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福田麻由子の主演映画『グッドバイ』が公開 「恵まれてそうに見えて空っぽだった自分が映ってます」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
映画『グッドバイ』に主演した福田麻由子

福田麻由子が主演した映画『グッドバイ』が公開される。新鋭・宮崎彩監督が大学時代に自主制作で撮った長編デビュー作で、子役時代から多くのメジャー作品に出演してきた福田がオファーに応えた。母親と二人で暮らし、娘から女性へと変わる役。当て書きされていたとのことで、「自分の根っこのコンプレックスが滲み出た」という。

仕事や人生に後ろ向きな時期に撮りました

――前回取材させていただいたときは、「共演したことはないけど通じ合える」とお話に出た大後寿々花さんと、ツイッターでやり取りがあったようですね。

福田 私があまりツイッターを使いこなせていなくて、初めてメールみたいなメッセージが来て、「何だろう?」と思ったら、すずちゃんでした。そういう機能があることを知らなかったんですけど、すごくうれしかったです。

――ちなみに、福田さんが仲良い芸能人の友だちというと?

福田 大野いとちゃんです。共演経験はないんですけど、お芝居のワークショップでご一緒したのをきっかけに、仲良くなりました。芸能人で友だちと言えるくらいの距離感なのは、いとくらいかもしれません。もう5年くらいのつき合いで、同業者でここまで心の内を話せる存在がいなかったので、救われています。

――それで、公開される主演映画『グッドバイ』は、宮崎彩監督が大学時代に初めて撮った長編デビュー作。自主制作映画のオファーを受けて、面白そうだと思って出演したんですか?

福田 まず宮崎監督と事務所でお会いして、いろいろとお話をうかがいました。それが3年くらい前で、私は仕事や人生について後ろ向きな時期だったんです。監督がゼロから自分の力で作ろうとしている作品に、応えられる自信が正直ありませんでした。でも、面と向かって話していたら、私に当て書きしたと言ってくださったり、熱意を強く感じて。同世代の方がピュアな気持ちからオファーしてくださったのがうれしくて、お引き受けしました。

映画『グッドバイ』より
映画『グッドバイ』より

自分の子ども時代にコンプレックスがあって

娘の視線を通じて家族のゆらぎを切り取った『グッドバイ』。上埜さくら(福田)は母親と二人で暮らしている。仕事を辞めて、保育園で一時的に働くことになったが、園児の保護者に幼い頃から離れて暮らす父親の姿を重ねるように……。

――当て書きということで、思い当たるところはありました?

福田 台本を読んだときは私に当てたとは思わなかったです。作品としては面白かったのですが、どの辺が当て書きなのか、わからないままでした。でも、出来上がって観たら、「こういうことだったのか!」と強く腑に落ちて、やられたなと(笑)。改めて、参加して良かったと思いました。

――「こういうこと」とは、どういうことだったんですか?

福田 ひと言では難しいですけど、私のパーソナルな部分がすごく出ていました。表面的なところでは、さくらと性格が似ているわけでもないですし、家庭環境も違います。でも、自分の根本的なコンプレックスが滲み出ていて。だから、見られたくない気持ちもありつつ(笑)、自分の根っこを引き出してもらった喜びもあります。

――福田さんにどんなコンプレックスがあるんですか?

福田 自分の子ども時代に強いコンプレックスがあるのは、間違いないと思います。仕事をしていたこともあって、自由で楽しい子ども時代をあまり過ごせなかったので。どちらかというと、もの心がついたときから、いろいろなものに縛られているような生き方をしてきました。

――小さい頃から、大人の世界で仕事をしていたから?

福田 それはやっぱり大きかったと思います。親との関係性にしても、私は仕事にプライドを持っていたから、純粋な親子とはまた違うものがあったり。子ども時代を伸び伸びと過ごした感覚があまりなくて、自分で自分を勝手に縛り付けていたんだと思います。そこはさくらと近い部分でした。

自分で自分を縛るところは役と同じでした

――さくらは幼い頃から母親と二人暮らしで、父親とは離れてました。

福田 特殊な環境でしたけど、それ以上に、さくらは先回りして母親に気をつかったり、自分の欲に自分でフタをして全部遮断していて。周りの力で縛られて辛いのではなく、気にしなくてもいいようなことや少しのズレを自分で勝手に取り込んで、自分をどんどん縛ってしまう。そういうところが私にすごく似ているなと、共感しました。

――福田さんの輝いていた子ども時代に、裏ではそんなことが?

福田 そうですね。さくらの家庭環境だったら、逆に伸び伸び生きる道もあったと思いますけど、そうは行かなかった。子ども時代のさくらは、たぶん勉強でも何でも器用にできて、周りから見たら何不自由なかったと思うんです。私も傍から見たら恵まれていたでしょうし、誉めていただくことも多かったので、ステイタスみたいなものはそれなりに持っていました。でも、自分の中から自分を見ると、「空っぽだ」という想いは子どものときからずーっとありました。空っぽなのに、いい服を着ているような感覚。そのコンプレックスは強かったです。周りからはいい服を着ているところしか見えていなくて、そこがさくらと通じるなと思いました。

――では、演じるうえではやりやすい役でした?

福田 今となっては、いろいろ似てると感じますが、台本を読んだときは、そこまでちゃんと自分とさくらの共通点はわかってなかったです。ボヤッとしていて、どちらかというと、わからない部分が多くて。監督にすべてを委ねて、乗っかるつもりでやりました。監督がさくらを作ってくれた部分が大きかったです。

映画『グッドバイ』より
映画『グッドバイ』より

伝わってほしい気持ちはすごく強いです

――冒頭がさくらが会社を辞めたくだりでしたが、なぜ辞めたかは考えましたか?

福田 自分なりに考えました。私の経験だと、倉庫で単純作業のアルバイトをしていたときの「この場所に何年もいたら息苦しいだろうな」という感覚を、ちょっと思い出しました。あとは、実際に会社を辞めた友だちに理由を聴いてみたりしました。

――この作品は意外と台詞が少ないですよね? その分、福田さんの表情や目線で伝わる演技が印象的でした。

福田 本当に台詞は少なくて、監督にその都度、どういうことを伝えたいのか聴きました。私は作品に参加するからには、観ている人に伝わってほしい気持ちはすごく強いので。

――離れて暮らす父親への感覚も、いろいろ想像しました?

福田 そうですね。男性の家族と距離が遠い女の子や女子校育ちの子には、何となく共通した空気感があるのは、普段から友だちと話して感じていたんです。男性とあまり生活を共にしてない友だちや知り合いを思い浮かべて、その微妙な空気感を盗めないか、結構考えました。

――さくらは父親に艶めかしい感情を持っているようでした。

福田 私は普通に男友だちもいますし、お父さんとも仲が良かったので、男女をそこまで区別して考えるタイプではないです。でも、さくらはたぶん、男と女は別の生き物だという感覚があるんだろうなと思ったので、そこは意識しました。それがある意味、男性といるときに出てくる艶めかしさみたいなものに繋がるのかもしれません。

映画『グッドバイ』より
映画『グッドバイ』より

大きな作品の中で自分が何をしているのか

――さくらは「娘から女性に変わりゆく役柄」と謳われてますが、福田さんにもそういう時期はありましたか?

福田 ありました。『グッドバイ』は3年前にほとんど撮って、1年後に桜のシーンを追加して、2年経って公開になりますけど、それこそ当時の24歳くらいの頃が、一番もがいていた時期でした。そこから今まで、いろいろなことにグッドバイしてきたと思います。

――「もがいていた」とか、最初に出た「後ろ向きだった」というのは、自分の女優としてのあり方みたいなことに関して?

福田 役者としても1人の人間としても、生まれてきたときの環境や家庭があったうえで生きているじゃないですか。大人になって、何を持って何を持たないのか、自分で選べるようになって、すごく悩んでいた20代前半でした。それはさくらも同じだったと思うんです。捨てると決めたもののひとつが会社だったし、お母さんや家はどうするか、グルグルしていたところで、お母さんのほうから「家を探しなさい」と言い渡されて。私はいろいろ決められなかったから、当時の人生の迷いがそのまま何となく、映画に映っている感じがするのかなと思います。

――女優をやめることも選択肢にはあったんですか?

福田 やめようと思ったことはないのですが、どのようにやっていったら良いのか、迷っていました。いろいろな作品に携わらせていただいたのは、ありがたいことです。でも、そこにはすごくたくさんの人が関わっていて、システムも出来上がっていて、全員の方の顔はわからない。その作品がどうして作られることになったのかも知らない。大きいプロジェクトの中で、私は結局、何をやっているのか、全部は見えない。来たものをやる繰り返しでいいんだろうかと、ずっと考えていました。

映画『グッドバイ』より
映画『グッドバイ』より

「好きだから作る」という原点に初めて触れました

――根本的なところでの迷いだったんですね。

福田 そんな中で、『グッドバイ』はすごくシンプルだったんです。監督が生み出したいものを、少ない仲間と作り上げようとしていて、スタッフの皆さんの顔がわかる。そのときは配給会社が決まっていたわけではないから、途中で撮影をやめて完成できなくても困らない。でも映画を作りたいから、みんなで作るんだという、一番の原点がありました。私にはそういうやり方は初めてだったんです。自分がやっている仕事の根本はこれなんだと、初めて教えてもらいました。ビジネスだからでなく、ゼロから気持ちだけで作る。そんなシンプルなことを同世代の仲間たちと経験できたのは、私の大きな財産になりました。自分のお芝居への想いも改めて確認させてもらえました。

――小さい頃から大きな作品に何本も出てきた福田さんが、自主制作映画で大事なことを見つけたんですね。

福田 こういうふうに作品を作ったことがなかったのが、たぶん自分のコンプレックスのひとつだったと思います。この作品が、私の空っぽな部分を少し埋めてくれた感じがします。

フラーム提供
フラーム提供

子どもの頃のシンプルな気持ちを忘れたくなくて

――子役からのグッドバイも、模索した時期はありました?

福田 やっぱり10代後半から20代前半くらいは、それをすごく考えました。髪をちょっと茶色に染めてみたりもして、まあそういうことではなかったのですが(笑)、大人になるにはどうしたらいいのか、わかりませんでした。でも、時が過ぎれば自然と若くなくなって、子役との距離は勝手に離れました。脱皮がどうとか考えなくなりましたね。最近は逆に、ずっと子どものままでいたいと思っています(笑)。

――今年で27歳になりますけど(笑)。

福田 大人になることが良しとされる風潮を、私は疑問に思っています。大人には本音と建前があると言いますけど、建前は要らなくないですか(笑)? そういう意味で、子どものときのシンプルな気持ちを忘れたくありません。大好きなお芝居を本気でやったり、うれしいと思ったら「うれしい」、好きだったら「好き」と言う。そんな子ども心みたいなものを、おばあちゃんになるまで守り続けることこそ、本当の勝負なのかなと。ひとつ子どもと違うのは責任を背負える人になることで、それ以外は周りの声に惑わされず、子ども心を守り続けることがすごく大事だと、最近思うようになりました。

――では、26歳の今、グッドバイしたいものはありますか?

福田 恥ずかしい気持ちとどれだけ決別できるかが、最近のテーマです。演じるうえでは昔から恥ずかしさはなくて、普段の生活や取材で写真を撮っていただいたりするときに出るんです。自分に自信がなかったり、人にどう見られるかを気にするから恥ずかしいわけですよね。好きなことをして、好きな服を着て、思ったことを言って、「どう思われてもいい」と考えるようにしました。恥を捨てて、もっと素直に生きていけたらいいなと思います。

Profile

福田麻由子(ふくだ・まゆこ)

1994年8月4日生まれ、東京都出身。

1998年にCMに出演して芸能界デビュー。小学生時代にドラマ『女王の教室』、『白夜行』などで注目を集める。主な出演作はドラマ『Q10』、『未来日記-ANOTHER:WORLD-』、『スカーレット』、『メンズ校』、映画『L change the WorLd』、『ヘブンズ・ドア』、『マイマイ新子と千年の魔法』、『FLARE フレア』、『ラ』、『蒲田前奏曲』ほか。『リカ~リバース~』(東海テレビ・フジテレビ系)に出演中。

『グッドバイ』

4月3日より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

公式HP https://goodbye-film.com/

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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