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『ドラゴン桜』の生徒役で注目の南沙良。「自分と正反対の明るい役」で光る女優としての純度の高さ

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/河野英喜

人気ドラマの16年を経た続編として話題を呼ぶ『ドラゴン桜』。低偏差値の落ちこぼれ高校から東大を目指す生徒役たちにも注目が集まっている。その中で、何不自由なく育ったが飽きっぽい早瀬菜緒を演じているのが南沙良。民放の連続ドラマには初出演だが、多くの映画祭で新人賞を受賞した実力派の18歳だ。そして、明るい役は今回が初挑戦になる。

カメラが回ったら普段と違う自分に

「菜緒は明るくて純粋で無邪気な普通の女子高生で、私自身とは正反対(笑)。オーディションでこの役に決まったときは驚きました。自分の中の一番明るい部分を引っ張り出して頑張っています」

 演じている役柄について、そう語る南。本人はそんなに暗いのだろうか?

「普通に明るいと思うんですけど、顔に出なくて『暗いね』と言われることが多いです。菜緒みたいに友だちとはしゃぐようなことはあまりありません。高校は通信制で、中学にもあまり行ってなかったので、同世代の方とお話する機会が少なくて」

 劇中では「ウケる~」などと軽口を叩きながら、屈託のない明るさを振りまいている。

「そういうイマドキな方たちの言葉も、普段はまったく使いません(笑)。でも、カメラが回れば何とか頑張れます」

陰のある役のほうが演じやすかったです

 南は小6のとき、中学生向けファッション誌『nicola』の専属モデルオーディションでグランプリを受賞。2017年に映画『幼な子われらに生まれ』で女優デビューしている。母親の再婚相手の義父を拒み、DVで離婚した実父に「会いたい」と言う役だった。2018年には、『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』で吃音症に苦しむ女子高生役で初主演。ブルーリボン賞、日本映画批評家大賞ほかの新人賞を総ナメにした。

 2019年には、フジテレビヤングシナリオ大賞受賞作『ココア』でドラマに初出演。いじめを受けて自殺未遂をした過去を持つ少女を演じている。そうした陰のある役に比べたら、今回の明るい菜緒役は、気持ち的には楽だろうか?

「逆に、ちょっと大変ですね。今までの役は自分と重なる部分がハッキリ見えて、演じやすかったんですけど、菜緒は私が話したこともないような子なので」

 それでも、生徒たちの中で際立つキャラクターを確立しているのは、さすがだ。

「自分の頭の中では、菜緒のイメージはしっかりできているんです。でも、そこに近づける技術をあまり持ってなくて……」

 本人はそう言うが、このドラマで初めて南を見た人は、たぶん彼女自身が早瀬菜緒のような女の子だと思うくらい、ナチュラルに演じている。

頑張れたことがない気持ちはわかります

 早瀬菜緒と南沙良は「正反対」というが、共通点はないのだろうか?

「まったくないですね(笑)。菜緒は思ったことを全部口に出す子で、私はあまり言わないほうだったり。でも、何かを頑張れたことがない気持ちはわかります。私も努力できないタイプの人間なので。今、お芝居は一番頑張れていると思います」

 他に何かを頑張ろうとしたことはあって?

「あります。習いごとは英語とピアノと水泳をちょっとやってました。英語は教室には通っていたんですけど、何も吸収できず、一番の苦手科目でした(笑)」

 『ドラゴン桜』のように勉強を頑張ったりは?

「授業をちゃんと受けようと思ったことはあります。でも、どうしても続けられなくて。試験前も勉強をする気は出ませんでした(笑)」

 早瀬菜緒は飽きっぽい自分を変えたいと思って、東大専科に入った。

「私ももっと人に思いやりを持ちたいとか、いろいろな人とお話できるようになりたいと思ったことはありました。それで、自分から話し掛けたりはしたんですけど、盛り上がらなくて、不発に終わりました(笑)」

 でも、演技は頑張っていると。

「頑張っているというか、楽しいからやっている感じです。昔からずっと、女優さんになりたったので」

妄想が好きで深海魚にもなりたくて(笑)

 南沙良が女優を目指したきかっけは、何かのドラマか映画を観て……ということではなかったそうだ。

「ドラマより映画のほうが全然観てましたけけど、家族とサメの映画を観たりして楽しむ感じでした(笑)。最近、映画館で観たのは『エヴァ(シン・エヴァンゲリオン劇場版)』です。昔から好きで、完結編ということで楽しみにしていたので。アニメは他にもたくさん観ていて、『ソウルイーター』とか『ヒプノシスマイク』とか<物語>シリーズが好きでした」

 アニメでも学園モノなどより、ファンタジー系が好みだったらしい。では、「女優になりたい」という想いは、どこから生まれたのか?

「小さい頃から、自分でない人になりたかったんです。妄想するのが好きで、ひたすら何かになっていました。お姫様にもなったし、インコになりたかった時期もあります(笑)。空を飛びたかったので」

 そういう妄想は今もしていたり?

「めちゃくちゃしますね。今は深海魚になりたいです(笑)。あと、恐竜にも会いたいし、現実的な想像もします。空想上の理想のお友だちと遊んでいたり。だから、お芝居で実際に自分でない人になっている時間は、すごく好きなんです」

 今も南の演技のベースには“妄想”があるらしい。

「役作りというのは、あまりしないほうです。今までの役ではそれほど必要なかったこともありますし、今回の自分と正反対の役でも、台本を読んで想像でイメージを広げて、そこにどう近づけるか……ということをしています」

 そして、カメラが回れば「自然に役になれていることが多いです」とのこと。デビュー作からそうだったと言うから、天性の演技カンを持っているのだろう。「自分でない人になれる」という意味では、辛い境遇の役も「楽しかった」と話す。演じることに特化した、女優としての純度の高さを感じる。

周りの声を気にしないで自分のペースで

 女優デビューしてすぐに数々の賞を獲ったことは、南沙良への注目度を高めたが、本人的には最初からハードルが高まった面もあったのでは?

「それは全然ないです。あまり気にしてないというか。賞をいただけたことはありがたいんですけど、自信に繋がることもなくて。いい意味で周りの声があまり聞こえてないので、自分のペースでやれていると思います」

 『ドラゴン桜』は学園モノで、多くの同世代の役者たちとの共演も初めてになるが、今回のキャストに限らず、ライバル意識は誰に対しても「ありません」とも。

「私にとっては日々新鮮な現場です。自分からはあまり話し掛けられないんですけど、最初の頃よりは馴染んできた気がします(笑)。休憩時間は『明日も朝早いね』とか何でもないことを話しています」

 生徒たちの東大合格を請け負う弁護士・桜木建二役の阿部寛とは、彼女の趣味の仏像鑑賞について聞かれたりしているそう。18歳でなかなか渋いが、他に演技以外で関心を持っていることは?

「本を読んだり、ゲームをしたり、アニメを観たり……。1人ですることが好きです。小学生の頃からずっと、辻村深月さんの『凍りのくじら』という小説を愛読しています。この前もまた読み返して『やっぱりいいな』と思いました。ドラえもんのひみつ道具にちなんだお話で、毎回変わらない感動があります」

裁縫もお芝居に繋がると思います

 日曜劇場に出演して知名度は高まりそうで、いずれはドラマでもヒロインを演じることが期待される。自分ではどんな女優像を目指しているのか?

「具体的なイメージがあるわけではないですけど、型にハマらない女優さんになれたらいいなと思っています。ひとつの役柄だけでなく、幅広い演技ができるような。菜緒のような明るい役も、難しいけどやり甲斐があります。あと、お芝居以外にも文章を書いたり、いろいろな形で表現できる人になりたいです」

 では、演技力をより高めるために、日ごろから努力していることは?

「やっぱり小説を読んだりして想像力を磨くのは、いろいろなことに役立つと思います。あと、私は裁縫も大好きなんですけど、作りたいものを1から自分の手で生み出すことは、お芝居にも繋がる気がしていて。楽しみながら縫っています」

撮影/河野英喜

Profile

南沙良(みなみ・さら)

2002年6月11日生まれ、東京都出身。

2014年に『nicola』モデルオーディションでグランプリ。2017年に映画『幼な子われらに生まれ』で女優デビュー。2018年に映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』で初主演。その他の主な出演作は、映画『無限ファンデーション』、『もみの家』、『太陽は動かない』、ドラマ『ココア』、『これっきりサマー』、『六畳間のピアノマン』など。『ドラゴン桜』(TBS系)に出演中。2022年放送の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)に出演。

日曜劇場『ドラゴン桜』

TBS系/日曜21:00~

公式HP

TBS提供
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芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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