Yahoo!ニュース

孤独を埋めるため愛欲に走り…。『あざみさんのこと』主演の小篠恵奈。「必死にもがくのはカッコいいです」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『あざみさんのこと』主演の小篠恵奈(撮影/松下茜)

満島ひかりが主演した『海辺の生と死』など、男女の揺れ動く情愛を描き続ける越川道夫監督の最新作『あざみさんのこと 誰でもない恋人たちの風景 vol.2』が10月10日より公開される。主人公のあざみを演じたのは小篠恵奈。年の離れた恋人と別れて、孤独を埋め合わせるように性に奔放になる役柄だ。初めてのベッドシーンも見せながら、不格好でも必死に生きていく姿を体当たりで演じた。

自分と合致するところは少ない役でした

小篠恵奈は現在26歳。高校生のときに事務所のオーディションに合格し、2012年に女優デビュー。『ふがいない僕は空を見た』や『ももいろそらを』など映画祭で評判を呼んだ作品に出演したりとキャリアを重ね、2015年公開の『3泊4日、5時の鐘』では旅館で大学生を翻弄する役で主演した。

――小篠さんのインスタはマンガの紹介だらけですね(笑)。

小篠  マンガ、大好きです。

――その中に『ガラスの仮面』もありましたが、女優を目指すうえで影響を受けたんですか?

小篠  読み始めたのは14歳のときで、それで女優を目指したわけではなく、仕事を始めてから刺さるようになりました。泥まんじゅうも「うめえ、うめえ」と食べなきゃいけない(笑)。あれは極端ですけど、マヤちゃん、すごいなと。

――天才的で憑依型の北島マヤとサラブレッドだけど努力を重ねる姫川亜弓と、自分はどちらのタイプだと思いますか?

小篠  どちらもおこがましいですね。ドラマの撮影でマヤをハメて、亜弓さんとの2人舞台の座を奪って出たけど、亜弓さんにフルボッコにされた子がいたじゃないですか。

――乙部のりえですね。

小篠  私は彼女のタイプです(笑)。あんな陰湿なことはしませんけど、たいした実力もないくせに、自尊心ばかり高いという。

――小篠さんも自尊心が高いんですか?

小篠  そうでもないかもしれません(笑)。マヤちゃんも亜弓さんも違うので、強いて言えば……ということで。

――『あざみさんのこと』のあざみ役はどういう経緯で決まったんですか?

小篠  もともと越川監督と違う作品でご一緒したのですが、それがまだ世に出ていなくて。「リベンジしよう」と声を掛けられたのがきっかけで、台本をいただいてから「ぜひやりたいです」と言いました。

――あざみ役に強く惹かれるものがあって?

小篠  自分と合致するところがあまりない子だったので、「これは大変だぞ」と思いながらも、純粋にやってみたいなと。越川さんがこの子をどう描くのか見てみたい、というのもありました。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

ダメージを受けた量が他の役と違いました

――撮影は去年の10月だったそうですが、当時の小篠さんの状況的に、あざみの何かに反応した部分もありました? 生きていくことについて考えていたとか……。

小篠  確かに、その頃は少し病んでいたかもしれません。「この子はこんなに一生懸命生きているのに、私はこれでいいのだろうか?」みたいなことは感じていました。撮影中は苦しかったんですけど、終わったときに「生きていかなきゃいけない」と背中を押されました。

――「病んでいた」というのは……。

小篠  途方もない虚無感みたいなものに囚われる時期って、ありませんか? 特に理由があるわけでもないのに何だか落ち込む。その時期にぶつかっていたんだと思います。

(c)2020キングレコード
(c)2020キングレコード

――「命があるからとダラダラ生きてきた」とのコメントもありました。

小篠  そういう感じでした。あざみさんとして生きていると、こんなに直にダメージを食らい続けても、必死にもがいているじゃないですか。私はスイスイよけながら生きていて、それは大人になったら普通のことかもしれませんけど、あざみさんくらい一生懸命もがけるのはカッコ良く見えました。

――これまでの女優人生も、振り返れば必死になり切れてない部分があったとか?

小篠  お仕事は一生懸命やってきました。でも、プライベートで「自分は何者か?」と思案に耽ると、だいたい心が病み始めるんです。考え込んで引きこもりがちなので。お芝居に関しては、ここまで体当たりをしないといけない役は初めてでしたけど、今までも全力だったから「今回は一番頑張りました」ということではありません。ただ、ダメージの量は他の役とは違いました(笑)。

――セックスシーンもポイントの映画で、たぶん「できますか?」と聞かれましたよね?

小篠  最初にその質問をされました。もちろん不安はありましたけど、越川さんをとても信頼しているので。そこで一番悩むということではなかったかもしれません。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

大人なのに少しズルい男性がいいなと

『あざみさんのこと』で小篠が演じたあざみは、複雑な家庭から逃げ出して、年が倍近く離れた編集者のキタジマさんの恋人になる。彼と釣り合うように背伸びしても、仕事優先で向き合ってもらえず、寂しさをこじらせた。その後は誰と一緒にいても、キタジマさんのことが頭を離れない。パニックになり、元カレを呼び出して体を激しくむさぼる。

――「自分と合致するところがあまりない役」とのことでしたが、あざみの心情がわからない部分があったわけですか?

小篠  心情的にわからないところはなかったです。ただ、寂しさを埋めるための行動のベクトルが自分と違っていて。あざみさんは異性に行くことに辿り着いて、それは私にはない部分だったので、どうしてそうなったのかはすごく考えました。健全か不健全かは別にしても、あざみさんの行動の部分で理解できないことが多かったのは確かです。あと、どうしてキタジマさんの元に戻らないのか。私はキタジマさんが好きだったので(笑)。

(c)2020キングレコード
(c)2020キングレコード

――どういうところが?

小篠  いい大人なのにちょっとズルいのが、カッコ良くないですか? 何を言っても響かない感じで、あざみさんが一生懸命伝えても「そうだね」という。大人の余裕、卑怯さが羨ましいところで、自分もそこまで大人になりたい。背伸びしたい。あざみさんのそういう気持ちはすごくわかります。

――ズルいところが好き、という感覚があるんですか?

小篠  ズルい人のほうがいいじゃないですか(笑)。完璧でやさしくて……みたいな人は、ちょっと怖く感じてしまいます。私は人間的なズルさはわりと正しいものだと思っていて。キタジマさんが自我をどんどん消していくようなところもすごいし、好きですね。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

14歳の頃に空虚さを埋めて自己改革しました

――あざみの行動のベクトルは小篠さんと違うとしても、キタジマさんと別れてからの彼女のように、心に穴が開いてしまったような気持ちには覚えはありました?

小篠  人を好きになったからではないですけど、私は14歳の頃が一番そういう時期でした。情緒が安定してなくて、反抗的で、何かを埋めようとしていて……。空虚さみたいなものを感じたピークだった気がします。そのときも何か理由があったわけではなくて、思春期と中2病が相まってしまったんだと思いますけど。

――14歳の小篠さんは空虚さをどう埋めたんですか?

小篠  落ちるところまで落とし切ってしまおうと。そしたら、人って意外と勝手に上がってくるんですよ。だから、結果どうなるかは一度置いといて、それまでは何もしません。絶対に誰とも関わらない。あと、人の悪口も言わない。言うなら陰で言わずに本人に直接言う。学校で陰でヒソヒソ言って誰かをいじめてる子がいたら、「本人に言えないんだったら止めなよ」と勇気を持って話す努力もしました。

――そういうことを実際に言ったんですか?

小篠  言いました。すごくドキドキしながら。あの時期は心理学の本も読み漁って、どうすれば人とのやり取りがうまくできるかも考えました。そんな自己改革を頑張って重ねて、自分というものを作って、空虚さを埋めていった感じです。

――14歳の頃に自己改革をしていたと。

小篠  そしたら、そこそこ性格が悪くなっちゃいましたけど(笑)、大人になってからは、わりとちゃんとやっています。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

私のキスはヘタすぎたみたいです(笑)

――ダメージを受け続ける役の中でも、特に演じるのが辛かったシーンというと?

小篠  居酒屋でのキタジマさんとのシーンは一番苦しかったです。立ち去らないといけないのに、立ち去りたくなくて、脚がどうしても動かなくて。体力的にキツかったのは、海でキタジマさんを引き留めるシーンです。

――からみのシーンは初めてでしたっけ?

小篠  越川さんと前に撮った作品では少しありましたけど、世に出るものでは初でした。

――緊張感はありました?

小篠  フランクでした(笑)。他のシーンが暗いから周りもその流れで、「ちゃんと女優さんをケアして」みたいなことでもなく、撮影の一部という感じでした。

(c)2020キングレコード
(c)2020キングレコード

――殻を破るような感覚もなく?

小篠  始まる前は不安で「ハーッ……」となって、「考えないようにしよう」みたいな自己暗示を掛けましたけど、始まったら意外と大丈夫でした。動きは全部決められていて、現場で一番段取りチックでした。

――むさぶりつくようなキスとか、痛々しい感じもしました。

小篠  私、キスがヘタすぎたらしくて(笑)、監督に「何とかもう少しレパートリーを」と言われました。「キスにレパートリーとかあるの?」って、ちょっと戸惑いましたけど、ヘタクソなのが相まって痛々しいとか、良いほうに転んだように思います。

――キタジマさんに「一緒にいるのに片想いみたい」とすがるように訴えるところも、辛さが伝わってきました。

小篠  キタジマさんとは夢の中のシーンが最初で、斉藤(陽一郎)さんがキタジマさんでいてくれたので、「私はあざみさんをできる」と確信しました。キタジマさんを好きだと信じて疑わない。ずっとそんな気持ちで演じていたから、痛々しく見えたとしても、意図していたわけではなくて。ただキタジマさんに振り向いてほしくてやったことが、そういうふうに見えて、あざみさんを愛おしいと思ってもらえたなら良かったです。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

泣かないようにしたらコンタクトが落ちました

――それにしても、辛いシーンが続くと、精神的にすり減る感じもありませんでした?

小篠  そうですね。めちゃめちゃダメージを食らって、しかも私、すぐ涙が出てきちゃうんです。監督に「あざみさんは我慢して生きているんだから泣くな」と言われました。だから、大事な居酒屋のシーンも「絶対泣かないぞ」という気持ちでやっていたら、コンタクトがポロッと落ちて、やり直しになってしまって(笑)。

――そこまで眼球に力を入れていて?

小篠  「こんなの見たことない」と言われました(笑)。

(c)2020キングレコード
(c)2020キングレコード

――細かいところだと、あざみはドーナツが好きなんですかね?

小篠  あれはたぶん自傷行為の一種です。自分を痛めつけるために過食をしていて。私は甘いものが苦手なので、本当に自傷行為みたいな気持ちで、早くOKを出して食べる数がなるべく少なくて済むように頑張りました(笑)。

――あざみにまっすぐな愛をぶつけてくるノダくんは、キタジマさんに対するあざみの写し鏡のように見えましたが、彼のことはどう思っていたのでしょうか?

小篠  あざみさんが初めて母性を持って人に触れた気がします。純粋な恋愛感情とはまた違うと思いますけど、すごく大事なことでしたね。ノダくんをどう思ったかより、初めて人に何かを与えようとした感じなのかな。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

一生懸命すぎて成長を感じる間もなくて

――撮影でダメージを受けると、すぐ切り替えられました?

小篠  撮り終わってもズンとしたままで眠れなかったり、夜中に突然涙が出てきたり、気持ちがずっと沈んだ状態になっていました。本当は切り替えられたらいいんでしょうけど、そんなに器用でもないので。

――クランクアップした後も引きずっていたり?

小篠  終わった2日後に、運転免許の合宿を入れておいたんです。自然が多いところで心をリフレッシュしようと思って。意外と引きずらなかったんですけど、最初の試写を観たら、いろいろ思い出してしまいました。最近もふとしたときにあざみさんを思い出して、ちょくちょく引きずっています。忘れていたはずなのに……みたいな。

――それだけ役と一体化していたのは、女優さんとして良いことでもあるんでしょうけど。

小篠  そう考えたら、落ち着けますかね。でも、本当に良い役者さんは終わった瞬間にちゃんと切り替えられるし、メンタルコントロールができて一流という気がします。私も早く切り替えができるようになりたいです。

(c)2020キングレコード
(c)2020キングレコード

――この『あざみさんのこと』に主演して、女優として大きくステップアップした感覚はありますか?

小篠  私が今まで表現したことのないジャンルで、少し引き出しが増えた感じはします。「こういうお芝居もできた」みたいなところは、いくつかありました。

――転機になった、というほどではなく?

小篠  一生懸命すぎて、わかってないんですよね。成長できたと感じる間もなく終わって。もしかしたら数年後に「あの作品が成長に繋がった」と思うのかもしれませんけど、今はまだ、終わったこととして認識できてない節があります。

――あざみは「生きていかなくっちゃね」と言ってましたが、小篠さんが人生で目指していることはあるんですか?

小篠  主演とかは置いておいて、ずっとお芝居をしていたいです。ドラマとか映画とか具体的なことではなく、違う人生の自分でない何者かになり続けていたい、というのはあります。

――仕事以外のことでは?

小篠  将来は田舎に隠居したいです(笑)。山と川が好きなので、宮城辺りに家を買って、ひっそり生きていきたいです。

――でも、女優は続けるんですよね?

小篠  車でブーンと撮影に行ったり、新幹線に乗ったりすれば、できるかなと。

――そういう環境だと、あざみのような役をやっても切り替えはしやすそうですね。

小篠  そうですね。心の静養ができる場所に住みたいです。静かなところなら、大きな家でなくていいので(笑)。

Profile

小篠恵奈(こしの・えな)

1993年11月24日生まれ、東京都出身。

2012年に映画『カルテット!』でデビュー。主な出演作は映画『ももいろそらを』、『ふがいない僕は空を見た』、『花宵道中』、『3泊4日、5時の鐘』、ドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』、『ミストレス~女たちの秘密~』など。

『あざみさんのこと』

監督・脚本/越川道夫

10月10日より新宿K’s cinemaほか全国順次ロードショー

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

斉藤貴志の最近の記事