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『けものフレンズ』ブームから4年。声優・尾崎由香が「本当の自分に戻って」舞台で磨いているもの

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/小澤太一

2017年から2期にわたるTVアニメを起点に社会現象的なブームを起こした『けものフレンズ』。中でもヒロインのサーバルを演じた尾崎由香は、写真集を出したりアーティストデビューもして一躍、大人気声優となった。アニメ2期から2年。最近ではドラマにも出て話題を呼び、舞台にも相次ぎ出演と活躍の幅を広げている。今の彼女が『けもフレ』ブームを振り返って思うことと、これから目指すものを聞く。

役に入りすぎて毎回泣いてました

――去年から舞台出演が続いてますね。

尾崎 昔から舞台を観るのは大好きで、よく1人で観劇に行っていました。ジャンルは幅広く、ミュージカルも好きで、『レ・ミゼラブル』は学生の頃からほぼ毎年観ています。この2年、自分が何度も舞台に立たせていただくと、声優のお仕事と全然違っていて、すごく楽しく感じます。

――舞台の良さはどんなところだと?

尾崎 声優のお仕事では、台本を渡されて3日とかでお芝居をしますけど、舞台は数週間から1ヵ月くらいの長い期間をかけて、みんなで作り上げていくので。じっくり役に向き合って、納得いくまで稽古をして、充実感は大きいです。

――今までの舞台で、特に覚えていることというと?

尾崎 今回の『RUST RAIN FISH』の演出の西田大輔さんの舞台は私は二度目で、一度目の『DECADANCE-太陽の子-』のとき、自分の演じる役が慕っている方が亡くなるシーンで、毎回舞台袖で泣いていました。役に入りすぎたのか、何公演やっても、見ているだけで耐えられなくなって。そのあとに自分の出番があったので、「忘れなきゃ」と切り替えるのが大変でした。

――西田さんの演出は厳しいんですか?

尾崎 そんなことはないです。『DECADANCE』のとき、舞台の経験があまりなかった私を、やさしく指導していただきました。殺陣も私は初めてだったのですが、西田さんご自身が剣を持って丁寧に教えてくださったので、初日には安心して舞台に立つことができました。

か弱く見えて芯は強いところを出せたら

23日から上演の『RUST RAIN FISH』は、演出家・西田大輔が描くミステリ作品『ONLY SILVER FISH』シリーズの第3弾。本当の名前を知ることができたら、過去を振り返り選択し直せると言われる魚「オンリーシルバーフィッシュ」が、第二次世界大戦時の日本にいた。ある館に集められた、冤罪にかけられた過去を持つ14人の男女。館の主人は、この中から本当の犯罪者を見つけた者に、「オンリーシルバーフィッシュ」の本当の名を教えると伝えた。

――『RUST RAIN FISH』は演技以前に、物語を理解するのが難しくないですか?

尾崎 そうなんです。台本を1回読んだだけだと「これってどういうことなんだろう?」となりました。14人の相関図が頭の中でゴチャゴチャしちゃって、何度読み直してもわからないことがたくさんあって。共演者の方と「ここはこういうことですか?」と話し合って、理解している途中です。

――そんな中で、尾崎さんが演じる北条には、どんな印象がありました?

尾崎 登場人物の中でも引っ込み思案で、話すのが苦手。どんくさい女の子です(笑)。舞台上にいても、消極的で表に出ない。発言する人が多い中で影になっているような、ちょっと不思議な女性だと思いました。

――他の人物に「巻き込まれた側に見える」と言われてます。

尾崎 パッと見、「この子、大丈夫かな? 巻き込まれたのかな?」みたいな感じがします。でも、実際は自分で館に来たわけで、過去を変えたい想いも他の人に負けないくらいなんです。

――確かに「私だって負けません」とか、芯の強さも見せるようで。

尾崎 根っこにはそういうところも持っています。人間には表と裏があって、そこはこの作品のテーマだったりもするので、北条も消極的でか弱いだけでなく芯は強いという、人間らしさをちゃんと出せたらと思っています。

私はもともと元気なキャラではないんです

――北条を演じるうえで、どんなことを課題にしていますか?

尾崎 ひとつの舞台に14人も登場人物がいるので、台詞がないときの受けとか、ただその場にいるときの状態も大事にしています。最初のシーンから場面ごとに、北条が何を考えているのか、自分の中で整理しておかないとできません。まったくしゃべってないシーンもありますけど、お客さんはいろいろなところを見ると思うので。

――北条と自分との距離感はどうでしょう?

尾崎 私ももともと消極的で、似ている感じはします。人からはあまりそう見られないのですが、大人数の中でしゃべることはまずありません(笑)。

――尾崎さんもいつも元気なわけではないと。

尾崎 私の元気なイメージは演じるキャラクターから付いたもので、実際はそんなこともなく、とても人見知りでした。今回の舞台で「こういう一面もあるんだ」と思ってもらえるか、感想が楽しみです。

――北条は手紙を読もうとして噛みまくる場面もありますが、プロの声優さんとしては、それはないですよね?

尾崎 私も緊張すると噛みがちです(笑)。普段しゃべっていても意外と噛んだりして、そこは北条っぽいので、舞台で自然にできたら。

――コーヒーを入れようとして食器を割ってしまったりは?

尾崎 コーヒーカップを割ったことはないですけど、あたふたすることは意外とあります。北条は銀座でウェイトレスをしていて、私もカフェでバイトをしたことがあるんです。そのときはお水をこぼしたり、お客さんの注文を間違えたり、失敗は結構したので、北条の気持ちがわかるところは多々あります。

自分が持ってなかったものが生まれました

――尾崎さんには、振り返って選択し直したい過去はありますか?

尾崎 小学生に戻りたいとずっと思っています。できなかったことがたくさんあって。まずプールに入らなかったんですね。泳ぐのが苦手で、身長も当時から低かったので、プールの授業は見学が多くて。大人になってから後悔して、特訓して泳げるようになりました。それを早めに始めておけば良かったなと。

――『けものフレンズ』のブームの頃は、振り返ると楽しい思い出ばかりですか?

尾崎 そうですね。いろいろな経験を積ませていただいて、特にステージは楽しかったです。キャラクターを演じたみんなが家族みたいで、お客さんも温かく応援してくださって、一緒に声を合わせて歌ったり、いろいろなレスポンスをしたり。今はこういうご時世だけに、「またやりたいな」と思います。

――尾崎さんにとっては、『けものフレンズ』がアニメの初レギュラーだったんですよね。

尾崎 サーバル役がほぼ声優としてのスタートでした。明るさとか元気さとか、本当は自分が持ってなかったものがサーバルを演じて生まれて、それが私自身のイメージになって嬉しかったです。

――いきなりの大役で、大変なこともありました?

尾崎 最初はサーバルになり切って、明るさを出すのが本当に大変でした。アフレコでは居残りをして、スタジオを取ってある時間の最後まで録っていて。これじゃダメだと思って、家に帰っても明るくしているようにしました。そしたら逆に、サーバルが抜けなくなったんです。アフレコ中はもちろん、尾崎由香としてステージに立っているときも明るいまま。自分でない自分が出ていた感じでした。サーバルみたいな考え方も染み付いていたように思います。

役が自分から抜けない2年間を過ごしました

――そこまで役に入り込んだのはすごいと思いますが、それはそれで消耗するというか、疲れる部分もありました?

尾崎 今振り返ると「サーバルが抜けてなかった」と思いますけど、当時はまったくわかりませんでした。目まぐるしかったこともあって、たぶん「これが自分だ」と思っていた気がします。そんな2年間を過ごしてから、本当の自分はそうではないと気づいて、だんだん戻った感じです。

――怒涛の日々だったでしょうからね。写真集を出したり、ソロ歌手デビューもして、大忙しの中で体調を崩されたこともありました。

尾崎 そうですね。『けものフレンズ』の舞台のときに、声があまり出なくなってしまって。ビックリして、病院に行って先生に相談したり、大変でした。せっかくの舞台なのにノドを使いすぎていて、体調のメンテナンスもできてなくて。反省して、自分の生活を見つめ直しました。

――いろいろあったブームを経て、今思うことはありますか?

尾崎 『けものフレンズ』以外にもいろいろな作品に関わらせていただく中で、声優の技術面の難しさも目の当たりにして、「私、大丈夫かな?」と不安になった時期もありました。でも、声優として幅を広げていきたい意欲は、どんどん高まりました。今後も声優の活動を続けていくうえで、『けものフレンズ』は自分を人としても成長させてくれたスタートだったと思います。

声優、舞台、ドラマといろいろな演じ方を取り入れて

――一方で舞台に加え、最近では『イタイケに恋して』や『武士スタント逢坂くん!』とドラマ出演も続きました。

尾崎 もともとお芝居するのが大好きで、いろいろな演じ方を取り入れていきたいと思っています。声優、舞台、ドラマと、やっぱりちょっとずつ違うんですよね。うまく演じ分けができたら、ワンステップ成長できる気がするので、どれもやり遂げていきたいです。

――現状、役者として自分の武器だと思うものはありますか?

尾崎 何ですかね? まだそんなに自信を持てるものはないので、これから身に付けたいです。

――『逢坂くん!』の編集者役で見せている、胸をくすぐるようなかわいらしさは、尾崎さんならではかと思います。

尾崎 私はやっていて違和感しかありませんでした(笑)。ああいう役は慣れていないので。明るくて魅力的で誰もが好きになっちゃうような女の子を、どう演じたらいいのか。かわいくしすぎても気持ち悪いし、監督にも一度「もう少しやりすぎない感じで」とアドバイスをいただきました(笑)。ナチュラルにそういう役をやるのは難しかったです。

――『RUST RAIN FISH』では、どんなことが身になりそうですか?

尾崎 1人1人が深いものを持っている物語の中で、素敵な役者さんたちとご一緒できるので、いろいろなものを吸収したいです。舞台ならではのお芝居をもっともっと自分の引き出しに入れていけるように、作品と向き合っていきます。

大人の女性へ運転免許から取りました

――イチ女性としては、30代を見据えて取り組んでいることはありますか?

尾崎 子どもっぽい見た目ですけど、落ち着きのある女性になりたくて。大人への第一歩は何だろうと考えて、まず運転免許を取りました(笑)。

――今まで持ってなかったんですね。

尾崎 はい。最近取りました。何はともあれ車を運転できたら、大人になったと思えるかなと(笑)。まだあまり運転してなくて、舞台が終わったらしようと思ってます。教習所では結構誉められたので、大丈夫な気がしていて。車庫入れは得意なので、任せてください(笑)。

――運転が大人への第一歩として、二歩、三歩として考えていることも?

尾崎 自分にスキルが何もないので、何かほしいなと思っていました。今習い始めたことがあって、まだ言えませんけど、それをレベルアップしたいです。芸能活動にも役立てて、自分の立ち居振る舞いにも活かせたらいいなと。30歳までに、ちょっとずつ身に付けていこうと思います。

撮影/小澤太一

Profile

尾崎由香(おざき・ゆか)

1993年5月15日生まれ、東京都出身。

子役での活動を経て、2015年に声優デビュー。2017年にTVアニメ『けものフレンズ』に出演。主な出演アニメは『BanG Dream!』、『アニマエール!』、『りばあす』など。また、ドラマ『イタイケに恋して』、舞台『DECADANCE-太陽の子-』、『This is a お感情博士!』などに出演。現在、アニメ『Sonny Boy』(TOKYO MXほか)、ドラマ『武士スタント逢坂くん!』(日本テレビ系)に出演中。

『RUST RAIN FISH』

9月23日~10月3日/紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA

10月15日~10月17日/COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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