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ミュージカル『ピーターパン』が40周年。10代目・吉柳咲良が「過去に作ったイメージは無くして」挑む

斉藤貴志芸能ライター/編集者
10代目ピーターパンの吉柳咲良(ホリプロ提供)

1981年に日本で初上演してから、毎年夏を彩ってきたブロードウェイミュージカル『ピーターパン』が、今年40周年を迎える。初代の榊原郁恵(*)から、宮地真緒、笹本玲奈、高畑充希らが継いできたピーターパン役を、4年前から演じているのが10代目の吉柳咲良。ドラマ『青のSP』でも注目されたが、17歳になり、今回はこの公演のために髪を30cm切って、並々ならぬ覚悟を胸に挑む。(*“榊”は正しくは木へんに神)

身も心もただの少年になりきります

――今回の『ピーターパン』に向けて髪を30cm切ったのは、何か思うところがあったんですか?

吉柳 記念すべき40周年でもあるし、自分の中でも勝負の年という感じがして、1年目より緊張しているくらいなんです。それで、身も心も少年になるために切りました。

――これまでとは違うピーターパンになろうと。

吉柳 今年は全然変わります。私が3年間で作り上げてきたピーターのイメージは、もう無いと思っていて。

――そこまで?

吉柳 はい。この3年間ずっと、カッコいいピーターパンというのが私の中であったんですけど、今年はカッコ良さはまったく意識していません。ただ子どもらしく、本当にわがままで自己中心的なところはあるけど、それでも愛されて、人を守るときは守る。そんな存在にしていこうと。

――去年はコロナ禍で公演が中止になりました。

吉柳 中止と聞いたときは、心にポッカリ穴が開いたような気持ちになりました。でも、演出の森(新太郎)さんから「脚を頭より高く上げられるように」「高音をきれいに出せるように」と課題をいただいて、トレーニングを頑張った1年でした。

――その課題はクリアできたんですか?

吉柳 最初は「できるかな?」と思っていたんですけど、レッスンを重ねて今、森さんが一番誉めてくれるのが、脚を上げたときです(笑)。高音も怖がらずに出せるようになりました。フック船長を惑わすシーンでは、普段なら絶対出さないような高いキーで歌っていて。初代の郁恵さんは全部自分の声で歌っていたそうなので、私も今年は1年鍛えた高音で勝負していきたいです。

自分が成長して役のカッコいいだけでない面が見えて

――初めてピーターパンを演じた2017年の初日のことは、覚えていますか?

吉柳 毎年変わらないんですけど、(ウェンディの家の)窓の外で自分が出るのを待っている間は、胃が痛くなるくらい緊張していました。2年めからも毎公演そうです。でも、ステージにはピーターとして立つしかないので。緊張しているのは私であって、ピーターではない。「どうしよう……」というのはなくなります。

――何気なく言いますが、13歳から天性の舞台度胸があったんでしょうね。歌やダンスのスキルは、2年めは格段に上がりましたか?

吉柳 技術的にできることは増えたと思います。でも、一番大きかったのは、私自身が成長することによって、考え方がどんどん変わっていって。ピーターの元気で明るくてカッコいいという表面的なところとは、別の一面も見えてきました。そこをどう演じるか。1年めから2年め、2年めから3年めと、ピーターの見方はすごく変わったと思います。

小さい子と走ると体力の衰えを感じます(笑)

――中学生の頃は、1年でも心身の変化は大きいですからね。1年めは「体力のなさを感じた」という話もありました。

吉柳 夏に毎日公演をやることがこんなに大変なんだと、1年めで身に染みてわかりました。一幕でピーターが出てきて影を付けたあと、走り回りながら歌うとハァハァしちゃって、苦しくて歌えないこともあって。疲れているピーターパンなんて見たくないと思うので(笑)、反省しました。2年めは稽古からハーネスを付けさせていただいて、自分の体の重みを背負いながらやったりして、本番は余裕を持ってできました。でも、今年が一番、体力のことを感じているかもしれません。中学生の頃は、若さだけで乗り切れたところも多かったので。

――今も17歳で若いですけど(笑)。

吉柳 でも、(ウェンディの弟の)ジョンとマイケル役の小さい子たちと一緒に舞台を走り回ると、私は若さでは衰えたかなと思います(笑)。だから、意識的に体力を付けないといけなくて、夜に走ったりしてました。筋トレも続けています。今年はいつもより体を目いっぱい使って動くので、その分、体力がすごく必要になるのは感じていました。

――ハーネスの話がありましたが、さっそうと見えるフライングにも、体力は要るんですね。

吉柳 フライングって、体幹がブレると自分が回ってしまうので。正面を向いたまま、お客さんに飛んでいる姿を見せるためには、体の真ん中に軸を置かないといけないんです。降りる位置も確認しながら、毎回すごく集中して飛んでいます。

今年は「こう演じたい」と決めずにやろうと

――最初に出た「子どもらしい」という今年のピーター像は、自分の中ではイメージができているんですか?

吉柳 毎年「今年はこういうピーターパンを演じたい」というのが明確にあったのが、今年はあまりないです。私が「こう見えてほしい」と決めつけてしまうと、それしか伝わらなくて。でも、観てどう思うかは人それぞれなので、「ただピーターパンに見えればいい」というのが今年のモットーです。「カッコいいピーターにしたい」とか「ヤンチャにやりたい」とか、言葉にできる目標はありません。どれだけピーターパンという存在のまま、舞台に立てるかが勝負だと思っています。

――稽古は順調にできていますか?

吉柳 森さんが抜き稽古をたくさんやってくださって、動きを変えては新しく作り直す試行錯誤を何回も繰り返していたので、結果どうなるのか、不安はありました。でも、一度通し稽古をしたら、ちゃんと形になっていて。そこで流れもつかめて、細かいところも詰めていけるようになりました。

――1年で底上げした歌やダンスはバッチリ?

吉柳 森さんが考えるピーターパンのレベルに到達できてないかもしれないと、ネガティブになるときもあります。毎日稽古する中で、いろいろ不安はありますけど、考えていても私がやらない限り変わらない。今年は1コ1コ挑戦することを大切にしています。

――コロナ禍で稽古の仕方も変わったようですね。

吉柳 ずっとマスクをしているので、みんな酸素が薄い状態だと思います。その分、「本番が始まったら楽になるといいね」と話しています。

フライングでお客さんの顔が見えたときが幸せ

――過去の公演では、特に感動したことはありますか?

吉柳 毎回フライングをしているとき、お客さんの顔がよく見えて、素直な反応がうれしいです。小さい子どもたちが静かにしているように言われていても「すごーい!」と声が漏れてしまったり、大人の方もピーターが空を飛んだ瞬間に目が輝いたり。そこで毎回「幸せだな。やっていて良かったな」と思います。

――昔、高畑充希さんがピーターパンをやっていた頃にうかがったのが、「小さい子たちは素直だから、面白かったら見るし、つまらなかったら寝ちゃう」と。

吉柳 本当にそうだと思います。だから、一瞬たりとも飽きさせず、毎秒が楽しい舞台にしたいです。私が1秒でもピーターパンでなくなったら、そこで子どもは飽きてしまう。そうならないように、常に気を張っておくようにします。

――初めてピーターパンを演じたときは13歳だった咲良さんが、今は17歳。もともと精神的に大人びていたようですが、さらにしっかりしてきたのでは?

吉柳 大人になった感覚はあまりないですけど、ひとつひとつのことに慎重になった感じはします。先を考えて行動できるようになったというか。だから、仕事に対する自分の責任の大きさも、すごく感じるようになりました。舞台も楽しむだけでなく、仕事という意識を持ったうえで臨めると思います。

――そういう発言自体が大人な感じもします(笑)。オシャレに興味を持ったりはしてますか?

吉柳 髪をショートにしたので、Tシャツや短パンがしっくりきたり、違うテイストの服が着られるようになったと思いますけど、ブランドとかはあまり興味ないですね。たぶん気持ちがピーターパンに向かっているので、そこはあまり変わらないかもしれません。

――外で走り回って遊んだりはしなくなりましたよね(笑)?

吉柳 そうですね。今は1人の時間を楽しく感じます。昔は1人でいると退屈で、どこかに行きたい、誰かに会いたいと思っていたのが、今は音楽を聴いたり配信を観たり、何かしらできて、1人が苦でなくなりました。

甘えるのがヘタなので子どもが羨ましいです

――今はピーターのように「大人になりたくない」とは思いますか?

吉柳 大人になりたくない気持ちも、なりたい気持ちもなくなりました。前は時期によって、どちらかだったんですけど、もう流れに身を任せようという感じです(笑)。大人になると、自分の力でできることが増えるのはいいなと思いますし、小さい子たちが素直に甘えられるのが羨ましいときもあります。私は長女ということもあって、甘えるのがヘタな人間なので。

――昔からそうだったんですか?

吉柳 本当に小さい頃は甘えられたかもしれませんけど、仕事を早くから始めて、子どもでもあり大人でもある立場になったので。自分の中で、そういう線引きが難しくなった感じはします。

――この2年で映画『初恋ロスタイム』やドラマ『青のSP』などにも出演しましたが、将来的に軸足をどこに置こうとか、考えていますか?

吉柳 映像も舞台もオールマイティにできるようになりたい、と思っています。役幅の限界を自分で決めたくないし、やれるものはすべてやっていきたいです。

――舞台と映像で演技の違いも感じませんでした?

吉柳 違う部分は多くて、舞台のままで行くと映像では通用しませんけど、舞台での経験が活かされることもたくさんありました。舞台では本番はもちろん通してやりますけど、稽古では映像のように止めながらやっているので。どちらもやることで、切り替えがだんだんうまくなっていったらいいなと思います。

意識的に無意識なお芝居ができるように

――今回の『ピーターパン』の本番まで、残りの稽古で特に磨いておきたいことはありますか?

吉柳 細かいところをたくさん詰めていきたいです。動作でも心の動きでも、一瞬でも雑になった瞬間、私がピーターパンでなくなってしまうので。あと、森さんが「無意識に芝居をするな。意識的に無意識な芝居をしなさい」とおっしゃっていて、本当にそうだと思いました。ただ無意識にお芝居をしたら、役ではなくて自分が出てしまう。意識的に役に入っているからこそ、無意識なお芝居が成立する。そこを突き詰めて、意識して動かした指先も、お客さんには役の無意識な動きに見えたら勝ちだなと。

――この舞台に限らず、演技の真髄的な話ですね。

吉柳 すごく難しいことだと思います。でも、4度目の挑戦だからこそ、受け止められることでもあって。今なら、どうすればいいか考えられるので、「意識的に無意識」を目標にしています。あとは水分補給をたくさんして、頑張っていこうと思います(笑)。

――稽古で忙しい中、息抜きでしていることはありますか?

吉柳 息抜きと言いながら、台本を読んだり曲の確認をしていることが多いです(笑)。意識的に無意識なお芝居をするためには、ピーターが無意識に息を抜いていても、私は息を抜けない。終わるまではずっと、気を張っていると思います。

写真はホリプロ提供

Profile

吉柳咲良(きりゅう・さくら)

2004年4月22日生まれ、栃木県出身。

2016年の『第41回ホリプロタレントスカウトキャラバン PURE GIRL 2016』で史上最年少の12歳でグランプリ。2017年のブロードウェイミュージカル『ピーターパン』で10代目のピーターパン役に抜擢。2019年にアニメ映画『天気の子』で声優、映画『初恋ロスタイム』でヒロイン。2020年に舞台『デスノート THE MUSICAL』、2021年にドラマ『青のSP‐学校内警察・嶋田隆平‐』、『ここは今から倫理です。』に出演。

ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』

7月22日~8月1日 めぐろパーシモンホール

8月7日・8日 相模女子大学グリーンホール

8月14日・15日 梅田芸術劇場メインホール

8月21日・22日 仙台銀行ホール イズミティ21・大ホール

8月28日・29日 御園座

公式HP

ホリプロ提供
ホリプロ提供

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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