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再び桜を目指す!日本代表活動に復帰したベテランPR山下(神戸製鋼)、19年ラグビーW杯への思いを語る

斉藤健仁スポーツライター
ハードなトレーニングにもかかわらず練習後も笑顔を見せるPR山下(撮影:斉藤健仁)

 身長183cm、体重118kgの世界基準の体躯を誇る、頼れるベテランが戻ってきた。

 9月24日~27日、和歌山・上富田スポーツセンターで、11月のテストマッチシリーズ、そして2019年ラグビーワールドカップ(W杯)に向けたラグビー日本代表候補合宿が行われた。

 今回の合宿ではボールは一切、使われなかった。フィットネスやウェイトトレーニングの数値を測り、座学でW杯に向けたマインドセットに関するディスカッションや戦い方の確認が行われた。グラウンド練習では、苦しい時間帯にパワーやスピードを出せるように、どの試合でも一貫性を持った戦い方ができるように、フィットネス練習が課された。

 W杯の開幕戦まで1年を切った中で、2015年W杯のアメリカ代表戦以来となる代表活動となったのが「やんぶー」こと右PR山下裕史(神戸製鋼)だ。32歳という年齢はFWの中ではHO堀江翔太(パナソニック)と並んで最年長だ。

 合宿初日、トレーニング後も疲れた表情を見せず「(久しぶりの日本代表活動は)嬉しい限りですね!」と大きな笑顔を見せて「(日本代表の指揮官に)呼んでもらってここに来ないと、頑張ろうと頑張らなくてもどうにもならない。この(桜のエンブレムの付いた)ウェアを着て初々しいスタートを切れました!」と続けた。

 山下は中学まで野球をしていたが、都島工業高校(大阪)から競技を始め、スクラムの強い京都産業大学で研鑽を積んだ。当時から「大学一の右PR」との呼び声が高く、大学選手権ベスト4進出にも貢献。神戸製鋼でもすぐに3番を任されるようになり、2009年に代表初キャップを獲得し、2012年以降、エディー・ジャパンになって代表に定着した。

 2015年W杯では右PRとして、予選プール4試合すべてに出場(スコットランド代表戦とアメリカ代表戦は先発)し、セットプレーの安定や激しいタックルなどで南アフリカ代表撃破にも寄与した。海外のラグビーサイトでは、予選プールの「ベスト15」にも選ばれるほどの高いパフォーマンスを披露した。

 だが2015年W杯以後は、ニュージーランドの強豪チーフスに挑戦するなど海外でプレーした時期もあり、再び代表に呼ばれることはなかった。それでも「日本で開催されるW杯に再び出場したい!」と内なる闘志を燃やし続けた山下は、8月末に発表されたラグビーW杯へ向けた日本代表第2次トレーニングスコッドに選出された。

 トップリーグ開幕節の週に、日本代表のスタッフによるフィットネステストが実施された。「何もわからないので、(日本代表に復帰するためには)すごく良い数値を出さないといけないとナーバスになりました」。結果は本人曰く「まあまあ」だったこともあり、再び日本代表候補に名を連ねることができ「すごく良かったです」と安堵の表情を見せた。

 山下だけでなく、神戸製鋼のチームメイトで2015年W杯戦士である31歳のSH日和佐篤も日本代表候補に再招集。それはラグビー日本代表を率いるジェイミー・ジョセフHCの「ラグビーW杯ではオールブラックスのように、経験者と若手を上手くバランスを取ってチーム構成していきたい」という言葉と重なる。

 山下もベテランの役割を十分に承知している。「自分は(チームを)引っ張る選手ではないですが、若手にアドバイスする能力はあると思うので、コミュニケーションをとっていきたい。またリーダー気質ではないとわかっているのでチームを鼓舞する選手になりたい」

 初のジェイミー・ジャパンの合宿を経験し、エディー・ジャパン時代との違いを聞かれた山下は「(エディー・ジャパンの時は)やらされている感が強かったですが、今は選手同士が(自主的に)どうやるか言っています。3年経ちますが、いろいろ変わりました。(42名と)人数も多いし、プレッシャーがないこともあり、最初に集まったときから和気あいあいとしていました」と率直な感想を答えた。

 ラグビー日本代表は11月にニュージーランド代表、イングランド代表という世界トップレベルの強豪と対戦し、来年のW杯ではアイルランド代表、スコットランド代表などセットプレーに強みのあるチームと同じプールに入った。もちろん、右PRの山下にはスクラム、ラインアウトといったセットプレーの安定に期待がかかる。

 日本を代表する右PRのひとりである山下は、やはり、スクラムの話になると目を輝かせて「自分の持ち味はセットプレーですし、日本代表は(体重が)軽かったですが、今のチームのロック、バックローは大きくなっているので(スクラムを組むことが)楽しみです! また(ジェイミー・ジャパンのスクラムは)やったことがない組み方なので、吸収して自分の幅を広げたい」と腕を撫した。

 

 「日本開催のW杯ですから(2019年W杯のメンバーに)入ったら大きい」と山下は言うものの、まだ候補選手に選ばれただけであることも事実だ。

 W杯まで1年を切った。残された時間はわずかだが、それでも山下は「まだ、(今回は)ただの合宿なので、先は長いですね。(日本代表に)入っていない時期も長かったので先を見ずに……まず(代表キャップが今)49なのでまず50に(したい)。試合を重ねてチームになじんでいきたい」と、11月のテストマッチに出場し、代表キャップを節目となる50とすることを目標に掲げた。

 スタートラインに立つことができた山下は、このまま代表キャップを重ねながら、2019年を迎えて、再びW杯に出場することができるか――きっと、ベテランの力強い一押しが必要なときが来るはずだ。

 

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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