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『麒麟がくる』に足利義栄役で登場の一ノ瀬颯。台詞なしでも「心に秘めた炎」でインパクトを残す

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜

大河ドラマ『麒麟がくる』の9月27日に放送された第25回の最後に、室町幕府の第14代将軍となる足利義栄が初登場した。演じるのは一ノ瀬颯。今年3月まで『騎士竜戦隊リュウソウジャー』に主演していた23歳の新鋭だ。台詞のない短いシーンでも、その存在感はおおいに目を引いた。

高校まで人前に立つことは避けてきました

――2浪して青山学院大学に合格して、入学式の日の校門前でスカウトされたそうですが、その前から俳優志望ではあったんですよね?

一ノ瀬  小さい頃にスーパー戦隊を観ていて、ヒーローになりたいというより、それを演じるのがカッコイイなと、子どもながら漠然と思ってました。でも、親に「厳しい世界だからやめておけ」と言われて、ずっと夢にフタをしていたんです。それが、高校生のときに受けた論述テストで「職業はお金で選ぶか、やりたいことを選ぶか」という話が出ていて、ハッとしました。年齢を重ねて、親も「スネをかじらなければいい」と言ってくれたので、大学に入って落ち着いたら俳優を目指したいと思ってました。

――自分でドラマや映画は観ていたんですか?

一ノ瀬  テレビをあまり観ていませんでした。部活でバスケットをやっていて、家に帰ったら勉強して寝るくらいの生活だったので。事務所にお世話になり始めてから、観るようになりました。

――人前で何かをするのは好きでした?

一ノ瀬  いや、すごい恥ずかしがり屋で、かつ緊張しぃなので、人前に立つことはわりと避けてきました。高校生のときに「これで最後だから」って、思い切って女装コンテストに出たりはしましたけど(笑)。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

スーパー戦隊は芸能界の学校的な場所でした

――スカウトから1年足らずで、『リュウソウジャー』の主人公・コウ=リュウソウレッド役でデビューして注目されました。スーパー戦隊シリーズは若手俳優の登竜門と言われますが、出演した立場から、その後の活動にプラスは大きいと感じていますか?

一ノ瀬  先輩たちが活躍されているからこそ、付いてくるものはあるかもしれませんけど、基本的には作品に出て「戦隊出身なんだ」って、遡って知られることが多いと思います。肩書きよりも、同じ役を1年間やらせてもらって、演技に対する取り組み方を教わって、役者としての土台を作ってくれたことが大きくて、芸能界における学校的な場所でした。だから、出身の方々も実力を認められて、出てくるのかなと思っています。

――一ノ瀬さんの場合、『リュウソウジャー』がデビュー作で、まさに土台に?

一ノ瀬  すべてを教えてもらったと言っても過言ではないです。いろいろなシーンに、アクションやアフレコもやらせていただいて、人前で話す機会もたくさんもらって、役者としてのモチベーションも上がりました。

――他のドラマの演技でも、そのまま活かせてますか?

一ノ瀬  よく“戦隊芝居”とか言われますけど、『リュウソウジャー』のメインの監督がそういうのを嫌っていて、大げさに演じるようなこともなくて。内容はファンタジーでも演じ方はナチュラルに導いてくださったので、今もそれほど違いは感じずにできています。ただ、戦隊ほどテイクを重ねないのが普通なので、最初から本気でいいものを出すことは心掛けています。

――ドラマのスピンオフとして配信されている『アンサング・シンデレラ ANOTHER STORY~新人薬剤師 相原くるみ~』では、急性骨髄性白血病で入院している高校生を演じました。

一ノ瀬  病気の描写はあまりないんですけど、どういう症状で生活にどんな支障を来すか調べて、勉強になりました。病気を宣告されるまでは普通の高校生活を送っていたのが、入院して、いきなり学校に通えなくなって。病気自体の重さより、病気のせいで当たり前だったことが失われてしまった。やり場のない怒りとか心の中のわだかまりは、すごく考えました。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

義栄は病いに冒されても強い意志を持っていて

――『麒麟がくる』で足利義栄を演じていますが、大河ドラマを観たことはありました?

一ノ瀬  そもそもテレビ自体をあまり観てなくて、大河も祖母の家に行ったときに観るくらいでした。でも、日本史には興味あるので、観てみたら、すごく面白かったです。

――とはいえ、足利義栄のことはご存じでした?

一ノ瀬  知りませんでした。調べたら京に行けなかった将軍で、病気で亡くなっていて。歴史上の実在の人物を演じるのは初めてで、自分が寄せていかないといけないんですけど、史実として文献に残っていることが少なくて、本人のことがなかなかわかりませんでした。以前に演じた方もいないから、ヒントがあまりなくて苦労しました。

――そういう中で、どんな人物像をイメージしたんですか?

一ノ瀬  亡くなるまでの生きざまは、病いに冒されて弱々しいということではなく、将軍としての誇りと強い意志を持っていて。「やっていくんだ」という気迫を感じさせる人物として演じました。

――共感するところもありましたか?

一ノ瀬  義栄の場合、病いとか敵対勢力とか、追い込むものがいろいろありましたけど、逆境に立ち向かうことは、自分も受験とかいろいろなところで経験してきたので、そこは似ているかなと思いました。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

表情だけで人となりを一瞬で伝えようと

――現場では時代劇ならではのことはいろいろありました?

一ノ瀬  セットから普段目にする家にはない作りで、テレビでしか見なかったものがそこにある感じでした。烏帽子を被ったり、和服を着たり、座り方とか所作もあって、後ろに控える役の方々もいらっしゃって。そういう雰囲気は他の作品にはなかなかないので、すごく新鮮でした。

――和服やカツラはどんな感触でしたか?

一ノ瀬  たくさん着込んでいるので堅くて、座りづらいし動きづらいところはありました。昔の人はこういうのに慣れていたんですかね。カツラを被ると顔が結構グーッと上に引っ張られる感じで、目尻が下げづらいというか、表情が作りにくかったりもしました。

――初登場から短い場面でも強く印象に残りました。

一ノ瀬  征夷大将軍に任命されて詮議を受けているところで、台詞はなくて、表情もほんの少し顔を動かすくらいでしたけど、初登場なので、その一瞬で義栄の人となりや何を考えているか、心に秘めた燃える炎みたいなものが、伝わればいいなと思いました。

――台詞がない中で、難しいことですよね?

一ノ瀬  人物を表現するときに言葉がないと、伝わり方が薄くなってしまうと思って、1コ1コの表情に気を付けて、心の中でしゃべっていました。病気に負けずに強い意志を持っていることは芯に置きました。

『麒麟がくる』より  (c)NHK
『麒麟がくる』より (c)NHK

家では役者さんや歌のマネをして大騒ぎです(笑)

――普段の生活の中で、演技力向上のためにしていることはありますか?

一ノ瀬  よく映像作品を観ながら、役者さんのマネをしています。自分にない表現をモノにして、引き出しを増やしたくて。マネからでも吐き出し方を自分の中にストックとして持っておいて、どこかで使えたらいいかなと思ってます。

――どんな人のマネをするんですか?

一ノ瀬  『中学聖日記』の町田啓太さんが絵に描いたような正統派のイケメンを演じてらっしゃって、「これができるようになったら、すごくいいな」と思って、所作とか視線の動かし方とか間の取り方とか随所にマネしました。あと、『凪のお暇』の高橋一生さんはカッコイイながらも、面白いところもあって。

――夜道を泣きながら歩いたりしてましたね。

一ノ瀬  ああいう振り幅があると、観ていて惹かれると思って、マネしながら笑ってました(笑)。

――今はドラマをよく観ているんですか?

一ノ瀬  自粛期間中に結構観ました。『テセウスの船』は壮大なスケールで、特に鈴木亮平さんの熱い演技はカッコ良くて、自分もああいうふうにできたらと思いました。映画だと、園子温監督の『自殺サークル』を人に薦められて観たら、映像は抽象的で難しいんです。でも、そこに秘めたメッセージみたいなものが伝わってきて、「こういう表現もあるんだ」と。自分が今まで観てこなかったジャンルで、すごく響きました。

――他に演技の勉強とかと関係なく、家でよくしていることはありますか?

一ノ瀬  歌っていることが多いです(笑)。最近流行っている良い曲を幅広く。back numberさん、米津玄師さん、Official髭男dismさん、YOASOBIさん……。歌も声マネをするんですよ(笑)。女性アーティストさんだったら、それっぽい声を出せるように。あと、ディズニーの『美女と野獣』とかは、男性と女性のパートを1人2役で歌います(笑)。

――ダンスもやってるんでしたっけ?

一ノ瀬  ダンス部は入ってすぐ引退したので、ほぼ自己流で基礎とか身に付いてないですけど、三浦大知さんの激しめなPVを観て、コピーして踊ってます。本当に家では1人で勝手に大騒ぎしてます(笑)。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

人と同じでなく自分らしさを常に持っていたい

――落ち込んだときに聴く曲はありますか?

一ノ瀬  落ち込み方によりますね。劣等感に苛まれていたら、back numberさんの『ネタンデルタール人』です。浪人の1年目に塾とか行かなくて、成績があまり伸びなかったとき、自分の心を代弁してくれていたというか。歌詞の状況はちょっと違いますけど、嫉妬や劣等感を愚痴っていきながら、最後は“自分らしく”みたいな歌で、勇気をもらって今でも好きです。単にテンションを上げたいときは、K-POPのITZYというグループがEDM系で激しくて、よく聴きますね。

――そもそも落ち込むことはあるんですか?

一ノ瀬  最近はそこまでないです。自分の演技に関して、ちょくちょく落ち込んだりはしますけど、戦隊のとき、これでもかというくらい落ち込んだので(笑)。それを乗り越えてこられたから、「次はどうやろう?」と切り替えができるようになりました。

――当面の目標にしていることはありますか?

一ノ瀬  今はとにかく、いろいろやらせてもらって自分の引き出しを増やして、どんな役にも向き合っていける実力を付けたいです。だんだん良い役をいただけるように成長して、何年か後には主役も任せてもらえるように、今のうちにできる限りのことを身に付けておきたいと思っています。

――仕事以外のことで夢はあります?

一ノ瀬  広い家には憧れます。いろいろな人を呼んで、パーティーをしたいです。あと、インテリアが好きなので、将来的に自分で家が建てられたら、外観や構造から面白くしたくて、いろいろ考えたりはしています。

――オリジナリティのある家にするんですね。

一ノ瀬  人と同じというのは、あまり好きでないので。協調性は持ち合わせいるつもりですけど、自分らしさは常に持っていたくて。ファッションでも持ち物でも、好きなものにはこだわりが強いかもしれません。

――それはお芝居に関しても?

一ノ瀬  そうですね。さっき言ったように、いろいろマネして「こういうときはこれで」というものはあっても、基本的には自分の思ったままにやるようにしています。かつ、それが認められるようになれば、嬉しいなと思います。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

Profile

一ノ瀬颯(いちのせ・はやて)

1997年4月8日生まれ、東京都出身。

2019年3月から放送の『騎士竜戦隊リュウソウジャー』でデビュー。ドラマ『特捜9 season3 』、配信ドラマ『アンサング・シンデレラ ANOTHER STORY~新人薬剤師 相原くるみ~』(FOD)に出演。大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK)に出演中。10月20日スタートのドラマ『この恋あたためますか』(TBS系)に出演。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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