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『半沢直樹』で若手の部下を演じる入江甚儀 「作品内のリアルに合わせて演技のチューニングをしてます」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
日曜劇場『半沢直樹』に出演中の入江甚儀(撮影/松下茜)

時を経た続編でも高視聴率を続けている日曜劇場『半沢直樹』。大人たちのドラマにあって、半沢の若手の部下役を前作で中島裕翔、今作の前半で賀来賢人が務め、脚光を浴びた。そして現在、このポジションを担っているのが入江甚儀だ。中学生でデビューしてキャリアは12年。幅広いジャンルの作品で多彩な役を演じてきたが、大きなチャンスでもある『半沢直樹』にはどう取り組んでいるのか?

あの世界にいなかった“ゆとり世代”の役かなと

『半沢直樹』で入江が演じているのは、東京中央銀行に出戻った半沢が次長を務める営業第二部の若手行員・田島春。巨額の負債を抱える帝国航空の再建のために半沢と共に奔走している。日曜劇場には『流星ワゴン』、『ノーサイド・ゲーム』に続く出演。共に『半沢直樹』を大ヒットに導いた福澤克雄氏が監督を務め、これまでの演技も買われていたようだ。

――『半沢直樹』の前作は観てましたか?

入江  いち視聴者として毎週楽しみにしていましたし、今回の話が決まって、1話から最終話までレンタルして全部観直しました。放送当時から時間は経ちましたけど、物語の時系列は繋がっているので、世界観を改めて知って気持ちを作っておこうと思って。

日曜劇場『半沢直樹』より (C)TBS
日曜劇場『半沢直樹』より (C)TBS

――『半沢直樹』は大人のドラマだけに、若手の部下役は目につきます。自分に求められているものは考えました?

入江  出演者に共通して求められるのは、まず“台詞回しを速くテンポ良く”ということだと思います。田島にひとつ感じたのは、あの中で一番の青二才で駆け出しのバンカーなのに、ベテランや取引先の大御所がいる中で、突拍子もないことを言うんです(笑)。5話で空港で迷っているお客さんがいたとき、グレートキャプテン(帝国航空のベテラン機長)の前で「わざわざ係員を呼ばなくても、乗務員が直接ご案内したほうが早くないですか?」と大きな声で言ったり。

――そうでしたね。

入江  そこでヒントを得て、田島は俗に言う“ゆとり世代”なのかなと思いました。僕自身は好きな言葉ではないですけど、『半沢直樹』の世界にいなかったタイプなので、ある意味、そこを武器に演じていけたらと考えています。

――入江さん自身にある部分ではないと?

入江  僕自身はわりと先輩・後輩の関係には重きを置いてますから、明け透けな言葉が出てしまったら、反省します。田島はたぶん反省してなくて(笑)、僕はそういう人を外から見て「すごいことを言うな」と思っている側です。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

莫大な台詞が口から勝手に出るようにしてます

――『半沢直樹』では“顔芸”が話題になりますが、田島も多少、何かあったときの表情が強めではないですか?

入江  そうですか? でも、ちょっと意識している部分はありますね。作品によって、その世界でのリアルはあると思うんです。たとえばヒーローものなら、変身の最中に敵は攻撃してこない。恋愛ものなら、壁ドンとか日常でされたら「怖っ」となることが胸キュンだったり。『半沢直樹』だからこそのリアルも存在していて、そこを理解しながら演じないと、リアクションが小さい人物になってしまう。だから、ベースラインに沿った中で、やらせてもらう意識はあります。

日曜劇場『半沢直樹』より (C)TBS
日曜劇場『半沢直樹』より (C)TBS

――現場の空気感も、他のドラマにないものはありますか?

入江  かなり特殊な現場だと思います(笑)。他の現場で共通のことを理解していても、生半可な気持ちでは挑めません。とにかく台詞量が莫大なので、広辞苑をまる1冊覚えるくらいの覚悟が必要だったり。僕はそこまで行かなくても、堺(雅人)さんは1話から10話まで通して、丸暗記されていると思います。

――台詞の量もさることながら、経済用語も多いですしね。

入江  そういう言葉を専門職の方はいちいち考えながら話さないじゃないですか。「融資」とか「金利」とかは日常会話の一部。長い説明台詞も、要約すれば「よろしくお願いします」ということだったり(笑)。だから、頭で思い出しながら台詞を言うのでなく、口から勝手に出るくらいにする気持ちで挑んでいます。皆さん、そうですから、腕の見せ合いだと思って勉強させていただいてます。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

経済や世の中の情勢は前から勉強してました

――バンカーとしての振る舞いに関しても、何か意識してますか?

入江  姿勢は大事だなと、オンエアを観て思いました。猫背のバンカーって、ちょっと信用できない感じがするじゃないですか。髪型にも気をつけて、爪を磨いたりもしました。

――身だしなみだと、背広の着こなしも大事ですか?

入江  東京中央銀行の自分のデスクにいるときは、三つあるボタンの真ん中を開けています。帝国航空とか取引先に足を運んだときは留める。それは堺さんがされていたことで、小さな工夫があります。

日曜劇場『半沢直樹』より (C)TBS
日曜劇場『半沢直樹』より (C)TBS

――銀行員って、どんなイメージがありました?

入江  お堅いイメージはありました。あと、大きなお金を扱うので、失敗したら一気に転げ落ちる仕事でもあって。常に神経を研ぎ澄ませて働かないといけないんだと、僕は思っています。

――役作りのために、何か調べたりも?

入江  普段から経済のことを勉強するのは好きなので、そういう動画を観たりはしていました。融資と投資の違いとか、今は株に投資しないほうがいいとか、そういうお金の動きの基本はある程度、学んでいました。

――それは『半沢直樹』の話が決まる前から?

入江  そうです。勉強というより、世の中の情勢がどうなっているのか、知りたいんです。それが今回、活かせた部分はあります。あとは、各銀行の合併とかの歴史や、ネットバンクとメガバンクの違いも調べました。昔はメガバンクに預金するだけで利息がたくさん入ったとか、今はネットバンクのほうが利息が付くとか。

――役者さんをやりながら、社会の動きも意識しているんですね。

入江  大事なことだと思います。僕たち役者は皆さんに観ていただく立場ではありますけど、演じる役柄は観てくれている方たちの中にいる人間なので。そういう感覚は持っていたいです。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

堺雅人さんと糖質制限の話をしました

――『半沢直樹』の現場では、半沢役の堺雅人さんとコミュニケーションはかなり取っているんですか?

入江  田島がいるところには、必ず半沢次長がいるので(笑)。1人で行動したシーンはあまりなくて、常にご一緒させてもらって、いろいろお話もさせていただきました。僕は体に気をつかって、ジムに行ったり、サプリを飲んだり、糖質制限をしているんですけど、自分なりの知識をお伝えしたら、堺さんに興味深く聞いていただけて楽しかったです。

日曜劇場『半沢直樹』より (C)TBS
日曜劇場『半沢直樹』より (C)TBS

――演技論を交わすわけではなくて?

入江  僕からお尋ねするより、現場でお見せするのが、一番いい演技論になるというか。メイクルームで堺さんの隣りにいて、堺さんが急に台詞の練習を始めたら、僕もそのシーンの台詞で受け答えする。「やろうか」でなくて自然に台詞合わせが始まるのは、現場の“あるある”なんです。

――お互い台詞を入れておいたうえで。

入江  いちいち考えながら言葉を吐き出すのでなく、自分の中から自然に台詞が出てくるくらいにしておきたいので。でも、堺さんは莫大な台詞をわざわざ「覚えてきましたよ」とは言われませんし、覚えてきて当たり前。その姿を見て素晴らしいなと思います。

デビューしてすぐ「甘い世界じゃない」と痛感

入江は現在27歳。中2のときに事務所の新人オーディションに合格。すぐさま『絶対彼氏~完全無欠の恋人ロボット~』でデビューし、立て続けに連続ドラマ3本にレギュラー出演した。青春ドラマ『金魚倶楽部』、特撮映画『キカイダーREBOOT』に主演、放送中の大河ドラマ『麒麟がくる』(前田利家役)に出演など、多彩なキャリアを持つ。

――入江さんは中学生でデビューしましたが、自分から事務所のオーディションに応募したんですよね?

入江  はい。小さい頃から出たがりで、学芸会で「主役やりたい人?」と言われたら、自分から手を上げる子どもだったんです。そういう中で、父親と一緒にドラマを観ていると、同年代の神木(隆之介)くんや志田(未来)さんがその頃から活躍されていて。それで刺激を受けたことがきっかけでした。

――事務所に入って、すぐ連続ドラマに3本続けて出演して、イケイケな感じでした?

入江  憧れの世界に急に飛び込んで、いきなりお仕事が決まって、舞い上がっていたと思います。でも、「甘いものじゃない」と痛感しました。田舎で育って憧れだけで何も知らない自分では、プロの皆さんのレベルで作品を作り上げていけない。大変なふるいにかけられて勝ち残ってきた方たちの中に、お芝居の経験がない僕がポンと入っても、歯車を機能させられない。できたと思ったことは何もありませんでした。

――たとえばどういう局面で、甘くないことを実感したんですか?

入江  デビュー作の『絶対彼氏』で、14歳のときに19歳のバーテンダー役をやらせてもらって、真矢みきさんのお店に佐々木蔵之介さんがお客さんとして来るんですね。メインの会話が交わされている裏で、お芝居をしてないといけないんですけど、何もわからなくて佐々木さんにワインを5杯くらい注いでしまって(笑)。エアーですけど、佐々木さんは何も言わずにお付き合いで飲む演技をしてくださいました。今思えば、本当にやさしく接していただきました。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

お芝居を好きでないとプラスαが生まれないので

――そういう状況から、役者としての力を磨くために、どんなことをしたんですか?

入江  磨くというと、台詞の練習とか台本の読み方とか、技術の話になりますよね。その前にお芝居を好きにならないと、たぶんそれ以上のものは出せないと思うんです。台詞は練習すれば誰でも言える。でも、プラスαで何をどう表現するかが、自分からしか生まれないアイデンティティだと思っています。だから、最初はお芝居を好きになる努力をしました。いろいろな作品を観て、それで演技が上手くなるわけではないにせよ、「こうなりたい」「こんな演技がしたい」という気持ちが出てくることを大事にしました。

――「これを観て意欲が高まった」という作品はありますか?

入江  今パッと浮かんだのは『ピンポン』です。窪塚洋介さんと井浦新さんの卓球の映画で、この仕事を始める前に父親に観させられた記憶があって。仕事で同年代とも関わるようになって、「何の映画が面白かった?」という話の中で『ピンポン』が出てきて、改めて観たら、すっごく面白かったんです。熱量が高いし、青春だし、スポ根で恋愛要素はありませんけど、全部が詰まっている。皆さんが楽しそうにお芝居されている姿を見て、いいなと思いました。

日曜劇場『半沢直樹』より (C)TBS
日曜劇場『半沢直樹』より (C)TBS

――入江さんはこれまで、青春もの、特撮、大河ドラマなど、幅広く出演してきました。自分の中では、転機になった作品はありますか?

入江  すべてが今に繋がっていると思います。ドラマしか経験なかったときに舞台をやると、お芝居の仕方が違って、舞台の中でもミュージカルは違う。映画もまた違う。舞台でドラマのお芝居をすると伝わるものも伝わりませんし、作品によっても伝え方は変わると思うんです。いろいろ経験させてもらって、「この作品ではこういう声のボリュームや明瞭さで」というのが、だんだん理解できるようになりました。

――声から作品ごとに変えるんですね。

入江  『半沢直樹』では、ざっくり言うなら映画のような繊細なお芝居をすると、何を言っているのかわからないでしょうし、テンポ感についていけないと思うんです。だから、自分の中でチューニングというか、明瞭でハキハキした舞台的なお芝居も多少入れつつ、調合しながらやっている感じです。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

体を鍛えるのはカメラに映るベースです

――俳優界の競争は厳しいと思いますが、自分の武器だと思うことはありますか?

入江  何ですかね? アスリートではないので「これが得意」とは一概に言えないと思います。そこだけ秀でても、同じ役しか来なくなってしまうので。

――入江さんは写真集で見事な筋肉美を披露したこともありました。体を鍛えているのも、役者業のためですか?

入江  趣味です(笑)。でも、カメラに映って皆さんに観ていただく立場として、ベースを保っておくためでもあります。たとえばスーツを着たときのカッコ良さとか、ある程度は求められると思うので。体を鍛えていれば、食べすぎないように気をつけたりもしますし、自分の中では現場に出るうえでの基本と捉えてます。

日曜劇場『半沢直樹』より (C)TBS
日曜劇場『半沢直樹』より (C)TBS

――毎日欠かさずやる運動もありますか?

入江  体のどこかのストレッチをしています。たとえば毎日5キロ走るとなると、気持ちを奮い立たせるだけでも大変で、続かなければ挫折したことになってしまう。それより小さな目標を毎日続けて、徐々に大きくしていけばいいかなと。1年前にアキレス腱を毎日伸ばすことを目標にしたんですけど、続けていると他のところも伸ばしたくなる。そういうことをしています。

――でも、それだけであの体はできない気もします(笑)。

入江  自分が好きでいられる範ちゅうに収めています。筋トレでも多少無理はしても、楽しくなくなるほど無理はしません。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

結果を出していけばなるようになるかなと

――プライベートでは、料理も得意なんですよね?

入江  好きです。高校から1人暮らしを始めて、外食だと同じものになってしまうので、自分で作ってみたら意外とおいしかったのがきっかけでした。量も味付けも自分好みにできるので。

――今の得意料理というと?

入江  めちゃくちゃ簡単なので、皆さんにもぜひ作ってもらいたいのが、ナスと豚肉の生姜ポン酢炒めです。ナスと豚のバラ肉を切って、ごま油でナスをちょっと軟らかくして、ポン酢をジャーッ、生姜をバーッとかけるだけで、おいしく出来上がります。

――現在27歳ですが、20代のうちにやっておきたいようなことはありますか?

入江  海外旅行をしたことがないんです。仕事では何度か行かせてもらいましたけど、20代のうちに……と思っていたら、こういう状況になってしまったので、いつになるやら。

日曜劇場『半沢直樹』より (C)TBS
日曜劇場『半沢直樹』より (C)TBS

――行きたい国はあるんですか?

入江  まずアジア圏内ですかね。初心者にもやさしそうなので。あと、グランピングをしたいです。テントが最初から立っている場所でキャンプしたり。でも、今はとにかく、この状況下に素晴らしい作品でお芝居させていただいているのがありがたくて。いつか何かに繋がると思うので、大事にしたいです。

――お話をうかがっていると、何ごとも目の前のことから一歩ずつ進んでいくのが信条ですか?

入江  大きな目標を掲げるのも素敵ですけど、それに縛られたり押し潰されたくはないので。目標は自分の背中を押してくれるツールくらいに考えています。

――主役をガンガン張りたい……とかもないですか?

入江  ないですね。なるようになると思っているので。今、結果を出していかないと主役も張れないでしょうし、主役の良さもあれば主役でない良さもあるし……って感じです。差し当たっては、『半沢直樹』を一生懸命務めさせていただきます。

Profile

入江甚儀(いりえ・じんぎ)

1993年5月18日生まれ、千葉県出身。身長183cm。

2008年にドラマ『絶対彼氏~完全無欠の恋人ロボット~』でデビュー。主な出演作はドラマ『金魚倶楽部』、『TAKE FIVE~俺たちは愛を盗めるか~』、『ノーサイド・ゲーム』、『この男は人生最大の過ちです』、映画『キカイダー REBOOT』、『ストロボ・エッジ』、『流れ星が消えないうちに』、『劇場』、舞台『若様組まいる』、『夜が私を待っている~ナイト・マスト・フォール~』など。ドラマ『半沢直樹』(TBS系)、『麒麟がくる』(NHK)に出演中。9月11日公開の映画『窮鼠はチーズの夢を見る』に出演。

日曜劇場『半沢直樹』

TBS系/日曜21:00~

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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