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『新米姉妹のふたりごはん』再放送で注目。“闇系”だった山田杏奈が見せるマンガ的かわいらしさ

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『新米姉妹のふたりごはん』姉役の山田杏奈(c)河野英喜/HUSTLE PRESS

テレビ東京で深夜に再放送中のドラマ『新米姉妹のふたりごはん』。親同士の再婚により、突然姉妹となった2人が料理を通じて心を通わせていく物語で、姉役は山田杏奈。原作に寄せて、いかにもマンガっぽいキャラクターをかわいらしく演じているが、これまでは心に闇を抱えたような暗めの役が多かった。自身も驚いたというこの配役に、どう取り組んでイメージを覆したのか。当時の本人の発言に触れると、ドラマに改めて興味深さが増す。

天真爛漫な姉役でとろけそうな顔も見せて

 『新米姉妹のふたりごはん』はもともと昨年10~12月に木曜25時枠で放送。コロナ禍で新ドラマの収録が止まっている中でも、あまり間を置かず同じ枠で4月から再放送が始まった。

 原作は柊ゆたかのマンガ。親同士が再婚して“姉妹”となった2人の女子高生が主人公。両親がすぐ仕事で海外に発ち、いきなり2人で暮らすことに。ぎこちなく始まった同居生活だが、料理を通じて少しずつ打ち解けて絆を深めていく。

 妹のあやりは内向的な性格ながら料理は得意。料理に絡むことには目を輝かせて饒舌になる。演じているのは『王様のブランチ』で3週おきレギュラーも務める大友花恋。一方、山田杏奈が演じる姉のサチは天真爛漫で外交的。食べることは好きだが料理は苦手で、家庭科の調理実習もままならない。

 あやりの料理を手伝って、フライパンから吹き上がる炎に「わっ!」と目を丸くしたり、出来上がって食べて「苦くて甘~い。フフーン」ととろけそうな至福の表情を浮かべたり。映画館で熱中のあまりポップコーンをバケットからぶちまける場面などもあり、山田の表情や仕草のひとつひとつが良い意味でマンガっぽくてかわいらしい。

笑わない役が多く初主演映画では凄惨な復讐を

 山田がこういう役を演じるのは初めてだった。10歳のときに少女マンガ誌『ちゃお』のモデルオーディションでグランプリを獲り、12歳で女優デビューして現在19歳。目力の強い端正なルックスとも相まって、心に闇を抱えていたり、親と対立していたり、あまり笑わない役を演じることが多い。

 極めつけが2018年公開の初主演映画『ミスミソウ』。いじめのエスカレートから家族を焼き殺され、凄惨な復讐を遂げていく役。鉄パイプで一心不乱に殴り続けたり、ナイフで腹を切り裂いたりするシーンがあった。当時は「サイボーグ的なイメージで殴るのが止まらない勢いを心掛けて、ストレス発散に近い気持ちでした(笑)」と語っていた。

 昨年放送のドラマ『ストロベリーナイト・サーガ』4話では、優等生に見えて大人に挑発的な態度を取る女子高生役で、二階堂ふみが演じる刑事と取調室で緊迫の心理戦を繰り広げた。『新米姉妹のふたりごはん』の後にも、『10の秘密』に向井理が演じたシングルファザーの娘役で出演。何者かに誘拐されて、父親とは仲良しに見えたが、中盤からは不信感を露わにした。

『のだめ』で学んだコロコロ変わる表情

 山田自身も落ち着きのある優等生タイプ。仕事に専念するため大学には進学しなかったが、高校受験では平日に5~6時間、休日に12時間と猛勉強して進学校に合格。女子高生時代も「友だちといるとテンションは上がりますけど、1日に1回、出るか出ないか」だったという。

 それだけに、明るいサチ役は「いつもはあやりのような役が多いからビックリしました」とのこと。闇を抱える役より気持ち的には楽かと思いきや、「とーっても難しいです。自分と真逆でパワーを使って、1日撮影が終わるとヘットヘト」と話していた。

「最初の本読みでは『(テンションを)上げて! 上げて!』と言われ続けて、どうしようかと思いました。自分では『ここまでやったらヤバイんじゃないか』というくらいまで上げても、『それくらいの人はいます』と言われるんです」

 参考のためにマネージャーの薦めで観たのが、2006年に放送された『のだめカンタービレ』。事務所の先輩でもある上野樹里が、変人の天才ピアニスト役を演じたドラマだ。

「サチとは全然違う役ですけど、勢いとか表情がコロコロ変わる感じとか、取り入れられるものがありました。それでサチの明るいかわいさをどんどん出していけました」

「おいし~い!」が画面越しに伝わるように

 原作マンガに寄せる部分も、演じるうえで試行錯誤があった。

「マンガならではの表情や、何をしてもかわいくて守ってあげたくなるところを、私が3次元で表現できるのか? そこは大きな課題でした。サチの愛らしくて憎めない部分も、やりすぎるとウザくなったり、あざとく見えるので、監督やカメラマンさんと相談しながら演じています」

 特に気を配ったのは、毎回の見せ場となる、あやりの作った料理を食べるシーン。

「劇中のごはんはリアルにおいしくて、幸せな気持ちになることにはまったく苦労しません。ただ、普段どれだけおいしいと思っても、『おいし~い!』みたいな顔はしないじゃないですか(笑)。でも、テレビ画面からは味も匂いも伝わらないので、サチの表情で伝えるしかないんです。だから、マンガみたいな『おいし~い!』はずっとやっています」

(c)「新米姉妹のふたりごはん」製作委員会
(c)「新米姉妹のふたりごはん」製作委員会

 そうした努力を重ねつつ、山田自身は現場でもカメラが回ってないところでは、素でおとなしくしていた。

「朝とか普通にしていると『元気ないね』と言われます(笑)。シーン終わりに役の余韻が残って、普段の自分では考えられないほど、はしゃぐときもありますけど、それがプチッと切れて元に戻るから、周りの人はビックリするみたい(笑)。自分でも演じていて、自分に何が起こるか読めない部分があって、それを楽しんでいます」

 劇中では天真爛漫でかわいいサチを見事に体現。過去の作品を観てきたうえだと、本放送の最初のうちは、わかっていても山田杏奈が演じているとは思えなかったほどだった。逆に、この作品で彼女を知った視聴者は、過去作の闇系の役を観ると驚くかもしれない。

 もともと10代の女優の中でも、あまりいないタイプの存在感で期待されていた山田。ここで役幅を広げたのは間違いなく、今後20代に入ると、ますますいろいろな役を演じていくのだろう。それでも、年齢を重ねていく中で、このサチほど明るく突き抜けた役はもうないかもしれない。そういう意味でレアなドラマになりそうな『新米姉妹のふたりごはん』。再放送は貴重で、じっくり鑑賞しておきたい。

(c)「新米姉妹のふたりごはん」製作委員会
(c)「新米姉妹のふたりごはん」製作委員会
芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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