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7人制ラグビーW杯開幕!「スワンダイブ」で有名な男子セブンズ日本代表・橋野が2度目の挑戦に腕を撫す

斉藤健仁スポーツライター
セブンズW杯仕様の新しいファーストジャージーを着た橋野(撮影:斉藤健仁)

◇トライ寸前のノックオンで世界的に有名になった

 「2013年のセブンズワールドカップのときとは違います。セブンズに対するプライドがあります」と意気込んでいるのが男子セブンズ日本代表の中軸のひとり、30歳のベテランBKの橋野皓介(はしの・こうすけ)だ。

 

 7月20~22日、アメリカ・サンフランシスコ(AT&Tパーク)で4年に一度のセブンズ(7人制ラグビー)のワールドカップ(W杯)が開催される。男子セブンズ日本代表は1993年の第1回から7大会連続出場中で、2009年から女子も開催されるようになり、「サクラセブンズ」こと女子セブンズ日本代表も3大会連続の出場となった。

 橋野は2014年の香港セブンズで開催されたワールドシリーズ昇格大会の決勝で、インゴールで「スワンダイブ(両腕を白鳥のように広げた豪快なダイビング)」をし、トライ寸前にまさかのノックオンをしたことで知られる。2015年の15人制ラグビーのワールドカップ前まで日本人選手としてもっとも世界的に有名だった選手である。

◇リオ五輪に出場できなかった悔しさを糧に

 5歳のときに寝屋川ラグビースクールで楕円球に出会った。大阪工大高(現・常翔学園)、同志社大、そしてキヤノンイーグルスでランに長けたスキルの高いSOやFBとし活躍してきた。2012年にエディー・ジョーンズ体制の15人制ラグビー日本代表の合宿にも招集されたほどの選手だった。

 2013年の世界を転戦するサーキット大会の「ワールドシリーズ」の一つ・東京セブンズで、男子セブンズ日本代表として初めて試合に出場。当時、橋野は「ほとんどセブンズはやったことがなかったし、セブンズもやりながらトップリーグで活躍して15人制の日本代表にも呼ばれたい」と思っていたという。

 だが、2013年にロシアで開かれたセブンズW杯にも出場し、その後のワールドシリーズなどの国際大会に出場するうちに徐々に「セブンズの楽しさもわかってきた」と語る。

 そして迎えた2016年のオリンピックイヤーの4月、鹿児島合宿中の橋野を不運が襲った。日本でほとんど症例のないという、左後脛骨筋腱の内側の脱臼をしてしまい、リオデジャネイロ五輪出場はかなわなかった。ケガがなければおそらく橋野はリオデジャネイロの地を駆けていたはずだ。

 ニュージーランド代表やフランス代表を倒し旋風を巻き起こして4位に入賞した男子セブンズ日本代表の活躍を橋野は日本で、テレビで見るしかなかった。

 「オリンピックに行けなかった悔しさはめちゃくちゃあります! 本当は出場してチームメイトといっしょにメダルを目指したかった。あの悔しさがあるから、今でもきつい練習を頑張れています」

◇新しい指揮官の下、「蜂になる!」

 その後もキヤノンで15人制ラグビーをプレーしつつ、所属チームが許す限り、橋野はセブンズ日本代表にもコミットしてきた。2017年の香港セブンズでは、「香港の借りは香港でしか返せない。この時が来るのをずっと待っていました!」と今度こそスワンダイブでインゴールに飛び込み、正真正銘のトライで再び目の肥えた香港のラグビーファンの心をつかんだ。

 

 さらに今年の4月、男子セブンズ日本代表は橋野も中心選手として出場した香港の昇格大会で再び、来季からの世界の「トップ15」チームが集うワールドシリーズ昇格を決めた。だが、6月から急遽、男子セブンズ日本代表はダミアン・カラウナHC(ヘッドコーチ)が退任、男女セブンズの総監督だった岩渕健輔氏が男子のヘッドコーチも兼ねることになった。

 「(リオデジャネイロ五輪の)4位入賞とメダル獲得は全然違います。東京五輪でメダルを目指す」と意気込んだ岩渕HCは「メダルスタンダード」を掲げ、運動生理学などの専門家も招聘しつつ、世界と伍するためのフィジカルとフィットネスの強化を進めた。

 また自身もセブンズW杯に出場した経験を持つ岩渕HCはチームの目指す方向を選手たち自ら決めてほしいと選手たちにミーティングを課した。「強いチームはどのチームもフィロソフィーがあるのであった方がいいと思います。なかなか一つに決まりませんが大筋は決まっています。セブンズの価値を上げたいですね」(橋野)

 さらに岩渕HCは最初のミーティングで「蜂になれ!」とパワーポイントを使って男子セブンズ日本代表の目指すラグビーを示した。

 橋野は「蜂のアタック、蜂のディフェンスという感じ。アタックでは(ボールを持っていない他の)6人が湧いてくるようにサポートしつつ、一撃で相手を刺す。そしてディフェンスでは相手がうっとうしくなるくらい動いてプレッシャーをかける。もっとスピードや運動量を高めてプレーしたほうがいいと思っていたので、日本代表に合っていると思うし、イメージしやすい」と新ヘッドコーチの目指すラグビーを歓迎している。

◇ラグビーキャリアの集大成は東京五輪

 キヤノンではデジタル一眼レフの部署で働くサラリーマンでもある橋野は、「東京五輪までセブンズをやります。そこで(ラグビーキャリアを)終わります」と2020年までセブンズ中心の生活をする覚悟を決めている。

 「もうトライの時にスワンダイブをしないの?」と聞いてみた。すると橋野は「これからセブンズW杯、アジア大会やワールドシリーズ、オリンピックといろんな大会が続くので、ビッグチャンスを待ちます!」と大舞台での再トライを約束してくれた。

◇セブンズW杯、男子の目標はベスト8

 7月20日から始まるセブンズW杯で「ベスト8」を目標に掲げる男子セブンズ日本代表の過去の最高成績は13位。初戦(日本時間7月21日午前7:13キックオフ)でウルグアイ代表と対戦し、ベスト8を賭けてリオデジャネイロ五輪金メダルの強豪フィジー代表と激突する。

「今はセブンズがしたい!」と腕を撫す橋野は2度目のセブンズW杯に向けて「心境は(前回大会と)全然違います。自分が引っ張らないといけない。チームがどんな状況に陥っても冷静にゲームリードしていきたい」とベテランらしく静かに闘志を燃やしている。 

 

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スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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