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『罪の声』でカギとなる役を演じた原菜乃華。悲痛なシーンで胸を揺さぶる17歳の演技力

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『罪の声』出演の原菜乃華 (c)草刈雅之/HUSTLE PRESS

35年前に日本中を震撼させた食品会社への脅迫事件がモチーフの映画『罪の声』。未解決の真相に迫るリアリティあるヒューマンミステリーで、小栗旬と星野源の映画初共演も相まってヒットしている。ストーリーの核になっているのは、事件の渦中で身代金の受け渡しを指示する脅迫テープに使われた3人の子どもの声。その子どもの1人の女子中学生を演じているのが、原菜乃華だ。映画のカギとなる役で予告編から目を引き、胸を引き裂かれるような演技が焼き付く。

脅迫テープに声を使われた中学生役を託される

 社長誘拐、身代金要求、食品への毒物混入、キツネ目の男……。1984年から85年にかけて起こり、未解決のまま時効となった一連の企業脅迫事件を、時を経て追う新聞記者・阿久津英士(小栗)が『罪の声』の主人公。取材を重ねる中で辿り着いたのが、京都でテーラーを営む曽根俊也(星野)だ。家族3人で幸せに暮らしていた彼は、父の遺品の中に古いカセットテープを見つけ、子どもの頃の自分の声が脅迫に使われていたことに気づき、恐怖を感じていた。

(C)2020 映画「罪の声」製作委員会
(C)2020 映画「罪の声」製作委員会

 2人が共に事件の謎を探っていく中で、当時忽然と消息を絶った生島一家のことを知る。娘で中学生の生島望(原)は俊也と同じく、テープに声を使われた子どもの1人だった……。

 原作は元新聞記者の塩田武士のベストセラー小説。映像化をオファーするに当たり、那須田淳プロデューサーは「声を使われた子どもたち、中でも望ちゃんのエピソードに心を掴まれ、そこに宿る悲しみや切なさを映画を通して救ってあげたいと奮い立った」と語っている。その重要な望役が原菜乃華に託された。

 望は映画字幕の翻訳家になることを夢見ていたが事件に巻き込まれ、「あのテープのせいで一生台なしや!」と悲痛な叫びを上げているのが、予告編からインパクトを残す。公衆電話で涙ながらに「絶対絶対夢叶える!」と自分に言い聞かせるように話すシーンは、劇中でも山場のひとつになっていて、激しく胸を揺さぶる。

撮影前に友だちと連絡を絶って役に同化

 現在17歳の原はもともと、モチーフになった事件のことは知らなかった。ネットで調べたり両親から話を聴き、「あんなに大胆で犯行声明を出すような事件が、ドラマの中でなく実際にあったんだと驚きました」という。

(C)2020 映画「罪の声」製作委員会
(C)2020 映画「罪の声」製作委員会

 一家揃って姿を消した望を演じるに当たり、クランクインの前に友だちと連絡を絶って、1人で役の心情について深く考える時間を作った。

「どんどん自分を追い詰めて沈んでいって、ごはんもあまり食べられなくなって、ボーッとしている時間が増えました。望を演じるうえではいいことかもしれませんけど、本番までがめちゃくちゃ長く感じて、自分の中で勝手に大変なことになっていました」

 そのうえで、撮影では「難しいことは考えていません」とも。

「現場に入るまでに、しっかり気持ちは作ってきたので。ただ、監督から『望はこの映画の中で希望の存在。辛くても前向きな姿勢を忘れないでほしい』とアドバイスをいただいたので、それだけを胸に留めて演じました」

12歳のときに妊娠する役を演じ切って反響

 原菜乃華は幼少期から子役として活動し、様々な作品に出演してきた。小4のときに公開された園子温監督の映画『地獄でなぜ悪い』では、二階堂ふみが演じたヒロインの子ども時代の役。子役だった設定で、劇中の歯磨きのCMで歌いながら踊る姿が印象を残した。中1からの2年間は、朝の子ども向けバラエティ『おはスタ』で「おはガール」としてアシスタントを務めている。

 愛らしさで人気を呼んだ一方、中学生になってから「急に彼氏がいたりする役が増えた」とのことで、特にドラマ『朝が来る』では注目を集めた。現在、映画版が公開されているが、原は当時12歳で妊娠・出産する中学生役をリアルに演じ切った。苦しんで生んだ赤ん坊を養子に出して手放すシーンでも涙を誘っている。

 中2の頃には、自らの名前を冠した映画『はらはらなのか。』で初主演。役名も原ナノカで、子役から女優へと変わる中で演技に悩むという、自身と重なる部分の多い役だった。また、映画『3月のライオン』では有村架純が演じた役の少女時代の、棋士を目指す気性の激しい役どころで評判を呼んだ。

(C)草刈雅之/HUSTLE PRESS
(C)草刈雅之/HUSTLE PRESS

感情をぶつけて泣く演技が強みに

 原は子役時代、プロフィールの特技欄に“泣く演技”を挙げていた。

「自分ではそんなに得意な意識はなかったんですけど、感情をぶつけるシーンで『良かったよ』と言ってもらえることが多くて、そこは自分の強みなのかなとは思ってました」

 いわゆる子役的な泣き方ではなく、昔も今も「涙を出そうとするより感情を作ります」とのこと。『罪の声』では「自分にとっての役者と望ちゃんの夢は通じるものがあると感じて、自分が役者の夢を捨てなきゃいけない状況に置かれたら……とひたすら想像しました」という。公衆電話のシーンでは、リハーサルから涙が止まらなかったそうだ。

(C)2020 映画「罪の声」製作委員会
(C)2020 映画「罪の声」製作委員会

「2回だけ段取りをやって、監督が各部署に急いで確認して、『すぐカメラを回そう』という形にしてくださったんです。私が望ちゃんだったら精神的に折れちゃって、逃げ出す気力もなかったと思います。想像するだけで暗くなっちゃう状況でしたけど、望ちゃんの夢に対する熱量はすごいので、暗く演じてしまうのは違う。辛い気持ちの倍、『負けない!』という意志もしっかり持つ。そんな心持ちでいました」

 今も愛らしさは持ち合わせつつ、高校生になって端正な美少女ぶりも際立ってきた原菜乃華。観る者を引き込む演技力を『罪の声』でも発揮したが、女優として「自分のキャラクターを確立させたい」と話している。

「私はキツイ女で行きたいんです(笑)。もちろんいろいろな役をやってみたいですけど、小さい頃から怒っている役がハマると言われることが多くて、そっちは特に頑張ろうかなと思っています」

 『罪の声』のヒットで知名度も上がり、さらなるチャンスに恵まれそうな原菜乃華の、いっそうの活躍が期待される。

(C)草刈雅之/HUSTLE PRESS
(C)草刈雅之/HUSTLE PRESS
芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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