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『突然ですが占ってもいいですか?』が3年目に突入。予測不能の発進から人気番組となった裏側

斉藤貴志芸能ライター/編集者
MCの沢村一樹、水野美紀、池田美優 (C)フジテレビ

凄腕の占い師たちが有名人や一般人の過去から未来まで占っては、次々とLOCK-ON(的中)させて話題を呼ぶ『突然ですが占ってもいいですか?』(フジテレビ系)。2020年に占い番組は皆無だった中でスタート。当初は否定的な声も少なくなかったが、人気が広がり、今月から放送枠を変えて3年目に突入する。躍進の裏でどんな取り組みがあったのか? 番組を企画したフジテレビ編成部の春名剛生氏と坪井理紗プロデューサーに聞いた。

「過去にフォーカス」で他人ごとでない共感を

 『突然ですが占ってもいいですか?』はもともと、フジテレビ社内での企画募集に春名氏が応募したのが原点。番組演出スタッフや放送作家らといろいろな案をブレストしていた中で、占いが俎上に載った。

春名「総合演出の渡辺剛から『すごく当たる占い師に会った』という話題が出たんです。『女性スタッフが占い師を前にすると、みんな見たことのない顔をして、聞いたこともないプライベートな話を始める』とも聞いて、アイデアが膨らんでいきました」

 その時点から重視していたのが、占いながら「過去にフォーカスを当てる」こと。

春名「誰でも自分の未来には興味ありますけど、当人以外にとっては他人ごと。でも、その人の過去を初めて会った占い師がズバズバ当てたら面白い、というのが最初の発想でした。街の酒場に占い師が繰り出して、4~5人のグループの1人の過去を当てていく。他の人が『どうしてわかるの?』となっても、本人が『それは秘密だから言わないで!』となっても、大きな驚きが生まれると思ったんです。そんな占いができるものか、渡辺に聞いたら『できる』と言うので、企画書にしていくことになりました」

 この企画が通り、2020年の1月3日の深夜にパイロット版の『突然ですが占ってもいいですか?in赤羽』が放送された。現在も出演する占い師の木下レオンとゲッターズ飯田の弟子のぷりあでぃす玲奈が赤羽に出向き、街にいる一般人を占った。

坪井「現場で何がどうなるのか、全然わからなかったです。台本も何もないまま、占い師さんや制作スタッフと撮影をスタートしました」

 だが、木下レオンが居酒屋で27歳の保育士を占い、「最近別れがあった」「相手は背が高い男性」「長くつき合っていた」などと次々に的中させたりと、驚きの連続に。

春名「想像以上に人の心の動きが出ました。誰でも人生に悩みや葛藤があって、その人なりに乗り越えてきている。それは全然他人ごとではなく、自分にも当てはまって共感を生む。そこが面白いんだと、やってみてわかりました」

春名剛生氏(左)と坪井理紗氏(撮影/S.K.)
春名剛生氏(左)と坪井理紗氏(撮影/S.K.)

占い師はスタッフを占ってみてから起用

 パイロット版の『in 赤羽』は好評を博し、2020年4月から水曜22時枠でレギュラー放送がスタート。コンセプトは踏襲し、当初は占い師が街に出ては、一般人に占いを持ち掛ける内容だった。企画の原点通り、運勢を見るのがメインでないことも貫かれた。

春名「自分の身近にいるかもしれない方々に、1人1人の人生ドラマがある。それを見ていく番組、という趣旨でした」

 占い師はパイロット版に続き、四柱推命、九星気学、神通力を融合した帝王占術の木下レオン、ゲッターズ飯田直伝の五星三心占いのぷりあでぃす玲奈が登場。第3回からオリジナルの天星術を駆使する星ひとみ、第6回から琉球風水志のシウマ……と加わっていった。

坪井「シウマさんは携帯番号の下4ケタを足した数字による占いでテレビに出演されていて、私も一度ご一緒したご縁でお願いしました。『出たい』と連絡してくださる占い師さんもたくさんいらっしゃるので、お会いさせていただいて、まずスタッフたちを実際に占ってもらっています」

コロナ禍で一般人から芸能人がメインに

 裏番組が『水曜日のダウンタウン』(TBS系)や日本テレビ系のドラマなど強力なこともあり、第1回の世帯視聴率は6.5%と順調な滑り出しではなかった。ネットでは「今さら占い?」「知らない一般人を占っても」といった声や、「打ち切り危機」と伝えるニュースも。

春名「当時は占い番組がまったくない状態で、どうしても『台本があるんじゃないか』といった見られ方をされがちでした」

坪井「ただ、MA(整音作業)のときに、出演いただいた方の人生に共感して泣いているスタッフもいたので、手応えはありました」

 だが、レギュラー放送が始まる直前に、コロナ禍による最初の緊急事態宣言が発令され、街に出て占いをするフォーマットは続けられなくなった。夏の放送分から、芸能人をゲストに招いて占うのがメインになっていく。

坪井「現場では、一般の方の撮影と変わりませんでした。芸能人の方も生年月日、血液型、芸名なら本名など、必要な情報を占い師さんに渡すだけ。どうなるかは一般の方と同様、撮ってみるまでわかりません」

春名「タレントさん側には、台本や打ち合わせがなくて驚かれることはあります(笑)。観る側からすると、どういう人か知っているので、入りやすさはあるかと。人生ストーリーを見てきた分、『こんなことで悩んでいたんだ』と知ると、感じるものはより大きいと思います」

木下レオン(フジテレビ提供)
木下レオン(フジテレビ提供)

“ドキュメンタリー+特殊なトーク番組”となって

 春名氏が印象深かったゲストとして挙げるのが、2020年9月に放送されたFUJIWARA。星ひとみによる占いで、2人の性格から、藤本敏史の住む家の部屋番号を足すと10になること、原西孝幸の妻との馴れ初めなど次々にLOCK-ONしていき、過去のコンビ解散危機の話にまで広がった。

春名「お2人の芸人さんとしての生きざまが初めてくらい垣間見えて、笑えるところ、ドキッとするところ、泣けるところと、いろいろ詰まっていました。ドキュメンタリーのようで、タレントさんの占いに対するそういう見方があそこで始まった感じがします」

 以後、仲里依紗が夫の中尾明慶との相性の話で、秘めた不満をぶつけつつ照れたり、華原朋美が過去の苦難を泣きながら話したりと、占い番組でありつつ、まさにドキュメンタリーの様相を見せていった。

 また、占い師たちはジャニーズのアイドルにも「変態線がすごい」などと忖度がない。

坪井「占い師さんだから言えることですね(笑)」

春名「『占いの結果』というところから入って、普通なら聞けないことを聞ける感じです。占い師がインタビュアー役の特殊なトーク番組になってきたと思います」

星ひとみ(フジテレビ提供)
星ひとみ(フジテレビ提供)

的中がニュースになり見逃し配信の再生数が急上昇

 そうこうするうちに視聴率も上向き、10%台になることも。同時に、TVerでの見逃し配信の再生数の多さが目を引く。ストーリーのある連続ドラマと比べて、バラエティの再生は全体的に少なめで、10万に届かないことも多い。

 だが、『突然ですが占ってもいいですか?』では2021年11月放送の2時間スペシャルの73万回再生を始め、60万回以上を4回記録するなど、毎回コンスタントに高い。2021年下半期では、フジテレビの全レギュラーバラエティで2位だった。

春名「やっぱり、この番組でしか聴けない話があるのは、強みになっていると思います」

坪井「それから、占いが当たっていたとき、後から再生数が増えるようです。『星さんの占い通りになった』とか、ツイッターでよく見ます」

 実際、「『突占』が的中」とニュースになることは少なくない。昨年11月10日の放送で、シウマがすみれに対して「2021年に結婚の運勢が高まっている」「2022年は子宝に恵まれる可能性が高い」と占ったところ、11月25日にすみれが結婚と妊娠を発表したり。

シウマ(フジテレビ提供)
シウマ(フジテレビ提供)

 最近では、3月2日の放送(収録は昨年末)で読売ジャイアンツの岡本和真が星ひとみに「ラッキーカラーは紫と黄色」と言われ、紫のリストバンドを付けて臨んだ同日のオープン戦で2本のホームランを打った。やはり番組の源となっているのは、占い師たちの力。

坪井「鹿賀丈史さんや市村正親さんのように『占いは信じない』とおっしゃっていた方も、占い師さんの言葉が当たった途端、『そうなんですよ』と全部話してくださいました」

春名「星さんがよく『○○区の星が入っている』と今の住まいや昔住んでいたところを当てていて、マネージャーさんも『知らなかった……』とビックリしていることもあります」

 占い師たちがどうしてそこまで当てられるのかは、2人とも「不思議です」としか言いようがないらしい。

 番組では一般視聴者のリモートによる占いも行っているが、応募は25万人を超えている。スタート時点では他になかった占い番組が、他局でも始まるようになっていった。

書籍、カレンダー、アプリ…関連商品も相次ぎヒット

 番組からは占いに関する書籍、カレンダー、アプリも生まれ、ヒットしている。2020年9月発売の『とにかく運がよくなりたい!』では木下、星、ぷりあでぃすによる運をよくする言葉、行動、習慣や開運ファッションなどが記され、17万部を売り上げた。2021年4月発売の『とにかく「運のいい」家に住みたい!』は、家相占い師・村野弘味が家にまつわる開運ポイントなどをまとめて7万部。

 同年11月には、『とにかく「運がいい日」がわかるカレンダー 2022』を発売。1年間のラッキーな日がひと目でわかり、星、木下、シウマ、ぷりあでぃすによる運気が上がるスポットも紹介された。売上げは8万部。このカレンダーのアプリ版のダウンロード数は、3月中旬時点で43万に達している。

坪井「番組をやっているうちに、単純に自分が欲しいと思ったものを商品化しました。家相のことが1冊で全部わかったらいいな、とか」

春名「カレンダーも、いろいろな歴を別々に調べなくても済むように、ギュッとまとまっていたらと思って作りました」

 アプリでは先月から、自分の生年月日を入れて占い師を選ぶと、個人に特有の運の良い日や毎日、毎月の運勢がわかる有料プランも追加された。

『とにかく運がよくなりたい!』(扶桑社刊)
『とにかく運がよくなりたい!』(扶桑社刊)

放送枠が変わっても大事なのは人生ドラマ

 いろいろな意味で優良コンテンツとなった『突然ですが占ってもいいですか?』。4月4日から番組の放送枠は月曜23時~に移る。

春名「ターゲットにしている女性層が、月9、月10のドラマの視聴層に近いんです。だから、より観ていただきやすくなって、“月曜の夜はずっとフジテレビ”みたいになればいいなと思います」

坪井「遅めの時間になって、今までとまた違った視聴者の方が増えるんじゃないかと期待しています」

 さらに、4月11日からはTVerで同時配信(追っかけ再生も含む)も始まり、スマホなどで生活に合った視聴もできそうだ。番組の内容や作り方には変化はあるのだろうか?

春名「人生ドラマであることは変わらず大事にしたいです。それがテレビショーになっていないといけないんですけど、演出はしません。やってみないとわからないので(笑)。実は毎回、1組に1時間半とか2時間、(カメラを)回しているんです。撮れ高が全然予測できないので、毎回ドキドキしながら収録しています(笑)」

坪井「海外の方をたくさん占ってみたい、というのはあります。一度、韓国からTWICEさんにリモートで出てもらって、同時通訳で収録できたので。外国の俳優さんもいいですし、一般の方でも海外だともっと波乱万丈な人生がある気がします」

『運がいい日がわかるカレンダー』アプリ (C)フジテレビ
『運がいい日がわかるカレンダー』アプリ (C)フジテレビ

いつかまた街にも出て余韻が残る番組に

 コロナ禍が落ち着いてきたら、当初のコンセプトに戻り、一般人が中心になるのかも気になるところ。

春名「街に出てはみたいです。東京で何ヵ所か行って、終わってしまったので。もともと『大阪の飲み屋街で占ったら面白そう』とか考えていたんです。番組を2年やりましたけど、まだやってないことも意外とあります」

 最後に改めて、番組が人気を呼ぶ理由をどう捉えているか、2人に聞いてみた。

春名「人の人生の物語ではあるけど、同時に自分の人生の物語でもあることですかね。芸能人でも同じような悩みを抱えて、一生懸命頑張っている。それが自分に跳ね返るのかなと思います」

坪井「自分とは違う考え方やいろいろな想いをしている人がいるんだと、ハッとしたり共感させられます。あとは占い師さんたちの言葉が、観る方にも刺さるのだと思います」

春名「これからも気持ち良く観終われて、何か余韻が残るような番組にしていきたいですね」

『とにかく「運がいい日」がわかるカレンダー 2022』(扶桑社刊)
『とにかく「運がいい日」がわかるカレンダー 2022』(扶桑社刊)

『突然ですが占ってもいいですか?』

フジテレビ系/月曜23:00~23:40

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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