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離婚危機に直面する夫婦を描く映画『あなたにふさわしい』に主演、山本真由美が感じた“妻の絶望”

斉藤貴志芸能ライター/編集者
映画『あなたにふさわしい』に主演する山本真由美 (c)Shunya Takara

昨年、『第19回TAMA NEW WAVE』、『ボストン国際映画祭2019』、『JAPAN CUTS Hollywood 2019』、『第10回映像グランプリ』など数々の映画祭で正式出品や受賞が相次いだ『あなたにふさわしい』(宝隼也監督)が、いよいよ公開される。ひとつの別荘をシェアした2組の夫婦が、共に離婚の危機に直面する5日間の物語。夫とすれ違い密かに不倫をしている主人公の主婦を演じた山本真由美に、この作品への想いなどを聞いた。

役者を目指したルーツは『ひみつのアッコちゃん』?

山本真由美は兵庫出身の36歳。落語家で曲独楽師でもあった故・桂米八さんを父に持つ。10代の頃からドラマ、映画、舞台と幅広く出演し、2016年には『サーチン・フォー・マイ・フューチャー』で第9回田辺・弁慶映画祭の主演女優賞。2017年には西野亮廣(キングコング)主演の『デンサン』でヒロインを演じている。2018年には大ヒットした『カメラを止めるな!』で主題歌を担当した。

――お父さんが落語家さんの家庭で育つと、稽古しているのを聞いて自然に落語を覚えたりするものですか?

山本  胎教で聞いていたのは、父が入門していた米朝師匠の落語だったようですけど、覚えていません(笑)。土曜のお昼に家に帰ると、父の落語の稽古を耳にしながら、ごはんを食べたりはしていました。ただ、お師匠さんに付いてやっていく父の背中を見ていて、逆に落語は立ち入る世界ではないと思っていたので、自分がやるとは微塵も考えませんでした。

――でも、女優業の傍ら、落語家・桂喬香としても活動されていますよね?

山本  上京してから、舞台役者が集まって落語をやる会のお誘いがあって、最初は丁重にお断りしていました。でも、地元にいた頃より自分で落語に興味を持つようになって、一度「じゃあ、やります」と言ってしまって。まだ父が存命だったので、スカイプで送ってもらったお手本を見て、1人で練習しました。

――やっぱり血筋があったんでしょうね。

山本  でも、初めてやったときは「もう嫌だ!」となって、高座を降りました(笑)。「もう一生やらない!」と思ったんですけど、忘れた頃にまたやる……というのを繰り返すうちに、今に至りました。

――ドラマには中学生の頃から出演していますよね。女優は早くからやりたいと?

山本  そうですね。ふとルーツは何だったか考えたことがあって、私は『ひみつのアッコちゃん』(第2期)の世代なんですよ。コンパクトも全部持ってました。あれは変身するお話で、そういう楽しさがお芝居の根底にあるし、ごっこ遊びの極みだとも思うんです。それで役者に興味を持った気がする……と言うと、メルヘンな感じですけど(笑)。初めは表現のひとつの方法がお芝居でした。

『カメ止め』主題歌でNHKの番組にも出られて

――影響を受けた映画やドラマもありますか?

山本  『レオン』のナタリー・ポートマンはすごく好きでした。最近は小津(安二郎)監督の映画を観直しています。『東京物語』、『麦秋』、『東京暮色』……。時代が変わっても「今もあるよね」という人間関係のお話が出てきたり、令和に観てもすごく良いです。落語みたいだなとも思います。

――モノクロ映画でも普遍的な世界観で。

山本  あと、人生は喜劇だとも思うので、シリアスな演技だけでなくコメディができる女優さんは、本当に尊敬します。『プラダを着た悪魔』のアン・ハサウェイとか。それから、『ブルー・バレンタイン』や『マンチェスター・バイ・ザ・シー』に出ていたミシェル・ウィリアムズのお芝居もすごく好きです。

――『あなたにふさわしい』の主人公役は、主演した上田慎一郎監督の『テイク8』を観た宝監督から声が掛かったとか。上田監督の映画には『カメラを止めるな!』以前に3作出演されていました。

山本  『テイク8』のひとつ前に、『Last Wedding Dress』という作品でお話をいただいて、脚本を読んだら笑って泣けて、めちゃくちゃ面白かったんです。今になって言うわけではなくて(笑)。私は小さい役でしたけど、「この監督と一緒にやりたい」と参加して、そこからのご縁になりました。

――『カメ止め』では主題歌「Keep Rolling」を歌われました。映画が大ヒットして、山本さん的にも良いことはありました?

山本  NHKの歌番組に出演させてもらえたのは、貴重な経験でした。NHKの屋上でゾンビが出てきて逃げ惑いながら歌うという演出で、それを生放送でワンカットでやったのは忘れられません。何より、この映画が日本の片隅から国境を越えて世界に広がる過程を、間近で感じられたことが大きかったです。

相手との距離感が縮まらないことはあります

『あなたにふさわしい』で山本が演じたのは専業主婦の飯塚美希。夫の由則(橋本一郎)に不満を持っている。彼のビジネスパートナー・林多香子(島侑子)とその夫・充(中村有)と共に、2組の夫婦で5日間の休暇を避暑地の別荘で過ごすことに。現地に着くや、由則と多香子は急きょ仕事のトラブルに対応するが、実は美希と充は以前から不倫関係にあって……。

――演じるうえで美希役の難易度はどんなものでした?

山本  難易度とかは考えたことがないです。人間が人間を演じるので、理解してあげたい気持ちのほうが強いかもしれません。美希はもがいている、あがいている……という印象がすごくありました。人は感情をストレートに表したり、行動に移すとは限らない。その曖昧さも大切にしました。

――台詞がないシーンでの表情が印象に残ったりもしました。

山本  何か言いたげなのに、結局言葉にできないシーンが多かった気もしますね。心の中ではたくさん言葉が溢れているんですけど(笑)。

『あなたにふさわしい』より (c)Shunya Takara
『あなたにふさわしい』より (c)Shunya Takara

――美希は結婚するときに由則に「働かなくていい」と言われたという台詞がありましたが、劇中で描かれていない2人が結婚した経緯なども考えました?

山本  どういう流れでそこに至ったか、想像しました。流された部分やお互いへの甘えはあったのかな? とか。多香子の台詞で、結婚したのは「名字がしっくり来たから」と言っていたのは、妙にグッときました。それだけで決めたわけではないにしても、他愛もないことが理由になる経験は、生きていてあるので。

――美希が夫に渡すでもなく書いた三下り半にあった「私たちの間には絶望的に埋まらないわずかな隙間がある」という言葉は、実感としてわかりました?

山本  わかります。人のことをわかりたい、近づきたいと思っても、一方的には叶わない。お互いの歩み寄れる距離感がどうしても縮まらないことはあると思います。

――逆に、美希の言動で理解しにくいところはありましたか?

山本  森で出会った野鳥カメラマンとのことですね。あまりにモロくて危うくて、客観的に見たら辛かったです。美希的には寄りかからないと立てない状態で、大げさに言えば生きるか死ぬかの極限だったから、わからないまでも「こんなこともあるかな」と想像しました。

『あなたにふさわしい』より (c)Shunya Takara
『あなたにふさわしい』より (c)Shunya Takara

小さな掛け違いがだんだん大きくなったのかな

――劇中でも美希は「潰れちゃいそう」とか「自殺しそうに見えた」と言われていて、実際そんなふうに見えましたが、演じていてキツい部分はありました?

山本  ずっと閉塞感は抱えていました。だけど、美希本人もそこに気付いていなかったり、見ないようにしている部分もあるので、その狭間の中で生きていて。演じている最中はそう見せようとは思ってないから、台詞で言われて少しハッとして、完成して観たときに改めて辛さが来ました。実際に辛くても、本人がわかってないときはあるじゃないですか。だから、台本を読んで気持ちのフィルターが何層もあるのはわかっても、それはいったん忘れて演じました。 

――演じている最中に役と同化して辛くなったわけではなくて?

山本  同化はします。ロケ地の軽井沢では、朝起きたら鳥がチュンチュン鳴いていて、何も考えずに自然を感じていたいけど、身体の中に半分は美希がいる状態で、そうも行かなくて。撮影中でなくても、役のことを考えている間は少なからず影響されますし、役柄によって顔つきも変わるものだと思います。

『あなたにふさわしい』より (c)Shunya Takara
『あなたにふさわしい』より (c)Shunya Takara

――女優さんとしては、そこまで役に入るのは良いことでしょうけど。美希は別荘に来て辛くなったというより、積もりに積もっていたものがあったようですね。

山本  夫との関係がズレにズレて、小さな掛け違いがだんだん大きくなって、“修復できるのか、できないのか”みたいなところまで行っちゃったんでしょうね。

――山本さん目線だと、夫として由則はどう映りますか?

山本  由則さんか……。逆にどうですか? 男性から見て。

――奥さんの気持ちに気づかなさすぎるにせよ、浮気したのは奥さんのほうなのに……って、ちょっとかわいそうな気もしました。

山本  表面的にはそうですよね。どっちが全部悪いということではないし、お互い言い分もあるだろうし。私は言いたいことは言うタイプですけど、タイミングを逃したりして言えなくなってしまうこともあるのかなと。でも、外から見ていると、もどかしいですよね。「話せばいいのに」って。それができなくて、こじれていく人たちも、世の中にはたくさんいるでしょうけど。

人と向き合うと波風は立つけど人生は豊かに

――撮影中は劇中の別荘に寝泊まりしていたそうですね。

山本  役者と監督はそこにずっといて、制作スタッフは近くに泊まっていました。

――それは役者さん的には良い環境でした?

山本  生活と撮影が地続きになっている感覚で、映画のことだけに集中できた数日間は贅沢だったと思います。私が投げたナッツを由則さんが口でキャッチするシーンも、撮影前日のお風呂上がりに何度も練習しました。すごく上手くなって飛距離がだいぶ伸びて「そこまでやらなくていいです」と言われました(笑)。

『あなたにふさわしい』より (c)Shunya Takara
『あなたにふさわしい』より (c)Shunya Takara

――この映画を通じて、恋愛や結婚生活について改めて考えたこともありました?

山本  人と人がわかり合うために、お互い相手をどこまで受け入れられるか……。そこには努力も要るし、愛を持っていられるかが大事なのかなと思いました。美希たちがあの先どうなるのかわかりませんけど、外から見て「そんなヤツ、やめちゃえよ」と思っても、ポンと違うステージに行かないのも人間らしいのかなと。恋愛であれ結婚生活であれ、誰かと向き合えば波風は立ちます(笑)。でも、知らなかった自分やいろいろな感情にも出会うので、人生が豊かになると思っています。

Profile

山本真由美(やまもと・まゆみ)

1984年5月11日生まれ、兵庫県出身。

主な出演作は映画『サーチン・フォー・マイ・フューチャー』、『テイク8』、『Every Day』、『ナラタージュ』、『デンサン』、ドラマ『後妻業』、『白い巨塔』など。映画『カメラを止めるな!』で主題歌「Keep Rolling」のヴォーカルを担当。

『あなたにふさわしい』

監督/宝隼也 脚本/高橋知由

6月12日よりアップリンク吉祥寺ほかにてロードショー

『JAPAN CUTS Hollywood 2019』フィルミネーション賞(長編部門)、『第11 回オイド映画祭東京』特別賞(演技部門)、『第10 回映像グランプリ』優秀映画賞を受賞。『ボストン国際映画祭2019』などに正式出品。

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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