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山田杏奈が好きな人の彼女を奪う…。ベッドシーンも挑んだ『ひらいて』で「心と体にダメージを受けました」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
映画『ひらいて』に主演の山田杏奈 (C)綿矢りさ・新潮社/「ひらいて」製作委員会

入り込めないなら“好きな人の好きな人”を奪えばいい――。高校生の恋心の暴走といびつな三角関係を描く映画『ひらいて』に山田杏奈が主演した。独自の存在感を数々の作品で発揮してきたが、女性同士のベッドシーンにも挑んだ今作は「どう演じたらいいかわからなかった」と話す。だが、優等生の感情のタガが外れて狂気をはらんだ行動に走っていく様は、彼女でなければ演じられなかったように思える。

私は道から外れないことを大事にしているので

17歳で文壇デビューした芥川賞作家・綿矢りさの青春恋愛小説が原作の『ひらいて』。高校3年生で成績も良く活発な人気者の木村愛(山田)は、同じクラスの寡黙な西村たとえ(作間龍斗)にずっと片想いをしている。ある日、彼には秘密の恋人がいると気づき、相手は病気がちで目立たない新藤美雪(芋生悠)と知って衝撃を受ける。友だちのいない美雪に近づき、急速に親しくなっていくが……。

――『ひらいて』で演じた木村愛について「私は彼女が嫌いですが、彼女を愛さずにはいられませんでした」とのコメントがありました。原作や脚本を読んで、愛にイヤな感じがしたんですか?

山田 暴力的なところもありつつ、なりふり構わず進んでいったり、物語の中で捉えたら、すごく面白い人だなと思いました。でも、自分の近くにいたらイヤだな、怖いなという感覚にもなって。演じているときは、自分と違うところがすごく多くて、わからなくて「もう無理! 嫌い!」となってしまいました(笑)。

――でも、愛さずにはいられなかったと。

山田 今になって、ちょっと引いて愛を見ると、すごく弱い人で、周りを固めて無理やり道を作っていたんだと思えます。私と通じる部分が結構あったから、わからなくなってしまったところも、たぶんありました。

――杏奈さんも高校時代は、たぶん愛のような優等生タイプだったんですよね?

山田 そうですね。でも、愛みたいにちょっと外れた行動ができる人ではありませんでした。夜の学校に忍び込むとか、全然やったことありません(笑)。

――心の中には、そういう枠からハミ出たい衝動はありませんでした?

山田 まあ、誰でも普通に思うレベルではありました。でも、そこで実際にやらないところが、私自身の大きな核なんです。道から外れたことは、考えても行動には移さないのを大事にしていて。だから、そういうことをしてしまう愛がわからなかったんです。

――自分の秘めていた部分を拡大したのが愛、というわけでもなかったですか?

山田 愛のように「好きな人を自分のものにしたい」みたいな気持ちは、私にももちろんあります。でも、私は行動には移せない。そこが愛と私の違う点で、同時に愛を演じるキーにもなりました。

無意識でコントロールできない部分が役と通じてました

――現場でどう演じたらいいかわからなくなると、どうしていたんですか?

山田 首藤(凜)監督に「わからないです」と言って、ずっと話していました。監督は原作にすごく愛を持っていて、絶対「こうしてほしい」というものがあったはずですけど、それは言わず「こうなったら愛はどうすると思う?」と判断を委ねてくださいました。でも、何を求められているのか考えてしまって、結構苦しみました。

――そこが後から考えると、愛と通じる部分があったからこそ、わからなかったのかもしれないと。

山田 監督から見たら、共通点は結構あったみたいです。ちょっとヘンなところが似ていると言われました(笑)。普段は自覚してなくて、無意識だから自分でコントロールできない部分が愛に通じると。

――愛がたとえに「ウソをつかれているんじゃないかと思った」と言われたとき、“確かに”と腑に落ちる感じがしました。そう見える演技も意識していたんですか?

山田 芝居をしている状態の芝居をしている感じがありました。愛は原作でも「表面と中身が繋がってない」みたいな表現をされていて。周りからどう見られているかを気にして、人といるときは自分を取り繕う。だから、たぶん家を「よしっ!」みたいな感じで、気持ち的なベールを1枚羽織って出てくる子というのは、ずっと意識していました。

役をわかったうえで演じることができなくて

――役について、そういうことを事前にいろいろ考えて、撮影に臨むタイプですか?

山田 私はわりと考えていきます。でも、現場では全部捨てるようにします。想像できることは想像して、考えて、練習して、あとは相手の方のお芝居とかで「どうにでもなれ」って感じです(笑)。

――愛は事前には想像が及ばない部分が多かったわけですね。

山田 そうですね。いつもは全部わかったうえで演じて、役の一番の味方でいなければいけないと常々考えているんですけど、今回はそういうやり方ができなかったので、大変でした。現場で首藤さんに何度も「これはどう思う?」と聞かれて、そのたびに「エーッ!?」となって、悩んで悩んでお芝居をすることが多かったです。

――胃が痛くなるようなときもありました?

山田 エネルギーを使う感じでした。出ずっぱりでスケジュールもタイトで、余裕がなくて、体力的にも精神的にも今までにないくらいのダメージを食らいました(笑)。でも、わからない中で役に近づくというか、どこが自分と同じで、どこが違うのか考えるやり方があるのは、学びになりました。

――撮影が終わってからも愛を引きずったりは?

山田 今回はそういうときもありました。タイトな撮影の中でずっと愛でいて、地方で泊まり込みだったから、ホテルに帰ってきても「明日の台詞を練習しなきゃ」と、愛のことだけを考えていました。ああいう役だから持っていかれる感じもあって、キツかったです。

ベッドシーンも食事のシーンも一緒です

――そんな中で、美雪との女性同士のベッドシーンは衝撃的でした。自分では思い切った感じですか? 他のシーンと同じでしたか?

山田 「いい作品で必要だったらやります」と前から言っていて、今回の台本を読んでも「あるな」くらいの感じでした。経験はなかったので、どういうものなんだろうと思っていたら、アクションみたいに決まっているところが多くて。「こうやって、ああやって」と、いつも以上に段取りをして作りました。

――特に気負うこともなく?

山田 なかったです。ごはんを食べるシーンとかと一緒で、生きている一部。人と人とのコミュニケーションで、お互いをさらけ出したところが見えるので、特別に構えてやるものではないかなと。映画で素敵なシーンになっていることもあるし、逆に「できません」と言って、その表現がなくなるほうが寂しいと思いました。

――美雪役の芋生悠さんと何か話し合ったりは?

山田 芋生さんは他の映画でベッドシーンはやったことがあって、ご一緒するのも3回目。頼れるお姉さんという感じでしたけど、全体で流れを決めてからは、あまり話したことはなかったかな。お互いの衝動を受け入れたりするのは、監督がきれいに見えるように撮ってくれるので、作品に必要なシーンになればいいなと思って演じました。

必死に好きと伝えて突っぱねられるのはキツくて

――『ひらいて』で他に、印象的だったシーンはありますか?

山田 一番必死でやったのは、夜の教室でたとえを待っていて、「私のものになって」みたいなことをバーッというシーンです。用意していったものはありましたけど、あの場の空気感やたとえの言葉に触発されて、どんどん変わっていって。まっさらな状態でお芝居をしていました。

――どんな感情が生まれました?

山田 自分が必死で伝えようとしたことを突っぱねられて、こんなに好きなのに受け止めてもらえないのは、気持ち的に「キツっ!」となりました。

――その後、後半の愛は壊れた感じになっていきます。

山田 愛の弱さが出てきて、逆に理解しやすくなりました。最初のどんどん突き進んでいくほうが、よくわからなかったので。

――夜の学校で、美雪がたとえに渡した手紙を盗むために、落ちたら大けがをするような経路でベランダから教室に忍びこんだり。

山田 私にはあそこまで何かに夢中になった経験はないので、すごいなと思いました。

――2人が手紙で繋がっていたことは、どう思いました?

山田 美雪とたとえらしくて、2人はちょっと違う世界にいる感じがしました。愛は手紙なんて書かないだろうし、そこに入っていけない。たとえに「狭い世界に閉じこもっている」と言ってましたけど、羨ましかったんだと思います。

――『ひらいて』の現場はどんな雰囲気でした?

山田 和やかでした。劇中で微妙な関係だから話さないことは全然なくて、普通にみんなで世間話をしたり、私も作間くんも芋生さんも自分のペースがあるので、1人でいるときはいたり。お芝居がしやすい関係で、スケジュールは忙しくても気持ち的には急くことはなく、1コ1コを大事にやる意識を持っていました。

――どんな世間話をしていたんですか?

山田 作間くんと同じグループ(HiHi Jets)の井上瑞稀くんと、前にドラマを一緒にやっていたので、そのときに「今度作間くんと映画をやるよ」という話をしていたこととか、そのドラマでやったダンスを作間くんが「覚えているよ」とか。作間くんはいつも、スッとたとえとしている感じでした。

普段の自分ができないことをするのが演技の楽しさ

――愛はたとえに告白して拒絶されて、彼をなじるようなことをまくし立てていました。ああいうふうに感情的になることは、普段の杏奈さんにはありますか?

山田 ケンカはしたくないので、記憶にある限りではないですね。バーッと大声を出したりはあまりしません。逆に、あんなに怒れていいなと思います。

――女優さんとして当然ながら、役になればできるということでしょうけど、演技を始めた最初の頃から、そうした感情表現が難しいことはありませんでした?

山田 始めた頃というと12歳だからわかりませんけど、役のことを理解できていれば、「それは怒鳴るよね」という方向に考えが行くので、台本に書いてあることをするのに抵抗は全然ないです。あくまで自分でなくて、役なので。いつもの自分にはできないことができるのが、お芝居の楽しさのひとつかもしれません。

――そういう楽しさも早くから感じていたわけですか?

山田 お芝居をさせていただくことが急に増えたのが15歳くらいのときで、それまでは特に好きでもなかったのが、楽しいと感じ始めました。適当な気持ちでやれることでもないので、今はいい意味で仕事という感覚もありますけど、楽しいから続けられていると思います。

――日ごろから演技力を付けるために努力していることもありますか?

山田 努力というか、経験することが一番の糧になると思います。たとえば言い争ったことでも嬉しかったことでも覚えておきたくて、印象的な出来事があったら、すぐ携帯のメモにパーッと書いたりはしています。だから「うーん……」となるようなことも、お芝居の役に立つと思えばスッキリするので、いい仕事だなと思います(笑)。

現場で苦しんだけど完成したら成り立っていました

――今は女優が天職という感じですか?

山田 天職だと思える日は、これからも来ないと思います。好きなので続けたいなと思いますけど、性格的に、自分がやっていることにそんなに自信は持てないですね。

――杏奈さんはいつも女優として唯一無二の存在感を発揮していると思いますが、今回の『ひらいて』でもスクリーンの中の自分を見ると、どう感じますか?

山田 私はまだ1回しか(試写を)観られていませんけど、「うわーっ!」となりました(笑)。「ここはこうすれば良かった」と思うところがボロボロ出てきて、落ち込んで。でも、今回は現場で愛を演じるのに相当苦しんだので、繋がったのを観たら意外とちゃんと愛になっていたのは、ちょっと安心しました。編集して音楽も付いたら、成り立ってないわけではなかったです。

――成り立つに留まらず、今回もすごく刺さりました。自分では自分の強みはどんなところだと思いますか?

山田 何ですかね? 目のことを言ってくださる声はよく聞きます。今は自分が他の方にどう見えるのか、伝わる機会はありますけど、15歳の頃にCMのオーディションで初めて目力について言われたときは、自分に何かキーワードを見出してもらえるとは思いませんでした。武器というか個性になっているなら、すごく良かったです。もちろん、それだけではダメですけど。

家ではチマチマとぬか漬けをしてます(笑)

――自分の好みとしては、ラブコメ的な作品より、『ひらいて』のようなある種いびつでトゲのある作品のほうが触れている感じですか?

山田 演じるうえでは何でもやりたいので、ジャンルについて考えたことはありませんけど、第三者として観たり読んだりする分には、普通のラブコメはあまり手に取らないかもしれません。『ひらいて』のような作品のほうが、自分がよく見ている世界という感じがします。

――『ひらいて』ももともと知っていた作品ですか?

山田 自分が出ることになって初めて読みましたけど、綿矢りささんの原作で映画化された『勝手にふるえてろ』も『私をくいとめて』も大好きです。その世界に入れることはすごく楽しみでした。

――観る映画も大作よりミニシアター系が多かったり?

山田 最近は映画館には行けてませんけど、わりと単館系を観ることが多いです。万人受けより特定の層に向けられていて、私も役者として、そういう作品に出させていただくことも多いのは、意味があるのかなと思います。

――最後に素朴な疑問で、杏奈さんはプライベートが見えないたたずまいがありますが、普段は何をしているんですか(笑)?

山田 家にいます……では面白くない答えですよね(笑)。1人暮らしで、ぬか漬けをしています。「エーッ!」と言われますけど、実家でやっていたので、私も家を出てから新しいぬか床を作りました。野菜とか洗って漬けておけば、次の日に食べられて楽ですし、そういう地味なことをチマチマやっているときが幸せです(笑)。

*写真は映画『ひらいて』より (C)綿矢りさ・新潮社/「ひらいて」製作委員会

Profile

山田杏奈(やまだ・あんな)

2001年1月8日生まれ、埼玉県出身。

2011年に『ちゃおガール☆2011オーディション』でグランプリ。2016年に映画デビューして、2018年に『ミスミソウ』で初主演。近年の主な出演作は、映画『小さな恋のうた』(第41回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞)、『ジオラマボーイ・パノラマガール』、『樹海村』、『名も無き世界のエンドロール』、ドラマ『10の秘密』、『荒ぶる季節の乙女どもよ。』など。10月22日公開の映画『ひらいて』、12月3日公開の映画『彼女が好きなものは』に出演。2nd写真集を11月19日に発売。

『ひらいて』

監督・脚本・編集/首藤凜 原作/綿矢りさ 配給/ショウゲート

10月22日より全国ロードショー

公式HP

(C)綿矢りさ・新潮社/「ひらいて」製作委員会
(C)綿矢りさ・新潮社/「ひらいて」製作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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