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アイドルの意地と強さ。ラストアイドルの総当たり496戦、名勝負を生んだ高3コンビが語る激闘の裏側

斉藤貴志芸能ライター/編集者
ラストアイドルの橋本桃呼(左)と小澤愛実(撮影/松下茜)

毎回シングル発売前に過酷な挑戦に臨むラストアイドル。今回はメンバー32名の総当たりによる全496試合のパフォーマンスバトルから、選抜メンバー17名を決定。さらに指名制で立ち位置を賭けた1対1の対戦が行われた。その中でも、センターの隣りを巡る小澤愛実と橋本桃呼の連戦は屈指の名勝負に。経歴は違うが共に18歳。今後のグループを支える存在でもある。

大きい声で内容のない話をする2人でした(笑)

――総当たりからの『ラスアイサバイブ』で名勝負を繰り広げた2人ですが、1期生と2期生でどんな関係ですか?

小澤 前回のカップリングを歌ったオレトクナインで一緒になって、やっと桃呼といっぱい話せました。

橋本 MV撮影で3人ずつに分かれたときも、愛実さんと同じグループだったので。

小澤 2人とも声が大きいよね(笑)。

橋本 それで、あまり内容のない話をしていました(笑)。

小澤 レコーディングの帰りも電車がちょっと一緒で、駅で「恐竜のポスターが貼ってあるね!」とか(笑)、はしゃいでました。

――桃呼さんはラストアイドルに入る前は、シュークリームロケッツとかで愛実さんをどう見ていたんですか?

橋本 「かわいーっ!」と思ってました(笑)。あと、テレビからでも伝わるくらいやさしい雰囲気で、同い年ですけど言葉のひとつひとつ、頭がよろしいしゃべり方をされていました。

小澤 頭は悪いです(笑)。

橋本 ラストアイドルに入ってからも、すごくしっかりしてらっしゃるなと思って、10歳か20歳年上な感じがします(笑)。

小澤 そこまで上だと老いちゃうから、やめて(笑)。

――愛実さんは桃呼さんが2期生センターで入ってきたときは、どんな印象でした?

小澤 テレビで2期生のバトルを観ていて、合宿で「この子は何か違うな」と感じました。パフォーマンスがガッと印象に残ったし、「絶対にセンターを獲る!」という意志の強さも伝わって。自分を持っている感じで、かっけーなと思いました(笑)。

仲間と戦うのは心苦しくても、やるしかないので

――毎回いろいろな企画に挑戦するラストアイドルですが、今回のメンバー総当たり戦はどう受け止めました?

小澤 イヤだけど、やるしかないって気持ちでしたね。殺陣もボリウッドダンスも「何か残して終わりたい」と前向きに入りましたけど、今回は周りから「そんなに乗り気でないのは珍しいね」と言われました。

――何が抵抗あったんですか?

小澤 私はラストアイドルが大好きで、家でもママとメンバーのことを話すくらいなので、1対1で戦うのが心苦しくて。特に2期生と戦うのは初めてで、私の中ではあまり先輩・後輩と分けていなくても、何か変な感じがして。でも、2期生に不甲斐ない姿は見せられないと、気が引き締まりました。

橋本 私もまずイヤだなと思いました。初めましての方とのバトルなら割り切れても、いろいろな企画を通して絆が深まった仲間と1対1というのは「うーん……」と。ただ、私はずっと非選抜で、ラストアイドルに貢献できてなかったので、チャンスが巡ってきたのはありがたかったです。歌やダンスを見せるのはすごく好きで、1人で披露できる場所がなかなかなかったから、貴重な経験になりました。

必要とされてなくても這い上がろうと

――桃呼さんは『愛しか武器がない』で2期生のWセンターを務めて以降は、脚光が当たらない時期が続きました。やっぱり悔しい思いもしましたか?

橋本 メディアに出るのは選抜メンバーだし、非選抜は孤独で疎外感がすごくあって。『ミュージックステーション』に選抜メンバーが出ていたときは、仲間として応援しないといけないのに、辛くて観られませんでした。そういうことが結構あって、「私はラストアイドルに必要な存在ではないんだ」と思ったりもしました。

――パフォーマンスには自信があっても?

橋本 最初の頃は謎の自信があって、「自分は何かできる」と思っていましたけど、いろいろ経験するたびに、逆に「自分は何もできない人間なんだ」と思えてきました。ご指摘をいただく中で、自分をガツガツ出すのは良くないのかなと悩んだ時期もあって、ずっとダウンしていた感じです。

――心が折れそうになることも?

橋本 ありました。本当に落ち込んで、もう卒業しようと考えて、スタッフさんにも話しました。踏みとどまったのは、ファン投票でオレトクナインに入れたからです。「桃呼には絶対頑張ってほしい」というメッセージを、いつも応援してくださっている方はもちろん、そうでない方からもたくさんいただいて。そこでやっと、「私はまだラストアイドルにいてもいいのかも」と思えて、立ち直りました。

――推しでなくても、ラストアイドルの未来のためには桃呼さんが必要と考えているファンの方が多いんでしょうね。

橋本 自信はないままでしたけど、『ラスアイサバイブ』は「這い上がってやろう!」という気持ちで臨みました。

一度フロントに立ったら後戻りはできません

――愛実さんは順調に選抜入りを続けて、『何人(なんびと)も』に『君は何キャラット?』とフロントに立ちました。

小澤 『愛を知る』のオーディションで8位になったときは満足なくらいでしたけど、ラストアイドルは人数が多いから、ファンの皆さんに「愛実はどこ?」と探す苦労はさせたくなくて。すぐ見つけてもらえる立ち位置になりたいというのは、毎回思っています。それで「こんな私でも、もっと上を目指してもいいのかな」という気持ちが芽生えました。『何人(なんびと)も』の殺陣は、もともとアクションはやりたかったので気合いがより入ったし、『君は何キャラット?』のボリウッドダンスもガムシャラにやりましたけど、一番はファンの方に喜んでもらいたかったんです。一度この位置に私が立つ景色を見てもらったら、もう後戻りはできないと思うようにもなりました。

――では、今回は最初から3位以上くらいを目指していて?

小澤 フロントに立ちたい、というのはすごくありました。でも、選抜に入るだけでも難しいのはわかっていたので。10何勝すれば入れると聞きましたけど、自分がそんなに勝つ想像が、始まる前はまったくできませんでした。でも、勝たせていただくことが増えるにつれて、「この勢いで行っちゃえ!」と。パフォーマンス的には納得いかないことが多くても、上げて上げてメンタル的に落ち込まないように心掛けました。

――毎回の対戦相手について短歌を作るのも、大変だったのでは?

小澤 もともと短歌キャラで行きたくはなかったんです。『NHK短歌』に出させてもらうようになってから、定期公演でも「今の気持ちを短歌で」とかムチャ振りされますけど(笑)、私はまだその場では作れなくて、何日も考えて、やっと一首なので。でも今回は、私が歌って踊るだけだとインパクトがないと思ったんです。とりあえず初日の3試合だけ試しで作ったら、ファンの方たちが「今度の○○ちゃんはどんな短歌かな?」と盛り上がってくれて。途中でやめたら、メンバーも「私の短歌は?」となっちゃうので、最後まで続けました。

圧倒されてもいい勝負には持っていこうと

――桃呼さんは総当たりでの9位という結果に、満足できました?

橋本 選抜に絶対に入りたくて、その難しさはこの数年で身に染みていたので、まず目標はクリアできました。9位というのは、今の自分の実力なんだろうなと。

――立ち位置バトルで2番の愛実さんに挑戦したのは、センターの阿部菜々実さんの隣りに立ちたいとのことでした。

橋本 そうです。選抜に入れたら立ち位置2番を狙うのは、ずっと決めていました。でも、愛実さんには総当たりのときから、勝てる見込みはないと思っていて。

小澤 私は総当たりで桃呼と対戦したときも、バクバクだったよ。

橋本 ホントですか?

小澤 『ラスアイサバイブ』での桃呼の勢いはものすごくて! もともとスキルが高いうえに、1人だけアクセルをブンブンかけてきて(笑)、桃呼相手に何をしたらいいのかわかりませんでした。立ち位置バトルでも、桃呼は普段から「菜々実さまーっ!」って感じなので(笑)、隣りの2番に来るのは感づいていて。

橋本 ハハハ(笑)。

小澤 だから覚悟はしていましたけど、いざ自分の名前を呼ばれると、その覚悟は一瞬で崩れました。でも、やるしかない。私も「何で小澤が2番なんだ?」と言われないように、桃呼に圧倒されても、いい勝負には持っていきたいと思っていました。

もう「私なんか」とは言ってられなくて

――最初の入れ替えバトルでは、9番の桃呼さんが2番の愛実さんに勝利しました。

小澤 緊張がすごくて、声が伸びやかに出ないとか細かいところが全然ダメ。アイドルを4年やっても、まだまだ未熟だと実感しました。

――すぐ「絶対取り戻しにきます」と、涙ながらに負けん気を見せていました。

小澤 負けて9番になって、7番を指名したりする想像はできなくて。桃呼には申し訳ないけど、2番に行くしかないと思いました。あの場ではアドレナリンも出ていて、楽屋に戻ってから「何で取り戻すなんて言っちゃったんだろう?」と悩みましたけど、やっぱり一番考えたのはファンの方のことだったんです。暫定2位は自分の力でなくて、ファンの方に投票いただいて、励ましのメッセージやアドバイスも送ってくださって、みんなで掴み取ったもの。それで立たせてもらった2番から落ちたのは申し訳なくて。ここは頑張って、また桃呼に挑戦させてもらいました。

――単純に悔しさもありませんでした?

小澤 不甲斐なさはすごくありました。暫定で2位になって、皆さんも「小澤が?」となったでしょうけど、自分でも私には高すぎる順位だと思っていて。でも、いつまでも「私なんか」という気持ちでいたら、皆さんにも失礼なので。もちろん悔しさもありました。真横で桃呼の圧倒的なパフォーマンスを見て、また指名しても負けにいくような感覚でしたけど、時間がない中で勇気を出しました。

怖くなっていた歌や踊りがやっぱり好きだなと

――桃呼さんはリベンジを受けて立つ覚悟はできていて?

橋本 そうですね。「取り戻しにくる」とおっしゃっていたし、一度勝っても嬉しいというより「次はどうしよう?」と。焦りながら、自分なりのパフォーマンスをするしかないと、ずっと頭の中で考えて備えていました。

――再戦では愛実さんの勝利となりましたが、視聴者投票は桃呼さんが獲りました。

橋本 アーカイブを観返すと、自分がすごく楽しそうだったんですね。この子はやっぱり歌うことと踊ることが好きなんだと、観て感じたし、やり切れたと思います。

小澤 私も想いの丈は出せました。

――最後は2人とも涙でしたが、お互いが相手だったからこそ、自分の力を出せた面もありました?

小澤 私は本当に桃呼に感謝しています。他の人からはもらえない刺激をバチーンともらいました。自分も歌やダンスを基礎から頑張らないといけないと、奮い立たせてもらえて。メンタル面もいろいろな企画で鍛えられたとは思いますけど、今回はバトル前に緊張で震えたり、恐怖心とか負の気持ちになかなか打ち勝てなくて、自分の弱さを改めて感じました。桃呼はそういうものを追い払って、堂々とパフォーマンスを楽しめるのがすごいし、それでこそプロのアイドルだと思います。

橋本 私は愛実さんにいろいろなことを思い出させてもらいました。ずっと非選抜で何をするのも、歌って踊ることすら怖くなっていたんですけど、愛実さんとのバトルを通じて、改めてアイドルになれて良かったと思えました。パフォーマンスを目の前で見て、「さすが先輩だな」とアイドルらしさを肌で感じたんです。これからも背中を追って、ついていきたい気持ちになりました。

諦めるのは簡単だと喝を入れられた曲です

――『ラスアイサバイブ』を勝ち抜いた選抜メンバーによる『Break a leg!』は、メンバーの心情を歌っているようですね。

小澤 <いつの間にか並んでいたスタートラインの僕>とか、本当にそんな感じです。ラストアイドルではいつも、気づいたら『サバイブ』をやるとか発表されていて(笑)。でも、“やるしかない”といった歌詞もたくさん出てきて、帰り道にイヤホンで聴くと身に染みました。特に、2番のサビの<諦めるのはいつだって出来る>はすごく共感できて。ちょうど『サバイブ』の後半に、「もう無理。逃げたい」と思っていた時期があったんです。でも、『Break a leg!』を聴いて、確かに諦めるのは簡単だけど、みんなで完走に向かっているのに、私は何をヘコたれているんだと。曲に喝を入れてもらいました。

橋本 『Break a leg!』は“幸運を祈る”という意味で、『サバイブ』の間はファンの方にそういうメッセージをたくさんいただいていて。今、選抜に入って衣装を着て、私たちから恩返しで“頑張ってね”と伝えたいと思いました。

――<競争は得意じゃないけど走らなきゃいけない>とあるように、常に挑戦を続けるラストアイドルのシステムはキツいこともあるんでしょうけど。

小澤 他のアイドルさんとはひと味違う企画をたくさんやらせていただいて、絆も深まりましたし、何が来ようと驚かない耐久力は変に身に付きました(笑)。昔の企画では、体力的に途中でお休みになってしまうメンバーが出たりもしたのが、『ラスアイサバイブ』ではみんなで完走できて。精神的にこんなにキツい企画はないのに、今までのことが身になって、1人1人が強い気持ちを持っている。自分のグループながら、改めてすごいなと思いました。

橋本 メンバーがみんなメラメラしているのはめちゃめちゃ感じましたけど、励まし合いもすごくあって。それが本当に嬉しくて、この仲間と一緒にやっていけたら最強だなと思いました。1人1人が強くて、やさしい。だからこそ頑張る気持ちになれて、自分のメラメラも過熱しました。

1人1人に感動する場面があります

――MV撮影も選抜でポジションがいいと、より楽しいですか?

橋本 私的には阿部さんが前にいらっしゃるのが、すごく不思議な感じでした。自分は本当に選抜に入ったんだと実感が湧いて、感動しました。

小澤 今回は全員で踊るときのフォーメーションはもちろんありますけど、1人1人が感謝を伝えたい人に向かって踊るところで、それぞれのストーリーが描かれているのが嬉しかったです。1人1人に感動する場面があって、17回泣けます(笑)。

――愛実さんは弟さんに感謝を伝えていました。

小澤 今まで家族を世に出したことがなかったので、恥ずかしいです(笑)。でも、本当に感謝を伝えたかったので。ファンの皆さんの前と家族の前では、自分の表情が全然違っているので、そこも楽しんでいただけたら。

――桃呼さんはお姉さんに。

橋本 もともと姉がアイドルを好きで、一緒に目指したのが私のきっかけだったんです。配信とかも全部観てくれて、励ましより「こうしたほうがいいよ」とかダメ出しをしてくるので、ケンカになったりもしますけど(笑)、自分がアイドルになった姿を目の前で見てもらえたのは感動でした。でも、そのときも「もうちょっと脚を上げられない?」とか言われました(笑)。

JKパワーで新しい風を吹かせたいです

――これからのラストアイドルを、2人の世代で引っ張っていきたい気持ちもありますか?

小澤 そういう気持ちです。年上メンバーに任せきりでなく、自分たちのJKパワーで(笑)、新しい風を吹かせたいです。フロントが変わったりすると、ラスアイらしくないと思われるかもしれませんけど、高校生メンバーで「私たちがもっと頑張りたいよね」と話すことが多くて。

橋本 私も同じです。年上メンバー中心に進むことが多かったので、今回をチャンスと思って、同年代のメンバーも一緒にバーッと行けるようになりたいです。

――ラストJKとしては、卒業までをどう過ごしますか?

小澤 もう終わっちゃうんですよね。

橋本 私はアイドルを始めてから高校生になって、文化祭も体育祭もやってないし、コロナ禍で放課後に遊びに行ったりもしてなくて。青春っぽいことを何かしたいです。

小澤 とりあえず制服を着て何かやろう!

橋本 制服でプリクラを撮りに行ってみた、とか?

小澤 行こう! YouTuberみたいになっているけど(笑)。高校を卒業したら映画代も高くなっちゃうので、今のうちにいっぱい観たり、学割を使いまくります(笑)。

ラストアイドル

2017年8月よりスタートしたテレビ番組『ラストアイドル』から、メンバー入れ替えバトルで勝ち残ったメンバーにより、同年12月に秋元康プロデュースのシングル『バンドワゴン』でメジャーデビュー。敗退したメンバーで4組のセカンドユニットも誕生。2018年9月には2期生が決定。その後、殺陣やボリウッドダンスなど様々な企画に挑んで、シングルのセンターや選抜メンバーなどを決めている。これまでに10枚のシングルをリリース。『ラスアイ、よろしく!』(テレビ朝日系)に出演中。

Virgin Music提供
Virgin Music提供

Profile

小澤愛実(おざわ・あいみ) 2003年4月9日生まれ、神奈川県出身

橋本桃呼(はしもと・ももこ) 2003年6月23日生まれ、山口県出身

『Break a leg!』

12月8日発売

初回限定盤A~C(CD+DVD) 1834円(税込)

ラスアイ盤(CD) 1019円(税込)

WEB盤(CD) 1019円(税込)

WEB盤
WEB盤

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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