう」と親近感を持ってくれたらいいなと思っています。強烈なカラーがあることにも憧れますが、何色にも染まれて、いろいろな役を生きるのが自然に映るような人になりたいです。

――そういえば、今泉力哉監督の作品が好きというある女優さんが「私は顔がうるさいから、たぶん世界観に合わなくて出られません。深川さんが羨ましい」と話していました。

深川 本当ですか? 自分ではどういう世界にハマるとか考えたことはあまりなくて。でも、今泉監督の作品に出たときは、特に『パンバス(パンとバスと2度目のハツコイ)』で「素に近い感じだね」とよく言われました。ところどころ当て書きしてくださったのを、そういうふうに見ていただけたのかなと思います。

――自分で映画を観ていて「こういう作品に出たい」と思うことはありますか?

深川 あります。私はまだ女性監督と映画でガッツリお仕事したことがなくて、いつか……と思う方がたくさんいます。この前ドラマでご一緒した大九(明子)さん、世界観が大好きなタナダユキさん。あと、箱田(優子)さんは手掛けている広告も素敵ですね。

30歳になって肩の力が抜けました

――『今はちょっと、ついてないだけ』の公開を前に31歳の誕生日を迎えられましたが、30歳になってから何か変わったことはありました?

深川 肩の力がちょっと抜けた感じがします。私はわりと完璧主義というか、自分の中で「こうなりたい」という理想があって。そこに到達できないと、すごく苦しかったんです。「何でできないんだろう?」と現実とのギャップに悩んでしまいました。でも、それは理想が高すぎることもあるんだと思います。今は全力で向き合った結果なら受け入れて、以前よりは、できない自分も許せるようになりました。

――いい精神状態なんですね。では最後に、最近「ついてない」と思ったことはありました?

深川 寒かった日にコンビニでココアを買ったんですね。しばらく歩いてから飲んだら、機械が壊れていたのか、茶色いお湯状態だったんです(笑)。今さら戻るのも面倒くさくて、そのままにしてしまったのが、ちょっとついてなかったですね。

――ついてることもありました?

深川 タクシーの運転手さんが「道を間違えてしまったから」と、1500円くらいのところを500円におまけしてくれました(笑)。日常ではそれくらいですかね。仕事ではありがたいことがいっぱいあります。

――今までの人生全般ではついていたと?

深川 20歳で乃木坂46のオーディションに受かったことも、今の事務所に入ったタイミングもすごく運が良かったです。出会った友だちとか仕事関係の方とか、本当にいろいろな人に支えていただけて。運にすごく恵まれていることだけは、自信を持って言えます。

撮影/松下茜

Profile

深川麻衣(ふかがわ・まい)

1991年3月29日生まれ、静岡県出身。

2011年に乃木坂46の1期生オーディションに合格。2016年に卒業して、本格的な女優活動を開始。主な出演作は映画『パンとバスと2度目のハツコイ』、『愛がなんだ』、『おもいで写眞』、ドラマ『まんぷく』、『日本ボロ宿紀行』、『まだ結婚できない男』、『青天を衝け』、『婚姻届に判を捺しただけですが』など。4月6日スタートのドラマ『特捜9 season5』(テレビ朝日系)、4 月8日公開の映画『今はちょっと、ついてないだけ』に出演。

『今はちょっと、ついてないだけ』

監督・脚本/柴山健次 原作/伊吹有喜 配給/ギャガ

4月8日より新宿ピカデリーほか全国順次公開

公式HP

(C)2022映画『今はちょっと、ついてないだけ』製作委員会
(C)2022映画『今はちょっと、ついてないだけ』製作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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