Yahoo!ニュース

“ワイルド・スピード”森川葵はそもそも女優としてすごい

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』より

 バラエティ番組『それって!?実際どうなの課』で様々な達人技をいとも簡単に習得して、“ワイルド・スピード森川”の異名を取る女優の森川葵。けん玉、ダイススタッキング、テーブルクロス引きなど、その道の達人が修業を重ねて身に付けた技を、当初の企画趣旨に反し、数回のチャレンジでやってのけるのは驚異的だ。だが、森川はそもそも女優。そして、本業の演技でも類いまれな実力を見せ続けている。

達人技の数々をあっさりやってのけて

 『それって!?実際どうなの課』(中京テレビ・日本テレビ系)は、世の中に溢れる“気になるウマイ話”を実際にやってみて検証していくリアルドキュメント・バラエティ。森川葵は2019年5月からレギュラー出演し、不定期で「知らざれる世界で道を究めた達人たち」を紹介するコーナーの担当に。達人技のすごさを実証する趣旨で自ら挑戦してみると、予想外にあっけなくできてしまうことが続いた。

 たとえば、サイコロをカップの中で振って積み重ねるダイススタッキングをたった2回で成功させ、カップを決められた型に積み上げて元に戻すタイムを競うスポーツスタッキングでは、数時間のロケ中に日本大会3位入賞レベルの記録を出した。

 他にも、テーブルクロス引き、カード投げ、アーティスティック・ビリヤード、ヨーヨーなど、これまで50を超える達人技に挑んできたが、ほぼすべてをそんな調子で成功させている。苦労する様子の撮れ高がなく「バラエティの法定速度を守らない」と“ワイルド・スピード森川”と名付けられ、この異名が広く知られることに。

 4月には彼女の過去の偉業から振り返るスペシャルを放送。新たに挑んだアーチェリーのトリックショットで、直径9ミリの筒の中に矢を入れる最高難度の「ロビン・フッド」まで1日で成功させ、ツイッターのハッシュタグ「#おつかれ森川」が世界トレンド1位にもなった。

丸刈りから金髪まで役に合わせ髪型を変えて

 現在25歳の森川のバラエティのレギュラーは、『A-Studio』(TBS系)でMC・笑福亭鶴瓶のアシスタントを2016年4月から1年間務めて以来。この4月からは、語学番組『太田光のつぶやき英語』(NHK Eテレ)にも出演している。

 芸能界でのキャリアは、中学生だった2010年に『Seventeen』の専属モデルとしてスタートさせた。2012年には女優デビューして、初のドラマ『スプラウト』で知念侑李(Hey! Say! JUMP)の相手役となるヒロインなど、当初から大役が続き、自然体の演技は新人らしからぬものがあった。

 カメレオン女優とも呼ばれているが、一時は役によって髪型から極端に変えていた。主演映画『チョコリエッタ』で丸刈りにして驚かせ、『渇き。』ではピンクに染める。『おんなのこきらい』ではロング、ドラマ『She』ではベリーショート、『監獄学園-プリズンスクール-』では金髪。知らなければ同一人物と気づかないほどだった。

様々な役と自然に同化して作品ごとに別人に

 それ以上にすごいのは、外見だけでなく、作品ごとにまったく違う役になり切っていたこと。『チョコリエッタ』では母と愛犬を亡くしていつも不機嫌な少女、ドラマ『ごめんね青春!』では男子にモテモテで恋愛依存症の女子高生、『テディ・ゴー!』ではバイトが長続きしない軽いノリのフリーター。そして、火曜深夜に再放送中の群像劇『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系)では、福島からデザイナーを目指して上京してきた役で、いかにも“田舎から出てきました”というたたずまいを漂わせた。

 どの役もイメージがカブらない。ひとつひとつの役ごとに別の人間として現れる。かと言って「頑張って役作りをしました」という雰囲気もなく、常に自然に劇中にいる。“カメレオン”を超えて、飄々と様々な役に同化している感じだ。観ていると「今度はこう来たか」と何だか面白くもなってしまう。

 その後もドラマ『GIVER 復讐の贈与者』、『文学処女』、映画『恋と嘘』、『OVER DRIVE』など多くの作品で主演やヒロインを務めてきた。『リバーズ・エッジ』での恋心を抱く相手に異常に執着するメンヘラ的な役もインパクトを残した。

 昨年公開された映画『天外者』では、主人公の五代友厚(三浦春馬)の恋人だった遊女のはるを演じている。自由な未来を夢見て字を学ぶ健気な役で、五代と「自由になったら2人で海が見たい」と約束を交わすシーンは涙を誘った。五代に「誰しもが夢を見られる国を作ろう」と決意させる、重要な役回りでもあった。

『賭ケグルイ』シリーズを方向付けたハイテンション

 そして、現在公開中の『映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』でもメインキャストで出演。河村ほむらのコミックを原作に、2018年のTVドラマからシリーズ化されたこの作品、浜辺美波がギャンブル狂の女子高生役で主演している。清楚なイメージだった彼女が殻を破るきっかけにもなったが、劇中で森川が果たした役割も大きかった。

 ドラマ1期で、転校してきた蛇喰夢子(浜辺)と最初にギャンブルで勝負したのが、森川が演じる早乙女芽亜里。見せ場を方向付ける大事なシーンで、森川は英勉監督から「全部任せるから、みんなのテンションを引っ張り上げて」と託されたという。

 実際にこの勝負で、森川は目玉が飛び出そうなほど目を見開いたりとヘン顔もしながら、異様なまでのテンションの高さを見せた。緊迫感の中で賭けに狂うノリは、この最初の勝負で確立されて、以後のシリーズにも引き継がれた。

 浜辺は当時、「撮影当日まで不安でしたけど、森川さんが場を盛り上げるお芝居をしてくれたので、自然にテンションが上がって賭け狂えました」と話していた。英監督も森川について「できる子だと聞いてましたが、想像以上にできる子だったので驚いてます」とコメントしている。

劇中でも技を披露しつつ本業での躍進に期待

 森川自身、それまで「役作りはしない」とのことだったが、マンガ原作でナチュラルではないこの役は「台本を読んだあとにアニメを観て、マンガを読んで、また台本を読んで……というのを、何回も何回も繰り返しました」と語っていた。

 同シリーズでは、スピンオフの配信ドラマ『賭ケグルイ双』(Amazon Prime Video)に主演。『映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』では、新キャラクターの視鬼神真玄(藤井流星)に打ち負かされたり、蛇喰夢子と陰で共闘したりしながら、絶望や絶叫とアップダウンの激しい演技を見せている。お馴染みのキャラクターになった早乙女芽亜里らしさが出ていて楽しい。劇中で『それって!?実際どうなの課』で身に付けたダイススタッキングをするシーンもあり、見事にサイコロ4個を積み重ねてみせた。

 ともあれ、森川葵の本来のすごさは縦横無尽の演技力。“ワイルド・スピード森川”として知名度を上げたところで、本業の女優でのいっそうの活躍にも期待したい。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

斉藤貴志の最近の記事