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『青天を衝け』で渋沢栄一の娘役の小野莉奈 「おしとやかな役と思ったら逆で、やり過ぎなくらい元気に」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜

大河ドラマ『青天を衝け』で渋沢栄一の娘・うたが女学生に成長した。演じているのは小野莉奈。これまでドラマ『中学聖日記』や映画『アルプススタンドのはしの方』などに出演して、注目されてきた21歳。初の大河にも「初日からリラックスして入れました」という強心臓の彼女に、演技への取り組みを聞いた。

『中学聖日記』での有村架純の恋敵役で脚光

 小6のとき、校内での演劇で『ライオン・キング』のシンバを演じて、演技に興味を持ったという小野莉奈。高2で現在の所属事務所・フラームのオーディションに合格してデビューした。

 2018年には『中学聖日記』で初めて連ドラにレギュラー出演。有村架純が演じた中学教師が男子生徒と禁断の恋に落ちるストーリーの中で、男子生徒の同級生で恋敵となる役で注目される。

 2020年には舞台から映画化された『アルプススタンドのはしの方』に主演。夏の甲子園大会に出場した野球部の試合をルールもわからず観戦する、自身の夢は破れた演劇部員を演じた。低予算の映画ながら評判が広がってヒットし、TAMA映画賞で特別賞、『キネマ旬報』日本映画10位など高く評価された。

 この12月には、『MOOSIC LAB[JOINT] 2020-2021』でグランプリと最優秀女優賞をW受賞した主演映画『POP!』が公開。どの作品でもナチュラルではありつつ、なぜか目を引く独特な存在感を発揮している。

歴史で好きなのは縄文時代です

――時代劇って自分では観てました?

小野 高校の選択科目で映画の授業があって、黒澤明さんのモノクロの作品とかたくさん観ました。先生が撮影の裏話を熱弁してくれて。『椿三十郎』に出てくる椿の花は、技術さんが造花に色を付けずに「モノクロだからわからない」と飾ったら、黒澤さんに「本物の椿でないとダメだ!」と言われて大慌てでかき集めた、とか。

――黒澤明監督はそういう逸話が多いですよね。

小野 武士が箪笥に籠って、その外で何時間も戦いが行われているシーンで、箪笥の中は映らないのに役者さんが本当にずっと籠っていたとか、昔の映画の熱い話がすごく印象に残っています。

――歴史には興味ありました?

小野 世界史より日本史派でした。私が一番好きなのは縄文時代です。縄文土器がテストでわかりやすかったのと(笑)、私たちは生きるための知恵や発達した技術に支えられていますけど、縄文の人はすべてを1から作ったんですね。食料を地面に置いておくとネズミに食べられるので、高床式倉庫を作ったり。0から知恵を振り絞って生きていたのが好きで、縄文の授業は集中していました。

――『青天を衝け』の渋沢栄一も銀行を作ったり、なかったものを生み出した点では通じていますね。大河ドラマも観ていたんですか?

小野 毎週観る習慣はなかったんですけど、今回のうた役が決まってから、『青天を衝け』を第1回から全部拝見しました。テレビ越しでも役者さんたちの熱量をすごく感じましたし、初めて実在の人物を演じるに当たって、責任感も大きくなりました。

渋沢史料館で年表を2時間読んだら衝撃でした

――大河ドラマに出たいとは思っていました?

小野 もちろんです。おばあちゃんに「いつかNHKに出てほしい」とずっと言われていて、私も家族に自分の仕事で喜んでもらいたかったので、大河や朝ドラのオーディションでは受かりたい気持ちがより強くて。今回はオーディションではなくオファーをいただいて、とても嬉しかったです。

――『青天を衝け』を観ていたとのことですが、うたが生まれたときの栄一は素っ気なかったですね。

小野 赤ちゃんのうたが抱っこされなくて「何で?」と思いました。後々の放送で、渋沢さんは「日本のために働こうとしているときに娘を抱いたら、家族に気持ちが向いて逃げてしまう」ということを話していて、そういう感情だったのかと。自分の選んだ道に踏み出すためで、娘に冷たいわけではなかったんだと感動しました。

――成長したうた役でクランクインする前は、何か準備はしてました?

小野 渋沢史料館に行きました。渋沢さんが生まれてから亡くなるまでの年表がザーッと飾ってあって、それを2時間ぐらい、ずーっと読んでいました。“日本経済の父”と言われている理由がわかって、たくさんの偉業があることが衝撃的でした。歴史上の人物って、すごいことをひとつ成し遂げたイメージでしたけど、渋沢さんは恵まれない子どもたちのための基金を作ったり、いろいろな会社を救ったり、視野が広くて。日本を変えるために生まれてきたように感じます。史料館では実際に使われていた洋館にも入って、うたもこういうところで生きていたのかもしれないと、その時代にちょっと触れられた気もしました。

日記からやさしさと厳しさで育てられたんだなと

――うたについても調べたんですか?

小野 家族のことを書いた日記を読んで、すごくヒントを得ました。私が好きだったのは、おばあちゃんとのお話です。おばあちゃんはうたをすごくかわいがっていて、いつもお菓子をくれていたそうです。うたがさらにねだると「さっきあげたでしょう」と言うんですけど、うたが泣き出すと箪笥からひとつ取ってあげていたとか、ほのぼのとした日常が書かれていました。反面、お母さんは厳しくて。「あなたは渋沢栄一の娘として、ちゃんと生きなければいけない」と教育されていたことも書かれていました。うたの育った環境はとてもバランスが良くて、いろいろな形のやさしさに触れてきたのがわかりました。

――うたは“父の賢さと母の誠実さを受け継いで”と紹介されていますが、清廉な感じの人物像ですか?

小野 私も最初、お母さんの千代さんのようなおしとやかなイメージでしたけど、リハで監督さんに「もっと元気いっぱいで」と言われました。「渋沢栄一さんのパワフルなDNAを継いでいるから」ということで、自分が思っていたのとは逆だったので、また考え直して挑みました。

――では、テンションを上げて演じている感じ?

小野 普段の私が嬉しいとか悲しい気持ちになるときの、3倍か4倍は出す心持ちです。とりあえず「やり過ぎ」と言われるくらい上げて、止められたら抑えようと。でも、自分で「これは上げ過ぎ?」と思っても、意外とOKが出るので、そっちのほうが良いみたいです。

着物での所作を無意識にできるように

――撮影で明治時代っぽいこともありますか?

小野 メイクで眉毛を細く描かれるのは、あの時代っぽいですね。それが当時のお話だとリアルに見えると聞きました。あと、着物に慣れてなくて、立ち上がったり座ったり、ちょっとした所作もひとつひとつ意識しないといけないんですけど、うたは意識して動いているわけでないから難しいです。家でも練習しています。

――無意識でも自然な動きができるように?

小野 そうですね。あと、畳の角を踏んだらダメだと、所作の先生に教わりました。「畳は父の顔だと思って」と。そう考えたら絶対踏めませんけど、そこも自然と踏まないように見せないといけなくて、時代劇っぽいですね。

――渋沢邸に招いたグラント前アメリカ大統領を応接して、民間外交の萌芽を体感するシーンもあるそうですね。

小野 家族総出でグラント将軍をもてなすのが、面白いところだと思います。うたは初めてお父さんの仕事に直接関わるので、ワクワク感もあって。うたにはあの時代の16歳らしい元気な台詞が多くて、楽しいです。撮影の休憩時間もうたの気持ちが残っていて、テンションが上がったままのときもあります。

――莉奈さんは以前「緊張はあまりしない」と話していましたが、大河の現場でもそこは変わらず?

小野 緊張はしますけど、楽しさのほうが勝つというか。初日はやっぱり不安がありました。でも、小野莉奈というよりは渋沢うたとして、家族に馴染めていた気がします。早い段階で家族の団らんシーンがあって、そのときに渋沢家の空気を感じて、栄一さん(吉沢亮)と千代さん(橋本愛)もリアルにお父さん、お母さんと思えたんです。自分もうたとして生きているように感じられました。

人とは比べず自分は自分で

――莉奈さんはデビューして『中学聖日記』や『アルプススタンドのはしの方』などで注目され、今回は大河ドラマに出演。順調に来ている感じですか?

小野 そんなことはないと思います。ありがたいことに、いろいろな作品をやらせていただいてますけど、役者としてはまだまだです。

――悩んだ役もありました?

小野 いろいろな現場で、たぶんやっている最中は悩んでいたと思いますけど、忘れてしまうんですよね(笑)。苦しいことがあっても、出来上がった作品を観て「やって良かった」と思ったら、全部消えていく感じがします。

――自分が出た作品を観ると、だいたいイイ感じになっていて?

小野 みんなで作り上げた作品の一部になれた感覚ですね。あまり自分を意識しては観ません。

――同世代で主役をバンバンやっているような人に、追い付きたい気持ちはないですか?

小野 あまりないですね。同世代で活躍されている方はすごいと思いますけど、自分は自分なので。比べて悩むより、自分自身がどこまでできるかを考えます。

――YOASOBIのikuraさんこと幾田りらさんとは中学時代からの親友だそうですが、紅白歌合戦に出たりと活躍されているのは、違う意味で刺激になります?

小野 音楽の世界も大変な話を聞いたり、いろいろ頑張っている姿も見てきたので、活躍しているのは良い刺激になるし、感動もします。紅白は観ていて、自分が緊張しちゃいました(笑)。

現場でリラックスするのは早いです(笑)

――莉奈さんもこれまで出演作が途切れず、評価もされてきました。自分の武器のように思っていることはありますか?

小野 何だろう? 自分の実力ではないにしても作品に恵まれているのは、経験として大きいかもしれないですね。

――観る側としては、莉奈さんの飄々としたたたずまいは、他の若手女優さんにない独特なものに感じます。

小野 そうですか? 確かに大河の撮影でも、クランクインした初日から心が落ち着いている感じはしました。“ずっと前からこの現場にいました”くらい、リラックスするのが早くて(笑)。そういうことは、どの現場でもあります。

――何気にすごいことですよね。

小野 どうですかね? ただ図々しいんだと思います(笑)。

気球に乗ったり違う文化に触れたいです

――これから女優として磨いていきたいことはありますか?

小野 ひとつひとつの作品でカメラの前に立つとき、役として小野莉奈からは離れていけたらいいなと思います。今までより準備のハードルも上げて、役者としてレベルアップして、私生活でも新しいものを見たいです。

――見たことのない光景を、ということですか?

小野 そうですね。具体的に言うと、気球に乗りたいです(笑)。人生経験として、スカイダイビングもしてみたくて。今はあちこち行けませんけど、いつか日本だけでなく海外にも行って、いろいろな景色を見たいです。

――どんな国に行きたいと?

小野 まだ行ったことがないヨーロッパとか。飛行機に乗ってる時間も好きなんです。地上でなく空にいるって、本当にすごいことだなと感動するので。そういう景色を見るのも好きで、視覚を豊かにしたいですし、違う文化で育ってきた人のことを知りたい、というのもあります。

――それが演技にも活きると。

小野 ただ好きなだけですけど(笑)、日本で当たり前のことが外国では全然違ったりもするじゃないですか。自分と違う価値観に触れて、人生を豊かにしていけたらいいなと思います。

撮影/松下茜

Profile

小野莉奈(おの・りな)

2000年5月8日生まれ、東京都出身。

2017年にドラマ『セシルボーイズ』で女優デビュー。主な出演作はドラマ『中学聖日記』、『絶対正義』、『コントが始まる』、映画『アンナとアンリの影送り』、『アルプススタンドのはしの方』、『テロルンとルンルン』など。大河ドラマ『青天を衝け』(NHK)に出演中。12月17日公開の映画『POP!』に主演。

大河ドラマ『青天を衝け』

NHK/日曜20:00~

公式HP

小野莉奈が演じている渋沢うた(NHK提供)
小野莉奈が演じている渋沢うた(NHK提供)

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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