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「できないことがあるのが嬉しい」 殺陣に挑戦中の高柳明音がSKE48を卒業して目指すもの

斉藤貴志芸能ライター/編集者
エイベックス提供

4月にSKE48を卒業した高柳明音。間髪入れずに舞台出演を続け、ヒロインを演じる『ナナシ2021』では本格的な殺陣に挑戦する。上演を前に30歳を迎えた中、この舞台と女優業への取り組みから人生観まで語ってもらった。

ゆっくりしている暇はなかったです

――SKE48を卒業して8ヵ月になりますが、生活その他、変わったことは多いですか?

高柳 仕事が東京中心になってコロナ禍もあって、あまり名古屋に帰れなくなりましたけど、今は『ナナシ2021』の稽古を名古屋でやっているので、実家で過ごしています。東京だと外食していたのが、家にまっすぐ帰って、母の作った夜ごはんを食べて寝ていて(笑)。それが大きいかもしれないですね。東京では週2くらいでラーメンを食べていたんです。名古屋は電車の便が悪くて、車でないと行けないお店が多いから、最近はあまりラーメンにありつけていません(笑)。

――卒業後に舞台が4本続いていますが、ゆっくりした期間はありませんでした?

高柳 まったくないです。『ナナシ』も含め、去年できなかった舞台が今年に回ってきて、ギュンギュン詰まるのはわかっていたので。ゆっくりしている暇はなかった感じでした。

――『ナナシ2021』で取り組んでいる殺陣は、以前にも経験はあったんですよね?

高柳 『戦国BASARA』でなぎなたを少し扱いました。でも、私を守ってくれる役の人がいたので、自分が手をくだすことはほとんどなくて。そのときにお世話になった方々が今回の舞台に呼んでくださって、改めて殺陣を教わっています。

殺陣は覚えてもどんどん変わります

――『ナナシ2021』はアクションエンターテイメントということで、殺陣は本格的なんですよね?

高柳 もう殺陣ばっかりです(笑)。(取材日時点で)稽古が始まって2週間で、7割くらいが殺陣で大変でした。私の殺陣のシーンは5~6ヵ所あって、最初の3日間で全部入れて、4日目に「全部おさらいします」と言われたら、3日前に教わったことが入ってなかったり。もう1回全部覚え直しましたけど、新たにプロの方が稽古に参加されて「ここはこうしたほうがいいよね」となると、覚えたものがどんどん変わっていく状況です。それでまた新たに覚えて、ようやく、ひと山乗り越えました。

――できなかったことができるようになったとか?

高柳 体に馴染んだ感じですかね。「何でこの動きなの? なぜ右足でなくて左足なの?」みたいに戸惑っていたのが、ようやくスムーズに動けるようになりました。殺陣は考えるとわからなくなっちゃうんですよね。

――体のどこかが痛くなったりもしますか?

高柳 普通の殺陣は右手で斬ることが多いのが、私の役は左手も結構使うので、利き手でないから筋肉痛になったりはしました。それも乗り越えて、今は痛くないです。心も折れていません。

中国武術っぽく可憐に舞って

――「心が折れない」と言っても、殺陣が簡単にできるわけではないんですよね?

高柳 全然。私はできないことがあるほうが嬉しいタイプなんです。できることだけだと自分の範囲内になってしまう。できないことがあると「どうやろうか?」と燃えて、できたときの喜びも大きいので。SKE48のときは、できることを後輩に教えることが多くて、自分が「これをしなさい」と高いハードルを与えられることがそんなになかったから、殺陣はすごく新鮮です。

――その道のプロに追い付かないといけないプレッシャーもないですか?

高柳 できる方たちの中に飛び込む不安はありましたけど、できるようになれば楽しいだろうなと。自分の知らない土地に来て、どう馴染んでいくか、という感じです。皆さんが誉めて伸ばそうとしてくださっているみたいで、ありがたいです。できないと「ハイ、それダメ~」と言われますけど。

――予告動画を観ると、高柳さんが演じる朱雀は優雅な動きをするようですね。

高柳 中国武術っぽく、可憐に舞う感じの殺陣が多いです。カン、カン、カンというよりは、クルン、ヒラッ、ブシュ、みたいな(笑)。衣装もスカートがヒラッと開くように作ってくださったらしくて。他の方は日本刀やなぎなたを振るう中で、私だけがそういう動きをして術も使います。自分の使う術で、アンサンブルの子たちがワラワラ出てきて、私の影として敵と戦ってくれるのは楽しいです。

女性の強さを見せながら初々しい恋愛も

――朱雀は愛した人の仇を討とうとしている役です。

高柳 女性の強さが描かれています。12年前に上演された『ナナシ』でも朱雀は強い女性だったのを、時代の中で女性の見え方も変わったのを表現するために、脚本が書き換えられたそうです。

――そういう役を演じるのは望むところ?

高柳 そうですね。私もメンタルは強く生きていこうとしているので。朱雀は台詞も全部強めで、相手が誰だろうと自分を曲げない役なので、意志の強さを感じる立ち居振る舞いをしたいと思っています。その中で、愛した人を亡くした辛さや繊細さも出していけたらと。力を与えられて朱雀になる前の恋愛シーンは1人のかわいい女の子として、演じ分けてもいます。

――振る舞い方を変えて?

高柳 朱雀は復讐心で生きていてシャキッとした感じで、恋愛のシーンでは無邪気なところも見せます。そこくらいしか、笑顔がない役なので。

――以前、「お芝居の恋愛シーンで実際に恋愛してないことがバレる」という話がありました。

高柳 今回は初々しい恋愛なので大丈夫です(笑)。二股とか別れた夫と今のダンナが鉢合わせとか、大人な恋愛は経験なさすぎて難しかったんですけど、お互いを純粋に好きで、ちょっと照れ隠しをするようなレベルなら問題ありません。

――そういう恋愛は経験あるから?

高柳 経験ある・なしに関係なく(笑)、素直にやっています。

『ナナシ2021』で演じる朱雀は暗殺者集団の1人(撮影/小島マサヒロ)
『ナナシ2021』で演じる朱雀は暗殺者集団の1人(撮影/小島マサヒロ)

稽古で疲れて帰るとすぐ寝てます

――殺陣の練習のお手本用に撮った動画に稽古場の壁がずっと映っていた、というツイートもありましたが(笑)、家でも練習しているんですか?

高柳 アイドル時代から映像を観て覚えるのは慣れています。でも、家の中で傘とかを振り回したら、母に怒られるので(笑)。練習したいと思ったら、稽古場に30分早く入っておさらいとか、なるべく動ける状態でやるようにしています。そのためにも、家に帰ったら、すぐ寝ていて。実家だからできることですね。

――今回に限らず、舞台の稽古期間に入ると、自分のモードが変わったりはしませんか?

高柳 作品によりますね。今回は毎日体を使って疲れて帰ってくるので、12時前には寝ちゃいます。体力的に大丈夫な作品だと、稽古後によくラーメンを食べたりしていました(笑)。

――もともと女優業の中でも舞台をやりたかったんですか?

高柳 舞台はグループ時代からずっと並行してやってきて、好きなので今後もやっていきたいと思ってます。でも、今年は去年やるはずだった作品も含めて舞台ばかりになっていて。来年はまた違う形のお芝居もやりたいです。

「お前が一番できてない」と言われて

――48グループ出身の方はダンスや歌のレッスンは受けても、演技に関しては現場で磨いてきたんですよね。高柳さんは最初から馴染めました?

高柳 楽しいなと思いました。自分の人生しか生きられないって、もったいない気がするんです(笑)、いろいろな役と出会って、自分と違う人生を生きられるのは、すごくいいなと思います。

――特にやり甲斐を感じた作品もありますか?

高柳 ひとつひとつに思い出がありますけど、私がミステリーを好きになったきっかけは、今年も新作をやった『FISH』シリーズです。3年前に『ONLY SILVER FISH』に出させていただいたとき、自分の価値観が変わりました。お客さんの考察があったり、演出家さんが台本にも書かれていない伏線を張って、最後に回収するのがすごく面白くて。

――難しくて悩んだ作品もありました?

高柳 恋愛してないのがバレると言われたのが、『FISH』シリーズの2作目の『+GOLD FISH』で、こればかりはどうにもできないと思いました(笑)。一番大変だったのは、たぶんSKE48でやった『AKB49~恋愛禁止条例~』ですね。グループで初めてのミュージカルで、演技の素人の私たちがビシバシしごかれて、私はノドも潰してしまって。体的にも大変でしたし、「お前が一番できてない」とも言われました。

――演技的なダメ出しがあって?

高柳 私の役は圧倒的なボス感がないとダメだと。私はヒール役が結構多くて、力の強さを醸し出さないといけないのは難しいです。立ち向かっていくほうが立ち向かわれるより楽で、演出家さんによって求めるものも違う。いつも「今回の正解はこれ」と突き詰めていく感じです。

自分だけど自分でない感覚になって

――これまで演出家さんなどに言われて、刺さった言葉や演技の糧になった考え方はありますか?

高柳 コロナ禍に入って久々にやった舞台が『単純明快なラブストーリー』で、そのときの演出家さんが「高柳さんは映像に絶対向いている」と言ってくれたのは、すごく嬉しかったです。本当に等身大の役で、私くらいの年齢の女の子が普通に恋愛して、同棲して、別れがあって。自分なんだけど自分でない。でも自分、みたいな(笑)。現実との狭間が曖昧で、舞台上で生活しているところを見てもらったような作品で、普通の舞台と違う感じの作りでした。

――普段から演技力を上げるためにしていることもありますか?

高柳 映画を観たり、観劇をしたりはしています。知り合いや仲がいい子が出ているのを観て、刺激を受けたりはしますね。最近も松井玲奈ちゃんが出ている舞台『ジュリアス・シーザー』を観に行って、すごいところで戦っているなと感じました。

――女優として大活躍中の玲奈さんの演技から学んだことも?

高柳 そういうときは、あまり演技を意識しないで、物語を楽しむようにしています。「今の出ハケはどうやったんだろう?」とか考えてしまうと、物語が入ってこなくて、本当のところが逆に見えなくなるので。

――映画もよく観るんですか?

高柳 DOKUSOさんで映画の連載もさせていただいているので、昔の名作も新作も観ています。最近だと、細田(守)監督の『竜とそばかすの姫』がめちゃめちゃ良くて。音楽が軸のアニメ映画っていいなと思いました。今は家でも配信でいろいろ観られるので、韓国の作品を観て「面白いな。演技がすごいな」と思ったりもします。

――韓国の映画やドラマは、演じ方が日本と違うと言われますね。

高柳 そんな専門的には観てないかもしれません(笑)。でも、韓国の作品は伏線を張るのがうまくて、私はそういうのを解いていくのが好きなので、『パラサイト 半地下の家族』とかも面白かったです。日本の作品でも、『Nのために』とかミステリー系をワーッと観たりしました。

人生に飽きないようにしたい

――高柳さんも30歳になりましたが、ラジオの『生まれてこの方』では「変わらずにやっていく」とのお話でした。

高柳 誕生日といっても人生の一瞬ですから。「何歳までに何がしたい」とかは全然考えていません。周りに「普通は何歳ならこうでしょう?」と言われても、何が普通とか思いたくなくて。「何歳までに」というより、死ぬまでにいろいろできたら。今は難しくても、生きているうちに海外のいろいろなきれいな景色を見に行くとか。自分の人生に飽きないようにしたいです。

――年齢を重ねることには、特に感慨はなく?

高柳 そうですね。SKE48にいた頃は選抜総選挙があって、誕生日より、そこで1年の成績をつけられる感覚でした。「今年は頑張って良い1年だった」と思うときもあれば、真逆のときもありましたけど、今はそういうものもないので。

――仕事に関しても、焦りとかはなく?

高柳 それはもちろんあります。焦りというか、「このままでいいのか?」とか「ああしたい。こうなりたい」ということは多いです。言葉にするのは難しいんですけど。SKE48から12年やってきて、満足したことは一瞬もありません。アイドルとしてはやり切りましたけど、常に「このままじゃダメだ」と思っていました。今も全然まだまだなので、ゴールはないのかもしれません。それでも、やるしかないなって感じです。

Profile

高柳明音(たかやなぎ・あかね)

1991年11月29日生まれ、愛知県出身。

2009年にSKE48の第2期メンバーオーディションに合格。2ndシングル『青空片想い』以降、全シングルで選抜入り。2021年4月に卒業。グループ在籍中から数々の舞台に出演してきた。主な出演作は舞台『+GOLD FISH』、『斬劇「戦国BASARA」天政奉還』、『単純明快なラブストーリー』、『あやかし緋扇』、朗読劇『ラヴ・レターズ』、映画『ONLY SILVER FISH』、ドラマ『金の殿~バック・トゥ・ザNAGOYA~』、『ショクバの王子様』など。『高柳明音の生まれてこの方』(ラジオ日本)でパーソナリティ。

30-DELUX NAGOYA アクションクラブ MIX『ナナシ2021』

12月9日~12日/中川文化小劇場

12月17日~19日/近鉄アート館

12月25日~28日/新国立劇場小劇場

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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